◆武者修行中の岩見重太郎による狒々(ひひ)退治伝説
毎年2月20日に行われる大阪府指定文化財指定「一夜官女祭」は武者修行中の岩見重太郎による狒々(ひひ)退治伝説によるお祭りです。
司馬遼太郎の短編小説『一夜官女』のモチーフにもなっています。
写真:行列が当矢に向かう
永徳二年(1382年)、足利三代将軍義満創建の野里住吉神社(のざとすみよしじんしゃ)。
中津川(明治末期に新淀川が開削され、現在は廃川)の風水害と悪疫により「泣き村」と呼ばれていた野里には悪神である狒々(ひひ)を退治する伝説が残っています。
この里には旧暦1月20日の丑三ツ時に唐櫃に乙女を入れて人身御供をする習慣がありました。
占いにより白羽の矢が打ち込まれた家の娘の中から、七人の一夜官女(かんじょ)が選ばれます。
現在は野里・姫里・歌島という近隣の3つの地区の宮座(地域の鎮守、氏子代表)によりご奉仕されており、官女に選ばれるのは誉れとされています。
◆人身御供の七人の官女「別れの盃」
写真:地域の小学生も当矢で待ち構えており、行事を見守る
「当矢(當矢/とうや)」は現在、姫里会館老人憩の家や歌島コミュニティ会館など区の施設で行われており、年度により場所が変わります。
行列は官女を迎えに、この当矢へ向かいます。
当矢の式がはじまり、まずはお祓い。
官女の証を渡し、落とさないように胸元などに入れるよう説明しています。
「別れの盃」。
官女と両親のお別れの儀式に切なくなります。
次に肴のゴボウの煮物が配られます。
突然の取材に訪れた私にもゴボウが配られます。甘くやわらかなゴボウを食べていると、まとめ役の方も含め、どの方も優しいことに、悲しい歴史もきちんと理解して残そうという土地の姿を感じました。
ここで官女たちに玉串配布。当矢から神社に持っていきます。
◆7つの神饌が入れられた桶
桶の中身は神饌(しんせん)。
中津川でとれたコイ、フナ、ナマズ、村で作ったお餅や酒、小豆、干し柿、白味噌で味をつけた豆腐、大根、菜種菜。
調理中は女人禁制だというコイやフナは「生きたまま」血も洗わずに料理され、桶に入れます。
桶の回りには「御花(オハナ)」という紅白の御幣、中央に「龍の首」が飾られます。
◆行列と乙女塚
侍役の父親は裃(かみしも)に脇差を帯刀し、母親は着物で参列します。
桶を持った随行員、唐櫃、神職が続きます。
◆厄除招福祈願神事
かつて境内の奥には龍の池があり、乙女たちが捧げられていました。
はるか昔、悪神は暴れ川の中津川を大蛇や龍にたとえられ、神社の奥に生贄を捧げていた龍の池の跡には現在「乙女塚」があります。
2020年は318回目の一夜官女祭。
写真:唐櫃の中身は幣帛(布)
現在は乙女塚ではなく、本殿の中で社頭の儀(しゃとうのぎ)が行われます。
神殿の前に七人の乙女たちが並び、蹲踞の姿勢で祈りが捧げられる。(※神殿は撮影禁止)
巫女舞奉納。
玉串奉典では官女に代わって神職が玉串を集め、まとめて奉納。
桶にささっている紅白の「龍の首」は厄除招福祈願を願って七人の官女に渡されます。
このあと、行列の参加者は直会(なおらい)で豊穣祈願のゴンタクロウ汁をいただきます。
英雄を称えるお祭りではなく、村の悲しい伝説を内包した静かなお祭り。
大阪に生きる民俗学、日本昔話の世界が残ってました。
一夜官女祭 ICHIYA KANJYO FESTIVAL
毎年2月20日14:00~16:30
15:30ごろに神社に戻り、神事がはじまり、終わるのは16:30頃です。
野里住吉神社(のざとすみよしじんしゃ)
大阪府大阪市西淀川区野里1-15-12
06-6471-0277
JR塚本駅徒歩10分、またはJR御幣島駅より徒歩15分
年中行事:7月31日 宵宮(だんじりの宮出と練り廻し、子供たちの太鼓や踊り)、8月1日例祭(夏祭/だんじりの宮入)