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長い伝統を繋ぎながら、若者の活気が溢れる!奇祭「火伏せ祭り」2023年レポート

2023/3/30
2023/3/30
長い伝統を繋ぎながら、若者の活気が溢れる!奇祭「火伏せ祭り」2023年レポート

地域の家々に水をかけて回る「火伏せ祭り」。福島県南相馬市で1,200年以上続く、無火災と無病息災を願うお祭りです。若者たちの力強さや助け合いがとても印象的で、橋や大通りで勢いよく水を浴びせる大迫力の光景が見られます。

2023年1月14日の夕方から、福島県南相馬市の鹿島御子神社とその周辺地域で開催された、この火伏せ祭り。翌15日には早朝から「天燈籠(てんとうろう)祭」と呼ばれる神事が行われ、大蛇神楽の獅子舞が奉納されました。

冬の寒い時期に、100名の若者たちが民家に水をかけながら練り歩くことで、地域一体で盛り上がります。2日間祭りを追いかけ、感じた魅力に迫ってみましょう。

火伏せ祭りに参加、圧巻の水撒き!

火伏せ祭り当日、1月14日の16時半ごろ、地域の方が運営する「すずき食堂」を訪れると、担い手たちが祭りの準備をしていました。地域の飲食店の方々が、祭りの準備のための場所を提供されているようです。

火伏せ祭りの拠点となる鹿島御子神社の境内ではライトアップが行われ、幻想的な雰囲気の中、担い手たちが少しずつ境内に集まり始めています。

境内では甘酒などの美味しいお酒が振る舞われていました。

近所の人々同士が集まって構成される「隣組」の代表の方が、榊の葉と塩と御神酒を受け取りに来ました。榊の葉は家々に飾られるもので、お祓いのためだそうです。

どんど焼きの火が焚かれており、ここで、さまざまなものがお炊き上げされます。この火が参加者たちの体をしっかりと温めます。

17時半になると、神社の社殿で神事が始まりました。担い手たちはその様子を見守ります。ほとんどの鉢巻は白色ですが、赤色のものもあり、これを身につけるのは厄年の担い手です。
赤色の意味は魔除けとのこと。

神事が終わると、人々は行列を組み、町を歩き始めました。神職を先頭にして、水をかけて回る担い手やお囃子がそれに続きます。途中で止まって何か祝詞を唱えているようです。

祝詞を唱え終わると、60人ほどの担い手たちが一斉に柄杓に汲んだ水を、空の方めがけて浴びせかけました。非常に迫力のある瞬間でした!

担い手たちはお互いの水がかかり、ビショビショです。

一斉に水を放った後は、各自のペースで、順々にバケツが置かれた家や施設、お店などを巡り、水をかけて回ります。

大勢で一斉に家に水をかけると、とても盛り上がります。

近年はシャッターを閉める家やお店が増えたようですが、思いっきり水をかける姿が印象的でした。

写真を撮影していると、それに応じてくれる担い手の方々もいました。

ずっと水をかけて回っていると寒くなるので、各所で火が焚かれており、そこで束の間の休憩をします。冷えた体を温めながら、担い手同士の会話も弾みます。

休憩中、時には具がたくさん入った温かい豚汁が振る舞われることもあります。皆、こぞって美味しそうに食べておられました。

再び神職の方々を先頭にした行列は、橋の中央部分で止まりました。神職の方が何やら祝詞を唱えています。

神職者が祝詞を唱え終わると、担い手たちは一斉に柄杓に汲んだ水を空の方めがけて放ちました!後ろからたまたま来ていた車のライトに照らされ、さながら花火のようです。

それから「すずき食堂」に戻り、柄杓を置いて一同は店の中へ。ここからは「直会(なおらい)」です。神事の参加者が、飲んだり食べたりと、楽しい夜が始まります。

燃えないものを唱える!?祝詞の意味

火伏せ祭りが終わった後、鹿島御子神社にて神職の方々に、各所で唱えておられた祝詞の意味について伺ってみました。

夜の鹿島御子神社の様子

――祝詞の意味を教えていただけますか?

「これは燃えないものを全部唱えるということです。霜柱、氷の縁、雪の桁、雨の垂木、梅雨の吹き草、全部燃えないものです(以下、歌詞を引用)」

霜柱 氷の縁に雪の桁 雨の垂木に梅雨の吹き草

――燃えないものを唱えることで、どのような意味がありますか?

