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宮崎神宮御神幸祭「神武さま」行列の花形「ミスシャンシャン馬」に選ばれた花嫁、花婿の心の変化に注目してみた

宮崎神宮御神幸祭「神武さま」行列の花形「ミスシャンシャン馬」に選ばれた花嫁、花婿の心の変化に注目してみた

1神武さまとは

市民が「神武さま」と呼んで親しむ宮崎神宮御神幸祭は、1876年(明治9年)に始まったと言われています。今では、行列の最初から最後まで1時間半も続く大パレードに育っています。

【神武さま紹介動画はこちら】

行列は、令和元年10月26日(土)宮崎神宮を出発して宮崎市の目抜き通りを御旅所に向かい、翌27日(日)には逆のコースで神宮に戻る行程で沿道を賑わせました。

行列の前半は宮崎神宮の「御神幸行列」、後半は「神賑行列」です。今回は、後半の行列の中で絶大な人気を誇っている祭りの花形「ミスシャンシャン馬」にスポットをあててご紹介します。

出発して間もない緊張の時

2シャンシャン馬とは

ミスシャンシャン馬は、1949年に「神武さま」に登場して以来、一番人気の模擬新婚夫婦の行列です。これがお目当ての見物客がいるくらいなのです。

江戸時代の中頃から大正時代初め頃まで、宮崎では花婿が花嫁を馬に乗せ、七浦七峠の険しい道を越えて鵜戸神宮参りをしていしました。「シャンシャン」とは、馬につけた鈴の音からきています。

大勢の見物客で賑わうデパート前交差点付近 押川写真事務所提供

今では、この風習はなくなりましたが、毎年「シャンシャン馬道中鵜戸詣り」の再現行事や「シャンシャン馬道中唄」の民謡大会があります。

【詳しくはこちら】

3やって良かった「花嫁・花婿」

ミスシャンシャン馬は、祭りの拡大と共に乗り手の選出に変遷がありました。花嫁とその馬を引く花婿は、当初、宮崎市内から代表者を選出していました。1951年 からは、宮崎県内各市の代表制となり、1973年からは、宮崎市と周辺の町からの代表制となりました。2000年に公募制にされましたが、翌年からは、協賛企業の社員から選ばれるようになりました。自ら立候補する人がいないわけではないのですが、宮崎には恥ずかしがりやさんが多いのかもしれません。

宮崎交通バス(左2枚押川写真事務所提供)と8企業名

先頭を務めた花嫁・花婿役の澤村彩花さん又川岳人さん(共にUMKテレビ宮崎)にインタビューしました。お話を伺って、お二人の気持ちの変化に感動!それをレポートします。

お二人とも社内でシャンシャン馬の候補に上がった時は、かなり強く辞退されたとか。イベントの運営などで裏方に徹して重要な仕事をする澤村さんは、「人前に出るのはイヤ」と恥じらい、営業で人に会うことが多い又川さんも「自分でいいのか」と控えめでした。

ところが、祭りが終わった今、お二人は口を揃えて「絶対、やった方がいい」「後輩たちにもさせたい」「一生に一回の宝ものだ」と言われます。その心の変化はどのようにして起きたのでしょうか。

事前の顔合わせ・乗馬練習

祭り前の準備は、かつら・衣装合わせと乗馬練習の2回だけでした。夫婦のお宮参りの再現をする大役を実感、「緊張した」の一言。

かつら合わせ

乗馬練習では、まず馬に慣れます。

花嫁は「落ちない」、花婿は「馬に足を踏まれない、踏まれても引き抜かない」が最初のアドバイスでした。落ちないためには鞍に締めた綱をしっかりと握る必要があります。「手は振らなくてもいいから、笑顔だけは忘れない」の指示に、澤村さんは、馬上で揺られながら笑顔を作る練習、又川さんは、馬との前後左右の距離感を確かめながら手綱を引く練習をしました。馬の反対側では世話人が片方の手綱を引いてくれますので、同じような引きでバランスをとります。

又川さんは、準備するように言われた白色の“股引(ももひき)”探しに前日まで奔走。(股引のことを白のスパッツと言っていたのが若い!)

まだこの時は、大丈夫かな~と引き受けたことに責務を感じていたようでした。

乗馬・引馬練習の様子 押川写真事務所提供

当日

当日は、気温高め、秋晴れの素晴らしい天気になりました。

花嫁早朝5時、花婿8時から準備に入ります。花嫁は、手元には頭痛薬、馬に揺られて酔う人もいるとかで酔い止めも準備。かつらは昔より軽くなったとはいえ、一日中つけていると重くてきついのです。澤村さんは途中で頭痛薬を飲んだそうです。又川さんは、草鞋(わらじ)を履き、足慣らし。

