先祖の霊を慰める、盆踊り。いたるところで行われていますね。現在ではDJやアニメとコラボするなど、日本人の娯楽として楽しまれています。私もここ最近、盆踊りの楽しさに惹きこまれている一人。
盆踊り。
アカペラ。
ミュージカル。
この3つ(私の趣味)の夢のコラボレーションって実現できないのかな…。そんな夢のようなことをぼんやり考えていた日々。そんな時、私はとあるワークショップでとある盆踊りに遭遇します。
それは…長野の阿南町の「新野の盆踊り」。わたしはこの「2時間のワークショップ」で、新野の盆踊りに惹きこまれたのです。ちょっとまって、アカペラ?ミュージカル?こじつけが過ぎない?いえ、きちんとした理由があるんです。
(この記事は2019年に公開されたものを再編集しています。2020年8月5日 編集部更新)
写真:金田誠
1.新野の盆踊りとは
新野とは、長野県の最南部にある阿南町の中でも1番南に位置している町です。
長野県と愛知県の県境にあるのも特徴です。
新野の盆踊りの始まりは、1529年頃に、お祝い事として寺の庭で踊っているのを見た村人たちが、毎年お盆はここで踊るようにしようと、盆踊りが始まったと記録が残っているそうです。
お盆(毎年8月14日から8月16日)に、三日間徹夜で踊られる盆踊りとして知られています。
初めの2日間は21時〜翌朝6時頃まで、最終日は『踊り神送り』という行事もあるので、翌朝7時頃まで開催されます。
民俗学者として有名な柳田國男氏がこの新野の盆踊りを絶賛し、指導まで行ったと言われているそうです。
踊りから神送りの行事まで行われる貴重な新野の盆踊りは、国重要無形民俗文化財に指定されて、今も「新野高原盆踊りの会」を中心に、地域の方々によって守られているのです。
2.銀座NAGANO ワークショップ
私がこの盆踊りの存在を知ったきっかけは、銀座にある長野県のアンテナショップ『銀座NAGANO』で行われたワークショップでした。
SNSでたまたまイベント情報を入手。
長野県のアンテナショップ、銀座にあるんだ。
新野の盆踊り。
新野って、なんて読むんだろう、しんの?あらの?→(にいのです!)
長野県といっても広いからどの辺りの地域のなんだろう。
盆踊りの原型…
踊りの講習付き…
参加費500円…
よし、参加しよう!!!
ということで興味津々、当日向かってみると、満!席!
正直こんなに沢山の方々が参加すると思っていませんでした。
踊り用の扇子も売っており、四種類の盆唄が!実際はもっと沢山の種類があるそうです。
わたしは、これ。
準備万端の中、新野の盆踊りの魅力を紹介するコーナーが始まりました。
中でも私がこのコーナーで印象に残ったbest3。
1.きちんとストーリーがあること。
最終日の明け方に行われる踊り神送りの一連の流れが、ストーリーになっているのです。
2.状況によって、ある盆唄を挟み、踊り子たちの流れを変えること。
音頭取りのタイミングで状況によって盆唄を挟むそうです。
【盛り上げる時】
さあさ、みなさましおれちゃだめよ!
【盆唄を変更する時】
あまり踊りが退屈したに、踊りょ変えますご連中!
3.一切楽器を使わないこと。
10時間もの間、人間の声だけで踊るのです。
ストーリーあって、歌って踊る、音頭取りの盆唄によってみんなの動きが変わる。
これって…ミュージカルだ!
(これは私の勝手な考えです。)
一切楽器を使わず、櫓の中にいる音頭取りの方々に合わせて踊り、音頭取りにはリードボーカル的存在の「皮切り」がいる。
これって…アカペラだ!
(これは公認のようです。)
そしてお待ちかね、踊りの講習。
扇子を持つ踊りと手踊りをそれぞれ教えてくださりました。
私はその中でも、十六という踊りが好きでした。落ち着いた力強さのあるこの振り。
楽器を使わないせいか、どの踊りもとても穏やかな印象。
しかしその後、圧倒されます。
それは、3日間の集大成として、一度しか踊られない「能登」を披露してくださった時です。
今まで穏やかに時が流れていたのに、この時の皆様の力強さは本当に凄かった…!
1番疲れているだろう最後の最後に、この能登が踊られるのです。
皆様の新野の盆踊りに対する愛情、そう熱演がこの能登に込められていました。
気づくと2時間、完全にこの盆踊りの世界にのめり込んでいました。
今回はワークショップであったため、一部分しか体験をしていませんが、実際に新野の盆踊りに参加すると、音頭取りと踊り子の返しによって踊りは進められていくのです。
楽器は使わず、声だけ。
唄で答える踊り。
やっぱりアカペラとミュージカルに共通する部分があると思ってしまうわけです。
3.踊りの種類
切れ目もなく10時間もの間、声と踊りだけで飽きたりしないの?止まったりしないの?
そのような疑問が浮かぶと思います。
では新野の盆踊りは一体何種あるのでしょうか?
新野の盆踊りは7種類の踊りがあり、そのうち6種類は3日間交互に踊られ、「能登」のみ最終日の1番最後に踊ります。
踊り方としては、少人数の時は小さい丸い輪になりますが、人がどんどん増えると細長い輪になっていきます。
扇子を使う踊り(4種類)
「すくいさ」「おやま」
「おさま甚句」「音頭」
手踊り(3種類)
「高い山」「十六」「能登」
飽きがこない理由①
踊りによって進行方向や、扇子の持ち方も変わる!
