「目に青葉 山ほととぎす 初鰹」(山口素堂)。
初夏を視覚・聴覚・味覚で表したこの有名な句でもお馴染み、5月に旬を迎える魚の代表格といえば「カツオ」ですよね。日本人にとっては大変馴染み深い魚です。
この記事では、主に「初鰹」にクローズアップし、関連知識や伝承について解説します。後半では、カツオがテーマとなったお祭りもいくつかご紹介しますよ。
そもそも「初鰹」とは?
今が旬の「初鰹」とは、日本近海に生息するカツオのうち、春〜初夏に水揚げされるもののことです。
カツオは暖かい海を好むため、冬に日本の南の海で産まれると、暖流の黒潮に乗って北上。餌を求めて、寒流の親潮と黒潮がぶつかる部分(千葉~三陸沖)へ向かいます。
この時期網にかかるのが「初鰹」、ここでは捕まらずに餌をたくさん食べて、秋に再び南へ戻るものが「戻り鰹」です。
なぜ「初鰹」はもてはやされたのか?
鎌倉時代末期、吉田兼好は、かの有名な『徒然草』のなかで「カツオを立派な人に出すことはなかった」とする老人の話を記しています。少なくとも人気の魚になるのはそれ以降になります。
ただし、全国的なブームではなく、鰹は江戸だけでやたらともてはやされていたのです。理由は大きく分けて4つあると言われています。
江戸には武士が多かったから
江戸時代には参勤交代という制度がありました。各地の大名は、家来を連れて一年ごとに領地と江戸を行き来していたので、江戸の町は武士が多い町だったのです。そして、武士は「カツオ」が好きでした。これはカツオの音を「勝男」と洒落て、縁起物として食べていたからです。当時の人々は、文字や言葉に込められた力を強く信じていたのです。
江戸っ子はせっかちだったから
火事の多い江戸のまち。燃えておっ死んでしまうのはつまらねぇから、宵越しの金は持たねぇよ。という江戸っ子気質が生まれたと言われますが、火事に遭わないように急いで風呂に入るとか、用を足すという生活が、江戸の人々をせっかちにさせたようです。
せっかちな江戸っ子たちはカツオに限らず、「旬」の食材を「走り」の時期に食べるのが「粋」だと考えていました。生産者たちもそれを知っていて、どんどん未熟な作物を出荷するようになったので、幕府が罰則を作ります。カツオについては旧暦4月になったら出荷してよい、という取り決めがあったそうです。
「寿命が750日延びる」から
「初物を食べると寿命が75日延びる」とはいわれますが、初鰹に限ってはなぜか10倍の効果があって、750日と桁違いに寿命が伸びます。誰が言い出したのかは不明ですが、2年も寿命が伸びるなら、是が非でも食べたい人がいるでしょう。太田蜀山人という文人が、日本橋市場に入った17本の走りのカツオのうち、6本を将軍家が買い、1本は歌舞伎役者の中村歌右衛門が買ったと記していますが、初鰹を誰が買ったのかは江戸庶民の大きな話題だったのかも知れません。
「初鰹」しか食べることができなかったから
本来、脂の少ない初鰹より、たっぷり太った戻り鰹の方が美味しいはず。しかし、カツオは足の速い魚で、しかも脂が多いとより痛みやすい。つまり、当時カツオを食べるならば必然的に初鰹を食べるしかなかったのです。
貴重で人気も高いとなると、値段は当然高騰します。文政年間(1818~1830)ごろは、1本2〜3両(約20~30万円)もしたそうです。当時、武家の下男の年収がおよそ2〜3両と言われていますが、いかに初鰹の価値が高かったかわかりますね。
奥が深いカツオ文化
ここまでの話は、中世以降、江戸という都市圏のことです。それ以前や他の土地ではあまりカツオが食べられていなかったかというとそうではありません。
先ほど述べたように痛みやすい魚だったので、古来、生食はあまりされていなかったようですが、塩漬けなど加工して食べられており、中でも一番馴染み深いものは鰹節です。カツオを干したものは、古代から神饌(神々の食事)とされたり、貴族への貢物として贈られていました。
カツオの心臓には霊力が宿る?
また、カツオ漁は土佐の一本釣りも有名ですが、他の魚種の漁に比べて、縁起担ぎや船上での儀礼がユニークだと指摘されています。本来、鰹節に加工する際に不要となる頭や内臓ですが、カツオ漁師の中では、これらに霊力が宿ると考えられていたそうです。たとえば、心臓は「ホシ」や「ヘソ」など地域によってさまざまな呼び名がありますが、ある漁村では、「ホシ」を初漁の際に船神様に備えるそうです。また、宮城県ではそもそも初漁の魚は焼いて食べないという禁忌があります。初漁の魚は「アズケノヨ」と呼ばれ、神様のものだから食べてはいけないという漁村もあります。
「黒潮文化論」という日本人の祖先のルーツを黒潮の流れでたどる考え方では、カツオにまつわる文化が重要な指標となっています。
鯉のぼりならぬ「カツオのぼり」?カツオのお祭り3選!
5月5日の「こどもの日」には、たくさんの鯉のぼりが悠々と空を泳ぎます。しかし、泳ぐのは鯉だけではありません。あまり知られていませんが、なんと、カツオのぼりなるものも存在するんですよ。ここでは、日本を代表するカツオ産地で行われるカツオのお祭りを3つご紹介します。
こどもの日かつおまつり
この投稿をInstagramで見る
鰹の特産地である鹿児島県枕崎市で開催されるお祭りです。こどもの日と初鰹の時期がちょうど重なることから始まりました。子どもの元気な成長を願いつつ、鰹の一本釣りや鰹節削り大会などの催しが開かれます。2023年は5月5日のみの開催となっています。
カツオのぼりと鯉のぼりの川渡しフェスティバル
この投稿をInstagramで見る
高知県黒潮町坂折地区では、4月下旬から5月中旬に鯉のぼりとカツオのぼりのW川渡しを見ることができます。会期中の毎年5月3日には川渡しフェスティバルが開催。計100匹を超える鯉と鰹の川渡しとともに、さまざまなイベントを楽しむことができます。
気仙沼かつお祭り
この投稿をInstagramで見る
長年にわたって、カツオの水揚げ量日本一の座を守る宮城県・気仙沼。こちらでは、7月中旬から2週間程度、気仙沼かつお祭りが開かれます。
期間中に開催店舗でカツオを買う・もしくは食べることで、抽選で景品が当たったり、飲食店で特別メニューが振舞われたりします。景品内容には「カツオ1本」が丸ごともらえる賞も。まさにカツオパラダイスですね。
まとめ
この記事では、初鰹についての知識や、これまでカツオがもたらしてきた文化的影響について解説しました。私たちにとって非常に身近な魚であるカツオですが、歴史をたどってみると、数々のトリビアがあるとわかりましたね。次にカツオを食べるときはぜひ、この記事で読んだことを少しでも思い出してみてください。