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みんなでやろまい!オール蒲郡花火!現地レポート

2020/8/21
2020/9/25
みんなでやろまい!オール蒲郡花火!現地レポート

オール蒲郡花火とは?

2020年8月16日(日)夜8時。愛知県蒲郡(がまごおり)市の空を花火が満たしました。企画したのは地元の青年会議所(JC)メンバーを主体とする「蒲郡応援団」。蒲郡は山と海と島と温泉と競艇とみかんと水族館と科学館とリゾートと花火の街、ついでにソフトバンクホークス千賀投手の出身地です。三河湾を囲むように街が広がり、少し海から離れると五井山(ごいさん)・遠望峰山(とぼねやま)・三ヶ根山(さんがねさん)からの眺めも楽しめる街です。ですが他のあらゆる街と同じくコロナ禍で打撃をこうむっています。また蒲郡はコロナ関係の逮捕者報道によるイメージダウン、さらに大イベントの蒲郡まつり&納涼花火大会の中止という暗い話題が続いていたのです。

しかしJCメンバーはここで委縮することなく、蒲郡応援団というチームを立ち上げ活動を開始します。そこでぶちあげたのが市内全域14か所で花火を打ち上げるという企画でした。全国各地の様々な団体が協力して同時に花火を打ち上げる企画はすでにありましたが、ひとつの市内だけで14か所の打ち上げは極めて珍しいものです。決行日は本来なら蒲郡まつり納涼花火大会が開催されるはずだった7月の最終日曜日に決まりました。ところが・・・。7月の半ばを過ぎても梅雨が明けず、当日も天候不順が予想されたため無念の開催延期。8月16日に仕切り直し開催が告知されました。

オール蒲郡たるゆえん

今度こその開催当日、現地入りした私を迎えてくれたのは快晴微風という絶好のコンディション。延期を決めた蒲郡応援団の判断は吉と出ました。この日はまず市内南西部に位置する形原(かたはら)町に向かい、祭礼保存会の近藤さんに準備でお忙しい中お話を伺うことができました。そもそもの話になりますが、私の住んでいる地域には蒲郡と違って保存会というものがありません。それで何を保存しているのかピンと来なかったのですが、近藤さんのお話によると春季・秋季の祭礼において手筒花火を自分たちで作り披露して(打ち上げて)いるとのこと。形原の保存会は「天火会」と称し、蒲郡にはこうした保存会がいくつもあるそうです。

天火会の皆さん「天火会」のみさなん。普段は別のお仕事をされています。右端が近藤さん。準備で多忙の中、また灼熱の中取材に応じていただきました。

今、さらっと市内各地で手筒花火を自作すると書きましたが、少し考えてください。普通はあり得ないです、そんなこと。

天火会では普通の丸い打ち上げ花火についても現在主流の電気点火ではない昔ながらの方法(筒の底に焼けた鉄を入れておき、そこに花火玉を手で投入して点火する)での早打ち技術も伝承しているそうで、さすが徳川家康の地元三河、保存しているのは花火と祭りと伝統なのでした。

手筒花火過去の手筒花火のもよう。下段は若き近藤さん。(写真提供:加藤煙火)

近藤さんは過去に花火師として土浦全国花火競技大会に出場した経験があるだけでなく、熊本地震の際にはボランティアとして現地入りしそこでもチームを率いたという、技術と熱意を併せ持つ方で、あるとき別の自治体のお祭りを支援しようとしたらレベルが高すぎて逆に断られてしまったこともあるそうです。この地域にはこれだけのポテンシャルがありながら今年はコロナ禍で春祭りも秋祭りも中止。この日は気温40度に迫る酷暑でしたが、天火会としての今年の花火打ち上げはここだけとあって、みなさんどことなく楽しそうなのが印象的でした。

