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門限0時の若宮さまを7時間もの芸能でもてなす「春日若宮おん祭」とは?

2022/12/15
2023/1/6
門限0時の若宮さまを7時間もの芸能でもてなす「春日若宮おん祭」とは?

「春日若宮おん祭」は、奈良県にある春日大社の摂社・若宮神社の例祭で、約900年近くも絶えることなく続けられている祭りです。
毎年7月から儀式が始まり12月15日~17日に中心的な神事が行われますが、祭りのクライマックスは12月17日深夜0時からほぼ丸1日の間に、次々と行われる神事や古典芸能などの催しです。

今回は春日若宮おん祭とはどのような祭りか、その起源や内容、見どころなどを詳しくご紹介します。

祭りはいつ、何のために始まった?

平安時代末期の1135(保延元)年。長年にわたる大雨洪水により飢饉が相次ぎ、疫病が蔓延する中、時の関白・藤原忠通は万民救済のため、春日大社の本社と同じ規模の壮麗な神殿、若宮神社を造営しました。

翌1136(保延2)年、若宮様の御神助を願い、五穀豊穣や国民安寧を祈願した祭礼が「春日若宮おん祭」の始まりといわれています。

御霊験はあらたかで、長雨洪水は治まり晴天が続きました。以後、大和一国をあげて盛大に執り行われ、900年近く途切れることなく今日に至ります。現在は国の重要無形民俗文化財にも指定されています。

儀式は7月から!12月16日までの行事

春日若宮おん祭の儀式は7月から始まり、12月15日~17日に中心的な神事が行われます。
最も早い儀式は7月1日の「流鏑馬定(やぶさめさだめ)」。明治維新後に一度途絶えましたが、昭和60年に復興されました。

10月1日には、祭りで若宮様がお遷りになるお旅所の仮御殿「行宮(あんぐう)」の起工式である縄棟祭(なわむねさい)が行われます。

12月初め、装束に身を包んだ稚児たちが僧衣僧官を拝受する儀式の後、「装束賜りと精進入り」では、祭りに参勤する人々が若宮神社の前でお祓いを受けます。

いよいよ12月15日から中心的な神事の開始です。祭りの無事執行を祈願する「大宿所祭」が行われ、12月16日には神前参勤の無事を祈り拝礼を行う「大和士(やまとざむらい)宵宮詣」や、本社と若宮で田楽を奉納する「田楽座宵宮詣」が行われます。

大宿所「春日若宮御祭礼記」より大宿所の「御湯立(みゆたて)神事」の様子。(国会図書館蔵)

その後の「宵宮祭」では、若宮神前に「御戸開(みとびらき)の神饌」と呼ばれる飲食のお供えをし、祭典の無事執行を祈願した後、若宮本殿は白の御幌(とばり)で覆われるのです。

クライマックスの12月17日は見どころ満載

「春日若宮おん祭」の最大の見どころは、12月17日に行われる様々な行事です。
特に正午からの「お渡り式」は、関西地方でも有数の規模を誇る時代行列が市街を練り歩くことで有名で、祭りの大きな魅力となっています。その後に行われる「お旅所祭」では、午後11頃までおよそ7時間にもわたって多くの神事芸能が連続して奉納され、参道では競馬、流鏑馬が行われます。

【午前0時~】遷幸の儀(せんこうのぎ)

ご祭神の若宮様を若宮神社からお旅所の行宮にお遷しする儀式です。古来より神秘とされていて、参道はすべての明かりを消し、暗闇の中で行われます。参道の両脇で見送る参列者も、写真を撮ったり明かりを灯すことはできません。

 

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深夜0時過ぎ、二基の大きな松明の火を地面に引きずり、道を清めながら先導が現れます。
その後を、手に榊の枝を持った約100名の神職が口々に「ヲー、ヲー」という警蹕(みさき)の声を発しながら、御神霊を十重二十重に囲んでお遷しするという他に例を見ない儀式です。これに楽人たちが「道楽(みちがく)」の「慶雲楽(きょううんらく)」を奏でながら続きます。

午前1時~2時までは「暁祭(あかつきさい)」をお旅所で執り行い、若宮様に海山の恵みをお供えし、神楽を奉納します。午前9時からは春日大社本社若宮にて行われる「本殿祭(ほんでんさい)」は、春日若宮おん祭の無事斎行を祈る祭典です。

【正午頃~】お渡り式

お旅所に遷られた若宮様のもとへ、芸能集団や祭礼に加わる人々が社参する儀式です。華やかな時代装束を身に着けた1,000人規模の伝統行列に馬50頭ほどが加わり、正午頃に奈良県庁前を出発。近鉄奈良駅前を西に進み、油阪からJR奈良駅前経由で東に折り返し、三条通りを通ってお旅所まで練り歩きます。

 

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途中、祭礼の主導権を持つ興福寺への敬意を表し、午後12時50分頃に旧南大門跡前の石段に並ぶ衆徒(僧兵)の前で「南大門交名(きょうみょう)の儀」が行われます。

 