写真:金田誠
音頭取りがうまく交えて踊りを変えていくのです。
進行方向が変わることで、向かいの景色が変わり、色んな方とご挨拶。昔は合コンのような場にもなっていたとか?!
飽きがこない理由②
それぞれの盆唄に、踊りの始まりと終わりに決まった歌詞があるが、それ以外は決まりはない!
新野の盆踊りはとにかくテンポが重要なのです。基本の盆踊り唄は「七七七五調」。
実はどの踊りにも使える七七七五調の歌詞がストックされているそう。600以上あるとか…!
そこから音頭取りが選んで唄うこと(七七)によって、踊り子が続く唄(七五)を返す。
唄で訴え、唄で応える。
(まさにミュージカルの特徴!!)
飽きがこない理由③
ひとつの踊りは約20分から30分程度!
写真:金田誠
音頭取りがタイミングを見計らい、
音頭取り
あまり踊りが退屈したに
踊りを変えます御連中に
と唄うことで踊りが変わります。
飽きがこない理由④
歌詞がわからなくても、皆が持っている扇子に歌詞が書いてある!
写真:金田誠
近くの方々の扇子を見てどんどん歌詞を取り入れていくことができます。
飽きがこない理由⑤
皆、踊り神に取り憑かれている!
写真:金田誠
これが1番の理由なのでしょうか?(笑)
① 〜⑤により、10時間声と踊りだけで飽きない、止まらない証明ができたと思います。
決まり事としては、必ず盆踊りの始まりの踊りは、『すくいさ』であるということ。
音頭取り
ひだるけりやこそすくいさにきたんに
たんとたもれよひとすくい
踊り子の返し
たもれよたんと
たんとたもれよひとすくい
この掛け合いにより、盆踊りがスタート。
写真:金田誠
そして1日目と2日目は
さあさ皆さまお開きやいかが
明日の仕事のじゃまになる
という唄により、お開き。
3日目は、踊り神送りというクライマックスを迎えるまで、踊り続けます。
ここで、私がワークショップで圧倒された「能登」が初めて踊られるのです。
4.踊り神送りとは
盆踊りだけじゃない。
ちゃんと最後までストーリーがある、それが新野の盆踊りなのです。
写真:金田誠
3日目の夜に、霊を送る行事として、音頭取りの櫓に切子灯籠が飾られます。
写真:金田誠
切子灯籠は明け方になると、櫓から取り外され、切子灯籠を担いだ行列が動き始めます。
行列が動き始めると、いよいよ踊り子たちは「能登」を踊ることが許されるのです。
写真:金田誠
その行列が踊り子の間を通り過ぎると、夏が終わり、秋が訪れることを知らせるため、もう盆踊りを踊ってはいけなくなります。
写真:金田誠
踊り子は、踊り神に取り憑かれているので、「能登」をさらに激しく踊るようになり、小さな円陣を組み始め、踊りが終わらないように、なんと行列の通行の邪魔をするのです…!
その様子は、まさにラグビー。(笑)
写真:金田誠
しかし行列に押しのけられ、踊りが終わると、行列は切子灯籠を積み重ねます。
写真:金田誠
行者はその切子灯籠の前で呪文を唱え、「りん・ぴょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん!」と九字を切り、切子灯籠にスパッと刀を入れます。
その瞬間、その周りにいる者たちは、ウォーーと遠吠えのような声をあげ、花火が打ち上がり、踊り神が送られるのです。
写真:金田誠
その後、切子灯籠に火をつけます。
そしてクライマックスは、踊りに参加していた全員、その切子灯籠を背にして一度も振り向かずに秋唄を歌いながら帰路に着くのです。
写真:金田誠
振り返ってはいけないんです。
振り返ると、一年中踊ってなくてはいけないという言い伝えがあるそう。
踊り神…おそるべし。(笑)
5.アクセスについて
ワークショップの時に、いくつか行き方を教えていただきましたが、ペーパードライバーの私には少しキツイのかな…と思いました。
が、
諦めるのはまだ早い。
こんなツアーがあるそうです!
『名古屋発着1泊2日バスツアー』(※2019年の情報です)
旅行企画:(株)南信州観光公社
https://www.mstb.jp/news/limited/3751/
こちらは最終日の16,17日に参加できるツアーなので、踊り神送りも見れる豪華ツアー。
8:30頃に出発、翌日の15:00に着。
私はこのツアーにいつか参加します…!絶対!
6.新野の他のお祭り
実は新野にはもう一つ有名なお祭りがあるのです。
それは、新野の雪まつり。
http://mg.minami.nagano.jp/group/niinoyuki
マイナス15度の中、夜通し踊るとか踊らないとか…?!
こちらもとても興味が湧きますね!
7.まとめ
こんなに知ったように書かせていただきましたが、実はワークショップの2時間しか経験したことのない新野の盆踊り。
新野高原盆踊りの会の方々のご協力あっての記事なのです。
私が今回1番参考にさせていただいたのは、
『季刊民族学 89』に掲載されていた「長野県新野の盆踊り」という記事。
実は今回ご協力いただいた会員のお一人、小川様の記事だったのです。
とてもわかりやすい…
私が説明しきれていない新野の盆踊りの魅力がもっともっと書かれているので是非皆さまにも見て欲しいです。
残念ながら今年は行く事叶わずなのですが、絶対行きたい、新野の盆踊り。
Shall we dance?(笑)
参考文献
1.公益財団法人八十二文化財団-信州の伝承文化
https://www.82bunka.or.jp/bunkazai/legend/detail/08/post-75.php
2.『季刊民族学 89』第23巻 第3号 通巻89号