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思わず集めたくなる魅力がいっぱい! あなたの知らない郷土玩具の世界【前編】

2022/9/22
2024/3/8
思わず集めたくなる魅力がいっぱい! あなたの知らない郷土玩具の世界【前編】

みなさん、「郷土玩具」というものをご存知でしょうか。郷土玩具とは、江戸時代から明治時代にかけて日本各地で作られた伝統的なおもちゃのこと。その愛らしさや、手作りだからこそのぬくもりが再評価されて、実は数年前から若い世代の人たちからも注目を集めているのです!

果たしてその魅力とは? どこで買えるの? どんな楽しみ方をすればいいの? 気になる疑問を解決するべく、今回は「郷土玩具入門編」ということで、『はじめましての郷土玩具』(グラフィック社)の著者である、文筆家の甲斐みのりさんにお話を伺いました。

甲斐
甲斐みのり
文筆家。静岡県生まれ。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に、書籍、雑誌、webなどに執筆。著書に『歩いて、食べる 京都のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)、『田辺のたのしみ』(ミルブックス)など。

旅先の鳴子温泉で「こけし」と出合い、郷土玩具の虜に

――今日は郷土玩具についていろいろ教えてください! そもそも、郷土玩具ってどういったものなんでしょうか。

甲斐さん:今日は、よろしくお願いします。郷土玩具とは簡単にいうと、江戸時代以降に誕生した庶民のおもちゃです。しかも単なる遊び道具ではなく、子どもの健やかな成長など、さまざまな願いや祈りが込められているのも特徴で、昔は節目やお祝いの時に親から子どもに与えられることもありました。民間信仰との関わりが深く、お寺や神社の授与品として配布されている郷土玩具もありますよ。

――郷土玩具は神聖なものでもあったんですね。ちなみに全国各地を行脚してかわいい雑貨や、建築物、ご当地グルメなどの魅力を発信している甲斐さんですが、郷土玩具に興味を持ったきっかけはなんだったんですか?

甲斐さん:きっかけは、父です。先ほどご説明した通り、そもそも郷土玩具は純粋な子どものおもちゃであったり、民間信仰の対象だったりしたのですが、明治以降になるとインテリ層のコレクションアイテムとしても人気を博すことになりました。郷土玩具はその土地土地でしか手に入らないものでしたし、モノによっては特定の時期にしか購入できないこともあったので、コレクション欲を掻き立てたんでしょうね。

父は熱狂的なコレクターというわけではなかったのですが、お土産=郷土玩具という認識の強かった世代でもあるからなのか、私が物心ついた頃には、家には大きなガラスケースがあって、中には日本各地の郷土玩具がぎっしり詰め込まれていました。そこから、毎年その年の干支の郷土玩具を選んで飾るということが、儀式というか恒例行事になっていたんです。

――子どもの頃から郷土玩具に親しんでいたんですね。

甲斐さん:はい。今年はどんな人形を飾るのかなと毎年楽しみにしていたのですが、一方で、どこか神々しいというか、子どもが軽々しく手に触れてはいけないような畏怖も感じていて、そんな印象を郷土玩具には抱いていました。

実際に郷土玩具を買い集めるようになったのは、大人になってからです。25歳の頃に東北旅行に行って、宮城県の鳴子温泉を訪れたんですけど、町中がこけしだらけでビックリして! 電話ボックスも、道にあるポールもこけしなんです。

写真:Photo AC

――こけしだらけですか!?

