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本物の打上花火の尺玉を作ってみた

更新日:2022/9/19 野村 景至
本物の打上花火の尺玉を作ってみた

打上花火に必要な準備

ゴールデンウイーク明けから6月初旬というのは各地の花火大会の詳細が発表される時期にあたる。特に今年はコロナ禍を乗り越えて開催にこぎつける花火大会がチラホラ現れたことで花火ファンは喜び、きたるその日に向けて決意を新たにしていることだろう。

では花火師はどうなのか。花火大会を開催するとなれば花火を打ち上げる前に準備することがたくさんあるはず。今回あらためて花火師の仕事を見学させていただく・・・つもりだったが、諸事情とサプライズによりマニア向けのレポートをお届けすることになった。それではご査収ください。

準備中ってそっちの意味?

という事でやってきたのはこれまでもお世話になっている愛知県蒲郡市の加藤煙火(株)。加藤煙火さんには2020年、2021年と市内分散一斉打ち上げ「オール蒲郡花火大会」でお世話になっている。今回は花火製造現場の取材である。

花火工場加藤煙火の工場の一部。右の台では花火を乾かす。左奥の建物は爆発の危険がある作業を行うため、コンクリートの防爆壁で囲まれている。

花火の製造というのは、大きくいって次のような工程からなる。
1.火薬を作る。薬品の配合でさまざまな性質や色になる。
2.夜空で光る部分(星といいます)や花火玉を炸裂させる部分(割薬といいます)を作る。
3.花火玉を組み立てる。星や割薬の詰め方に技術とデザインセンスが問われる。
4,花火玉の表面をガチガチにかためる。丈夫なクラフト紙を1層ずつ十分に乾かしながら何層も貼り重ねる。

という工程があるのだが、訪問日はたまたま偶然、工場のメンテナンス日でこれらの工程はほぼ停止。読者から「なんでやねん」のツッコミが聞こえてきそうだが本当だからしょうがない。そこで、かねてより温めていた花火玉の組み立て体験会の模様をお伝えしよう。

異世界転生したらラスボス前でした

伴さん本日の講師である伴さん。右は普段の仕事風景っぽく撮影。いわゆるヤラセである。

実は加藤煙火、2020年に「点滅2.0」という新作花火開発のクラウドファンディングを実施している。私も当時ひとクチ乗っていて、リターンの「花火玉をデザインする権利」を持っていたのだが専務の加藤さんから「どうせなら作ってみましょう」とお誘いを受けたのであった。「素人が火薬触っていいんですか?」と聞いたところ、地域の祭礼プロが手筒花火の指導をするスキームがあり、その枠内でとのこと。

で、作るのは「尺玉」と聞いて正直なところ引いた。尺玉とは真正の大玉で直径30センチある。大きさもさることながら各所のコンテストで花火師入魂の芸術的一発といえばこの尺玉、まさに花火界のラスボスなのである。

異世界(花火工場)に迷い込んだらラスボス前という状況で、頼りは私を指導してくれる伴さん。普段は加藤煙火で大玉製造を担当している。またデザインのサポートとして点滅2.0の開発を主導した横田さんが加わり、なんだかんだそれらしいパーティーが組めた。いざ出発!当たり前だが作業場も道具も材料も本物。引火爆発の危険があるため、作業室の入室前にはしっかり静電気を除去する。ではさっそく火薬に触れると思いきや・・・アレ?

導火線をつける(左)導火線を通すパイプについて説明を受ける。(右)棒にある目盛りの位置まで着火用の火薬を詰めて押さえる。

まず最初にやるのは点火用の導火線を花火玉の中心まで通すためにパイプを取り付ける作業であった。パイプも複数のパーツから構成されていて、これを半球状の玉皮(武器になりそうなくらい硬い)の穴をキリで広げて接着剤でまっすぐ取り付ける。

ね?簡単でしょう?いやいやいやウソです難しい。穴が小さくても大きくてもダメ、パイプが傾いてもダメ。パイプには導火線だけでなくより着火しやすくするための火薬をサラサラと入れてトントンと押し固める。が、素人がやると斜めに力が入ってパイプがぐらつく。写真はお手本の伴さんが「スッ」と真っ直ぐやってるところ。どうにか取り付けたら脇にどけておき、もうひとつの半球を取り出しいよいよ星を並べていく。

