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和歌山の獅子舞の魅力とは?紀伊風土記の丘で企画展「紀州の獅子と獅子頭」を開催

2021/4/30
2021/5/18
和歌山の獅子舞の魅力とは?紀伊風土記の丘で企画展「紀州の獅子と獅子頭」を開催

和歌山県で獅子の展示が開催されているという。関東に住んでいることもあり、和歌山にはどのような獅子舞や獅子頭が存在するのか知らなかった。でも獅子の展示は全国的にみても開催される機会がそう多くはない。獅子について興味があり、全国の獅子の取材を行なっている私は、未知なる好奇心とともに和歌山へと向かった。

和歌山県和歌山市にある県立紀伊風土記の丘。ここで、春期企画展「紀州の獅子と獅子頭」が開催されている。特別史跡岩橋千塚古墳群を含む広大な敷地の中にある資料館は堂々とした風格があり、入り口付近に様々な形の埴輪が並べられている。通り抜けができる1階から2階に上がると、企画展の会場に到着。ここで、入場料(一般 190円等)を払うと、展示を見ることができる。いよいよ和歌山の獅子たちとご対面だ。

この展示の企画を担当された学芸員・蘇理(そり)剛志さんは、約15年間、和歌山県の祭りや民俗芸能を調査されてきたとのこと。県内では約150団体の獅子舞が継承されており、そのうち11の神社や保存会に協力を仰ぎ、今回の企画展が実現したそうだ。和歌山の獅子についてその全体像を知ることができる展示になっている。また、昨今はコロナ禍においてなかなか獅子舞を見る機会も少なくなっている。展示の「ごあいさつ」では、「獅子たちに久しぶりに目覚めてもらい…」という文言もあり、まさに災厄に打ち勝つという獅子本来の意味に立ち返るような展示にも思える。それでは具体的に展示内容について見ていくこととする。

和歌山の獅子舞の種類

まずは獅子舞の分類などについて、ずらっと説明パネルが並んでいた。想像以上に和歌山の獅子舞の伝来経路は多様であり、獅子頭のデザインや舞い方など各地域様々な特徴があることがわかった。分布図では主に以下の5つの系統が紹介されていた。

梯子獅子・継ぎ獅子

和歌山県北部の獅子舞。瀬戸内海沿岸、兵庫県、和歌山県、愛知県、千葉県などにかけて分布しているとのこと。高い梯子(はしご)の上で激しく演舞して、曲芸を披露する梯子芸などがあるそうだ。実際に千葉県の君津では、このタイプの獅子があると聞いたことがある。梯子の上で獅子舞をやるというのは、想像するに地上よりも難しく迫力もあるだろう。

加茂谷周辺の獅子

和歌山県北部の海南市加茂谷周辺で展開されている獅子舞。和歌山県中部の鬼獅子から派生したもので、天狗と獅子で構成されるようだ。獅子が天狗を威嚇する「たかなり」が特徴とのこと。獅子は4~5人立ちとも言われ、「むかで獅子」とも言うそうだ。むかで獅子といえば、 富山県と山形県を連想するのは私だけだろうか。人数が多い分、迫力もありそうな獅子である。

鬼獅子(三面獅子・頭屋獅子)

和歌山県中部の獅子舞。鼻高(はなたか)の「オニ」と鰐口(わにぐち)の「ワニ」、獅子、田楽などにより構成されるそうだ。オニとワニ、どちらも鬼の一種のようである。これはなかなか珍しい。神社の境内や御旅所で演じられる神事芸能で獅子が神輿を先導、オニとワニはささらと鉾をもち神輿の前後を警護するという。

顯國神社の三面獅子(オニとワニと獅子頭)

日高の舞獅子

和歌山県中部の獅子舞。紙製の獅子頭を用い、屋台の囃子に合わせた動きの激しい舞をするようだ。獅子は2人立ちで、手を出して舞うことがないという。中央に筵(むしろ)や敷物を広げ、四方を意識した舞いをするとのこと。こう見ていくと、和歌山の獅子舞は激しい獅子舞が多いように思う。

熊野の獅子舞(伊勢流・古座流)

