2023年8月5日、福岡市早良区の紅葉八幡宮で「獅子まつり」が開催されます!
福岡市の無形民俗文化財でもあるこの行事。合わせて子ども神輿の巡行も行われます。獅子と子ども神輿、同時に行うその理由とは・・・。この記事では、獅子舞ジャーナリストの稲村行真さんの2022年の現地レポートとともに2023年の開催情報をお届けします。
目次
舞わない獅子舞「祓い獅子」とは?
福岡県福岡市には「舞わない獅子」がいるという。家を一軒一軒回る「門祓(かどばら)い」をするものの、獅子は手に抱えて持っているのみ。この獅子のことを地元の人々は「祓(はら)い獅子」と呼んでいる。全国的にも珍しい形態の獅子ではあるが、実際どのような獅子なのだろう?
無形文化財に登録されたということもあり、その魅力を含めて知りたいと思った。今回は福岡市の紅葉八幡宮で行われた「獅子まつり」を訪れて判明した祓い獅子の魅力に迫りたい。
祓い獅子とは何か?
祓い獅子の始まりは約300年前に遡るが、どこから伝わったかは定かでない。この獅子には家内安全や商売繁盛の意味が込められている。獅子頭を持ち家々の玄関や台所をお祓いする「門祓い」、町内の家々に飾られる「獅子のお泊まり」なども行われ、地域の人々にとって身近な存在だ。
平成30年度には祓い獅子行事が福岡市の無形民俗文化財に指定された。福岡市では今まで祇園山笠行事や神幸行事のような大規模な伝統行事ばかりが注目されてきたが、暮らしや地域に密接に関わる行事として「祓い獅子」の価値が見直されつつある。
獅子が門祓いをする紅葉八幡宮の「獅子まつり」
福岡市役所に「祓い獅子のお祭りは近々ありますか?」と尋ねて紹介してもらったのが、紅葉八幡宮の獅子まつり。2022年8月6日に現地に伺ってきた。紅葉八幡宮は福岡市早良区にあり、地下鉄の藤崎駅から徒歩10分ほどの場所にある。
鳥居の前には両脇に狛犬ではなく、赤と緑の獅子が飾られていたのが印象的だった。赤色の獅子は口を開け、緑色の獅子は口を閉じている。やはりこの場所には獅子の信仰が根付いていることを実感した。
赤くて立派な拝殿があった。この拝殿の中に獅子まつりの担い手たちは集まり、祝詞(のりと)の奏上や玉串奉奠(たまぐしほうてん)を行う。その後、獅子は4班に分かれて周辺の商店街の門祓いを開始する。
例年であれば、子ども神輿が出て、商店街の人々が子ども達に水をかけるのが恒例のようだが、今年は新型コロナウイルス流行の関係で、祓い獅子のみの実施となった。
今回はそのうち一つの班に同行させていただくことになった。班の人数は10名程度で、20代から60代以降まで多世代の人々で構成されている。役割としては祝儀を受け取る人1名、御幣を渡す人1名、大麻(おおぬさ)を振り祝詞を唱える神職1名、獅子を持つ若者2名、提灯を持つ人多数だった。
「いつもは子ども神輿に参加するのですが、今回は中止になってしまったので獅子の方に参加することにしました」という人もいた。青年団など特定の枠組みの中から担い手が出されるわけではなく、広く募集しているようだ。
こちらが持ち歩く大きな獅子頭だ。赤色の獅子頭が阿形で、緑色の獅子頭が吽形を表す。2頭が揃って門祓いをしていくことで厄払いが完成するのだ。それにしても凹凸感のメリハリがあって、なかなかに迫力のある獅子頭だ。
前に抱えるように持つこともあるが、このように頭の上に乗せたり後ろの首の部分で支えて歩くことで、楽に持ち運ぶことができるらしい。獅子頭の持ち手は下部に取り付けられている。
門祓いは商店を中心に合計10数軒回った。その目印となったのが、この「門祓い札」だ。阿吽の獅子頭が描かれている。班のメンバーはどこを回るのか事前の告知の段階でもう知っているが、この札を掲げておくというやり方はわかりやすい。
門祓いはまず、神職の方が大麻を振りながら何かを唱える。唱え終わると「ええい!」と低くておどろおどろしい声で叫び、その後に全員で「家内安全商売繁盛」と唱えて終える。
