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八戸えんぶりで春を待ち焦がれる東北に思いを寄せる。厳冬の青森で行われるこの祭りの意味とは?

更新日:2020/2/6 リエコ
八戸えんぶりで春を待ち焦がれる東北に思いを寄せる。厳冬の青森で行われるこの祭りの意味とは?

八戸えんぶりをご存知ですか?これは、国の重要無形民俗文化財にも指定される郷土芸能。

きらめく烏帽子をまとい、凍てつく大地を摺る太夫の舞には、豊年を願い春を待つ、人々の願いが込められています。

青森県で暮らした経験を持つ筆者が、八戸市商工労働観光部観光課のインタビューを交え、この厳寒の地の祭りをご紹介します。

1.八戸えんぶりとは

八戸えんぶりとは、八戸地方に春を呼ぶ豊年祈願の郷土芸能。その名は田をならす農具「えぶり」や、「いぶり」(ゆすぶり)に由来するといわれ、冬の間眠っている田の神を揺さぶり起こし、田に魂を込める儀式とされています。

見る人の心をとらえるのは、「太夫(たゆう)」と呼ばれる踊り手。煌びやかな烏帽子をかぶり、凍てつく大地を揺さぶり、春を呼ぶ願いを込めて舞い(摺(す)り)ます。まずはこちらをご覧ください。

烏帽子の形は馬の頭を意味し、頭を大きく振る独特の舞は、種まきや田植えなど稲作の一連の動作を表現したものです。

毎年2月17日から20日までの4日間、八戸市内で開催されます。

2.えんぶりの楽しみ方。お祭りの見どころは?

えんぶりでは、太夫(たゆう)が舞うことを「摺(す)る」といいますが、大きく分けて「ながえんぶり」と「どうさいえんぶり」という二つの型があります。えんぶりを知るには、まずはこの違いを見比べること。

「ながえんぶり」の烏帽子には後述する「前髪」がなく、リーダー「藤九郎」のものにだけ、ボタンやウツギの花などがついています。より古い形であるといわれる「ながえんぶり」は、動作がゆっくりとしています。


© 八戸市

「どうさいえんぶり」は、「前髪」と言われる房が付いており、テンポが速く、激しい舞を特徴とします。


© 八戸市

八戸には、これらの「摺り」を継承する「えんぶり組」が30以上存在します。同じ「ながえんぶり」「どうさいえんぶり」を受け継ぐ組でも、各組の摺りには特徴があり、その摺りや祝福芸の違いも楽しみの一つです。

八戸市商工労働観光部観光課の佐々木さんに、えんぶりの楽しみ方を伺ったところ、イベントとしては、往時のだんな様(大地主や有力商家)気分で鑑賞でき、八戸せんべい汁と甘酒がつく「お庭えんぶり」(有料(前売りのみ))が初めての方にはオススメとのこと。

初日(17日)の朝7時から長者山(ちょうじゃさん)新羅(しんら)神社で行われる、神様に摺りを奉納する奉納摺りは、厳かな雰囲気が感じられます。

「お庭えんぶり」、「奉納摺り」等スケジュール

https://hachinohe-kanko.com/10stories/hachinohe-enburi/enburi_schedule

3.地域に受け継がれるえんぶり組

えんぶりには30を超える「えんぶり組」があり、それぞれの舞やお囃子を継承しています。基本的には自分の住む地域の組に入り、毎年1月から稽古が始まるところが多いようです。小中学校のクラブ活動から入る子どももいますが、3歳くらいから出演する子どももいます。子どもたちの愛らしくも完成度の高い踊りには驚かされます。毎年参加し、成長するとともに舞も上達。大きくなると太夫として「摺り」、地域の伝統を担う存在となっていきます。


© 八戸市

4.神々への呼びかけ。受け継がれるえんぶりの口承

えんぶりの動きは、種まきから始まる稲作の様子を一つの物語として表現したもので、「摺りはじめ」、「中の摺り」、「摺りおさめ」、「畦留(くろど)め」の順に摺ります。「摺りはじめ」では正月の祝い唄にはじまり、「畦留(くろど)め」では大事な田から水が漏れないようにと、呪文の言葉が唱えられます。

古い資料によると摺りの口上は、それぞれの組が口伝で伝承してきたため、切れ目もわからなくなったり、聞いても聞き取れないものになったと言います。その意味もいろいろに解され、変わってきたそうです。人に聞かせるというより、田の神様への呼びかけであり、神との語らいであったので、人にははっきりわからなくてもよい神聖の語だったという資料もあります。

太夫の摺りの合間には、「大黒舞」、「えびす舞」、「松の舞」や「エンコエンコ」などの祝福芸も演じられます。これらの口上も、組ごとに口伝で次世代に受け継がれているそうです。


© 八戸市

5.厳しい冬を超えて。八戸市民にとっての「えんぶり」

冬には平均気温が氷点下となる八戸。八戸市民の春を待ち焦がれる気持ちは、昔も今も変わりません。「えんぶりの時期によく雪が降りますが、えんぶりが終わると、冬の終わりと春が近づいてくるのを感じます。」と佐々木さん。

八戸地方は夏に吹く北東風「ヤマセ」により、昔はたびたび凶作に悩まされてきた地域なので、豊作への願いが強い地域だと言えます。

青森県と言えばねぶた祭が有名ですが、踊って楽しいねぶたとは違って、えんぶりの摺りは田の神様への祈りや大地を揺さぶり冬の眠りから覚ますという、北国の強い思いを込めた動作です。


© 八戸市

インタビューを通じ、「やっぱりえんぶりは八戸で見て欲しいですね。」とおっしゃる佐々木さん。「祭りに込められた祈り、願いをその土地で感じて欲しいというのが本音です。きっと感動されると思います。いつか是非お越しください。」

そして、「超寒いですけど。」とのお心遣いも。

青森県の冬は本当に寒いです。しかし、その寒さを体感してこそ、そこに込められた思いを感じられる「えんぶり」。ぜひ、防寒をしっかりして、訪れたいお祭りです。

 

八戸えんぶり 概要

期間:毎年2月17日から20日

場所:八戸市内 http://www.hachinohe-cb.jp/illustmap/Enburi.pdf

八戸市観光情報ウェブサイト「八戸観光Navi」:https://hachinohe-kanko.com/10stories/hachinohe-enburi

トップ画像提供:八戸市

 

この記事を書いた人
オマツリジャパン オフィシャルライター
阿波踊りが大好きです。
古いものが好きすぎて、日舞や歌舞伎を見て、味噌やら醤油やら作って、もう自分が何歳かわかりません。

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