10時から宮崎神宮で本宮祭があり、行列の先頭が出発するのは、13時30分です。シャンシャン馬の出発までは、さらに1時間程度の待ち時間があります。午後からの日差しは強く、水分補給が欠かせないのですが、行列が始まればお手洗いにも行けません。そうするうちに、お馬さんの準備も整いました。

練習した馬と違う!「はじめまして」

ところが、なんと練習したお馬さんは捻挫のため欠場、代わりの馬が来たのです。「わっ、慣れるかな」でも、騒いだり動揺したりしたら馬が敏感に感じると言われていたので、何事もなかったかのように振舞います。

押川写真事務所提供

いよいよ出発。神宮から本通りに向かう道。シャンシャン馬の周りには、1組につき3~5人のスタッフ(サイドに馬引き人と落ちた時のサポート要員、馬の前後にガード要員)がついています。歩き始めは、皆が花嫁を見上げて心配そうに気遣います。

出発直後。「落ちても受け止めるから、大丈夫だよ」

花嫁たちは、馬上からの眺めに感激。澤村さんは、思ったより遠くが見渡せ、観客の表情までよく見えたそうです。しかも頑丈な鞍には、ふかふかの座布団が。快適な座り心地だったそうです。一方、又川さんは、母校である高校の前を通り、まさか自分がこうやって祭りの大切な役目を担うなんて想像だにしなかったと感慨にふけりました。

鞍にはふわふわの座布団

少し進むと、「わあ」「きれいね」という見物客の声が聞こえてきます。花嫁は、注目を浴びることに戸惑い面映ゆく感じ、花婿の方は「どうだ、オレの花嫁。よーく見てくれ」という気持ちになったといいます。すぐ先の鳥居をくぐったら大通り。大勢の人たちが見物に来ています。

鳥居を過ぎたら大通り

ところが、澤村さんが乗った先頭馬が動かなくなりました。又川さんはどうすることもできず、お二人は練習で言われた「とにかく笑顔」を守ります。スタッフが馬を引き、後ろからも押しますが、500キロ強の馬はびくともしません。行列はどんどん進んでき、シャンシャン馬の前には大きな空間が目立ちます。でも、誰も慌てません。馬のコンディションが一番、人間はとにかく笑顔です。でも、万が一に備えて、鞍に付けられた紐を握る手に力がこもります。

 

握りしめるこの紐だけが命綱。右手は鞍の前、左手は鞍の後ろ。力が入ります。

そうこうするうちに馬の心を読み解いたスタッフが、「この子は先頭が嫌なんだ」と馬順を交代。すると何事もなかったかのようにパッカパッカと気持ちよくどの馬も歩きだしました。しかし、花嫁花婿の順番は決まっていたので、馬を乗り換えなければなりません。練習では、台の上から馬に乗っていたので、何もない道路で馬に乗るのは初めて。ドキドキです。「体を棒のようにして」「鞍をもって」「僕の肩を握って」そして、ひざ下を抱えられた花嫁は、すうっと上にあげられ、無事、鞍に座ったのでした。

行列は何事もなかったかのように進み始めました。澤村さんと又川さんは、3頭の馬を乗りこなしたことになりますね。お見事!

「捻挫したの、ごめんね」 「ボク、先頭はムリ」 「オレにまかせとけ」

このあとも、ヘリコプターが低空飛行して来て、馬が驚き隊列が乱れるといったハプニングもありました。たとえ馬から降りて歩いたとしても、花婿は自然に花嫁の手を取ります。

このようにテキパキと動くスタッフには、ただただ感謝です。拍手を受けて注目を浴びる自分たち。でも、これを支えてくださる人たちがあってこそのシャンシャン馬なんだと、感謝の気持ちでいっぱいになりました。それに応えなくてはと、さらに気合が入ります。花婿は、慣れない草鞋でアスファルトの上を歩き、指の間とかかとが痛くて仕方ないのですが、いよいよ目抜き通りを歩きます。

4気持ちの変化

少し慣れてくると、「あ、会社の人が来てるよ」「どこどこ?」などと余裕が出てきます。行列が通る沿道に会社や支店があるところは、その前に大応援団が陣取って声援を送っています。知った顔から暖かい掛け声をもらい、どのカップルも行列を楽しむ余裕がでてきました。

押川写真事務所提供

宮崎市の中心部、デパートが並ぶ大きな交差点は見物の一番人気スポットです。ここに到達した時、お二人は鳥肌が立ったと言います。割れんばかりの拍手、大きな歓声。これは自分たちに向けられているの?と一瞬疑ったそうです。

