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東京・四谷「坊主バー」で仏教を知る!元ボクサー僧侶はなぜバーを始めた?

更新日:2021/5/17 稲村 行真
東京・四谷「坊主バー」で仏教を知る!元ボクサー僧侶はなぜバーを始めた?

気軽に訪れられるお寺。新宿・四谷の坊主バーを訪れて、自然とそのような言葉が思い浮かんだ。一般的にお寺と言えば、ちょっとハードルが高い印象がある。堂々とした外壁に囲まれ伝統建築の厳かな建物が思い浮かぶ。しかし、「本来であれば仏教のハードルはもっと低いはず」と語るのは、浄土真宗の僧侶をされている藤岡善信さん。仏教の素晴らしさを広めたいという想いを実現されたこのバーのオーナーである。

坊主バーでは精進料理を食べる、お坊さんと一緒に御経を読む、御説法を聞く、写経をする、悩み相談をする、おみくじを引くなどの様々な体験ができる。バーという形をとっているが、体験内容を見るとまさに「夜のお寺」である。今回はコロナ禍において困難なことも多い中、精神的な下支えの役割を担う仏教について知りたいと思い、藤岡さんにインタビューを行った(2021年4月23日, 撮影時のみマスクを外して頂いています)。

仏教の教えがそのままお酒の名前に!精進料理も味わえる

お店に入ってまずメニュー表を見ると、聞いたこともないような食べ物や飲み物がずらり。無間地獄、極楽浄土など、仏教の言葉が並んでいる。「どんな味なんだろう」と未知に対するワクワクを感じながら、メニューを選ぶ。今回注文したのが、「極楽浄土」という飲み物。マンゴージュースやクランベリージュースなどを掛け合わせて作られたようだ。

いなむ:この極楽浄土という飲み物の意味を教えてください。

藤岡さん:極楽に咲いている花が青赤黄白という4種類あり、それを表しています。

いなむ:それぞれどういう意味があるのでしょうか。

藤岡さん:色の原色ですね、仏旗もそのような配色です。

いなむ:なるほど、そういうことなのですね。ではいただきます。

(ごっくん。お、美味しい。)

いなむ:マンゴーやパインの味がしますが、意外とそれぞれの味が混じらずよくわからない味にはならないですね。

もう一つ注文したのが、この「うなぎもどき」という食べ物。一見うなぎそのもののようだが、何で作られているのだろうか。

いなむ:この「うなぎもどき」というメニューは何で作られているのですか?

藤岡さん:これはお麩(ふ)ですね。

いなむ:そうなのですか!もちもちした食感が本物のうなぎのようで、蒲焼きのような味です。もともと仏教ではこのような作り方をするのですか?

藤岡さん:そうですね、もともと仏教は殺生をしないですから。(◯◯もどきの系統でいくと)「がんもどき」という食べ物が一番有名かもしれません。

いなむ:ああ、がんもどきは食べたことがあります。お坊さんは全く肉を食べないのですか?

藤岡さん:いやいや、私たちの宗派は禁じられてはいませんが、今でも戒律の厳しい宗派はお肉を食べない方々もいらっしゃいます。

晩御飯として手軽に食べられるおかゆやたくあん等もあるのだとか。とにかくメニューが豊富で、聞いたこともないようなユニークな料理もある。でもそれは、私たちがまだまだ精進料理の世界を知らないということかもしれない。精進料理は「食事を我慢する」というイメージも漠然とあるように思うが、実はとても美味しいものだということを知ることができた。

メニューが書かれている本はまるで御朱印帳

御朱印&おみくじもある

他にも様々な楽しみがある。坊主バーにはなんと御朱印もあるのだ。「参拝」の文字が書かれており、単なるバーではなく夜のお寺だということを改めて実感する。また、おみくじも100円でできる。箱をよく振ると番号が書かれた竹ひごのような細い木の棒が出てくる。半吉、小吉、中吉、吉、大吉の5つがあるようだ。おみくじは次引く時までの内容が書かれているそうで、期間で言えば約1年後までが目安という考え方もあるという。

お坊さんと一緒に御経を読む

また藤岡さんをはじめお坊さんと一緒に、お経を読むこともできる。まずは藤岡さんが一節を唱え、その後続けてお客さんが一緒に唱えるという流れで行われた。

いなむ:今回読んだお経はどういう意味だったのでしょうか?

藤岡さん:無量寿経(むりょうじゅきょう)という経典の、讃仏偈(さんぶつげ)を読みました。ここには阿弥陀如来の願いが書かれており、浄土真宗で一番大事にするお経です。お釈迦様は我々と同じ人間の姿を持って生まれたので、我々と同じように痛みや苦しみがあります。その中で悟りを開いたということは、我々も同じようなプロセスを踏めばできますよということを示してくれているのです。

いなむ:悟りを開くというのはどんな感覚でしょうか?