天火会の準備風景ビートルズのジャケット写真・・・ではなく、天火会の準備風景です。岩とコンクリートの照り返しの中で資材の運搬設置を行います。

こうした人たちが市内14カ所同時打ち上げを支えており、個人や企業のスポンサー、自宅で観覧してくれる蒲郡市民も含めた全員参加型のイベントがこの「オール蒲郡花火」なのです。

主催観客、行政民間、一体となって開催

感染症拡大を防ぐ必要もあり、活発にネットが使われたのもオール蒲郡花火の特徴といってよいでしょう。蒲郡応援団のサイト内に作られたオール蒲郡花火のページ(https://gamagori.love/hanabi/)では協賛の呼びかけだけでなく蒲郡市民のインタビュー記事を数多く掲載し、どんな人がどんな想いを寄せているのか目に見える形になっています。また、数百万円ともいわれる資金集めには、例年の蒲郡まつり納涼花火大会の協賛者へのお願いの他に、市内、市外から幅広く賛同者を集めるクラウドファンディングも行われました。こちらは無事に目標額を達成しています。

そして当日は自宅から花火を見る事ができない人や市外から応援してくれる人たちのためにライブ配信も行われました。打ち上げ花火だけではなく、事前に準備された動画を流したり、スペシャルゲストとして蒲郡市長(!)や演舞サークル「緣志(えにし)」メンバーが登場するなど、誰が見ても大いに楽しめる内容となっていました。その配信場所はなんと消防署の屋上。市民だけでなく行政の後押しもあることが伺えます。さらには、番組の司会進行の声に聞き覚えがある人もいたのではないでしょうか。実は毎年の蒲郡まつり納涼花火大会で司会を務める成瀬さんだったのです。こうして、いよいよその時を迎えたのでした。

消防署屋上特設スタジオ蒲郡消防本部屋上に作られたライブ配信用の特設スタジオ。放送直前のリハーサルの様子です。

夢の景色

満員の祭り会場もカウントダウンもなく、普段と変わらない静かな夜。でも、夏にしては珍しくよく澄んだ空を見つめます。みんな見つめています。私の視界に大観衆はいないけれど東西12km・南北12kmの蒲郡市のみんなが同じ空を見ているに違いありません。すると遠くで白い光が3本、4本、5本と真っ直ぐ昇っていくのが見えました。続いてごく近くからもボシュッ!と筒から花火が発射される音、バン!と花火が開く光と音、さらにずっと遅れて最初に昇ってきた遠くの花火の音が雷鳴のように響いてきます。大パノラマで炸裂した花火の音が東・北・西の山にこだまして360度スーパーサラウンド重低音となり蒲郡市を包みこみます。

花火は、勝手に上がる自然現象ではありません。打ち上げたい人がいて、打ち上げる人がいて見る事ができるものです。普段の花火大会以上に、近くから、遠くから、その人たちの息吹が伝わってきました。同時に市内全域でたくさんの人がこれを見ていて、それは確かにオール蒲郡だと納得したのでした。

花火一斉打ち上げ背後からも打ち上がっており、レンズにとても収まらない花火。ちなみに、右から2番目が天火会の打ち上げで、6.5km離れています。

花火打ち上げの全体は、専務の加藤さんがJC会員でもある加藤煙火が担当しています。加藤煙火は美しいパステルカラーの花火と楽しい演出で近年花火ファンの注目を集めているのですが、今回も粋なはからいをやってくれました。出だしとラストの一斉打ちタイミングとデザインをきっちりそろえる演出です。写真が下手で分かりにくいのですが、現地で見る花火はゾクッと心を震わせる光景で、一瞬の美という花火の原点を再認識しました。

長いような短いような10分間が終わると、そこは祭り会場ではありませんから、余韻もなくすぐに普段の夜に戻ってしまいました。一瞬の夢のような景色、いや夢そのものの景色を作り上げたすべての人に感謝します。そして欲を言えば、また見たい(笑)、これは新しい花火の形を世に示したのではないでしょうか。最後に、密にならない形でこの風景の撮影に成功した人たちの写真と、市外からの応援ツイートを紹介します。

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