獅子頭は基本的に持っているだけで、何か所作があるわけではない。突然の訪問に泣いてしまう子どももいたが、玄関越しに和気あいあいと交流していた。
マンションの高いところまで上っていくことはなかったが、2階部分にあるお店に訪問することはあった。
舞う獅子だと、なかなか狭い空間では舞うことができないので門祓いが難しい場合もある。一方で、この祓い獅子の場合はスリムであまり場所も取らないので、訪問の手軽さは増すような気もした。
また、留守のお店の前でも門祓いをしていたのは印象的だった。営業時間外やどうしても事情がある場合など、まつり当日に顔を出さなくても、頼んでおけば門祓いをしてもらえるようだ。
門祓いでは、訪問先の方がご祝儀を渡し、そのお礼として祓い獅子の担い手が家内安全や商売繁盛の御幣を渡すということが行われていた。
門祓いの後は、紅葉八幡宮の拝殿に戻り最後の挨拶が行われ、その後に飲み会となった。14時に始まり16時に終わる、約2時間のお祭りだった。
継承の難しさ、集まってくる獅子頭
ところで、福岡市早良区の紅葉八幡宮一帯は、若者の人口が増えている。お祭りを継続するのに担い手は十分だろうと思いながらも一応尋ねてみると、実は若者が増えていても担い手不足の問題はあるらしい。
一軒家の相続税が払えず土地を売る人が増えたため、地価が上がってマンションが建ち、地元の人と繋がらないような住民が増えたのだ。今回の祓い獅子において、私が同行した班ではマンションの一階に門祓いに行ったことが一度あったが、個人商店が圧倒的に多かった。
小学校は1年から6年までずっといる子どもは3分の1くらいで、転入転出を繰り返している。そういう意味では、人は多いけれど祭りを続けていくことは難しいのが現状のようだ。
現在、紅葉八幡宮には獅子頭が18体もあり、これは周辺の各町内で祓い獅子が継承できなくなったものが集まってくるからとのこと。昔は周辺6地区で継承されていたが、現在は3地区(祖原、中西、紅葉高取)にまで減っている。様々な地域の願いが、紅葉八幡宮に託されてきたのだ。
継承の工夫、カギは「子ども神輿」
そのような中で、紅葉八幡宮では祭りの継承のために、工夫している点があるという。平山禰宜によれば、
子ども神輿と祓い獅子を同時に開催しています。子どもがお神輿をしていれば、親が祓い獅子に関わってくれるからです。現在、子ども神輿に関わる人が200人もいるので、必然的に祓い獅子も継承されます。繋いでいくためには相乗効果が必要ですね。
とのこと。また、この相乗効果を祭りの静と動に結びつけて、こんなこともおっしゃっていた。
お祭りには静と動があって、動の部分は水を掛け合う子ども神輿の部分です。町と一緒になって行います。これが楽しければ「また来年も」という声があがるのです。一方で静の部分は神事としての部分を繋いでいくということです。
なるほど、祭りの中でもきちんと楽しい部分を作ることで、自然と継承されていくというわけだ。今回子ども神輿は中止になってしまったが、来年以降に実施されていくことを期待したい。
祓い獅子の魅力と価値、未来への継承
今回、祓い獅子に付いて歩き、お話を伺ったことで、この祭りに対する理解がぐっと深まった。舞わない獅子はそれ自体が何か大きな見せ場になるというわけではない。しかしそこには家内安全や商売繁盛などのささやかな願いが込められており、それらを共に願うことで、地域住民同士が交流していた。
祓い獅子の実施は地域におけるコミュニティの維持や信頼感に繋がり、それに寄与していることが価値であり魅力であると感じた。また、この祓い獅子は子ども神輿とともに実施されることで、未来への継承を実現している。
祓い獅子行事は福岡市にて30件ほど継承されており、主に夏の時期に行われる。興味を持った方はぜひ現地でご覧いただきたい。
2023年開催情報!
【日時】
2023年8月5日(土)
【日程】
子ども神輿巡行 14:00〜
8月1日〜13日まで、限定御朱印も配布されます。(9:00~17:00)
※8月5日の獅子舞催行時は神職が不在のため、書き置きの対応となります。