藤岡さん:私のような凡人には到底及ばない世界だと思います、しかし想像するならば迷いがなくあるがままを受け止め直観で生きていけるようになるのでしょうか。私たち浄土真宗では自分の力では悟れないということをとことん見つめていくのであります、そうすると自分の中に怖ろしいほどの闇を発見することになるのです。このことの方がわれわれこの現世で生きる上で大切な発見かもしれませんね。

いなむ:スマホ等を全部無くしても、悟るのは難しいのでしょうか?

藤岡さん:色々なしがらみがない方が幸福感は高まるのかもしれません、しかしそれだけではお釈迦様が悟られた世界に近づけると限らないと思います。なぜなら究極のところで私は私を捨てることはできないからです。それは自殺という行為も含めて我々は捨てるためにやっている行為の奥底に果てしもなく自分を得たいという煩悩があるからです。悟りも実は悟ろうとする大きな煩悩が自分を縛り付けている限り遠のいていくのだと感じます、だからこそある種のあきらめと言うか自分の中にはどこまでもついてくる煩悩を認めることが何よりの第一歩なんだと思います。そこをしっかりと叩き込まなければ、足をふみはずしてしまうでしょう。

仏教を始めたきっかけと坊主バーの活動

いなむ:お坊さんになったきっかけは何だったのでしょうか?

藤岡さん:実家が仏教を普及するようなお説法会などを開く場所だったので、仏教に触れる機会はありました。元々ボクシングをやっており大学はボクシングで入ったのですが、そこは仏教の大学でもあり導きもあったと思います。

いなむ:え!そうだったのですか!大学で仏教に触れて、お坊さんになったのですか?

藤岡さん:ボクシングの影響が強かったですね。ボクシングも仏教も、どちらもストイックというか…ストイックな世界に憧れがありました。

いなむ:あ、なるほど。ストイックという共通点があったのですね。

藤岡さん:あと大学の時に行き詰まった時、人間はなんで生きているんだろうって考えていました。だいたいの人はそんなこと考えても意味ないやんとなるわけですが、私の場合は答えが出ないとだめな性格なものでして。

いなむ:それはわかる気がします。

藤岡さん:あらゆる本を読みまくり、そこでキリスト教に出会い、インドに行ったこともありました。その後に親鸞の教えに出会って、これだと思いました。

※撮影時のみマスクを外して頂いています。

いなむ:大学卒業後は就職をしないで仏門に入られたということでしょうか?

藤岡さん:そうですね。

いなむ:最初はどういうことから始めたのですか?

藤岡さん:藤岡さん:最初は実家にある本を読み漁りました。そして、近くにあるお寺の門をたたき住職にいろいろ相談しました。そして、大学で仏教を学んで、その後浄土真宗の学校も行きました。

人間の世界における天国と地獄とは

いなむ:(修行などで)ストイックなこともされたのですか?

藤岡さん:ボクサーのころのほうがよっぽどストイックでした。ご飯も食べれないし水も飲めない中で、真夏にサウナスーツを着て何十キロと走りまだ足りず、サウナにいき汗一滴でないまで吐き出してもまだ足りず、唾を吐いたりしながら当時48キロの体重まで絞ったときはいつもお釈迦様の苦行の像を拝んでいました。そんなお釈迦様は苦行は否定されました。極限の苦しみの中では悟れないと。だから行き過ぎのストイックはあまり意味がなく、しかし自由すぎても駄目ではあります。ほどほどを知るということが大切な事です。

いなむ:制限があった方が欲が出てこないのですかね。

藤岡さん:そうですね多少の制限を設けてそれが習慣化されていく方が、幸福感が多く充実されていくのかもしれません。

いなむ:例えば、ご飯をちょっとしか食べない日があったとして、次の日めちゃくちゃ食べたくなるわけじゃないですか。そういう欲望が溢れ出てきてしまうことってないんでしょうか。

藤岡さん:だからこそ無理はいけないですよね、反動が出ますから毎日続けられるちょっとした習慣が大切ですよね。

いなむ:そっか、なるほど。

藤岡さん:また我々の脳みそは悪い習慣に引っ張られていくものですが、その習慣がいかに意味がなく自分の人生のいらない重みになり苦しみの種になるかということに気づけることが大切ですよ。

いなむ:それはどういう風にしたら気づけるんでしょうか?

藤岡さん:気づくには何度も痛いめに合わなければいけないかもしれませんね。その時に、よく観察しなければなりません。おなかがすいたときにおいしいものを食べた時の幸福感は否めませんが、それを求めすぎていくと苦しみしかなくなります。お酒もそうかもしれません。恋愛だって求め過ぎると苦しみしかなくなります。人間の世界の天国地獄ってそういうものです、結局我々は頼りのない幸せばかり求めていていつまでも究極の幸福が見えてこないのです。

いなむ:確かに..。

藤岡さん:だからこそいつも正しい教えという鏡に自分を映し出さねばなりません。

いなむ:自己分析をしていくのとは違うんでしょうか?