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午後1時頃、行列は春日大社の一之鳥居に到達します。南側の壇上にある「影向(ようごう)の松」の下で、猿楽や田楽などは各々芸能の一節や、所定の舞を演じてからでないと、お旅所へは参入できません。そのため「松の下式(まつのしたしき)」と呼ばれる儀礼的所作が行われます。

ちなみにこの松は能舞台の鏡板に描かれている松といわれ、春日大明神があらわれ翁の姿で「万歳楽」を舞われたという由緒ある場所です。

 

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また、この-ノ鳥居内の馬出橋付近では競馬と稚児流鏑馬が行われます。

【午後2時30分頃~】お旅所祭(おたびしょまつり)

お旅所に遷られた若宮様に芸能を奉納する「春日若宮おん祭」の中心的祭典です。
お旅所正面の一段高い所には行宮があり、その前に小高く約9メートル四方の芝舞台があります。舞台の左右に太鼓が据えられ、それをとり囲むように周囲に仮小屋が設けられます。

 

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午後2時30分頃、奏楽のなか「染御供(そめごく)」と呼ばれるお米を青黄赤白に染め分けて飾るお供えが捧げられ、お旅所祭が始まります。宮司が御幣を捧げ、祝詞を奏上した後、日使(ひのつかい)が奉幣し、行列に加わった各座の代表などが拝礼します。

そしていよいよ午後3時30分頃から、芝舞台で芸能の奉納の開始です。神楽、東遊(あずまあそび)、田楽と次々に午後10時30分頃まで、およそ7時間にもわたって各種芸能が奉納されます。その様子は、生きた芸能の歴史を目のあたりにするようで圧巻です。

【午後11時~】還幸の儀(かんこうのぎ)

芸能をお楽しみいただいた若宮様を、お旅所から若宮神社にお送りする儀式です。若宮様は2日間にわたって本殿を留守にできないため、翌日の午前0時までに若宮神社に戻れるよう、午後11時頃から行われます。

 

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遷幸の儀と同様、儀式は古来より神秘とされ、参道はすべての明かりを消して浄闇の中で執り行われます。榊の枝を持った神職たちが再び若宮様を囲み、口々に「ヲー、ヲー」という警蹕の声を発しながら進みます。
楽人たちは「道楽」の「還城楽(けんじょうらく)」を奏でながら続き、最後は「御巫(みかんこ)」により神楽が奉納されます。

お旅所祭は生きた古典芸能史!

お旅所祭は、春日若宮おん祭の中心神事であり、お渡り式と並ぶ最大の見どころです。お旅所祭は、能を大成した世阿弥が見て感動したことでも知られています。奉納される芸能を簡単にご紹介しましょう。

◎神楽

春日社伝神楽は、平安時代初期の延喜年間(901年~922年)の頃まで起源を遡ることができます。春日大社の祭典の中でも最も大儀で華やいだもので、正装した6人の巫女が舞い、その装束は最も格式あるものが用いられます。

◎東遊

神楽が終わった後、篝火に火が入れられ、東遊が始まります。安閑天皇の御代、駿河国の有産浜に舞い降りた天女が舞い遊んだという故事から起こった東国の風俗舞とされ、伝統の装束をまとった童児の舞人たちが凛々しい舞を披露します。

◎田楽

田楽の起源は、五穀豊穣の祈願、農民を慰労するために演じた所作であるとか、田舞や散楽が転じたものなど諸説があります。春日田楽は「春日若宮おん祭」が行われた当初から奉納され、かつては舞を中心とする田楽能もあり、名人もいたのだそうです。

華やかな五色の大幣を神前に献じ、伝統装束を身に着け、笛・太鼓を持った集団が登場します。囃子が奏され、曲芸が行われた後、短い能が演じられます。

「春日若宮御祭礼記」より田楽を奉納する田楽法師一座の様子。(国会図書館蔵)

◎細男(せいのお)

浄衣という白衣を着け白い布を目の下に垂らした舞人たちが、胸から下げた小鼓を打ち、袖で顔を覆いながら舞います。神功皇后の故事にちなんでいるとされる素朴な舞ですが、独特の神秘的な雰囲気を醸し出し、日本の芸能史のうえでも他に例のない貴重なものです。

◎舞楽(ぶがく)

舞楽は、飛鳥・白鳳時代から奈良時代にかけて古代朝鮮や中国大陸から伝えられ、日本で大成されたものです。天下の三方楽所といわれた京都、奈良、天王寺に伝わり、それぞれ特色ある芸能をうけついできました。奈良は春日大社を中心として南都舞楽の伝統をうけついでいます。

 

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まとめ

「春日若宮おん祭」は、奈良の人々の安寧と五穀豊穣を願って、約900年近くも絶えることなく受け継がれてきた祭りです。しかも、ご祭神の若宮さまをおもてなしするため、7時間にもわたって数々の貴重な芸能を奉納する、他にはない特徴があります。

ここでしか体験できない文化や神秘的な古典芸能に間近に触れて、感動を味わってみてはいかがでしょうか。

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