冬花火が秘める、特別な魔法
澄んだ空気に冴える、鮮やかな発色。冬の花火は、一般的な花火シーズンとされる夏よりもいっそう、クリアで、シャープな光に感じられる。その理由は、晴れた冬空が星を見上げるのに絶好なのと同じ。空気中の水分やちりが少ない冬は、光がそのきらめきを減退させることなく、まっすぐに地上の私たちまで届くのだ。
これだけでも冬花火は魅力的なのに、もう一つ、特別な「魔法」が冬花火にはある。
会場の後方からカメラを構えた私は今回、冬の長岡花火で身をもって体感することになった。
その魔法とは、寒さのなか肩を寄せ合いながら花火を “待つ” という時間。
むかしの歌にもある「冬が寒くって本当に良かった」という歌詞は、やっぱり本当だ。
冬の寒さには、人と人とを本能的に結びつかせ、心の距離まで縮める魔法が秘められている。
雪国長岡とはいえ、まだ今年最初の雪の華も粉雪も降っていなかったが、待ちに待った長岡花火ウィンターファンタジー2020で私は、とてもとてもシンプルに、魔法にかけられた。
2020年の冬、長岡花火が照らした30分間
12月5日(土)、夕暮れから急激に気温が低下するなか、新潟県長岡市の国営越後丘陵公園の広大な芝生のロケーションに、来場者が傘を片手に花火を待つ。季節になると無数のバラやコスモスが咲き乱れる丘陵公園は、もともと長岡屈指のデートスポット。相合傘の若い恋人たちも多い。
私は開演直前の強風をもろに受け、カメラとの相合傘を早々に失っていたことをひとり悔やんだりもした。傘は、ぼきぼきに折れてしまった。それでも、心はなんとか折れずにファインダーに目を凝らした。前方、椅子席の来場者同様に、私もただ純粋に花火を心待ちにしていた。
夜5時。ついにその時が来て、会場の私たちは静かに花火を見上げた。感染症対策のため歓声は声には出せないことになっていた。その代わり、夜空に打ち上がって行く曲導の軌道に沿って、きっと誰もが、心の中で歓声をあげていた。
プログラムの始まりは、たった1発の花火。幸せの青い不死鳥、ブルーフェニックス。
新型コロナウイルス感染症の早期終息を願い、今も感染症対策の最前線にいる医療従事者へ思いをいたそうと、その青い羽をたなびかせた。この日最大の7号玉の威力をしめやかに見守った。
長岡市の市章でもあるフェニックスは、度重なる戦災(幕末の北越戊辰戦争、太平洋戦争末期の長岡空襲)や震災(2004年の新潟県中越地震)から復興を遂げてきた長岡の街の姿を象徴する型物花火だ。近年、さらに希少で特別なブルーフェニックスが要所で数発のみ打ち上げられており、目撃できた人には幸せが訪れるとも言われている。
2020年、その「青」は新たな意味合いも帯びているのだ。
冬空を埋め尽くす、鮮やかなスターマイン
ミュージックスターマインは、この季節の大定番、マライア・キャリーのクリスマスソングでスタート。続いて、嵐の「Happiness」と「パプリカ」。どことなく2020年の不運を感じさせたが、サビのメロディを虹色に駆け抜けた。見事だった。
ワイドなスターマインだけでなく、花火師さんの打ち上げ方は緩急自在。“ 落ち着いた大人の花火 ”という印象の、ケルティック・ウーマンの「We Wish You A Merry Christmas」。その他にも、直線的に打ち上げるシンプルなスターマインで、大切な日に送る花束がイメージされるものも。
終盤に差しかかり、力強かったのは、B’zの「兵、走る」。
2019年のラグビーW杯の興奮を呼び覚ます、情熱的な赤、赤、赤一色のインパクトを残した。強く歪んだエレキギターのサウンドが、体の芯深くから熱くさせるようだった。
心待ちにしていた楽しい時間も、始まってしまえばあっという間だから不思議。
フィナーレは平原綾香の「Jupiter」に乗せた長岡名物、復興祈願花火フェニックス。まばゆい光で視界を覆い尽くされる圧巻の演出に、あらためて「ひとりじゃない」という歌詞のメッセージが心に響いた恋人たちも多かっただろう。
アナウンスの語り口もクライマックスに近づくにつれ、息が熱くなっていた。
今年は新たに「コロナ禍からの復興」というテーマも加わった。この街の不死鳥はこうやって、きらめく羽を太くしていくのだ。
長岡煙火協会に所属する阿部煙火工業、小千谷煙火興業、新潟煙火工業の県内3花火業者が空中で共演した。花開いた花火は、昨今の地上と対照的に、痛快なほどに過密だった。冬特有の色彩が鮮やかだった。
