コロナ禍では「実際に集まって練習をするのが難しい」と感じる郷土芸能団体の方々も多いだろう。私は全国の団体を取材する中で、このコロナを機に、活動をやめる話し合いをしている場面に何度も遭遇してきた。その度に、どうにか伝承する方法はないだろうか?と頭を悩ませる姿を見てきた。
今回、東北の三陸沿岸で、オンラインツール(ZOOM)を使って郷土芸能を習う「三陸芸能短期留学」という取り組みが行われると聞き、早速申し込んだ。オンラインで郷土芸能を習うことができるならば、伝承の可能性は確実に高まる。このようなご時世だからこそオンラインの可能性を探りたい。1月29日(日)に体験した内容をここではご紹介する。
三陸芸能短期留学とは?
数多くの郷土芸能が存在すると言われる三陸沿岸地域一帯は、「芸能の宝庫」とも呼ばれている。三陸芸能短期留学は、同地域で選ばれた芸能団体の中から興味のある団体の演舞を習い、各団体の担い手との交流を行うことができるプログラムだ。
今回は、青森県の平内 鶏舞、重地 えんぶり、岩手県の角浜 駒踊り、臼澤 鹿子踊、錦町 虎舞、愛宕青年会 八木節の6団体が対象となっていたため、その中から岩手県の臼澤 鹿子踊を習わせていただいた。
※三陸芸能短期留学のホームページはこちら。
臼澤鹿子踊の演舞をオンラインで拝見!
体験には各団体10名の定員が設けられ、郷土芸能に関心のあるアーティストやダンサーなどが参加していた。私自身は普段、踊る機会がないため、少し緊張の面持ちで参加させていただいた。まずは、受講者全員に事前に送っていただいたメールの内容に沿って、15分前にZOOMを立ち上げ音量の調整を実施。事前に音が入っていることを確認しておくことで、受講者も安心して参加することができるのだ。
それから顔合わせなどを済ませ、プログラムが開始された。まずはどのような流れで踊るのかを確認すべく、臼澤 鹿子踊の演目を拝見した。大きくてカラフルな衣装が印象的な臼澤 鹿子踊は動いた姿がとても迫力があり、髪の毛の部分(カンナガラ)がぶわっと左右に揺れ動く様がとても神々しく感じられた。オンラインだと現場の空気感を感じることは難しいが、その躍動感が少しでも伝わってきてよかった。
臼沢 鹿子踊の歴史や活動について
次に臼沢 鹿子踊の起源や歴史、活動内容などをスライドでご説明いただいた。リアルでお話を聞くのと同様に、オンライン上でも問題なく内容が理解できた。話している人の表情を見ながら話を聞くこともできるし、スライドのみの画面にすれば話だけに集中することもできる。場面に応じて画面を切り替えられるのは便利だ。
では今回伺ったお話にも少し触れておきたい。臼澤鹿踊は江戸時代に房州(今の千葉県)から伝わったとのこと。お化けのような被り物であるシシは、鹿をモチーフとしており、約3kgくらいの重さだ。シシの前に立つ刀振りは人間界に害をもたらすシシを止めるような役割がある。相手の領域を侵さないという願いが込められた平和な踊りとのこと。
この団体の拠点であり練習場所となっているのが、1999年に完成した伝承館だ。地元の方々から「うちの土地の木を使って」と木材を提供していただくなど様々な協力を得ながら、保存会の有志が建てたそうだ。
2011年の東日本大震災の際には、民設民営避難所として、120人もの地域の人々を受け入れ、苦しい時を皆で乗り越えた。その年の4月17日には、演舞を行い、地域住民の心の支えにもなったそうだ。郷土芸能が地域にしっかりと根付いていることが伺えるエピソードである。
また、シシの頭から背中にかけて垂れ下がる「カンナガラ」はドロノキという木で作られている。このドロノキの入手が難しくなってきたことから、植林の活動も始めたそうだ。まだ40年かからないとカンナガラに加工できない状態らしいが、植林をしてまで郷土芸能を次の世代に繋いでいこうという計画性と実行力がとても素晴らしいと感じた。
臼沢 鹿子踊をオンラインで習ってみた
歴史や活動について知ったところで、いよいよ、受講生皆でオンラインで踊り方を習った。今回は「通り(お祝いの席だと祝入)」という名前の演目を習った。シシと刀振りのそれぞれの動きを習い講評をしてもらってから、最後に発表会ということでその練習の成果を披露する流れで行われた。
受講生は、シシの幕を持つ感覚を再現するためにタオルと、刀振り用の棒を事前に準備。私は棒がなかなか見つからなかったので、柄が取り外せる箒の柄の部分を用意した。こちらが、私が用意したタオルと棒だ。
教えてくれたのは現役の踊り手たち。後ろを向いて、その動作を見やすく演じてくれた。画面越しに動きを追いかけるように、受講生たちは見よう見まねで後に続いた。こちらはシシの動きを練習している場面だ。
こちらは刀振りの動きを練習している場面。先ほどと比べると動きが複雑で少し難しかったが、少しずつ覚えていく達成感が感じられた。それにしても、担い手の皆さんの動きは無駄がなくて素晴らしいなと思い感心した。
オンライン上で踊りを習ってみて、動きを認識することに関しては全く問題がないことに気がついた。一方で、画面を凝視するので後ろを振り返るシーンについては、対面でやるよりも難しいと感じた。
あとは、成果発表で手本となる担い手の姿がなくなった時に、急に動きが止まってしまった自分がいて、これに関しては自分が踊ることに対して慣れが足りないようにも思えたし、すぐに覚えられる他の受講生の皆さんの技術は素晴らしいと感じた。
また、個室で1人で踊りながらも受講生それぞれが岩手に繋がっているという不思議な感覚を体感できてよかった。
臼沢 鹿子踊の皆さんと交流会
最後に受講生が感想を言ったり、担い手の皆さんに質問したりする交流会が行われた。
「普段の仕事は何をしていますか?」という質問に対しては、「普段は会社員をしています。練習に行けない時、お祭りの前には2~3週間走り込みますし、ダンベルをタオルに巻き、噛んで支えて首を鍛えています。」と答えていた方もいた。各々が本番に向けて精一杯、練習に励んでいることがよくわかった。
また、「男性ではなく女性がなぜ刀振りをするのですか?」という質問に対しては、「昭和の初めまで10人も兄弟がいる担い手もいました。でも今は1軒に1人しか若者がいないような時代です。そのような中で男の若い踊り手が少なくなった一方、女の子が興味を持ってくれました。それで、女子が参加するようになったのです。」とのこと。時代の変化に適応して、担い手の性別も変化したようだ。
オンラインを活用して郷土芸能を伝承
このように三陸芸能短期留学では、遠く離れた場所をオンラインで繋ぎながらも、担い手と受講者が交流し、その踊りが伝承されていくことが実現している。現在、コロナ禍で多くの郷土芸能団体が練習の場をどう確保し、その芸能を次の世代にどう繋いでいくかを考えている。その中で、ZOOMなどのオンラインツールを使って、芸能を次の世代に繋いでいくというのも1つの選択肢であると確信できてよかった。
※三陸芸能短期留学を主催されている三陸国際芸術推進委員会のホームページはこちら。
毎年、9月に行われる大槌まつりや小槌神社の例大祭では、実際に臼沢 鹿子踊の演舞が見られるようだ。興味を持っていただいた方はぜひ、現地に訪れていただきたい。(参考:Japanese folk performing arts 東北文映研ライブラリー映像館)