Now Loading...

インドネシアの獅子舞、日本と何が違う?バロン、レオグ、バロンサイ、他の奇祭も現地レポート!

2023/11/21
2023/11/21
インドネシアの獅子舞、日本と何が違う?バロン、レオグ、バロンサイ、他の奇祭も現地レポート!

獅子舞は日本でよく知られた芸能だ。海外で獅子舞といえば中国?と思いきや、アジア各地にそれに類似するような芸能は分布している。今回取り上げるのはインドネシアの獅子舞たちだ。バロンダンス、レオグ、バロンサイ…これらはよくよく考えてみると、日本の獅子舞にも似たところがたくさんある。

2023年10月にインドネシアを訪れて獅子舞に近い芸能を拝見した。獅子舞研究者・稲村の視点でこれらに解説を加えながらご紹介したい。

善悪の争いに終わりなし「バロンダンス」

バリ島各所で見られるバロンダンス(baron dance)。2人立ちで聖なる存在としての生き物であるという意味では、獅子舞とも非常に似ている。ただし、バロンのロンは龍を意味するため、龍舞とも考えられている。

この芸能の根底にあるのは、善悪はこの世に永遠に存在するという考え方。善のバロンと悪のランダという役柄同士の戦いは永遠に終わりがない。このコンセプトは日本でいう芸能の太陽と月であり、人間と鬼であり、獅子舞と獅子殺しであり、さまざまな日本の芸能との共通点を感じさせる。

実際に拝見してみると、お囃子のガムランの音色は、賑やかさ、音の高さ、楽器の多さなどから、日本の香川県の獅子舞を連想させる側面もあった。また衣装や道具類の装飾の派手さは特筆すべきであり、日本の獅子舞に比べると金色や光るものが多用されていた。

デンパサールやウブドなどの寺院で毎朝9時半ごろから実施しており、季節を問わずに見ることができるのが魅力。観光化も進んでいるため、チケットが販売されており、その多くは1,500円くらいの価格である。

虎と孔雀の華麗な「レオグ」

お次は虎の頭の面を使って行われる民俗芸能だ。名前はレオグ(Reog)という。日本には虎舞があるが、それともまた異なる文脈で始まった。レオグの始まりのストーリーは、ポノロゴ出身の王女と結婚したかった虎が決闘を申し込み、虎が負けて、その首が孔雀によって森に持ち去られてしまった。しかし王女はその様子が美しかったので、それを芸能にしたと言われる。ここでいう虎は王、孔雀は王女を示す。

またレオグには儀式的な要素がほとんどない。健康祈願、学業成就、商売繁盛などの厄祓いとも関係がなく、地域の記念日やフェスティバルなどのイベントやオープニングショーなどで行われる場合が多い。

実際にレオグを拝見してみると、まず大きなお囃子の演奏に始まり、天狗のような仮面を被った人や道化のような人が次々に登場してバク転をするなどして会場を盛り上げる。

時にはズボンを脱がせるなどの下ネタを挟みながら、いよいよクライマックスで、巨大な虎と孔雀の面が登場して舞い納めとなる。1時間を超える非常に長い演舞である。

終了後、担い手にお話を伺う機会があった。虎の面は家の中で保管するという。虫が食わないようにたまに陽に当てて干すこともあるようである。これは日本で言うところの「虫干し」と同じ意味で、日本各地の獅子舞でも同じような風習がある。これは日本だけの知恵ではなく、アジア全体で共有されてきた知恵だと知った。

華人たちが受け継ぐ「バロンサイ」

次はスラバヤのバロンサイ(barongsai)だ。これは中国の獅子舞とほとんど同じような形態を受け継いでいる。バロンサイと日本の獅子舞との大きな違いは前者が獅子舞をスポーツと捉えているのに対して、後者は地域が協力して継承する民俗芸能と考えている点にある。バロンサイは大道芸のように素人には真似ができないアクロバティックな演舞が魅力的だ。

