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ブータンと日本はそっくり!?福井県勝山市「ブータンミュージアム」のお祭り展示を見てきた

更新日:2021/7/9 稲村 行真
ブータンと日本はそっくり!?福井県勝山市「ブータンミュージアム」のお祭り展示を見てきた

福井県勝山市にブータンミュージアムという施設がある。ブータンと言われて何を思い浮かべるだろうか。GNH(国民総幸福量)が高いため、「ブータンは幸せの国だ」と言われることも多い。日本の幸福度調査では、福井県をはじめとした北陸の県が上位を占めることも多く、ブータンとも何か親和性がありそうである。

私は2015年、お祭りや建物の装飾などを調べるために、ブータンを訪れた。ブータンに行ったことがある日本人は少ないという実感があり、最近ブータンのミュージアムが福井県にあると知って驚いた。「なぜこの場所にブータンミュージアムができたのだろう?行ってみたい!」という好奇心が湧いてきて、先日実際に現地を訪れた。その時に知ったブータンと日本の文化の違いや共通点についてお届けするとともに、祈りとお祭りの形について考えたい。

見た目は日本家屋!?ブータンミュージアム

ブータンミュージアムは福井県勝山市にあり、えちぜん鉄道勝山永平寺線の発坂駅から徒歩7分の場所にある。中部縦貫自動車道の勝山ICからすぐの場所なので、車でもアクセスはしやすい。鉄道沿いにルンタというチベット仏教の旗がはためく日本家屋を見つけたら、目的地はもうすぐそこだ。カフェとミュージアムが併設となっている。ランチを食べておらずお腹が減っていたので、15:30の遅めのランチをいただいた。

日本食をブータン流に作る!?

日替わりのランチを頼むと、野菜がたっぷり入った贅沢な料理が出てきた。写真右下はブータン料理のケワダッツイである。ダッツイはチーズの意味で、唐辛子とチーズ、ジャガイモを煮込んだ料理のようだ。私もブータンを訪れた時に頂いたことがあるが、その時と全く同じ味で懐かしくなった。まろやかな風味にピリッとした辛さが印象的である。

ケワダッツイ以外は日本の料理で、野菜炒めやカボチャの煮物など、日本人にはよく見慣れている食べ物である。野菜は朝市で買ってきたり、無人の野菜売り場で買ってきたり、自分で育てたりするようだ。自分の身の回りの食材を使って調理するのがブータン流とのこと。カフェのまわりには自家栽培の野菜が植えてあり、日本の野菜を扱っていてもブータンらしさを感じることはできると実感した。

ブータンミュージアム設立の経緯

食後は、ブータンミュージアムを運営するNPO法人幸福の国の野坂さんに館内を案内していただいた。2011年にブータン国王が日本に来日して、その翌年2012年にブータンミュージアムが開館したそうだ。

2011年といえば、東日本大震災の年。ブータン国王ご夫妻が慰霊のために来日されたという。その出来事を知って感激した福井の知人とともにブータンの国王代理の方を呼び、最終的には大臣の許可をもらって、ブータンミュージアムを福井に作ることになったそうだ。

ブータンミュージアムの魅力的な展示

それではいくつか、ブータンミュージアム内の魅力的な展示についてご紹介したい。風景の対比や切手制作、祈りの形まで様々な角度から、ブータンと日本について考えることができた。これだけの展示品を揃えるのには、かなり時間と労力がかかったことだろう。

ブータンと日本の山の見分けがつかない

まずは、風景の比較に関する展示。ブータンと福井県勝山市には、似ている風景がたくさんあるようだ。個人的には、山と山に挟まれて川が流れている感じがブータンそのままだと思った。これらの写真を撮影された方は、ブータンのプナカやパロ、ジャッカル等の地域で、日本を思い浮かべながら撮影されたようだ。ブータンの様々な土地が「日本とそっくり」と感じたそうである。

