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10月はなぜ「神無月」?日本で唯一「神在月」になる場所とは?実は留守番している神様もいる!?

2023/10/20
2023/10/20
10月はなぜ「神無月」?日本で唯一「神在月」になる場所とは?実は留守番している神様もいる!?

10月は別名「神無月(かんなづき)」と呼ばれます。その一方で、実は日本中で一か所だけ10月を「神在月(かみありづき)」と呼び、特別な祭りが行われている場所があるのです。

そこで今回は「神無月」という呼び名の由来や、神無月に神様たちはどこで何をしているのか?行われているお祭りの内容、さらには留守番をしている神様についてなど、神無月にまつわる話をご紹介します。

「神無月」という呼び名の由来は?

10月の「神無月」、9月は「長月」、11月は「霜月」など、旧暦で各月を呼び表すときは、季節や行事に合わせた和風月名(わふうげつめい)という呼び名がしばしば使われてきました。

旧暦を新暦に換算すると1か月ほど遅れるため、旧暦10月はおおむね現在の11月にあたります。11月は「今年も無事に米や作物が収穫できた」と神様に感謝する月。今でも皇室や全国の神社で11月23日には「新嘗祭(にいなめさい)」という一年間の五穀豊穣に感謝する祭りが行われるように、稲作で生きてきた日本人にとって旧暦10月はとりわけ神様とのかかわりが深い月でした。

そこで10月を「神の月」と呼び、「の」という音に「無」という当て字がつけられたのが「神無月」の由来という説があります。他には、季節的にもう雷が鳴らない月のため「雷(神)無月」、その年に穫れた米でお酒を「醸造する=醸す(かもす)」月のため「醸成月(かみなしづき)」など、神無月の由来は様々です。

その中で最も知られているのは、「旧暦10月には全国の神様たちが日本の一か所に集まって、各地で神様が不在(=無い状態)になるから」という説。このとき神々が集まる場所は島根県の「出雲大社」で、神様がいる出雲では逆に旧暦10月は「神在月」と呼ばれます。俗説とされつつもこの説が有名なのは、毎年この時期に出雲大社で「神在祭」が開かれ、集まった神々に縁結びの願いを聞いてもらおうと全国から多くの人が訪れることが一因かもしれません。

神々はなぜ出雲大社に集まる?何をしている?

出雲大社のしめ縄(撮影:佐々木美佳)

神様たちが集合する場所が出雲になったのは、出雲大社のご祭神である大国主大神(オオクニヌシノオオカミ)の神話によるものと考えられています。神話では、大国主大神が天照大神(アマテラスオオミカミ)から出雲の国を譲るように言われたとき、「この世の目に見える世界の政治は天照大御神にお任せし、自分は目に見えない世界の幽(かく)れたる神事を治めましょう」と答えたとされます。

出雲大社にある大国主大神の像(撮影:佐々木美佳)

「幽れたる神事」とは、目には見えない人間の縁を結んだり運命を司ったりすることであり、それを治めるため自分の元に全国から神々を迎えて「神議り(かむはかり)=会議」を行うようになったというわけです。

この説は「幽事説」と呼ばれ、出雲で発展し各地の「神の月」信仰とも融合して、神様たちが出雲に集まりひと月滞在するという神無月・神在月の信仰となって全国に浸透していきました。下記の浮世絵には、出雲大社に集まった神様たちが木の札に男女の名前を書き、相談してカップルを決めたあと札同士を結びつけて「縁結び」しているところが描かれています。

大日本歴史錦繪「出雲國大社八百万神達縁結給圖』」国立国会図書館デジタルコレクションより

10月に神々が出雲に集うようになった理由にも諸説あります。幽事説以外で主なものを3つ紹介しましょう。

まずは陰陽説によるもの。古代中国の思想に端を発する陰陽説は、すべてのものは「陰」と「陽」に分かれ、互いに補いバランスを取ることで秩序が保たれるという考え方です。
陰陽では10月という「極陰」の時に、極陰の場所に、日本中の神々というすべての「陽」が集まることで世界が再生すると説かれていました。極陰の場所というのは、当時の朝廷から見て北西の方向、つまり出雲のこと。よって、10月の出雲に神々が集まることになったという説です。

2つ目は、出雲大社の祭神が10月だけ日本を統治しているとする説。この考え方が生まれたのは中世で、当時の出雲大社の祭神はスサノオノミコトだったため、姉神にあたる天照大神が10月だけは弟神に日本の当地を任せたからという説です。

3つ目は、イザナミへの孝行のためとするものです。様々な神を生み出した「親神」にあたるイザナミは、10月に崩御して出雲に埋葬されたと考えられています。このため、日本中の神々がイザナミへの孝行を目的に出雲に集うのではという説があります。

神在月の出雲ではどんな祭りが行われる?