新開発の星を惜しげもなく使う

たくさんの星出番を待つ星。花火玉の大きさによって星の大きさも変わるので色とサイズで分類されている。

ここで少し話が脱線する。星の製造は火薬を内側から外側に向かって少しずつ塗り重ねては乾かしの繰り返しなので数週間とか数か月かかる。よってここでも料理番組方式によりすでに出来上がったものを使わせていただくわけだが、この星というのが大きさや種類がめちゃめちゃたくさんある。が、ここは迷わず2022年春モデルという出来たてホヤホヤの新製品をチョイス。点滅2.0の改良版でより美しく点滅するらしい。3つ4つテストで燃やすのを見せてもらった。

星の燃焼星には金属が含まれており、その配合によってさまざまな色が出る。これを炎色反応という。

着火してブハッシュバッと光ったと思ったらバッバッバッと色付きの小刻みな爆発があって終わり。ん?いやよく分からない。横田さんいわく「分かんないですよね、僕らも分かんないです」。なんだそうだったのか。知ったかぶりで余計な事を言わなくて正解だった。繰り返し見ても夜空にキラめく花火の映像につながらない。逆に言えばアレ(花火)から逆算してこれ(星)が作れることがすごい!

話を戻そう。花火玉作りはまだ玉皮をセットしただけである。

玉込め(左)おぼつかない手つきで星を並べていく。(右)ひと回り小さい玉皮を入れてバインバインと叩くと隙間が詰まる。

一生懸命星を敷き詰めていくがなかなかきれいに並ばない。上の方は角度がきついので崩れやすく悪戦苦闘。もう最後までずっと悪戦苦闘しているので以下記載を省略する。

視線が届かない手前側は特に雑になりがちで伴さんが「ここはもうひとつ入りますね」とチョイチョイ触ると本当に入る。とはいえ、曲面に小さな球を並べるからにはいくらか隙間やギャップが出る。ここには後の工程で星が動かないように綿を詰めていく。「あっここは星を並べ直したらきれいに埋まるかも」という邪心が芽生えるが、1か所動かすと連動してあちこちが動くので割り切りも大切である、と思う。

和紙折り星と割薬の仕切りにする和紙を、球面になるように加工。お手本はあっという間にピタリと球形に折りたたまれていく。

星が並んだところで次は花火玉を炸裂させる割薬を入れるのだが、その前に薄い和紙で仕切りを作る。まず小さい玉皮の外側に和紙を被せて、ギョーザの皮のように折り込んだら尺玉の中にカポッとはめて小さい半球だけを外す。話は簡単なのだが、きれいにやるのが難しい。中心の位置決めや、和紙がほどけないコツなどを聞きながらやっているのだが、時間ばかりかかって仕上がりのレベルが上がらないところもギョーザの皮包みに似ている。

割薬割薬の内側に別のものを配置する場合、中心がずれないように常に確認しながら作業をする。なお、この時点で直径が30cmより小さい理由は後で分かる。

本職の花火師が手掛けた玉の断面はとにかく美しいので各自ググってみよう。それに引き換え私のは「汚ねえ花火だ」と言われても致し方ない出来栄えでいたたまれない。

それから本来なら大玉の断面は星→割薬→星→割薬・・・と同心円状に並べる事が多い。これを打ち上げると花火の中に別の色の花火があるように見えてきれいなのだ。以前レポートした絶景花火でその実例があるので見て欲しい。だが私のレベルでは無謀が過ぎる。いや、やる前から多分無理だろうと思っていたがやってみて無理な事を再確認した。何より時間がかかりすぎる。ではどうするか。私には秘策があった。

「花火玉をデザインする権利」について私は質問をしていたのだ。「星と割薬を分けないやり方はあるんですか?」と。答えは「会社によって呼び名は違うがうちでは『混ぜ爆』と言っている。小さい玉で使うことがある。」であった。

秘策で時短そして完成

混ぜ爆(左)外側にある米粒のような形をしたものが割薬、少し大きくて丸いのが星。(右)よく考えたらもう半分も作らないといけない。

パンが無ければ、ケーキを食べればいいじゃない。(マリー・アントワネット名言集より)

これや。星の層を作るのに自信が無ければ、割薬と混ぜればいいじゃない。打ち上がったイメージとしては炸裂の中心部に余韻となる星をパラパラと散らしたい。という提案をしたところ、伴さんと横田さんでしばし検討。「尺玉で混ぜ爆はやったことがないが、やってみましょう」となった。