藤岡さん:それも良いんですけど、ただやはり導いてくれる人がいないと偏った自己分析しかできないかもしれません。師匠(仏教)を通して真実に触れていけばいくほど光に近づいていって、自分の影というものがくっきりと見えるんですよ。この心の目が開いていくことで今までの思い違いに気づかされ、そこから少しづつ離れていくことができるわけです。悪い習慣から離れた方がこんなにも身軽で幸せなのかということを体験できればあとは歩むだけです。

坊主バーでやっていること

いなむ:坊主バーは厳しい戒律を持つ方から見たらどういう見方になるでしょう?

藤岡さん:多少勉強したら悪いことではないことがわかるんですが、惑わすという誤解を感じる人もいるようです。

いなむ:それは欲に関する誤解なんでしょうか?

藤岡さん:お坊さんがお酒を出すのはけしからんということのようです。浄土真宗の教えは本来どんな方にでも共有できる教えで、バーという場所の方が気軽に来れて様々な方にも出会えます。

いなむ:なるほど、確かに。お寺に行くとなるとハードルが高いですからね。

藤岡さん:ハードルが高いと良い人間にならないといけないということで、自分を偽りますよね。ダメな人間はダメな人間のままで救ってくださると、仏様が受け止めてくださるのです。

いなむ:ここでは、悩み相談もされているのですか?

藤岡さん:そうですね、いろんな方のお話を聞かせてもらっていて、そこに自分を映していくというか。自分が何かを説くわけではありませんが、そこに何か学びもありますから。どんな人の中にも仏さんがいて、光があって、そして私がいるのです。変えるのは自分自身ですからね。やはり自分の経験だけで喋らず、仏教と照らしていくということも大事です。

ミュージックビデオづくり

実は藤岡さん、バンドを組んで音楽もされているようだ。最近、新曲ができたそうで、そのお話も伺った。

いなむ:ミュージックビデオも撮られていると思うのですが、いつ頃に始められたのですか?

藤岡さん:音楽自体はもう10年以上前から坊主バンドということでやっていて、コロナが流行する前はライブなどをしてきました。

いなむ:最近「おいのろう」というミュージックビデオを作られたそうですが、これはコロナの時期だからこそという思いを込めて作られたのですか?

藤岡さん:コロナ禍でバンドができなくなって、神主の友達とどうしようかと話していたんです。一緒になんかやろうということで、神仏習合することにしました。

いなむ:神仏習合!確かにそうですね。子供が出ていましたよね?

藤岡さん:振り付け師を入れたんですけど、その教え子さんです。

いなむ:昔、踊念仏とかあったと思うんですけど、踊りでメッセージを伝えていくという想いはあったのですか?

藤岡さん:そうですね。もともと踊りというのは神に捧げるものでして、トランス状態で気持ちよく自分をなくしていくことで神様(仏様)につながるということもあると思います。

コロナ禍におけるこれからの挑戦

コロナ禍において、お坊さんの業界にも様々な変化があったようだ。

いなむ:コロナ禍でお坊さんの業界で変わったことってなんでしょう?

藤岡さん:教えを広めていくというか、Youtubeとかオンラインで気軽に教えを聞けるという機会が増えたように思います。

いなむ:不安な時代だと思うのですが、お坊さんになる人は増えていますか?

藤岡さん:どうなんでしょう、安定しているという勘違いはあるとは思います。お坊さんが職業であると考えている人は現実にぶつかって、辞める人も多いかもしれません。私は先輩によく「僧侶というんは職業ではなく生き方なんだ」と教えられました。それは24時間僧侶でいなけれないけないという意味です。プライベートはありません。何をしているときも僧侶の自覚を持って行動しなさいと教えていただきました。だから道を求めるものとしての同朋者は増えてほしいです。やはり一人で歩くより仲間で学びを深め励ましあえる仲間は仏道には必要なことだと思います。

お客さんが書いた習字の作品を天井に貼り付けているそうだ

今後はコロナ禍において、「夜のお寺」としての活動を盛んに行っていきたいとのこと。お酒を提供しない悩み相談などのイベントの実施も検討しているそうだ。法事をしたいとか、葬儀法事に出られずお経を上げてほしいとか、様々な相談事も引き続き受け付けているとのこと。Twitterやホームページをご確認いただくと、最新情報がアップされているのでぜひご確認いただきたい。坊主バーの世界観にどっぷりと浸りながらも、これからの仏教が果たすべき役割に想いを馳せるとても充実した時間だった。

四谷 坊主バーのTwitter

四谷 坊主バーのホームページ

この記事を書いた人
オマツリジャパン オフィシャルライター
日本全国500件以上の獅子舞を取材してきました。民俗芸能に関する執筆、研究、作品制作等を行っています。

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