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日本一古い年記銘の獅子頭!?愛知県愛西市でその由来を探る

2021/3/9
2021/3/9
日本一古い年記銘の獅子頭!?愛知県愛西市でその由来を探る

日本最古の獅子頭。どこにあるのかご存じだった方はいるだろうか?実は愛知県愛西市の日置(へき)八幡宮という場所に保管されている。これは「年記銘がある」という条件付きではあるが、記録が辿れる獅子頭の中では最古ということのようだ。なぜこの場所にこんなにも古い獅子頭が存在するのか、そのルーツを探るため現地を訪れてきた。コロナ禍で獅子舞が見られない中、獅子頭に着目してその知られざる歴史をお届けしたい。

愛知県愛西市日置八幡宮に日本最古の年記銘付き獅子頭がある

愛知県愛西市は、三重県にも近い愛知県西部に位置しており、木曽川や長良川など伊勢湾に注ぐ川が複数流れ、海抜ゼロメートルの低い土地が広がっている。水に恵まれており稲作などが行われる一方で、レンコンは全国有数の産地だ。名古屋鉄道津島線の日比野駅から徒歩6分ほどの場所にあるのが、日置(へき)八幡宮。応神天皇を御祭神とし、鎌倉時代以前からあったと言われる由緒ある神社だ。この場所に、日本最古の獅子頭が保管されているとのこと。鳥居脇の看板には、「日本最古の獅子頭を所有する神社」と書かれている。

鳥居をくぐり境内に入っていくと、獅子が石に刻まれているのを発見。獅子というキーワードでは獅子頭とも繋がりがあるかもしれないが、狛犬のような形をしている。

獅子頭に関する案内の看板も立っている。愛西市の指定文化財にもなっているようだ。他にも、「管粥(くだがゆ)」という占いの神事や、「懸仏(かけぼとけ)」という十一面観音菩薩の像なども、指定文化財になっているとのこと。

結局、氏子の方々に閲覧や撮影の許可取りが難しい状況で、実物の獅子頭自体を見せていただくことは叶わなかった。しかし、愛西市役所の生涯学習課の方に日本最古の獅子頭についての資料を拝見したので、その内容をご紹介する。

愛西市役所で獅子頭の資料を閲覧

愛西市役所は、日置八幡宮からは徒歩約20分の場所にある。水平垂直のラインが印象的なとても新しい建物だ。ここの3階に生涯学習課があり、資料を閲覧させていただいた。

まず実物の獅子頭の写真はこちら。木造で素朴な動物のような獅子頭だ。耳が立っており、目がぎょろっとしている。耳は取り外し可能である。色は剥げてしまっているが、おそらく黒色だったのだろう。鼻から口にかけて一本の傷がある。

愛知県教育委員会提供

文化財だということもあり、細かい状態がわかるような画像が何枚もファイリングされていた。表に塗られた塗料が少しずつ剥げてしまっており、木がむき出しになっている。

愛知県教育委員会提供

この獅子頭の形態は上あごと下あごに分かれ、下あご部分はのちに修復された。上あごは建長四(1252)年製作で、下あごが享徳三(1454)年製作である。この神社では獅子舞をしたという記録はなく、現在も獅子舞を実施していない。獅子頭のみが神社の敷地内に保管されていた。県道の敷設に伴い、神社の移転をする時に整理をしていた際に出てきたとのこと。その後、元興寺文化財研究所に搬入され、獅子頭に「建長四年壬子八月」の文字が刻まれているのが発見されたようだ。これで製作年が判明し、2007年1月10日に愛西市の指定文化財に指定された。