実際に演舞を拝見してみると、まず3頭の獅子(赤2 黄1)の演舞から始まった。その後、黄獅子の玉乗り、赤獅子の台上りののち、龍舞の登場。その後、再び3頭の獅子の演舞で締めくくられた。おおよそ30分ほどの演舞だった。

獅子舞と龍舞が同じ団体内で実施されていることを考えると、獅子舞の頭が日本で龍の形をしている場合があることを思い浮かべる。玉乗りは獅子が玉に気を取られて危害を加えないという平和の象徴たる演舞であろう。

スラバヤにはバロンサイが約40団体ある。バロンサイは国際的な大会で勝ち進み賞金を獲得することで、活動の場が広がっていく。全ての団体に練習場所があり、場合によっては企業がスポンサーになって資金提供してくれている場合がある。

また、武道をメインに実施するスポーツセンターのような場所で練習していることもあり、これはカンフーなどの武道をする人と獅子舞の担い手がかぶる場合が多いからということもある。日本も武道と獅子舞との結びつきは非常に強く、沖縄県では獅子舞の実施前に棒術が行われる。また石川県では武芸鍛錬を目的として始められた棒振りつきの加賀獅子が受け継がれている。

このように、インドネシアには獅子舞のような芸能がたくさん存在する。日本の獅子舞との違いや共通点がさまざまに見えてきたことだろう。

そのほかにも面白いお祭りがたくさん

インドネシアのスラバヤ市内では、獅子舞のような芸能以外にもさまざまなお祭りの出し物に遭遇する機会があった。名前も由来もよくわからない。それでもどこか感性に訴えかけてくる魅力がある。基本的にお囃子の音量は爆音なので、身体が物理的に震えてきて、耳を塞がないで長時間聞いていることが難しいくらいだ。

こちらは人間を食べている鯰(なまず)である。インドネシアの人々は、日常的に鯰を食べているが、このように祭祀の場にも登場する。串刺しにされた鯰を子どもたちが運んでいる様子は圧巻の光景だった。

それから日本でいう野菜神輿のようなものがいくつかみられ、野菜を龍の塔にしてみたり、船に乗せてみたり、さまざまな造形が見られた。あるいは生活必需品であるプラスチックの皿や桶などを高く塔のように積み上げるようなものもあった。芸能は生活文化の延長上に生まれることを強く意識した。

こちらはモンキーダンスだ。日本では猿回しとして知られている。服を着て三輪車に乗って、芸を披露している姿は非常に俊敏であり、ちょこまかと動き回る姿は観客を虜にしていたことは言うまでもない。モンキーダンスの終了後に観客はお金を払ったが、相場は2000Rpくらい*とのこと。

*編集部注:Rp=インドネシアルピア。2000Rpは日本円に換算すると約20円

猿はストレスが溜まっているようにも見えた。時には牙をむき出し威嚇するような表情を見せていた。しかし一方で猿は観客に喜んでもらうと、大歓声を受けてどこか誇らしげでもあった。現在、日本でモンキーダンスをするのは日光猿軍団などであるが、基本的には動物愛護と見世物興味との狭間で、猿と人間のより良い関係ができると良い。

これらの芸能は獅子舞とは全く系譜の異なるものであるが、獅子舞のシシが動物を意味するように、身の回りの動物と人間との関係を考えていると、無関係ではない芸能のようにも思えてくる。

インドネシアのお祭りを訪れてみよう

インドネシアは多民族・多文化の島国だ。人口の50%はジャワ島に集中しており、今回紹介した芸能もその多くがジャワ島のものである。しかし、インドネシアはとても奥深い国であり、ここに紹介したのはほんの一部分であることは否めない。

日本との比較を通してそのギャップを感じながら、インドネシアの芸能について理解を深めていくことは驚きと発見に満ちている。バロンダンスをはじめ、季節を問わず見られる芸能も多いので、気になった方はぜひ現地を訪れていただきたい。

タグ一覧