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日吉・日枝・山王神社の総本宮「日吉大社」
比叡山の麓に鎮座する日吉大社は、全国3800ほどある日吉・日枝・山王神社の総本宮。境内には山王権現関係の神社に用いられる三角形の破風(屋根)が乗った山王鳥居があります。
見どころ盛りだくさん!湖国三大祭「山王祭」
湖国三大祭とは、①子ども歌舞伎の「長浜曳山祭」、②からくり人形の「大津祭」、そしてこの③「日吉山王祭」です。
山王祭は大津市無形民俗文化財に登録されている勇壮なお祭りです。3月から4月中旬まで祭事があり、中でも4月12日の2基の御神輿が八王子山から東本宮へ鎮まる「午(うま)の神事」、4月13日の甲冑をつけた稚児たちの時代行列「花渡り式」と、4基の御神輿を激しく揺すり、西本宮へと担ぐ「宵宮(よみや)落し神事」、4月14日の7基の御神輿が琵琶湖を渡る「船渡御」が見どころです。
今回は地元に住む友人と一緒に見た「山王祭」をレポートいたします。
佐々木「山王祭ってどんなお祭り?」
地元民の友人「ん〜、京都の『鞍馬の火祭り』と大阪の『だんじり』がミックスしたような感じのお祭りかな!子供たちはみんな屋台を楽しみにしていますね。」
お祭りの行われる日吉大社まではJR比叡山坂本駅か京阪坂本比叡山口駅から徒歩圏内。いつもと違い参道に100軒ほどの屋台が並び、参拝者もたくさんいて、お祭りの雰囲気にワクワクします。
一生に一度しか体験できない祭りの〝鼻〟「午の神事」
4月12日の見どころは「午(うま)の神事」。午後5時になると4つの駕輿丁の町練りがはじまります。町練りの主役は祭りの花であり「鼻」と呼ばれる御神輿の先頭を勤める若者です。一生に一度しかできない大役で、とても名誉のある役。特に2023年はコロナ後のはじめてのお祭りになります。町練りで見かける人々は皆、気合いがみなぎっているのを感じます。
18:30になると最澄の生誕地ともいわれる生源寺で延暦寺の僧侶による安全祈願法要と読み上げ式が始まります。
読み上げ式は駕輿丁(かよちょう)という担ぎ手たちの確認をする式。一人ずつ点呼をしていくと「よっしゃー!」と大きな声で返事をします。
全員の読み上げが終わると駕輿丁たちは2キロメートル先にある八王子山頂を目指して駆け出します。
なかでも松明を持って石段を上がる勇ましい姿が印象的です。
山頂に到着すると20:30頃に駕輿丁たちは御神輿を担いで奥宮を出発。21:00になると御神輿が麓に到着し、午の神事が最高潮に盛り上がります。
今回は麓で待機し、御神輿がやってくるのを待ちました。まずは遠くから提灯の灯りが見え、「戻ってきた!」と興奮。だんだんと甲冑を着た人たちの姿が見えはじめ、七曲りと呼ばれる険しく急激な曲がり道を「よいこら」「よいこら」と掛け声をかけながら御神輿が下っていきます。
2人の鼻役のかけ声とともに牛尾宮「牛尾神輿」が先に運び出されてきました。この日は昼間に雨が振り、暗い中で足場も悪い状態です。さらに久々の神事ということもあるのか、御神輿が傾きはじめました。ひやっとした、その瞬間、「がんばれー!」とあちこちから声援あがります。何度も何度も竹の棒で立て直し、最後には見事に担ぎ直されて御神輿は無事に麓に降り、大歓声と拍手が起こりました。良かった!!熱気が渦巻く中、「三宮神輿」が続いて降りてきます。
東本宮に到着した2基の御神輿は後ろと後ろを繋ぐ「尻繋ぎの神事」という儀式が行われます。
この神事は大山咋神(おおやまくいのかみ)と鴨玉依姫神(かもたまよりひめのかみ)の婚儀を模しています。
雪洞(ぼんぼり)とかがり火の灯りだけの真っ暗闇の中に雅楽の音が響き、粛々と神事が行われました。
甲冑をつけた稚児たちの時代行列「花渡り式」
4月13日13:00から行われるのは「花渡り式」。山王祭の中で一番、華やかな神事です。甲冑を着た5歳位の子供たちがこの日の夜に出産を迎える神様にお祝いのお花を供えるという儀式です。
行列が始まる前はなごやかなムードがただよっており、お稚児さんたちに声をかけると写真撮影をさせてもらえます。
出発の時間になると神職によるお祓いがされ、行列がスタート。12本の傘のように広がったお花の飾りを引きながら、小さな甲冑を着たお稚児さんが練り歩きます。
右に左にとダンスのようなステップを踏み、ゆっくりと行列が進んでいきます。10本ほどの花の行列が進み、最後は大きな甲冑を着た人が締めくくります。
花渡り式が済んだお稚児さんはお父さんと一緒にお祓いを受けていました。
4基の御神輿を激しく揺すり、神が誕生する「宵宮落し神事」
4月13日の夕刻。日が落ちるころになると参道に松明を持った駕輿丁たちの姿が見え始めます。これから行われるのは前述した夫婦神、大山咋神と鴨玉依姫神による出産、御子神誕生の儀式。山王祭の神事の中で最も勇壮な神事です。
18:30に生源寺にて読み上げ式がはじまります。御神輿を担ぐ駕輿丁の確認です。