和歌山県南部の獅子舞。伊勢太神楽の影響を受けながら、熊野地域において独自に発展したそうだ。腕を出して鈴や幣などの採り物を持って舞う2人立ちの舞いと、3~5人程度が入って激しく舞う「乱獅子」系統の舞いがあるとのこと。小道具として牡丹(ぼたん)の造花などをあしらった木を用い、獅子は花の美しさに見とれるという演目があるという。この獅子舞は石川県南部の港町のものに似ていて、とても興味深いと感じた。

伊勢太神楽の影響を受けた古座の獅子舞

和歌山の獅子舞の起源

和歌山の獅子舞の起源について、説明パネルがあった。大陸系の獅子舞は7世紀に仏教とともに伝来。霊力があり悪を食べる信仰から寺院の法要において行列の道行を清める「行道」の獅子として定着したという。中世の荘園における祭礼行事として広がっていったとも言われているそうだ。ただ実際に和歌山県に獅子舞が伝来した時期について詳しいことはわからないようだ。実際に今遡れる獅子舞といえば、広川町の「広八幡の田楽」など室町時代ごろの話になってくる。

和歌山最古級の獅子頭とは

和歌山県で最も古い獅子頭は、現在確認されている中では南北朝時代の製作と考えられる紀美野町の野上八幡宮のものだという。紀州藩初代・徳川頼宣がこれを褒め称えたという記録が1648年作『八幡宮歴代記』に登場するそうだ。秋祭りで神輿行列の先頭を払いながら道中を練り歩いた獅子で、中世の容貌を今に伝えるとのこと。瞳に月彫の眼光を描いているのが特徴とのことで、このような獅子頭は初めて見た。他にも、紀州東照宮で5月に行われる和歌祭を先導する獅子頭や、丹生都比売神社のかなり大きい獅子頭も展示されており、古い獅子頭はとても見応えがある。

獅子頭の制作について

獅子頭の制作に関する展示もあった。和歌山の獅子頭制作に関して最も興味深かったのが、紙製の獅子頭が作られているということ。主に日高郡で用いられる獅子頭で、木製の頭に比べるとかなり軽いそうで、舞いが激しいので持ち運びの利便性を重視しているようだ。値段は特に記載がなかったが、安価で求めやすい価格なのも魅力である。作り方としては、木の獅子型に和紙を貼り合わせ、型抜きをした後に、漆などを塗り、目玉や耳、牙、髪の毛などの装飾を付け加えて完成させるそうだ。また、熊野地域では「宇津型」と「権九郎型」という日本全国で最も普及し、獅子舞に使われる頭が用いられているという。

獅子舞ランキングの投票箱も設置

展示を一通り見終わると、最後に映像コーナーがあり、座って様々な獅子舞の映像を見ることができた。実際に獅子舞のお祭りに行ったことがなくても、現地の様子が想像しやすかった。また、アンケートボックスもあり、今回展示を見た中で気に入った獅子に投票ができるというコーナーも設置されていた。各地域の方はとっても投票結果が気になるだろうと思いながら、自分であればどれを選ぶかな?と考えた。こういう過程で、獅子舞をあまり知らない人でも愛着が生まれたらとても面白いと感じた。

和歌山の獅子舞の奥深い世界に魅了される

和歌山の獅子舞を実際に展示として拝見してみて、想像以上に多種多様な獅子舞があるとわかった。また、激しく迫力のあるタイプの獅子舞が多いようにも感じた。大人も子供も楽しめるような展示になっており、風土記の丘を散策するのと合わせて訪れるのも楽しいかもしれない。展示はゴールデンウィーク明けの5月9日まで。ぜひ足を運んでいただきたい。コロナ禍で展示を見に行けないという方も、和歌山の獅子舞について調べてみるのも良いかもしれない。獅子舞のとても奥深い世界にきっと魅了されることだろう。

◯春期企画展 「紀州の獅子と獅子頭」
開催場所:和歌山県立紀伊風土記の丘(和歌山県和歌山市岩橋1411)
開催日程:2021年5月9日(日)まで開催中。
開館時間:9時~16時30分。月曜休館(祝日の場合は次の平日)。
アクセス:JR和歌山駅東口より和歌山バス「紀伊風土記の丘」行き約20分。駐車場もあり。徒歩の場合はJR田井ノ瀬駅より20分。
入館料:一般=190円、大学生=90円、高校生以下・65 歳以上・障害者手帳等を持つ人・県内在学中の留学生=無料(要証明書)

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