押川写真事務所提供

「こちらからもあちらからも、可愛いね、きれいだねって、こんな誉め言葉をこんなにたくさんの人から掛けられたことは今までなかったし、今からだって二度とない」といい、「自分に投げられる賛辞の言葉は、有名人ってこんな感じなんだという体験になりました」と澤村さん。ごく普通の日常とごく普通の人生の中で体験したあまりにもすごい非日常。歴史を持ち、これほどまでに完璧に作られた祭りに参加させてもらえる幸福、それを支えてきた大勢のスタッフ、祭りを愛して足を運ぶ何万人もの見物客、こんな晴れ舞台を作ってくださる皆さんへの感謝。この時の気持ちを表現する言葉は、どう考えても見つからないのだそうです。だから、平凡ですが「やってよかった」「後輩にも経験してもらいたい」と言うのです。やりたくなかった初めの頃には想像もできなかった気持ちの変化に自分たちも驚いたと言います。

押川写真事務所提供

「祭り、楽しい!」行列は、無事お旅処に到着。スタッフや馬に挨拶をすると、すぐにバスで着付け会場に戻り、また明日に備えました。澤村さんの紐を握りしめていた腕はしびれ、クロスさせたままの足はつりそう、又川さんの草鞋を履いた足はヒリヒリ痛みましたが、それ以上に感激した興奮する気持ちを胸に、家に帰るとすぐに寝たのだそうです。

翌日も沿道には大勢の人が繰り出していました。帰路は、余裕がありました。花嫁たちは終始見物客に最大の笑顔を送ることができました。花婿たちも馬に慣れ、草鞋のほどよい結び方を身に着け、元気に歩くことができました。馬に足を踏まれることもありませんでした。

祭りが終わると、着物を脱いだ時の解放感と同時に、これまでに体験したことのない気持ちが湧いてきたといいます。言葉では表せないけれど2日間で味わった達成感、充実感、何とも言えない満たされた心と未来への希望のようなもの、そして何よりもありがたいという気持ちがごちゃ混ぜになった感じだそうです。

祭りが終わっても、その影響はありました。知らない多くの人から写真をもらったり、仕事で出会う人からも「祭りに出ていたね」と声を掛けられたりすることが増えたそうです。祭りだけでなく、このような機会をくれた会社にも感謝し、愛社精神が倍増、ますます張り切って仕事をする気分だそうです。

インタビューを終えて、やはり祭りには、歌手やダンスの舞台とは違う何かがあると感じますね。普段の生活では絶対に味わえない気持ち、自分一人ではなかなか到達できない気持ちは、やってみないとわからないのかもしれません。改めて祭りっていいなと思います。澤村さん、又川さんご協力ありがとうございました。

この記事を読んでくださったあなた、機会があればどんな祭りでも参加してみてください。やるならとことんやりましょう。

おまけ

ところで、シャンシャン馬の最後尾を歩くのは、どんぐり圭子のお気に入り、馬糞処理カーです。祭りに微笑ましく彩りを添えています。明るく飾ったリヤカーは、ひっそりと環境保全に取り組んでいるのです。

5行列あれこれ

神武さま行列の前半は「御神幸行列」もご紹介しますね。

御鳳輦(ごほうれん)という宮崎神宮の祭神である神武天皇の御霊を乗せた神輿を中心に、太鼓、獅子、楽人、稚児、神宝、神馬、宮司、神官などが練り歩きます。

宮崎神宮御神幸祭奉賛会作成パンフレットより

宮崎市長 戸敷 正氏 神武天皇の御霊がのった神輿「御鳳輦(ごほうれん)」

稚児行列

行列後半にはミスシャンシャン馬のほかに、古事記、日本書紀に登場する19神、神武天皇が東征に繰り出したとされる舟「おきよ丸」、などが続きます。祭りのテーマが「神武東遷」でもあるため、宮崎市を含む県内の関係22市町村からも、ミス観光が人力車に乗ったり、各地の民俗芸能集団が大きな交差点で芸能を披露したり、中学高校の吹奏楽部が演奏しながらパレードしたりして、毎年人出が多く、大変華やかな行列となります。また、姉妹都市・奈良県橿原市と有縁交流都市・秋田県大仙市からも参加がありました。

天照大神(アマテラスオオミカミ)

各地のミスたちが人力車で登場

6見学ポイントなど

毎年開催される「神武さま」。ぜひ、お越しください。おすすめ見学場所をお知らせしますね。

◆ ゆっくりと鑑賞したい人  出発地近くの神宮の森から一の鳥居まで。ただし、行列の皆さんは緊張気味。

◆ 盛大な様子を見たい人  デパート前交差点。ものすごく込み合います。

◆ 全部見たい人  1日目の橘通り1丁目、橘橋北側の交差点がおすすめ。

◆ 楽しく見たい人 2日目がおすすめ。行列の皆さんは余裕で観客にサービス。ただし、交差点パフォーマンスは少なくなります。

宮崎神宮御神幸祭奉賛会の事務局は、宮崎商工会議所、お問合せ先は、電話0985-22-2161です。

この記事を書いた人
オマツリジャパン オフィシャルライター
伝統芸能の保存に力を注ぐ一方で、今風に楽しもうと思っています。素敵なお祭りをたくさん発信していきたいな。

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