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青森の「八戸えんぶり」が再開。夏の八戸三社大祭に思い繋ぐ

2023/7/5
2024/2/29
青森の「八戸えんぶり」が再開。夏の八戸三社大祭に思い繋ぐ

青森・岩手の旧八戸藩領に色濃く残る郷土芸能「えんぶり」。そのえんぶり行事の中で最も規模の大きい「八戸えんぶり」が2月、コロナ禍による2年間の沈黙を経て3年ぶりに開かれました。

凍てつく空気に包まれた八戸がほんのり熱くなる4日間。農民に扮した「南部衆」が集い、真っ白になった街を舞と囃子で彩っていく・・・そして夏の「八戸三社大祭」へと向かって季節の歯車が動き始めます。

コロナ禍で冷え込んだ八戸に春を呼んだ2023年の「八戸えんぶり」を振り返り、この夏4年ぶりに運行が行われる「八戸三社大祭」へと繋ぎます。

2013年から八戸えんぶりを撮り続け、2018年に写真集「えんぶりといきる」を自費出版した青森県在住のえんぶり好きカメラマンがレポートします。

逆境の中で育まれた、季節をつなぐ2つの祭り

今でこそ八戸市は「まっしぐら」など美味しい県産米が獲れますが、その昔の八戸はそうではありませんでした。えんぶりは別名、旧暦の小正月に豊作を願う「豊年祭」と呼ばれます。今よりはるか昔、太平洋に面した八戸は、夏に海から吹く冷たい風「やませ」の影響で米が獲れず、凶作や飢饉に何度も見舞われました。

八戸の人々は厳しい状況の中、「今年も米が獲れるように」と願いを込めて田植えの所作を模した舞を踊り、高度に芸能化した「えんぶり」へと発展したのでしょう。令和の現代においては、八戸の冬を物語る風物詩。町内単位で組織する約30組の「えんぶり組」が、大人も子どもも一緒になって継承活動に取り組みます。

それに対して城下町八戸のアイデンディティとも言える夏の祭り「八戸三社大祭」。本来は秋祭りで、八戸藩・盛岡藩などの旧南部藩領の山車祭礼の中で最も大きな規模を誇ります。八戸市の中心部に鎮座する3つ神社の神輿渡御に、虎舞・神楽などの伝統芸能、27台の大小様々な山車が参加し、夏の八戸の街を極彩色に彩っていきます。

祭りの発祥は江戸時代ですが、山車の登場は明治時代。八戸では感染症「コレラ」の蔓延によって多くの人が命を落としました。この「コレラ」が収束したことを祝って、毎年作り替えられる「風流山車」が作られるようになったと考えられています。

祭りが動かす、季節の歯車

2023年2月17日。八戸の「季節の歯車」がようやく動き出しました。「八戸えんぶり」は2020年の開催を最後に中止。八戸三社大祭は2020年から、山車・神輿・郷土芸能が練り歩く行列が見送られてきました。

午前7時、奉納のために長者山新羅神社に集った大勢の「えんぶり組」の面々は、緊張の面持ちで神様にご挨拶。

「3年ぶりの朝」を迎えた空は、冬の八戸とは思えないほど青く晴れ渡り、中心街の目抜通りで行われた「一斉摺り」では、あらゆる世代の人々が沿道を埋め尽くしました。

中心街に集った人々は、烏帽子をかぶった「太夫」の舞に姿に見入り、恵比寿様や大黒様に扮した子たちの舞に歓声を送り、目覚まし時計のように鳴り響くえんぶり囃子に手拍子を打って、八戸が誇る祭りの「再開」を祝いました。

主催する八戸地方えんぶり保存振興会会長の塚原隆市さんは、祭り初日の2月17日「今日は天が味方をしてくれた」「関係者がこんなに笑顔を見せるのは初めて」と感慨深げに話しました。

明治の風情を再現した、青森県・オマツリジャパン企画の「空間演出企画」

明治時代に建てられた歴史的建造物「更上閣」では、恒例の有料公演「お庭えんぶり」も例年通り開催。雪の積もる日本庭園で繰り広げられるえんぶりを、屋内から眺める贅沢な企画。

撮影:オマツリジャパン

2月18日は青森県とオマツリジャパンが企画した特別公演も。青森県でオマツリジャパンによる空間演出企画が行われたのは、2022年の青森ねぶた祭に続いて二例目。

撮影:オマツリジャパン

明治時代の衣装に身を包んだスタッフが「ようこそ」を意味する南部弁「おんでやんせ」の挨拶で客をお出迎え。司会の柾谷伸夫さんは、青森・岩手の方言「南部弁」や八戸の昔話「南部昔コ」の伝承活動を手掛けています。お庭えんぶりの顔とも言える柾谷さんは18日の空間演出企画で八戸の街に電気が通った明治40年代の情景などを、当時にタイムスリップしたような語り口で紹介。情感たっぷりな空間が広がりました。

撮影:オマツリジャパン

各地でゲリラえんぶり「門付け」

祭り期間中は祭りの公式行事のほかに、個人宅・商店・飲食店などをめぐる「門付け」が至る所で行われます。港町・八戸の情緒が感じられる観光名所「八戸市営魚菜小売市場」には、朝からいくつかのえんぶり組が駆けつけ、鮮魚店を巡って舞を披露。

「いさばのかっちゃ」と呼ばれる店子のお母さん方も「いが、ちょっと太ったんでねぇが?(あなた、ちょっと太ったんじゃない?)」「いやいやいや、こったらちゃっこいのさじょんずにおどってぇ(あらまぁ、こんなに小さいのに上手に踊って偉いわね)」などと目を細め、この瞬間を待ち侘びた市民・観光客も大盛り上がり。いつもの八戸の活気が戻りました。

えんぶりの成功が八戸三社大祭へと繋げるもの

今年の八戸えんぶりの入り込み数は、前回2020年の25万人を上回る29万6000人。アフターコロナの八戸は、幸先の良いスタートを切りました。

青森県の中で「ねぶた」「ねぷた」の文化を有しない八戸の1年は、一般的な「青森県」のイメージからは想像し得ない特別な表情を見せてくれます。

八戸では「えんぶりが終わると春が来る」と言い、「三社大祭が終わると夏が終わる」と言います。この2つの祭りはその成り立ちこそ違えど、凶作や感染症など「逆境」の中で育まれた歴史を持ち、今では八戸の季節の巡りをつなぎ合わせる欠かせないものになっています。

さあ、えんぶりの次は、三社大祭。7月31日~8月4日、いよいよ八戸に「八戸三社大祭」の行列が、馴染みの囃子を鳴らして帰ってきます。八戸えんぶりで放たれた願いはきっと、八戸三社大祭で実を結び、「本来の八戸の姿」を見せてくれることでしょう。

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