◆盂蘭盆会(うらぼんえ)と五穀豊穣の神事「佐伯灯籠」
国指定重要無形民俗文化財「佐伯灯籠」
毎年8月14日に行われる「佐伯灯籠」は四社合同のお祭です。
京都府亀岡市の薭田野神社(ひえだの)は男神、御霊神社は女神、その間にできた若宮神社、産土神(うぶすながみ)の河阿神社(かわくま)による「付き合い祭り」からはじまったと考えられています。
写真:薭田野神社近くにある国道佐伯のバス停は神灯籠のような作りになっており、中には人形が飾られている
「宇治の県(※あがた)は男が通う 男寝て待て女が通う 丹波佐伯郷(たんばさえき)の燈籠まつり」、女の夜這いの祭りといわれていました。
※宇治の県祭(あがたまつり)暗闇まつりで、別名は夜這祭
写真:薭田野神社境内 願い事を達成する体力を授かる石の輪くぐりができる
五穀豊穣を祈願する神灯籠
お盆の日に行われる佐伯灯籠は盂蘭盆の灯籠行事と五穀豊穣を祈願する夏祭りでもあります。
薭田野神社では五穀の苗での御霊遷し(みたまうつし)が行われ、その苗を依り代とした神灯籠が氏子地域を巡ります。
写真:平安時代初期 貞観5年(862年)か、鎌倉時代 寛喜元年(1229年)に京都御所 清涼殿より奉納された五基の神灯籠が祭の起源といわれている
千代紙や色紙で作られている素朴な五基の神灯籠。
この手作りの神灯籠はそれぞれ一年間の農事の様子を表しています。
五基の神灯籠の場面
一番…「御能(おのう)」神主と巫女が二人、鎮守の森を表している
二番…「種蒔き」苗代作りから種蒔きまでの様子を表し、人形の足下には籾が散らされる
三番…「田植え」人形のそばには苗入れまで再現されている
四番…「脱穀・臼摺」籾摺(もみすり)の作業やお米と籾殻を箕で分ける様子
五番…「石場搗(いしばつき)」地鎮祭や地ならし、基礎工事の様子
この可愛らしい神灯籠は佐伯灯籠保存会のお母さんたちにより毎年、衣装や飾りを作り直されています。
というのも祭の夜には「灯籠追い」という神輿と押し合いあう激しい神事があるためです。
「みょうねんど、明年度、あれ名残惜しやの」と囃子ながらの激しい灯籠追いが終わると、今度は石場搗唄(いしばつきうた)の「ソオリャヨイト」という掛け声をかけながら本殿前に神灯籠が吊り下げられる「灯籠吊り」が行われます。
灯籠吊りのあとは子供が生まれたり、新築した等のおめでたい家「灯籠宿」に神灯籠は戻ります。
写真:氏子地域巡行をして薭田野神社に戻ってきた神輿
稀少な激しい京都の神輿「灯籠追い」「太鼓がけ」
佐伯灯籠の見どころは神灯籠と神輿がぶつかりあう「灯籠追い」だけでなく、
太鼓に神輿を押し付けて倒すという、猛々しい「太鼓がけ」という神事もあります。
京都市内では神輿担ぎはありますが、このようなぶつかりあうような勇壮な祭は他にありません。
そういった意味でも、とても珍しいお祭りです。
写真:神輿がぶつかると車輪がついた太鼓が一回転する「太鼓がけ」が夜に行われる
◆国内唯一!文楽完成以前の人形
京都御所・紫宸殿(ししんでん)を背景にした台灯籠。
この移動式舞台を使って浄瑠璃を語る太夫、三味線、人形遣いが人形浄瑠璃を行います。
この佐伯灯籠は一人遣いの人形で、文楽完成前の形を残しているといわれています。
20~35㎝ほどの日本一小さな串人形は、京人形の首に竹串(心串/しんぐし)を背中の穴に通した「心串人形」という形式で作られています。
文楽は江戸時代初期の発祥といわれていますが、佐伯の人形浄瑠璃は室町時代にまで遡り、人形の台語りに由来しています。
人形浄瑠璃の演目
京都題材の演目は「桂川連理柵」、「祇園祭礼信仰記」、「仮名手本忠臣蔵」、「大原御幸」…と色々ありますが、佐伯灯籠で上演されている演目は浄瑠璃の有名な作品が多く、初めて見る方でも楽しめます。
上演される演目は勇壮な時代物が好まれ、悲恋の世話物は敬遠されたようです。
2019年に行われた演目
・艶容女舞衣(はですがた おんなまいぎぬ) 酒屋の段
・伽羅先代萩(めいぼく せんだいはぎ) 政岡忠義の段
