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「伊庭の坂下し祭り」断崖絶壁を神輿が落下する|観光経済新聞

2019/11/23
2019/11/27
「伊庭の坂下し祭り」断崖絶壁を神輿が落下する|観光経済新聞

観光経済新聞のコラム記事連載が、2019年9月14号からスタートしました!「お祭り」をフックに旅情あふれる記事を、オマツリジャパンライターの皆さんに書いていただき、毎週掲載して行きます。普段のマツログ記事とは一味違う表現で書いていただいていますので、ぜひお楽しみください。(オマツリジャパン編集部)

伊庭の坂下し祭り(滋賀県東近江市)

 「ヨイトコセーノ、ソーレ!」。男の掛け声が新緑生い茂る山肌に響く。声に続いて「ガガガッ!!」とすさまじい音をたてて山頂方面から下りてきたのは、重さ500キロにもなる神輿(みこし)だ。

 滋賀県東近江市。繖山(きぬがさやま)の中腹にある「繖峰三(さんぽうさん)神社」から氏子の若衆が3基の神輿を麓まで下ろしていくこの神事は「伊庭の坂下し祭り」と呼ばれ、毎年5月4日に行われる。

 山の麓には歴史を感じる大鳥居があり、そこから前述の神社までの登山道が参道となっている。道は整備されておらず、かなりの急斜面を登る必要があるので、訪れる際にはちょっとした登山の装備が必要となる。

 そんな山道を神輿が下りてくるのだが、急斜面であるがゆえに若衆たちはそれを担ぐわけではなく、神輿の腹を地面に付けて引きずり下ろしてくる。神輿の前から掛け声をあげて力強く引っ張り、後ろでは綱を用いて巧みなコントロールを行いながら、少しずつ麓へと近づいていくのだ。

 神輿が下りてくる参道の途中にはいくつもの難所があり、それらは若衆たちの見せ場でもある。なかでも最後の難所「二本松」は岩がむき出しとなった垂直に近い断崖絶壁。建物の3階分ほどの高さがあり、上からのぞきこむと背筋に嫌な感覚が走る。

 見ているだけで手に汗握る急斜面を前にしても、若衆たちは余裕綽々(しゃくしゃく)。あまつさえワクワクした表情さえ見せる。二本松を落下する直前、少年2人が神輿の前面に乗り込む。神輿ごと二本松を落ちるのが15歳になった少年の通過儀礼だそうだ。彼らだけはさすがに不安な表情を浮かべていたが、きっとこの経験を経て「伊庭の男」に成るのだろう。

 神輿は大きな掛け声とともに「二本松」を一気に落下。「ゴゴッ!」と鈍い音をたてて谷底へ着地し、ギャラリーからはどよめきと拍手が巻き起こった。「伊庭の祭りを一度は見やれ 男肝つく坂下し」。こんな詩とともに850年にわたって受け継がれるこの祭り、独特の伊庭の祭りをスリルと若衆の表情はここでしか味わえない魅力だ。

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