長崎の氏神様として名高い諏訪神社の秋季大祭として、例年10月7日・8日・9日に行われる「長崎くんち」。長崎の歴史や風土を反映し、異国情緒たっぷりの演し物(だしもの)である「奉納踊り」が最大の見どころです。
今年2022年度の長崎くんちは残念ながら中止となりましたが、出島メッセ長崎にて開催される「ながさき大くんち展」では、くんちで用いられる曳き物や担ぎ物が展示されます。長崎くんちを体感できるイベントとなっているので、お祭り好きは必見です。
この記事では、長崎くんちの見どころや起源、「くんち」という言葉の由来などを解説するとともに、「ながさき大くんち展」についても紹介します。
目次
長崎くんちはどのようなお祭り?
長崎くんちは、10月7日の前日(まえび)、8日の中日(なかび)、9日の後日(あとび)の3日に分けて行われます。
前日には諏訪・住吉・森崎の3社の御神体を載せたお神輿が、大波止の御旅所(おたびしょ)へ出発し、後日に本来の奉納場所に還ってきます。その間、諏訪神社をはじめ複数のスポットで奉納踊りや祭典が行われ、長崎市は人々の賑わいと歓声に包まれます。
長崎くんちの開催日以外にも、10日1日にはくんちの始まりを告げる「事始(ことはじめ)神事」と神輿守(みこしもり)町の清祓いが行われ、10月3日には使用する衣装や道具をお披露目する「庭見せ」、リハーサルを行う10月4日の「人数揃」(にぞろい)など、秋の長崎はくんちに関連した行事で大忙しです。
長崎くんちの奉納踊りはどのようなもの?
「長崎くんち奉納踊り」は、昭和54年2月3日に国の重要無形民俗文化財に指定されるなど、古くから歴史的・文化的価値が評価されています。
奉納踊りは当番制となっており、当番の町を踊町(おどりちょう)と呼びます。59の町が5〜7町ごと7組に分かれているので、7年に一度は当番が回って来るということですね。
奉納踊りの練習がスタートするのは6月1日の「小屋入り」から。この日、踊町の世話役や出演者は諏訪、八坂の両神社で清祓(きよはら)いを受け、本番に向けて一致団結します。練習に4ヶ月もかけ、まさに磨き上げられた演し物といえます。
ちなみに、来年度(2023年度)の踊町は桶屋町(おけやまち)、船大工町(ふなだいくまち)、丸山町(まるやままち)、本石灰町(ほとしっくいまち)、栄町(さかえまち)、万屋町(よろずやまち)の予定です。奉納踊りは新型コロナウイルス流行の影響で3年連続で中止となっているので、踊町の皆さんはきっと待ち遠しく感じていることでしょう。
代表的な奉納踊りをご紹介!
奉納踊りは大きく分けて、踊り、曳物、担ぎ物、通り物の4つに分けられます。各町で演じる内容が異なるため、毎年違った演目を見ることができます。
◎鯨の潮吹き
来年度に実施予定の万屋町による「鯨の潮吹き(くじらのしおふき)」は1778年から続く伝統ある演し物。ダイナミックな鯨漁を表現しており、鯨から吹き出す水は4〜5mにも達するそうです。
◎阿蘭陀万歳
栄町によって毎年演じられている「阿蘭陀万歳(おらんだまんざい)」はとてもユニーク。長崎に漂着した二人のオランダ人が生活のために漫才を披露して回る様子を表現しています。南蛮風のカラフルな衣装や中国楽器を用いた演奏など、国際色豊かな長崎の歴史が伺えます。
◎御朱印船
国際色豊かといえば、本石灰町の「御朱印船(ごしゅいんせん)」です。御朱印とは、16世紀末から17世紀初頭にかけて用いられた海外渡航許可証のこと。朱印船に乗って東南アジア各国で貿易をしていた荒木宗太郎が、ベトナム王族の娘を妻として迎え、長崎に帰還するストーリーなんだとか。
◎龍踊り
奉納踊りの代表格ともいわれる「龍踊り(じゃおどり)」も見逃せません。龍踊りを演し物とする踊町は複数あり、町によって演出や登場する龍は異なりますが、ほぼ毎年見られます。初めて奉納された正確な年代はわかっていませんが、江戸時代ごろから続く伝統ある演目です。総勢80名で操られる龍はまるで生きているかのような大迫力です。
長崎くんちはどこで見られる?
