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滋賀県・東近江が大凧の聖地である3つの理由。琵琶湖からの風、広い土地、あと1つは?

更新日:2022/6/30 稲村 行真
滋賀県・東近江が大凧の聖地である3つの理由。琵琶湖からの風、広い土地、あと1つは?

凧と聞いてあなたは何を思い浮かべるだろうか?食べ物の蛸ではない、昔遊びの凧である。一見すると、空高くゆらゆらと飛ぶ姿はどこか不思議な生き物にも見える。今ではその姿を見る機会も減ってしまったように思うが、「お正月に揚げたことがある」という方も多いだろう。

凧の文化は日本のみならず、実はアジア圏を中心に、世界中に広がっている。世界の凧を収集し展示しているマニアックな博物館があると聞いて、好奇心の赴くままに滋賀県東近江市にある世界凧博物館 東近江大凧会館(以下、東近江大凧会館)を訪れた。

凧とは何か?起源と歴史

東近江大凧会館について紹介する前に、凧とは何か?について触れておこう。凧は一般的には糸で牽引することで、竹や木などを骨組みとした紙やビニール、布などが空中に浮遊するという仕組みになっている。「大空高く舞い上がる」ことに願いが込められ、玩具や厄払い、科学実験など様々な目的で揚げられる。

凧の起源は定かではない。記録上では紀元前4世紀の中国に遡るといわれており、元々は軍事目的で使用されたともいわれている。これが朝鮮半島を伝って日本に伝来した。日本で初めて凧の記述が登場するのは奈良時代だ。例えば現在の佐賀県・長崎県の地誌にあたる「肥前風土記」には「幡」の名で凧が登場し、天候の異変を察知する道具、あるいは祭具などとして用いたとある。

日本では凧の材料となる和紙や竹が豊富にあったこともあり、紙や竹を使った凧が全国に広まった。室町時代には貴族や武士から庶民へ、大人から子供へと凧の流行が移り変わり、地域に根付いた凧も数多く作られるようになった。

全国各地で呼び方は様々で、江戸時代まではヒラヒラと紙で長い足がつけられた姿形がイカのように見えたため、凧のことをいかいかのぼりと呼んでいたこともあったようだが、あまりの流行ぶりにいか揚げの禁止令が出ると「これはタコです」と対抗したことをきっかけに、凧の呼び名が広がったとも言われる。

今では凧の種類も多様になり、信仰の対象、郷土品、地域の伝統文化、科学研究の材料、スポーツ、アートなど様々な文脈で用いられる。ドローン登場の影に隠れがちだが、空撮のための道具としてカメラを搭載する「カイトフォトグラフィー」という分野もあり、これに関する国際団体まで存在するというから驚きだ。凧の可能性はまさに無限であると感じさせられる。

凧の魅力があふれる東近江大凧会館へ

前置きが長くなってしまったが、東近江大凧会館を訪れた時の様子を振り返っていこう。電車利用の場合は近江鉄道・八日市駅から徒歩15分の場所にあり、駐車場もあるので車でのアクセスも安心だ。連凧を連想するギザギザ屋根の外観が特徴的である。入場料は大人300円、小・中学生が150円となっている。

館内に入ると所狭しと並ぶ凧の数に驚いた。日本及び世界の凧を約600点展示している。人間の大きさをはるかに超えるものから、片手で軽々と持てるものまで大小様々だ。東近江市は全国的にも大凧上げが有名な地域で、この伝統と魅力を伝えていくために、平成3年(1991年)にオープンした。

東近江は大凧の聖地!その3つの理由とは

最も大きい展示品はこちらの100畳の東近江大凧だ!写真下部の椅子の大きさと比較すればどれだけ大きいかを感じていただけるだろう。東近江大凧会館開館のきっかけともなったこの大凧の背景に迫っていきたい。

東近江大凧の起源は、江戸時代中期に子供の出生を祝って揚げられたのが始まりとも言われており、5月の節句の行事とされていた。それが村の行事や、地方・国の慶祝行事など公の催しと結びつき大規模化していった。明治15年(1882年)には240畳の大凧が作られ、これが記録が残る中では最大規模といわれている。

以下の写真を見ていただくと、凧の大きさをより一層感じていただけるだろう。普通、凧といえば凧糸を使って飛ばすが、大凧はこのような「揚げ綱」という綱を使って飛ばさねばならない。こちらは昭和29年(1984年)に220畳の大凧を揚げるのに使った綱である。太さ(直径)3cm、長さ500mとのこと。

展示されている100畳の大凧「心身 健やか」は、例年5月の最終日曜日に行われている東近江大凧まつり(2011年までの名称は八日市大凧まつり)で実際に大空に舞い上がった。揚げ綱のついた大凧を、100人以上もの引き手が心を一つにして走りながら引き、ゆっくりと飛揚する様子は圧巻である。動画でぜひご覧いただきたい。

※動画内に登場する「世界凧博物館八日市大凧会館」は現在の「世界凧博物館東近江大凧会館」のこと。

東近江市でなぜこのような大凧が作られるようになったのだろうか?主な理由として次の3つが挙げられている。
1つ目は琵琶湖方面から凧を揚げるのに適当な風が吹いたから。2つ目は200畳サイズでも揚げられる「沖野ガ原」という広大な野原があったため。3つ目に東近江市八日市地域には中野・芝原・金屋の3つの村があり、大凧の技術を競い合う気質があったからといわれている。

各村の技術を隣村に漏らさないように、大凧を揚げた後は燃やすという習慣からも、負けん気の強い気質を伺い知ることができる。このように大凧揚げの風習は土地の気候や気質と大きく関わってきたようだ。全国的に凧揚げの盛んな地域は海側に多く分布するといわれており、土地の気候や気質との関係性は全国的にみても非常に興味深い。

凧のデザインはどのように決まる?

