お祭りには、祭り道具の技術がつきもの。普段はなかなか知ることのできない、祭り道具の裏側に迫ります。
大野弁吉という人物をご存知でしょうか?江戸時代に活躍した日本の発明家で、石川県金沢市を拠点にからくり人形など様々な発明を残しました。この技術は、お祭りの道具に用いられたため、祭り文化を下支えするような存在でもありました。
今回、大野弁吉の作品をはじめとする、からくり技術を用いた作品を展示する博物館「大野からくり記念館」を訪問。体験コーナーが充実しており、楽しみながらその技術を学ぶことができました。
大野からくり記念館を訪れる
大野からくり記念館は海に面した金沢港の一角にあります。車でのアクセスは、駐車場があるので安心です。バスの場合は金沢駅西口、あるいは金沢駅から徒歩5分の「中橋」停留所で「大野」または「大野港」行のバスに乗車し、終点で下車。大野川沿いに徒歩10分~15分のところにあります。
大野弁吉とは?
館内に入ると、まずは大野弁吉のプロフィールの紹介がありました。江戸時代の科学者であり、若くして長崎で理化学、医学、天文、暦数、鉱山、写真、航海学を習得した後、結婚を機に30歳で石川郡大野村(現在の石川県金沢市)に移住。木彫、ガラス細工、塗り物、蒔絵、からくり人形などで数々の名作を残しました。これらの名作は当時、最先端の科学知識を活用したもので、現東芝の創業者で「からくり儀右衛門」と呼ばれた田中久重の技術に匹敵するとされ、天才発明家ということで「日本のレオナルドダヴィンチ」とも言われています。大野からくり記念館には、大野弁吉の作品(撮影禁止)のほか、様々なからくりの技術を用いた作品が展示されています。
楽しみながら、からくりの技術に触れる
そこからは、からくりの技術について楽しみながら知ることができる展示が数多くあったので、その一部をご紹介します。知識なしでも楽しめる仕掛けがたくさんあるので、初めて訪れるという方もぜひ気軽にお楽しみいただきたいです。
からくりパズルで遊べる
「からくりパズル体験コーナー」では、木の台の上に置かれた作品の仕組みを手を動かしながら読み解いていきます。「パズルを完成させるにはどうしたらいいのだろう?」とか、「木箱を開けるにはどこをいじればよいのだろう?」などと手や頭を動かしているうちに、その仕組みに気づいていくのです。
例えばこの作品では、ペンギンを滑らせると、木の箱が開かれるようです。仕組みがわかるとなるほど!と感動します。ペンギンと箱にはマグネットが内部に取り付けられているのです。
こちらは立体的な熊のパズルです。平面ではなく立体なので完成させるのが少し難しいかもしれません。パズルのピースが少ないのが救いです。手を動かしていると、いつの間にか没頭していることでしょう。
スタッフの方によれば、からくりパズル体験コーナーに置かれているものは、定期的に展示替えをするとのこと。リピーターが新鮮な気持ちで楽しめるよう、工夫されているのです。「またパズルを解いてみたい」「今度はどんなパズルがあるかな?」と来館するのが楽しみになりそうですね。
お面の表情が変わる!からくり人形
こちらは人形浄瑠璃に使われる人形です。「子猿」と呼ばれる仕掛け糸があり、それを引くことで美しい女の人の表情は一変します。ここでは、手前にあるレバーを引くことで、その表情の変化を楽しむことができます。それでは、恐る恐るレバーを引いてみましょう。
突然、女の人の表情は一変!歯が鋭く口は裂け、金色の目が剥き出しになりました。角も生えていて、ギョッとする表情ですね。子どもがこれを見たらトラウマにならないか心配ですが、とても面白い仕掛けです。表情の変化に用いられているのはバネであり、その素材がなんとセミ鯨の歯とのこと。そのようなものからバネが作られるのか!と二重の驚きがありました。
1時間に1回のみ!芋掘り長者の物語を上演
また、展示の一角には、約5分間の「芋掘り長者」の実演もあります。1時間ごとに上演となっており、時間になるとお客さんも少しずつ集まり始めます。光に照らされた砂金袋が1つ。さて、これからどんな上演が始まるのでしょうか。
ガタン!という音とともに、からくり人形が動き出して上演が開始。たちまち袋が開かれて、その中にいた芋掘り藤五郎という人物が出てきました。加賀国のお百姓さんです。質素な家に住みながら長者の美しい娘を嫁にもらい、芋掘りをしているときに砂金を掘り当ててお金持ちになる物語でした。椅子に座りながら、物語を聞いていると、とてもほっこりしました。
お祭り文化を下支え!からくりの技術に注目
からくり体験により、たっぷりとその技術や仕組みを知ったところで、それが生活文化にどう応用されたかについても見ていきましょう。
からくりの技術が日本の生活文化に取り入れられていく中で、お祭りに使われる祭り道具にも大きな影響を及ぼしました。屋台、曳山、だんじりなどと各地方で様々な呼ばれ方をする「山車」には、からくり人形が乗っていますよね。
山車にはからくりの技術が取り入れられた
からくり技術はすでに7世紀には日本に伝わっていたようです。中国で戦いの際に迷わないようにするために使われたのが、常に南を指す人形「指南車(しなんしゃ)」です。また、一里ごとに鼓を刻む「記里鼓車(きりこしゃ)」というものもあり、この時に日本に伝わりました。
これがのちに、徳川家康を祀る東照宮の祭礼など、日本各地でからくり人形を中心とした山車祭りの道具に発展したようです。戦いの道具だったものが海を越え、日本ではお祭りの道具に使われるようになったのですね。人間だけでなく、道具にも壮大なドラマがあると感じました。
大野弁吉は獅子頭も作った
からくりの技術が生かされたのは、山車だけではありません。からくり師である大野弁吉は、獅子舞の祭りで使われる獅子頭を制作したことでも知られています。金沢市内には大野弁吉制作の獅子頭が今でも多くの町に残されており、大野弁吉の弟子が制作した獅子頭も見られます。
私自身、金沢近辺で獅子舞の取材をしていると「獅子頭制作といえば大野弁吉ですよね」という声もよく聞きます。金沢市内の石川県立博物館には大野弁吉制作の獅子頭が展示されているので、合わせて訪れてみると楽しめるかもしれません。
お祭りを下支えする、からくり技術に親しむ
大野からくり記念館は体験コーナーが充実しており、お祭りや人形浄瑠璃など様々な文化を下支えする技術を楽しみながら学ぶことができます。また、撮影不可のため今回はご紹介はできませんでしたが、この他にも大野弁吉が自ら制作した作品の数々をご覧いただけます。子どもから大人まで、あるいは郷土史家のような専門家の方まで幅広い方々が楽しめるような展示になっていると感じました。ぜひ興味を持たれた方は、現地まで足を運んでみてください。
◎金沢港大野からくり記念館の詳細
開館時間 9:00~17:00 (入館は16:30まで)
休館日 水曜日、年末年始
石川県金沢市大野町4-甲2-29、TEL:076-266-1311
大野からくり記念館のホームページはこちら。