混ぜるべき割薬と星の選択と配分、実際に混ぜる作業は伴さんと横田さんにおまかせして一息つく。散らす星は真ん中寄りにしたかった(というかそうしないとそれっぽく見えないらしい)ので、まず割薬だけを投入するときに凹みを作る。割薬はフワフワしてすぐに崩れてくるので、小さい玉皮に加えて「こんぼう」のようなアイテム、さらに「おなべのふた」、あと素手による物理打撃で割薬を押し固める。そこに星と割薬の混ざったものを投入。手早く静かにやらないと周囲の壁がどんどん崩れてくる。

あと入れてて思ったのだが、この混ぜ爆、星多くない?

ようやく火薬を詰め終わり、やりきった感を出していたら伴さんが「次は逆側の半分ですね。こっちはパイプが付いているので入れにくいですが頑張りましょう」と言うのである。あっそういえばそんなの作ったこともありましたね懐かしい。と同時にこれ時間ヤバいじゃん頑張ろうと気を引き締める。

真ん中に邪魔なパイプがあるとはいえ2回目だけに多少は要領がよくなっていて喜ばしい。しかし裏を返せばペアになる半球で品質がバラバラということだ。当初は、異世界転生したチート主人公ばりに美麗花火を作り上げるつもりだったが、現実は非情である。

ぱっくり2つの半球を合わせて作る技法を「ぱっくり」という。

ここまで出来上がったら、片手ずつ持ってぱっくりと合体させる。いかにも失敗しそう。そもそも重い、思ったより重い。感覚的にはスイカと同じぐらい。おお天よ!2つに切った大玉スイカを元に戻したまえ!グシャーバラバラ南無三!と星が散らばるイメージしかなかったのだが、まさかのビギナーズラックにより見事合体。1つになった花火玉にはまだ隙間があるので押さえつけたり叩いたりしてぴったりと合わせてテープで仮止め。ここまで来て初めて余裕の笑みである。

結局、手伝ってもらいながらここまで3時間ぐらいかかった。普通は尺玉ならデザインにもよるが1日で6~8個くらい「生産」するらしい。いままで美しさの事ばかり考えていたが工場ではスピードも要求されるのだ。

まだ完成じゃなかったわ

玉貼り右が今回作った尺玉に、1層目のクラフト紙を貼ったところ。飛び出しているパイプが半分以上埋もれるくらいの層を重ねる。

出来上がった玉を持ち上げた伴さんいわく「重い!」ハイここで花火玉トリビア。花火玉はデザインによって入れる火薬が違うが、星は重く割薬は軽い。そのため星が多く入っている花火ほど重くなる。やはり、あの混ぜ爆は星が多かったらしい。打ち上げたらどんな姿になるのだろう。細かいことを言うと星の中にも重い星と軽い星があるんだとか。

今度は別の場所で7~8センチ幅のクラフト紙を大量に糊付けする。これは飾りではなく、割薬によって花火玉が炸裂するときに圧力を限界まで上昇させ、かつ均等に星を飛ばすための大切な工程。ここでしくじると、丸い花火にならない。伴さんに角度・長さを逐一指導されつつ、均質になるように紙を引っ張ったりちぎったりして所定の位置に貼っていく。これまた数十分をかけて1層目の「玉皮貼り」をどうにか終了。マジックで「1」と記入。しっかり乾かしたら2、3…と10以上続けて玉皮だけで厚みが1~2センチになるという。つくづく根気と集中力が必要な花火作りであった。

この尺玉は、2022年7月31日(日曜日)の蒲郡まつり納涼花火大会のどこかで打ち上がる予定だ。みんな見てね!

2022/7/31(日)、蒲郡まつり納涼花火大会においてこの記事で紹介した尺玉が打ち上げられました!結果は…↓こちらの記事に!

最後に、お仕事中にもかかわらず時間をかけて安全に作業をさせていただき、また未完成品の残りの作業をやっていただく伴さんと加藤煙火の皆様には大感謝、厚く御礼申し上げます。

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この記事を書いた人
オマツリジャパン オフィシャルライター
美しい花火、楽しい花火大会が大好きです。親しみやすく、面白くてよくわかるレポートを心掛けています。

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