・絵本太功記尼ヶ崎の段
・傾城阿波の鳴門(けいせい あわのなると) 十郎兵衛住家の段
・御所桜堀川夜討(ごしょざくら ほりかわようち) 弁慶上使の段
・菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅ・てならいかがみ) 寺子屋の段
写真:薭田野神社のすぐそばにある佐伯灯籠資料館にて人形浄瑠璃が行われる
◆受け継がれる稀少な人形浄瑠璃
江戸時代の天保の改革や昭和の後継者不足など存続の危機があった佐伯灯籠人形浄瑠璃ですが、1972年に佐伯灯籠保存会が結成されました。
現在は地域の小学生が10回の練習と2回の発表会を行い、お祭り本番に望みます。
子供たちの人形浄瑠璃はお祭り当日だけではなく南丹広域振興局のイベントなどでも上演されます。
日帰りでも楽しめる佐伯灯籠
亀岡駅構内の観光案内所にある佐伯灯籠のパンフレットが秀逸です。
お祭りの詳しい説明、日程、地図が載っていますので、佐伯灯籠に来る際はいただいてくることをオススメします。
朝からお祭りを見る場合は近くに一休みできるようなカフェやカラオケはありませんので熱中症にお気を付けください。
お祭り当日は薭田野神社に屋台が出ます。
また湯の花温泉の方向に5分ほど歩くとコンビニが一件あります。
夜までお祭りを見る場合は静かな農村地帯のため、タクシーは通りません。
亀岡駅まで戻るバスは1~2時間に一本です。最終バスの時間が早いためご注意ください。
泊りで最後まで祭を満喫する場合は湯の花温泉が便利です。
亀岡市は明智光秀ゆかりの地。2020年の大河ドラマ「麒麟がくる」や京都スタジアムを建設中で注目の場所。
ぜひ一度、お越しください!
※今回は台風が接近していたこともあり、夕方から最終バスのでる19:30までと二時間前後の滞在でしたが、15分ほどの演目を3つほどと薭田野神社に戻ってくる神灯籠やお神輿を見ることができました。
日帰りでも十分お祭りを楽しめます!
◆佐伯灯籠スケジュール
毎年8月14日
10:30 台灯籠当屋で人形浄瑠璃上演
10:30すぎ 各地区奉仕者の灯籠受入宅にて灯籠出発 「石場搗き唄」御出立ち、道中は「伊勢音頭」
12:00~12:30ごろ 輪番区で出発式 伊勢音頭を唱えながら薭田野神社へ
※五輪番半…上佐伯→下佐伯→天川→吉田→山内(鹿谷・柿花・奥条)、太田という地域の順番で毎年持ち回り(2019年は吉田輪番)
12:15 出立ち 「三番叟」 上演
13:00ごろ 薭田野神社 出発式 神輿に実生(みしょう)が依り代として移される
13:30 薭田野神社出発 神輿・灯籠などの巡行 ⇒ 御霊神社へ
14:00 御霊神社祭典/松明行事/御霊神社鳥居前で人形浄瑠璃上演
14:30 御霊神社出発 すべての氏子域の巡行
15:15~15:30 庄屋跡上演
18:00~20:30 佐伯灯籠資料館にて人形浄瑠璃上演 (15分程の演目を複数上演)
18:00 車列が薭田野神社に還幸後、四社の祭事
19:00 三社還幸
※日帰りでバス移動する場合は19:30頃まで滞在可能
21:00 太鼓がけ・灯籠追い・灯籠吊り
23:00 神輿納め 「みょうねんど(明年度)」と唱えながら神灯籠と共に灯籠宿へ帰る
薭田野神社 ひえだの じんじゃ
住所:亀岡市薭田野町佐伯垣内亦1
電話番号:0771-22-4549
アクセス:JR亀岡駅より京阪バスで15分、40番八田線園部行「国道佐伯」下車すぐ
若宮神社 わかみや じんじゃ
住所:亀岡市薭田野町佐伯出山46
河阿神社 かわくま じんじゃ
住所:亀岡市薭田野町柿花宮ノ奥8
御霊神社 ごりょう じんじゃ
住所:亀岡市薭田野町佐伯斉ノ神46
佐伯灯籠保存会
住所:亀岡市薭田野町佐伯西ノ辻9番地1
電話番号:0771-22-3840 薭田野町自治会
佐伯灯籠人形浄瑠璃は出演依頼があれば、どこへでも出演可能。
京都府や亀岡市のイベントや地域の敬老会などでも上演をしています。