この日も前日と同じように松明を持った駕輿丁たちの町練りと読み上げ式があります。大きな松明をメチャクチャに振り回して火の粉をまき散らしながら歩いていく姿をぜひ見て欲しいです。歌を歌い、巨大な松明を振る姿と道路に落ちるマグマのような火の粉や熱気。昔の女性たちはこういった荒ぶる男性の姿を見て、恋に落ちたのかなと感じます。
19:00になると大政所にて神輿振りがはじまります。
これは前夜に婚儀を挙げた神様たちから子供が誕生する様子を再現しています。御神輿の前には駕輿丁たちが腕を組んで立ち並んでおり、御神輿を揺らす様子は屋根のあたりだけが少し揺れているように見えるだけ。すごいのはガシャンガシャンと大きな音が鳴り響くこと。あんなに重くて大切な御神輿をそんなに豪快に…!と響き渡る音を体で感じます。
この御神輿を揺らす「ガシャンガシャン」という大きな音は神様の陣痛を表すといわれています。
神輿振りが終わると足元には「かすがい」が打ち込まれます。これは建物の中央に据えられた御神輿を出発しやすい位置につけるためのストッパーです。どこが一番早く、そしてスムーズに定位置につけるか競われます。
ピリッとした空気が流れた、その瞬間ー。
4基の御神輿は一斉に1m以上ある高さから地面に向って落とされます。
走ってきた甲冑さんたちは、担ぐ黒棒に腰掛けると同時に振り上げられ、まるでウイリーをした状態になります。扇を振り、駕輿丁たちは拳を突き上げ身体中で喜びを表します。
次の神事は昔ながらの言葉で、担ぎ手の現場確認です。
小満役「飯室、横川、西塔、東塔、四社の駕輿丁そろーたかー」
受け手の小満役「なーかなーか、そろいにくーて、そろーてござる」とやりとりをします。
今度は獅子舞が登場。ボロボロの胴幕から歴史の長さと、永きにわたり大切にされていることを感じます。
続いてシャッ、シャッという音が鳴る田楽「綾織り」奉納で御神輿のお祓いがされます。
今度は甲冑を着た山王祭実行委員会の委員長が出て来て、低く響く声で祝詞が奏上されます。読み終わると同時に扇を揚げ、それを合図に一斉に御神輿が担ぎ出されます。
これが御子神の誕生を意味する宵宮落しです。
この御神輿が出発する瞬間は動画の14分くらいからご覧ください。
このやりとりのあと、一気に鼠宮まで御神輿の競争が始まります。
ゆうに1トンはある御神輿ですが、結構な速さで境内を駆け抜けていき、一気に西本宮へ到着します。
この日の朝、他の3基の御神輿はすでに西本宮拝殿に納められており、ここで初めて山王神輿7基が揃います。金色に輝く御神輿が並ぶ姿は壮観!「今しか見られないよ!写真を撮って行ってね!」と関係者の方が声かけされているのも納得できます。
7基の御神輿が琵琶湖を渡る「船渡御」
4月14日10時からは日吉大社最大の神事「例祭」が西本宮で行われます。
本殿の前で天台宗総本山比叡山延暦寺の天台座主による般若心経の読経という神仏習合の行事も行われます。
その厳粛な神事のあと、御神輿を担いで参道を下り、途中で車に乗せて琵琶湖の湖畔にある七本柳にやってきます。
神歌が奏上されると、駕輿丁たちの手で1基ずつ御神輿が船に運ばれます。
船では甲冑を着た人たちが金の扇を振って先導します。
次々に御神輿が船へと運ばれていきます。
中でも御神輿を船に運ぶ前にじっくり見て欲しいのは日吉大社の神猿(まさる)の装飾が入った樹下宮の御神輿です。重要文化財の御神輿は、境内の収蔵庫にあり、この山王祭の時期と11月中しか見ることができません。
7基の御神輿が全て船に乗り、いよいよ出発。甲冑さんたちも笑顔です。
七本柳から唐崎神社に向け、いざ出発。
警護の船がつき、琵琶湖を悠々と渡っていく御神輿。
日吉大社の摂社「唐崎神社」は近江八景のひとつ「唐崎の夜雨(からさきのやう)」で知られる景勝地。樹齢100年を超える巨大な霊松が境内にあります。石川県金沢市の兼六園にある有名な唐崎の松はここから分けられたものです。唐崎神社に船が向かう理由は天智天皇の御代、西本宮の神様が現れた縁起によります。
実際に唐崎神社に着岸はしないのですが、唐崎神社のあたりの湖上で粟津御供(あわづのごく)と呼ばれるお供え物が膳所の5つの神社によりお供えされます。唐崎神社の境内からはお供物が乗った船が寄ってきて、船同士が並んでいるのが見えました。
以上、山王祭のレポートでした。壮大な歴史絵巻、いかがでしたでしょうか。
私は偶然、大津駅前の天孫神社で「大榊神事」で渡御された「大榊」を見ることもできました。この神事は、山王祭に先立つ4月3日に行われるもので、御神輿と同様にこの大榊にも日吉の神が宿られて、西本宮から大津の天孫神社へ渡御します。4月14日のお昼に大榊が西本宮へ戻ってからでないと御神輿は出発できないという重要な依代です。
桜が満開の境内に奉納された大榊。とても美しかったです。今回レポートした以外にも、山王祭にはまだまだたくさんの神事・イベントがあります。来年は午の神事の際に八王子山に登ってみたいです。