凧をご覧いただけるとわかるように、一つ一つのデザインが大きく異なっている。このデザインの決め方はその地域によっても異なるようだが、こちらの東近江市の凧の一例をご紹介したい。

東近江市では毎年、成人の日に「祝い凧」「祈願凧」として、大凧揚げを開催するようだ。
例えば平成30年の大凧の柄は、写真の中央左寄りの「犬・サッカーボール・夢の文字」が描かれた凧である。戌年だったので犬を描き、サッカーボールと夢の字を入れることで、「夢わん(犬)さか(サッカーボール)」という謎解きの判じ物が隠されている。成人を迎える若い人々に、夢をたくさん持ち、何事にもチャレンジしてほしいという願いを込めたようだ。

日本全国の凧を一度に見られる

東近江市の凧以外にも、北海道から沖縄まで、日本各地に様々な魅力的な凧が存在する。例えば、こちらは北海道の凧だ。
北海道の凧は津軽出身の漁師が礼文島に移住した際に観光客相手に販売した「礼文島凧」と、北海道独自の郷土凧として創作された「蝦夷凧」や「五稜郭凧」などの2種類に大別されるようだ。北海道や青森は竹がとれないため、ヒバの木で骨組みを作ることが多いという。よく見ると「大漁」と書かれた「いかのぼり」が本当にイカのような形をしていて興味深い。

こちらは阿波(徳島県)の奴凧だ。阿波おどりの人物を凧に仕立てたといわれている。現在、生産の大半はビニール凧になっているそうだが、その中でも伝統的な奴凧が作られているようだ。大きく手を広げ、鋭い目をした奴さんのデザインがとても印象的である。

世界各地の珍しい凧の数々も!

日本以外の世界各地にも凧は存在する。日本よりも歴史が古い韓国の凧に関して、7世紀の記録が残されている。

新羅の真徳女王(シンドッヨワン)に対する反乱軍の鎮圧を、将軍・金庾信(キン ユシン)が行うことになった。しかしある日、女王のいるお城方面に流星が落ちてきたのを、兵士たちは不吉に感じ士気が下がってしまう。それを憂いた将軍は、火をつけた藁人形を凧に括り付けて空に揚げるという策を講じた。これを見た兵士たちに「昨夜の流れ星が天に戻った。真徳女王が戦いに勝つ吉兆だ」と思わせて士気を上げ、反乱軍に大勝したそうだ。

韓国の凧は「合戦凧」ともいわれ、お互いの凧の糸を切り合うという特徴がある。12月~1月にかけて行われ、厄払いなどの意味を込めて行われるようだ。風圧を少なくするため、あるいは大凧の操作性を良くするために、中心部に穴が空いているなど、機能性も高い。

色鮮やかな蝶、トンボ、鳥の形をしているのは、インドネシアの凧だ。これらは愛知万博にも展示されたもので、生き物たちがモチーフとなっているのが特徴だ。そのほかにコウモリの形をしたものや、バナナの木を使って作られた木の葉の形をした「カガデイ凧」などもあり、インドネシアの凧はバラエティに富んでいると感じた。

東近江大凧会館で凧の世界にどっぷり

このように、東近江大凧会館には凧の奥深い世界を堪能できるバラエティ豊かな展示が満載だ。凧といわれて思い浮かべるもののはるか先をゆく、「こんな凧もあったの!?」という驚きと感動を得られるに違いない。人間が空を飛びたいとか、天に近づきたいなどの想いを形にする最も原始的な方法の1つとして、凧が存在していたようにも思えてくる。それは紀元前にも遡る凧の歴史が教えてくれることだ。

東近江大凧会館には、この記事では紹介しきれなかった見どころも多くある。こちらは凧に関する映像を見られる部屋だ。

また、こちらのようにミニチュアサイズの凧や缶バッジのお土産も見られた。事前に予約をしておけば300円で凧作り体験もできる。凧を実際に作ってみることで、より理解を深めることもできるかもしれない。

詳細は下記の情報やホームページを参考にしていただきたい。
自分のお気に入りの凧を見つけながら、ぜひ凧のマニアックで奥深い世界へどっぷり浸ってみてはいかがだろうか?自分の関心事ともどこかで繋がって、世界がさらに広がって見えてくる面白さもあるだろう。

◾️世界凧博物館 東近江大凧会館
【開館時間】 午前9時から午後5時まで(入館は午後4時30分まで)
【入館料】一般:300円 小中学生:150円
※団体(20名様以上)は一般:250円 小中学生:100円
【休館日】水曜日、第4火曜日、祝日の翌日、年末年始(12月28日〜1月2日)
詳細はこちらのホームページからご確認ください。

この記事を書いた人
オマツリジャパン オフィシャルライター
日本全国500件以上の獅子舞を取材してきました。民俗芸能に関する執筆、研究、作品制作等を行っています。

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