長崎くんちは、長崎市をあげて開催されるとても大きなお祭りです。県外から観光客も押し寄せるため、見事な演し物をしっかり見るためには、事前に場所を選んで観覧券を確保しておく必要があるでしょう。
諏訪神社
長崎くんちは諏訪神社の秋季大祭ということもあり、大変人気が高い踊り場です。当日販売の立ち見席1500円から、一マス4人掛けのS席30,000円まで、お値段もピンキリ。踊場正面の長坂は無料観覧席として開放されていますが、事前応募と抽選による「長坂整理券」が必要です。人気スポットだけに、良い席を手に入れるための争奪戦必至です。
御旅所
諏訪神社からお下りになった神様が10月7日、8日の2日間御逗留される場所です。毎年多くの露店が出ており、「お祭り気分」が堪能できるスポットです。4人掛けのマス席があります。
八坂神社
八坂神社では10月8日(中日)に奉納踊りが行われます。踊場と観覧席が近いので、迫力満点の演技を4人掛けのマス席で観ることができます。
中央公園くんち観覧場
交通のアクセスが良い観覧スポット。演し物を間近で観覧できる砂かぶり椅子席1名6,000円が人気です。
庭先回り(にわさきまわり)
各踊町はメインの出番を済ますと、市内中心部の事業所や官公庁、民家などに福をお裾分けに向かいます。短い踊りやお囃子を玄関先や店先、門前等の路上で演じるので、奉納踊りのダイジェスト版が楽しめます。
※場所によっては、観覧券の電話受付や販売がその年の6月頃から始まります。過去の観覧席の詳細や受付・販売日程は公式サイトのこちらのページでご確認ください。
長崎くんちの起源は?
長崎くんちは寛永11年(1634年)に、高尾と音羽という二人の遊女が、諏訪神社神前に謡曲「小舞」を奉納したことが始まりといわれています。その後、この異国情緒豊かで豪華絢爛な祭礼は江戸でも評判になり、長崎奉行の助けなどもあって大きく発展していきます。
しかし、ここには当時の政治的事情も見え隠れします。1549年にフランシスコ・ザビエルが来日して以降、キリスト教は九州地方に急速に広まりました。大村領主の大村純忠が洗礼を受けて日本最初のキリシタン大名になると、領民の多くもキリスト教に入信し、神社仏閣は教会に転用されたり破壊されたといいます。
長崎くんちが始まったのは、江戸幕府によって禁教令が発令された時期。幕府は、長崎の諏訪神社を再興するための一手段として長崎くんちを盛り上げる必要があったのかもしれません。
「くんち」という言葉の由来は?
くんちという名称は「9日(くにち)」からきているといわれています。旧暦の9月9日は「重陽の節句」にあたり、祭礼を催すための良き日として9日が採用されたようです。
重陽の節句は、日本人にはあまり馴染みのない日かもしれませんが、中国ではおめでたい「9」という数字が重なることで古来から縁起の良い日とされてきました。ちょうど秋の収穫を祝う時期であることから、「くんち」や「おくんち」は秋祭りを総称する呼び方になったともいわれています。
長崎くんちの他にも、博多おくんち(福岡県福岡市)、唐津くんち(佐賀県唐津市)など、九州地方に「くんち」の名前が定着しているのは、古くから南蛮貿易や朝貢貿易が身近にあったからかもしれませんね。
今年はじっくり見よう!「ながさき大くんち展」
今年2022年は残念ながら中止となってしまった長崎くんちですが、代替イベントとして「ながさき大くんち展」が開催されます。
長崎くんちに出演する踊町43町の演し物や、曳き物や担ぎ物、傘鉾等が展示されるので、長崎くんちを誰もが「じっくり」見られる貴重な機会となっています。
また、長崎くんちの歴史、料理、刺繍などに関する講演会やトークショー、映像の上映、龍踊りやシャギリ(お囃子のこと)の演舞、紙芝居やクイズ大会などのイベントも盛りだくさんです。
◎ながさき大くんち展
日程:10月7日(金)〜10月10日(月・祝)
時間:10:00〜20:00 ※最終日のみ12:00まで
場所:出島メッセ長崎
入場無料
※詳しい展示内容やイベントスケジュールなどは長崎大くんち展ホームページでご確認ください。
まとめ
長崎くんちは長崎の秋を彩る絢爛豪華なお祭りです。3年連続の中止となってしまいましたが、さまざまな社会情勢や混乱を乗り越え、何百年と受け継がれてきた「くんち」への情熱は失われることはないでしょう。
来年の開催に期待しつつ、今年は家族みんなでのんびり、じっくりと楽しめる「ながさき大くんち展」に出かけてみてはいかがでしょうか。