宮崎県高千穂町。九州山地のほぼ中央部に位置する山間の町。
九州屈指の観光地のひとつに数えられ、高千穂峡の岩の造形、エメラルドグリーンの水面は写真映えがよく、多くの人々の注目を集める。
標高が高く寒暖差が大きい気候のため、新緑の青さ、燃えるような紅葉といった自然美を生み出し彩を添えている。
神話の舞台とも語り継がれるこの町。雄大な自然も相まって、町中にはどこか神聖な空気が漂っているかのようだ。
神話の舞台を象徴する文化”神楽”。800年以上の歴史を持つという。
高千穂はいったいなぜ神話の舞台となったのか。山間の厳しい自然環境で暮らす里人たちの生活はどのようなものだったのか。
神様とともにある町 高千穂の歴史を紐解いていく。
高千穂町内には数多くの”棚田”が広がっている。その美しい景観から観光客の目を惹きつけているのだが、実はこの棚田こそが神様と暮らす町 高千穂をひも解く鍵になっていた。
高千穂町内には棚田が広がっており、稲作が盛んだ。管理が行き届き若者の農業体験などにも開かれ、「日本の棚田百選」にも選ばれるなど地域の暮らしと密接に関わっている。
しかし高千穂町は山間の地域であり、決して米作りに適した地形とは言えなかった。
明治時代以降に用水路が整備され、現在のように美しい棚田が広がることになったのだが、かつての米作りはまさに”神頼み”。
高千穂町を象徴する景色は、この地に暮らす里人たちの長く絶え間ない努力によって作られていた。棚田、稲作の歴史をひも解くと、里人の絶え間ない努力の結晶とともに、抗えない大自然を相手に神々との縁を深めていった当時の暮らしを知ることとなる。
過酷な自然環境に加え、稲作技術も未熟だった当時、高千穂での稲作は神頼みの毎日だった。
里人は半年間も続く農作業の中で、神頼みや神への感謝を忘れることはなかった。自然環境と神様は結びつき、やがて日常生活の様々なことまでも神様と紐付けて考えるようになった。
家で物が落ちても、誰かが転んでも、みんな「神様ごっじゃきね」と言って笑う。高千穂の方言で「それは神様がしたことだから仕方ないね」という意味だ。
現在でも高千穂町の家々には玄関に注連縄(しめなわ)が飾られている。これは神様を迎え入れるための”しるし”。今でも高千穂の暮らしは神様とともに続いている。
「今年も米が獲れること」は当たり前ではなかった。
米は里人の暮らしを支えるもの。自然と戦い、神に祈り、感謝して、ようやく手に入るもの。だからこそ収穫を終えたあとの”神楽”は、高千穂の里人にとって欠くことのできない大切な行事だった。
長く大変な農作業を終えた、束の間の休息。
夜通し舞われる33番の演目を焚き火を囲いながら楽しむ。「かっぽ鶏」といった郷土料理に舌鼓を打ち皆で祝う。今年の豊作を祝い、感謝し、そして来年の豊作を心から願う。そんな里人たちの暮らしがあったからこそ神楽が続いている。現在もなお、毎年11〜2月に18地区で「高千穂の夜神楽」が催されている。
神様と里人たちの暮らしを感じられるスポットが町内に数多く点在する。その背景に思いを馳せながら町内を巡ってみるのはいかがだろうか?
高千穂町には至る所に神社が点在する。「高千穂郷八十八社」と呼ばれ、周辺の地域も含めて八十八社以上もの神社があると言われている。各社には様々な神仏が祀られ、それぞれに色々な背景、物語が存在している。
高千穂を訪れた際は、地図を片手に巡り、ぜひ”推し神社”を見つけてほしい。
森林の静寂の中で佇む神社。創建不詳だが熊野神をお迎えしたとの古文書が残されており、鳥居から本殿まで続く参道はまるで熊野古道のよう。仁王像と20基の石灯籠が神秘的。
棚田に注ぎこむ水源に祀られた神社 。側には「子授けの湧水」が沸き出でる。イザナミノミコトが落立神社に降りられ、一晩、宿をとられた場所とされる「立宿(たちやどり)」地区にある。
天孫降臨の舞台、二上山(ふたがみやま)を御神体とし、イザナギノミコト、イザナミノミコトが祀られている。二上山麓に鎮座し、町指定有形文化財の彫刻や秋の紅葉が見事。
あまてらす鉄道とは高千穂町と高千穂鉄橋を結ぶアトラクション鉄道。山間部の高千穂と延岡を結ぶ国鉄(現在のJR九州)高千穂線(1935年開業、1972年に高千穂まで延伸開業。1989年より高千穂鉄道として営業。)がルーツ。同鉄道は2005年の台風災害により各所で線路が崩壊、被害が大きく復旧を断念せざるを得なかったが、この鉄道を遺産として未来に残したいと立ち上がったのがこの「あまてらす鉄道」だ。当初は人力の木製トロッコで運行していたが、現在では60人乗りのグランドスーパーカートで年間数万人を自然の旅へと連れている。
高さ105メートル!鉄道橋として、かつて東洋一の高さを誇った高千穂橋梁から望む景色は一番の絶景。客車の床の中心部が強化ガラスになっており、走り過ぎる線路の様子、105メートル地点から直下の眺めを楽しむことができる。
元高千穂鉄道運転士の指導のもと、旧高千穂鉄道時代に使用していたディーゼルカーを運転することができる。貴重な体験・思い出ができること間違いなし。
旧高千穂鉄道を未来に残すため、2008年に有志で立ち上がったあまてらす鉄道。
木製トロッコの運行から始まった挑戦は、今や年間6万人を動員する人気アトラクションに。”高千穂鉄道”への愛があふれるスタッフたちのガイドにも注目したい。