神無月と神在月の呼び名の由来、神様たちが出雲に集まる理由の諸説が分かったところで、次は神々を迎える出雲大社で毎年実際に行われている祭りの内容を見てみましょう。
旧暦10月10日にあたる毎年11月中旬の神迎神事に始まり、神在祭、縁結大祭を経て11月下旬の神等去出祭(からさでさい)に至る、大きく分けて4つの祭祀をご紹介します。

◎神迎神事(かみむかえしんじ)・神迎祭(かみむかえさい)

稲佐の浜と弁天島(撮影:佐々木美佳)

神迎神事とは、旧暦10月10日に稲佐の浜で行われる、全国からの神々を迎える神事です。浜では斎場が作られ、海に向かって龍蛇神が配置されます。神事後は龍蛇神を先導として、出雲大社までの行列が続きますが、この道は「神迎の道」と呼ばれるものです。

出雲大社に着くと神楽殿で神迎祭が執り行われます。これが終わると、神々は旅の宿社となる境内の東・西十九社に鎮まります。

また、神迎神事に用いられた龍蛇神は豊作・豊漁・家門繁栄など篤い信仰があります。神迎祭の終了後に境内に奉祭されるため、神在祭期間中に一般の方も自由参拝することができます。

◎神在祭(かみありさい)

上宮(撮影:佐々木美佳)

旧暦10月11日から17日までの7日間が、全国の神々は稲佐の浜にほど近い出雲大社の摂社「上宮(かみのみや)」で神議りを行う期間とされています。神在祭の間だけ扉が開いているこの社で、男女の結びを含む幽事について相談、会議をして決めているのです。

西十九社(撮影:佐々木美佳)

同じ期間に、出雲大社本殿の東西にある「十九社」でも連日祭祀が執り行われます(一般非公開)。地元の方たちは、この期間中に神々の会議や宿泊に粗相があってはいけないということで、ひたすら静粛を保つため神在祭は「御忌祭(おいみさい)」とも呼ばれています。

◎縁結大祭(えんむすびたいさい)

神楽殿(撮影:佐々木美佳)

旧暦10月15日と17日に、神在祭の期間中にあわせて行われるのが縁結大祭で、全国から集まっている神々に対し、縁結びを祈る祝詞を奏上する祭事です。

縁結大祭は出雲大社ホームページからの申し込みを行うことで、一般の方も参列できます。申し込み方法は例年秋頃(1か月ほど前)に掲載されますので、出雲大社ホームページからご確認ください。

◎神等去出祭(からさでさい)

稲佐の浜から海を望む(撮影:佐々木美佳)

旧暦10月17日の夕刻4時、東西の十九社にある神々を拝殿にお遷しし、出立の神事が執り行われます。こうして出雲大社の神在祭が終わり、斐川町の万九千神社で直会(なおらい・宴会)を行った後、神々はそれぞれの国へお帰りになるといわれています。

旧暦10月26日にも出雲大社では神等去出祭を行いますが、この祭典は神様が出雲を去ったことを大国主神に報告する儀式で、神官一人が本殿前で行う小祭です。

2023年の神在月の4つの祭祀の開催日は、神迎神事が11月22日(水)、神在祭が11月23日(木・祝)・27日(月)・29日(水)、縁結大祭が11月27日(月)・29日(水)、神等去出祭が11月29日(木)・12月8日(金)の予定です。

出雲に行かない留守番の神様もいる!?

神無月には、出雲以外の地方では神々が不在になると思いきや、実は出雲に行かず地元を守ってくれる「留守神様」もいるといいます。その代表格が七福神の一柱にもなっている「えびす様」です。

えびす様は釣り竿と鯛を手にしている姿から大漁の神様とされ、広く商売繁盛の神様としても信仰されています。恵比寿、蛭子、ゑびすなど様々な表記があるえびす様ですが、近畿地方でよく使われている「戎」という字には「異郷の人」という意味もあり、海の向こうから来た来訪神としても有名です。

そして10月の間、神々の留守を守ってくれるえびす様を慰めるため、えびす様を祀る神社の氏子たちは「えびす講」といって、えびす様のご縁日である20日に参拝したり祭りを開いたりするようになりました。

もともと「講」というのは仏教用語で経典の講義をする会や、信者が集まって仏の徳を賛美する法会 (ほうえ)のこと。これが江戸時代には、「伊勢講」「富士講」など神仏や信仰の対象を皆で参詣したり寄進をする信者の団体を指すようになり、活動そのものも表すようになった言葉です。

べったら市宝田恵比寿神社のえびす講「べったら市」の様子(撮影:高橋佑馬)

えびす講のお祭りが今でも10月20日に行われている例で有名なのは、東京都日本橋にある宝田恵比寿神社の門前で開催されるえびす講です。ここでは「べったら漬」という名物が売られるため「べったら市」という名で親しまれています。

一方、関西では新年明けて1月10日のえびす様のご縁日に、「十日戎(とおかえびす)」というお祭りが、数多くのえびす様を祀る神社で開かれています。十日戎では青々とした福笹に縁起物の飾りをたくさん飾りつけ、1年の商売繁盛を祈願します。

また、留守神様と呼ばれる神様ではえびす様が有名ですが、他にも金毘羅様や旅人を守る道祖神、家で竈を守ってくれる神様などを留守神様として祭る地域もあります。

おわりに

本記事では、神無月の由来や10月の出雲に神様が集まる理由、出雲大社で行われている祭り、留守神様などについてご紹介しました。

最後にもう一つ、雑学を。出雲の「神在祭」が発祥となった食べ物があるというのですが、何のことだか分かりますか?
答えは「ぜんざい」。神在祭のとき「神在餅(じんざいもち)」を振舞っていたのが、出雲弁でなまって「ずんざい」から「ぜんざい」となり、京都に伝わって全国に広まっていったのだとか。

出雲大社の周辺には今も美味しいぜんざい屋さんがありますので、旧暦10月の神無月、出雲では神在月となる11月には、神々が集っている出雲へ出かけてみてはいかがでしょう。また、地元で神々の留守を守ってくれている、えびす様の神社を見つけてお参りに行ってみるのもおすすめです。

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