やはり照葉樹林等の植生やそこに息づく生活文化がトータルで日本に似ているということだろう。以下の写真は日本の白山とブータンの最高峰であるガンガプンスムとを比較した写真である。遠くから見ると見分けがつかないくらいよく似ており、どちらも白い雪を被った信仰の聖地である。

ブータンではオリジナル切手が作れる

また、切手に関する展示もあった。ブータンの切手製作は国策である。観光客向けのオリジナルの切手もつくってくれるとのこと。郵便を送る時に使うというよりは飾る用の切手といったほうが正しいかもしれない。国際の郵便法に加入して流通経路を確保しつつも、ブータンという長い間鎖国をしていた国ならではのオリジナルの切手を作った。これは外貨獲得のための知恵だったのだ。

この政策によって、ブータンは国際的にも認知を広げることになった。ブータンで最初の郵便局ができたのが、1962年。ここから始まったので、かなり最近のことである。写真のように丸型の切手もあるそうだ。

ブータンと日本の絵画

絵画に関する展示もあった。チベット仏教の創始にも関わったグル・リンポチェを描いた絵画などが飾られていた。ブータンの絵画はある程度描く型のようなものがあって、その意味では日本で江戸時代に琳派が描いた「風神雷神図屏風」にも近いかもしれない。私は実際にブータンのアートスクールを見学させていただいたことがあり、病院を改装した特色ある校舎で、和気藹々と学ぶ姿は印象的だった。

ブータンのお祭り紹介

お祭りに関する展示は、ブータンの色彩豊かな文化を存分に感じられた。日本の装飾と比べれば断然派手で、ブータンは国全体が色に溢れていてそれぞれのデザインに意味がある。例えば、ブータンの国旗はお坊さんの色(オレンジ)と国王の色(黄)が使われている。お祭りの衣装もこの写真のように、様々な色が使われておりとても鮮やかだ。ちなみにこの衣装が2タイプある理由は、悪いお坊さん(右)をよいお坊さん(左)が退治するという勧善懲悪のストーリーを演じるためである。

また、ブータンの仮面は十二支を表している。丑だけ目玉が3つあり、骸骨が付いているという。また、日本の能面にも似た鼻が高い面や、おばあさんの面なども飾られていた。獣を模した仮面からは、日本の獅子舞やしし踊りの文化との繋がりも少なからず感じた。

これらの衣装や仮面などが用いられる祭りは、ブータンにおいて一年中見ることができる。各地域ごとに開催日が異なるようだ。有名なお祭りとしては例えば、ブータンにチベット仏教を伝えた聖者グル・ リンポチェの偉業を称える「ツェチュ祭」や、チベット軍との戦いを再現した戦勝記念の「ドムチェ」などがある。また、これらのお祭りで踊られる仮面舞踊「チャム」は密教教義に基づいた儀式などを舞踊化したものだ。仏教を基盤とした奥深さがある一方で、色彩豊かで華やか雰囲気を楽しめるのが、ブータンのお祭りの特徴である。

ブータンの祈りから考える幸せの形

ここまでみてきたように、身の回りの食材を調理したり、絵画を伝統的な技法として受け継いだりと、自分の生まれ育った環境や生活の範囲内で背伸びをし過ぎない生き方がブータンの魅力に繋がっているとも感じた。また、祭りから感じられるチベット仏教に対する厚い信仰心が、人々の精神の部分を下支えしているということもわかった。

ブータンミュージアムを案内して頂いたNPO法人幸福の国の野坂さんによれば、日本は神仏に対して個人的なお願いをする人も多いが、ブータンでは世界の人が幸せになりますようにと祈る人が多いという。これは我々が学ぶべきポイントだと感じた。その功徳に満ちた心の有り様が、ある種幸せの秘訣と言えるのかもしれない。

この記事を書いた人
オマツリジャパン オフィシャルライター
日本全国500件以上の獅子舞を取材してきました。民俗芸能に関する執筆、研究、作品制作等を行っています。

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