「もう火事が起こらないようにするということです。言霊の世界ですよね。言葉には魔力があるんです」

――祝詞はもう少し長かった印象があったのですが。

「これを3回唱えるんですよ。3回唱えるとね、みんなの呼吸が少しずつ合ってくるんです。神様もしっかりと聞いてくださっているんじゃないかと思ってますよ」

――風邪はひかないのですか?

「昔は、皆ビショビショだったんです。しかも今よりも寒かったから、衣の袖が凍るんですよ。若い時はよく凍ってましたよ、バリバリって。凍れば凍るほど豊作だって言ってたんです。我々はいくら水をかけられても寒くありません。多分かける方が寒いでしょう。かけられる側は気を張っているから、水を被っても暖かい蒸気が出てくるんですよ。気持ちの問題で寒いと思わなければ良いのです。水をかけられた後に顔を拭いて上がると、本当に気持ちが良いですよ」

天燈籠に珍しい獅子舞の登場

火伏せ祭りの興奮から一夜明け、翌日は朝5時半ごろから、鹿島御子神社にて天燈籠祭という神事が行われました。神社での神事ののち、200mほど離れた旧社地まで行って「大蛇(おろち)神楽」を奉納し帰って来ます。帰りの道中で、神職の方々が水をかけられるという場面も見所です。

鹿島御子神社の拝殿前で披露される大蛇神楽は、色鮮やかな胴体の獅子舞が神職の持つ榊の葉を順々に咥えていくような所作や、左右に蛇行する動きが見られました。

大蛇神楽が終わると、一行はまだ暗い中、神社を出て通りを旧社地に向け、明かりを頼りに慎重に歩みを進めていきます。

旧社地は住宅街の一角にあり、鳥居などは特になく石造りの跡地が残されるのみでした。1,200年前、ここに存在した社殿は放火されてしまったのですが、鹿が水を含んだ笹を持って現れ、火を鎮めたという逸話が残されています。それ以来、現在の地に社が移ったそうです。

この旧社地でも大蛇神楽が披露されました。1番から3番まで歌があり、1番が伊勢の神々、2番が鹿島の神々、3番が出雲の神々について歌われているようです。その歌に合わせて5分ほどの舞が行われました。時間は短いですが、声色や音程、歌詞の奥深さなどが感じられ、歴史ある舞であることを改めて実感しました。

旧社地から鹿島御子神社に帰る道中、神職は氏子が「ご祝儀ー!」と言って浴びせる水を被りながら歩きます。昔は、神社に着く頃には、衣の袖の部分が凍ってしまうこともあったようですね。
本当に寒い中、お疲れ様でした。

大蛇神楽の特徴についてインタビュー

天燈籠の終了後、大蛇神楽を披露してくださった鹿島敬神会の斉藤彰宏(あきひろ)さん(写真右端)に、舞の所作などに関してお話を伺うことができました。

――大蛇神楽を拝見していて、とても珍しい舞だと感じました。目(眉の部分)が開閉できるようになっているのですね。

斉藤さん「中で開いたり閉じたりという操作ができるような造りになっているんです。獅子頭は2種類あり、角が1本なのでこちらはメスですね。角が2本ある場合はオスで、他の地域に伝わっています」

――舞い方にはどのような意識がありますか?

斉藤さん「大蛇神楽といって、蛇のような動きを表現しています。本当は両脇に太刀持ちの人がいて、大蛇に振りかかって終わるという流れなのですが、今は神楽をするだけとなっています。もう15年くらいは神楽だけですね」

――八雲という歌詞などを始め、出雲のことを連想させますね

斉藤さん「ここの神社の神楽なので、1,000年以上の歴史があり、かなり古いです。似たような神楽は他にあるのですが、神社ごとに違いますね。浪江には似ている神楽があり、こちらの地域と似ている感じがします」

【あとがき】

鹿島御子神社の宮司さんのお話によると「この辺は昔僻地だったので、中央の力が及ばなくて、昔のご祈祷がそのまま残っているのです。元々獅子舞は伊勢の御師が伝えた神楽だと言われています」とのこと。若者たちの活気はもちろん、火伏せや悪魔払いの祈りとともに伝統を長い間継承して、ここまで繋いで来られている方々の想いには心打たれるものがありました。

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