この地域では現在、獅子頭を作っている方は少なく、専業でされている方も聞いたことがないそう。仏像を彫る方はいるようで、獅子頭を彫れるとしたらこのような方々かもしれない。また、獅子頭に使うような木材(ヒノキやエノキなど)が豊富な土地ではない一方で、物や情報が行き交う流通拠点だった歴史があり、川が多いという特徴がある。例えば川の上流から木材を調達して作ったとか、どこかから獅子頭のデザインが持ち込まれたとかは十分考えられる。ただ、獅子頭の由来に関する記録はほとんど残っていないそうだ。江戸時代後期に編纂された『尾張名所図会』には「同(八月)十六日、神賓蟲拂ありて、古き弓矢・獅子頭及び經巻等を諸人に見せしむ」とあり、この獅子頭が古くから社宝として伝えられていたことはわかっている。

獅子頭の歴史

ところで、獅子頭はもともと奈良時代に推古二十(612)年に 百済の 味摩之(みまし)が伝えたとされる伎楽(ぎがく)で使われた獅子の面だった。日本芸能の発祥の地「土舞台」は奈良県にあり、最初期に獅子舞が舞われたと言われる東大寺も奈良にある。この時に使われたと言われている獅子頭は、正倉院に保管されている。この獅子頭は年記銘がないものだ。

年記銘のある獅子頭が日本全国に広がりを見せるのが、鎌倉時代である。今回ご紹介した愛知県愛西市日置八幡宮の獅子頭(建長四(1252)年製作)を筆頭に、日本全国様々な場所で年記銘の獅子頭が見られる。石川県立博物館著『獅子頭』をもとに、全国の獅子頭の製作年と場所の分布を見ていこう。

・弘安3年 1280年 三重県 伊奈冨(いなう)神社
・正安3年 1301年 広島県 丹生(たんじょう)神社
・嘉元2年 1304年 岐阜県 真木倉(まきくら)神社
・嘉元3年 1305年 山梨県 諏訪神社
・嘉元4年 1306年 岐阜県 諏訪神社
・元享2年 1322年 山口県 花尾八幡宮
・元享2年 1322年 石川県 津波倉(つばくら)神社
・嘉暦3年 1328年 熊本県 熊野座神社

鎌倉時代の獅子頭は以上のように、特定の地域ではなく全国的に分布していることがわかる。蔭山誠一著『愛知県日置八幡宮所蔵木造獅子頭考』には、獅子頭の形態の変遷から日本全国の獅子頭のルーツを推測した記述がある。獅子頭のデザインに地域的傾向はあるもののモザイク状に分布しており、地方の神官や職人などが流入してきたものを元にして各所で獅子頭を製作したと考えられるようだ。

中部地方や東海地方に分布する中世の獅子頭のデザインには、京都を起点として様々な類似性が見られるとのこと。愛知県愛西市日置八幡宮に関しては、鎌倉時代から室町時代前半まで源氏と縁の深い左女(さめ)若宮八幡社領であった点に注目。京都にある若宮八幡宮を起点に、八幡信仰興隆を背景として製作された獅子頭なのではないかとのこと。日本全国の獅子頭の分布から愛西市の獅子頭について考えるのもとても興味深い。

獅子頭の歴史から地域の魅力を知る

日本最古の年記銘の獅子頭はどんなものなのだろう?このような思いつきから愛知県愛西市を訪れてみて、改めて獅子頭や獅子舞の世界の奥深さを知ることができた。獅子頭のルーツを探るには、デザインの着想、原材料の調達、製作する職人など多様な側面から検討していくことが必要とわかった。同時に川が多く海抜ゼロメートルという地形、八幡信仰の分布、レンコン栽培など、愛西市の地域的な特色も見えてきた。「獅子頭の背景を知ることは地域を知ることでもある」と感じた1日だった。愛西市内では、西保星大明社の10月の秋祭りなどで獅子舞も見られるそうだ。ぜひ、獅子舞や獅子頭の奥深い歴史を知るとともに、愛知県愛西市の魅力を感じていただきたい。

参考文献
石川県立博物館,『獅子頭』,1998年
蔭山誠一,『愛知県日置八幡宮所蔵木造獅子頭考』,愛知県埋蔵文化財センター,2008年

アイキャッチ画像:愛知県教育委員会提供

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