最後には、ペンライトやスマートフォンなど光るものを手に観客たちが手を振り、感謝のメッセージを花火師たちへ贈る。サンタ帽をかぶった花火師たちも、赤く照らされながら、全身で手を振って応えていた。こういった感謝のやりとりもまた、長岡花火らしい。
2020年の長岡で、30分間の純粋な花火大会を体験できたことが、とてつもなく嬉しかった。
子どもと、家族と、恋人と。それぞれの大切な人と花火を見上げた人たちの表情からは、一緒に花火を見られる機会だけで十分に良かった、という感想が聞こえてきそうだった。
例年であれば広大な会場一帯を彩る大規模なイルミネーションも、2020年はシンボルツリー1本に限定されていた。幻想的な雰囲気とクリスマス気分はお預け。ポジティブに捉えるなら、それによってむしろ、純粋に花火に集中することができた。花火を上げてこそ、という運営サイド・(一財)長岡花火財団の勝負の一手にも感じられた。
楽しみに “待つ時間” こそ、魔法のようなプレゼント
振り返ると、4回目の開催となったウィンターファンタジーは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、県民限定、3000人定員の事前チケット販売の体制で開催された。
開演3時間前の午後2時、公園のゲートにはすでに、花火を待つ来場者が列をつくっていた。まずは、検温と手指の消毒を欠かささずに。後には続々と車で多くの家族連れ、恋人たちが訪れた。それぞれに距離を保ち、スタッフの指示にしっかりと従って。
みんなが自分にできることをして、その上で今楽しめることを、存分に楽しんでいた。
やっぱり、冬花火の魔法とは、“身を寄せ合あいながら楽しみに待っている時間” そのものなのだろう。
こうして、ただ一つの喜びを一緒に楽しみに待つ時間こそが ”プレゼント“ だったのだと、相合傘の下で肩を寄せ合う人々の背中が物語っていた。花火を見上げる「今」という瞬間が現在進行形で、後方のカメラ席にまで輝きを放っていた。それは、なかなかレンズには捉えきれない種類のものだ。花火に加えてその光景がとてもまぶしく、またとないイルミネーションに思えた。
まるでサンタさんが本当にやってくるその夜まで、わくわくとときめきが止まらない日々を過ごす、12月の子どもみたいに。花火の下では、大人だって子どもに還ってしまうのだ。
今夜、この場所で身を寄せ合うように花火を見上げた人々の愛が、健やかに育まれていくことを願ってやまない。そんなふうに見知らぬ恋人たちにもロマンチックな思いを抱くほど、久々に冬花火の魔法にかけられてしまった。
印象的だった寛容さ。花火を見上げる「日常」へ
個人的に、ウィンターファンタジーで印象的だったことがある。
途中、2度ほど打ち上げ開始アナウンスの後に少々の中断が入った。けれどその度に、地元ラジオ局・FM長岡の女性アナウンサーが語りでフォロー。
幸い、どちらも2分もしないうちにリスタートを切ったが、「生きてるといろんなことがありますよね。本当に、特に今年はね」という語りには、深みと貫禄があった。
思えば、ウイルス禍の経験が一人ひとりの下敷きにある今、私自身も、多少のトラブル(傘が折れるなど…)にも動じない柔軟性というか、許容できる器量が広がったようにも感じる。短い中断中の穏やかな会場のレスポンスは、2020年を生きる人々の象徴的な態度を目の当たりにさせた。
この夜の花火会場からは、花火を見上げる「日常」へと向かう、とても前向きなメッセージが受け取れたように思うのだ。
そして、もう一つの冬の長岡花火も忘れてはいけない。長岡まつり会場の信濃川に近い、千秋エリアで毎年2月に開催される「長岡雪しか祭り」だ。
そこでは、長岡まつりの縮小を受けて、街への恩返しをと学生たちがクラウドファンディングで集めたスターマインも予定されている。花火の上がる日常へ、さらに一歩大きな前進をかけた花火が、もう一度冬の長岡の夜を焦がすことだろう。
まだ冬は始まったばかりだ。
お知らせ:放送予定
全国のケーブルテレビ局で放送されている「ケーブル4K」チャンネルで、長岡花火ウィンターファンタジーの放送が決定。
『長岡花火ウインターファンタジー2020 ~冬の花火が彩る 特別な一夜~』
初回放送:2021年1月8日(金)20時~
再放送:2021年1月9日(土)23時~、1月15(金)14時~
番組内容、ご視聴方法は https://www.cable4k.jp/program/11567/