甲斐さん:鳴子温泉は、土湯温泉(福島市)、遠刈田温泉(蔵王町)と並ぶ三大こけしの産地なんです。こけしかわいいな!となった後に、そういえば昔家にも郷土玩具があったなと思い出し、そこからどんどん私も郷土玩具に惹かれていきました。

職人さんの家にお邪魔して直接購入するという独自のこけし文化

――こけしから郷土玩具の世界にはまりこんでいったんですね。こけしの魅力とは、ズバリなんでしょうか。

甲斐さん:まず、歴史の面白さですね。こけしって「伝統こけし」と「創作こけし」の2種類があるんです。伝統こけしとは、東北6県で作られている、昔ながらのこけしのこと。それ以外の地域のこけしを「創作こけし」といって、分類されています。なぜ伝統こけしが東北地方で発達したのかというと、東北が雪深い土地だったからです。そのため冬の間、農業ができず、代わりに家にこもってこけしを作り、お土産として販売するようになったそうです。

――農業ができない時期の貴重な収入源だったのですね! 切実……。郷土玩具を通じて、その土地の歴史や暮らしぶりが見えてくるのが面白いですね。

甲斐さん:それに、こけしには、思わずコレクションしたくなる要素がいっぱいです。というのも、こけしは生産地ごとに系統が分かれていて、それぞれに違う特色を持っているんですよ。しかも、こけしの職人さんのことを「工人(こうじん)」というんですけれど、一つ一つが工人さんの手作りなので、工人さんによっても、こけしの表情や、造形が変わってくるんです。

 

――大量生産されるお土産と違って、同じものが一つとしてないんですね! 今回、甲斐さんの私物コレクションをお持ちいただいているのですが、実際に見てみると、本当にこけしって一つ一つが個性的ですね。

甲斐さん:そうなんです。しかも、こけしの世界って面白くて、実際に工人さんの家を訪ねて直接こけしを購入するという文化があるんですよ。

――ええ、そうなんですか!?

甲斐さん:『こけし手帖』という本があって、ここに工人さんの連絡先が載っているんです。連絡先は、工房やお土産屋である場合もあれば、工人さんの自宅の電話番号であることも。その本を見て、工人さんの家に「いま近くにいるので、うかがってもいいですか?」とお電話してアポイントをとってから、訪問するんです。

――ご自宅にお電話しても大丈夫なんですか?

甲斐さん:昭和の時代から続く文化なので、突然ご連絡をしても嫌がる方はいません。今でこそネット通販という便利な購入手段がありますが、ネットがない時代は現地に行って買うしかないので、直接電話をして訪ねるというのが当たり前だったみたいです。

家にお邪魔すると、まず「こたつにどうぞ」ってお呼ばれされるんです。そこで、お茶を飲み交わしながら、お菓子やお漬物をつまむ。「お茶っこ」という東北の文化なんですけど。そして、1時間くらい雑談した後に、いよいよ「こけしを買いたいんですけど」って切り出すんです。「今日は売れる在庫がないんだよ」と返されることもあるんですけどね(笑)

――せっかく行ったのに、残念!

甲斐さん:そういう時は、その場で予約をして帰ります。といったように、東北のおじいちゃんおばあちゃんの家に行って。工人さんは高齢の方が多いんですけど、貴重な昔話を伺ったり、会話を楽しみながら、連絡をとりあったりしているうちに、だんだんとこけしの魅力にハマっていくという人が多いですね。

――ただ集める楽しみだけではなく、工人さんとの交流もまた魅力なんですね。

甲斐さん:しかも、こけしの生産地は温泉地が多いので、温泉旅行とセットにできるんですね。昔、こけし仲間と、福島県から北上して盛岡までを二泊三日でめぐるこけしツアーをしたことがあるんですけど(笑)、とっても楽しかったです。行った先でこけしを求めて工人さんと会いながら、温泉巡りもするという。

――旅との相性は良さそうですね。

甲斐さん:こけし好きの中には、お気に入りのこけしを旅のお供に連れて行って、旅先でこけしと一緒に記念撮影をするという楽しみ方も多いんですよね。

こけしファンが、こけし(高橋雄司作)と一緒に旅先で撮った写真の一例 写真提供:中川原 加寿恵

◆ ◆ ◆

前編では、甲斐さんが郷土玩具にハマるきっかけとなった「こけし」の魅力について深く語っていただきました。9月28日に公開する後編では、甲斐さんがおすすめする郷土玩具や、郷土玩具の楽しみ方、買い方などを教えていただきます!

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