浜田市内には、石見神楽に欠かせない道具を制作する職人の技が今も継承されています。面、衣裳、採り物などは、華やかな神楽の舞台を支える陰の立役者であり、神楽とともに生きる浜田市の人々にとっての誇りです。石見神楽を支える地域の神楽産業について紹介します。(五十音順)
① 植田蛇胴製作所
植田蛇胴製作所は、石見神楽の代名詞ともなっている提灯型の大蛇衣裳を発明した植田菊市氏の工房です。明治期まで大蛇の衣裳は白い着物に鱗を描いただけでしたが、竹と石州和紙でできた植田氏の蛇胴が大蛇の舞に圧倒的なリアリティを与えました。植田製作所の蛇胴は、天然乾燥により竹と和紙が強固に接着されて丈夫なうえ、模様も塗料ではなく染料で描くため汗にも強いと評判。現在も素材や製法を変えず、3代目の植田倫吉さんの手によって匠の技が守られています。
植田蛇胴製作所(うえたじゃどうせいさくしょ)
島根県浜田市熱田町1319-2
TEL:0855-27-0540
② 柿田勝郎面工房
柿田勝郎面工房は、石見神楽面(長浜面)発祥の地で生まれ育った柿田勝郎さんが1972年に開いた工房。現在は、父のもとで修行した二代目・兼志さんと共に、技術をさらなる高みへ磨き上げています。面の頭髪を逆立てて迫力を出すデザインなど、さまざまなオリジナル意匠も開発。新面の制作だけではなく、古面の復元など伝統的技法の記録・継承にも取り組んでいます。柿田勝郎面工房の石見神楽面は、島根県ふるさと伝統工芸品に指定され、石見神楽や県外の神楽面だけでなく、大衆演劇、劇団、ライブ、マジックに制作した実績もあります。
柿田勝郎面工房(かきたかつろうめんこうぼう)
島根県浜田市熱田町636-30
TEL・FAX:0855-27-1731
HP:https://kakita.ai-fit.com/
③ 神楽ショップくわの木
「神楽ショップくわの木」は展示・販売施設も備えた市内最大規模の衣裳工房です。ショップでは面、衣裳、楽器、採り物など神楽で使用する道具一式が購入できます。温浴施設に隣接し、観光客も立ち寄りやすいため、石見神楽の発信地ともなっています。工房では、衣裳だけでなく、蛇頭や蛇胴、面ほか、さまざまな道具を製造しているのが特徴。制作の様子も自由に見学できます。
神楽ショップくわの木(かぐらしょっぷくわのき)
島根県浜田市金城町下来原1541-8
TEL:0855-42-0039 FAX:0855-42-0076
HP:http://www.kagura-shop.com/
④ 佐渡村衣裳店
佐渡村衣裳店は、店主・佐渡村孝明さんが2008年にスタートした工房です。佐渡村さんは元々神楽の舞手で、自分で衣裳を手作りしている中で一念発起して開業に至ったそうです。金駒刺繍や立体刺繍の技術を用いて、伝統と若い感性が調和した神楽衣裳を制作しています。佐渡村衣裳店では、工房内での神楽衣裳製作現場の見学に加え、予約制で衣裳の一部を作る「刺繍体験」や、実際の社中の稽古場で、神楽衣裳の着付けや面や小道具に触れる体験ツアーも実施しています。
株式会社 佐渡村衣裳店(さどむらいしょうてん)
島根県浜田市三隅町岡見1212
TEL:0855-32-3239
HP: https://sadomuraishouten.com/
⑤ 昌三庵
整然とした工房には、身震いしそうな凄みを湛えた般若や、凛々しい表情の須佐之男の面が並んでいます。ご主人の日下昌三さんは、神楽面作りの家に生まれ、独立して工房を構えました。今は奥様と二人三脚で神楽面の製作に取り組んでいます。昌三庵では、現在主流となっている和紙製の石見神楽面の製作の一方、明治期以来、石見神楽ではあまり使われなくなった木彫りの石見神楽面を受注製作しています。半月に割った丸木から削り出される神々の面は表情も重厚。使い込まれるごとに木材の持つ風合いが濃く、陰影も強く出るようになってきます。
昌三庵(しょうぞうあん)
島根県浜田市長浜町75-1
TEL:0855-27-2126
⑥ 石州和紙会館
「石州和紙」は、石見地方で漉かれている伝統的な手漉き紙。その中でも石州半紙は、国の重要無形文化財やユネスコの無形文化遺産リストにも掲載されています。地元産の楮を使用して手漉きで丁寧に作られた石州半紙は微細で光沢豊か。かつ、極めて強靭なことから、火事になって井戸に放り込んでも大丈夫だと大阪商人たちが帳簿用に重宝していたそうです。石見神楽面や蛇胴もこの石州和紙で作られており、薄くて、強い特性で石見神楽の繊細な演技や躍動的な所作を可能にしています。石州和紙会館では、石州和紙の製造過程や歴史について一気通貫に学べます。
石州和紙会館(せきしゅうわしかいかん)
島根県浜田市三隅町古市場589
TEL・FAX:0855-32-4170
HP: https://www.sekishu-washikaikan.com
⑦ 福屋神楽衣裳店
福屋神楽衣裳店は、2022年地域伝統芸能大賞の支援賞に輝いた川邊志津枝さんの工房です。独学で製法を学び、60年以上も石見神楽の衣裳作りを手掛けてきました。工房で手がけた衣裳は、もう3000着以上になるそうです。眩いばかりの絢爛たる石見神楽の衣裳は、ビロード地に金糸、銀糸を1本ずつ縫い付け、龍や虎、唐獅子など立体的な刺繡が施されています。金糸は経年で白く変色してしまいますが、松ロウでそれを防ぐ工夫を施し、刺繍の絵柄にはプラスチックではなく、ガラス製のビーズを使用するなど、川邊さんのこだわりが織り込まれています。
福屋神楽衣裳店(ふくやかぐらいしょうてん)
島根県浜田市熱田町1224-2
TEL・FAX:0855-27-0141
⑧ 細川神楽衣裳店
細川神楽衣裳店は、現在の石見神楽の発展のきっかけとなった細川勝三氏(1907-1970)の工房です。衣裳店に生まれ、松竹映画に入社した勝三氏は、そこで歌舞伎衣裳に刺激を受け、帰郷後、当時は模様染めだった神楽衣裳に、初めて金糸・銀糸で龍や虎などの刺繍を取り入れました。勝三氏は他にも神楽台本の校訂や煙火の導入、初めて神楽大会を実施するなど石見神楽の「革命」の中心となった人物です。現在は、勝三氏の娘さんである千秋子さんが店を継ぎ、お弟子さんらと共に看板を守っています。
細川神楽衣裳店(ほそかわかぐらいしょうてん)
島根県浜田市大辻町桧ヶ浦75-2
TEL:0855-22-0550、0826-72-2766