2025年4月の開幕に向け、大阪府・大阪市を中心に着々と準備が進む「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、世界から2820万人の来場が予想されている一大国際イベントへの期待が高まっている。今回の万博の特徴の一つが、多様な参加形態が準備されていること。中でも多種多様な主体がつながりあい、理想の未来社会を構想する「TEAM EXPO 2025」プログラム(以下、「TEAM EXPO 2025」という)は、「参加型の万博」を体現する取り組みだ。プログラムを主導する2025年日本国際博覧会協会機運醸成局の柴原さんと巣山さんに話を聞いた。
(特記なき写真:高橋昴希)
公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会 ”いのち輝く未来社会のデザイン”
機運醸成局企画部 共創推進課
柴原佳孝氏(写真右) 巣山広大氏
「万博」は世界最大級の国際イベント
――いよいよ大阪・関西万博まで600日を切り、一般の人々の関心も高まってきました。まずは改めて国際博覧会とはどんなイベントなのでしょうか?
柴原 1851年にイギリス・ロンドンで行われた「万国工業博覧会」という名のイベントが世界初の万博とされています。このイベントは西欧を中心に工業化が進展する中で、新技術や新製品の紹介・展示を目的とした催しで、以降の万博にも「国の産業力の競技場」という側面がありました。
しかし、近年の博覧会では単に最先端技術のデモンストレーションだけが目的ではなく、環境問題や人権、国際協力といったグローバルな問題に焦点を当て、世界共通の課題に対して協調しながら解決策を模索する場になっています。
2021年に開催されたドバイ万博には約2300万人が来場しています。単純に比較はできませんが、同時期の2022年サッカー・カタールワールドカップの観客動員数が約250万人ですから、来場する人の規模で言えば、万博は世界最大級の国際イベントと言えます。2025大阪・関西万博には、現時点(2023年7月末)で世界153カ国・地域、8つの国際機関に参加表明をいただいており、およそ2820万人の方々にご来場いただく目標になっています。
――日本はいつから万博に参加しているのですか?
巣山 幕末の1862年に、日本の遣欧使節団が第2回ロンドン万博を視察しています。使節団にはあの福澤諭吉もいて、万博を「智力工夫の交易を行うが如し」と評しています。
日本が初めて出展したのは1867年のパリ万博です。明治維新前夜とあって、徳川幕府、佐賀藩、薩摩藩の3つがそれぞれ自国産物を出展していました。この時、出品されたのは葛飾北斎の浮世絵や磁器、工芸品などで、和装の女性がお茶を淹れる展示もあり、美しい着物は来場者の人気となったそうです。また浮世絵をはじめとした日本の芸術品が紹介されたことで、ヨーロッパで日本趣味を意味する「ジャポニズム」が起こるなど、万博は、非常に影響力の大きなイベントであったことがわかります。
――記念碑的な1970年大阪万博をはじめ、これまでに日本でも何度も万博が行われていますね。
柴原 はい。かつては開催期間が決まっていなかった万博ですが、現在では5年以上の間隔で、前回のドバイ万博、そして2025年大阪・関西万博といった「登録博覧会」と呼ばれる規模の大きな博覧会が開催されています。
これまで日本で行われた登録博覧会は、1970年の大阪万博、そして2005年の愛・地球博(愛知県)の二つ。その他、1975年の沖縄海洋博、1985年のつくば博、1990年の大阪園芸博は「認定博覧会」と呼ばれる大会が行われました。
ところで、実は1940年にも東京・横浜が会場になる万博が計画されていたのをご存知ですか?
――そうなのですか?それは知りませんでした。
柴原 実際に入場チケットを販売するところまで準備が進んでいましたが、1938年に日中戦争の勃発で中止が決まりました。東京・中央区の勝鬨(かちどき)橋はこの万博のために建造された橋で、各国ゲストを迎え入れるメインゲートでした。
そして、幻となった東京万博の入場チケットですが、その後の1970年大阪万博や2005年の愛・地球博でも入場券として使えたそうです。
万博で披露されてきた「お祭り」
――とても興味深い話でした。さて、東京オリパラの記憶も新しいですが、こうした国際イベントの際、日本の文化の象徴として、あるいは歓迎の表明として「お祭り」が披露されています。万博と「お祭り」の関係についても教えてください。
巣山 日本開催の万博では、1970年の大阪万博に始まり、さまざまな形で「日本のまつり」の力を借りて日本文化の紹介やイベントを盛り上げてきた歴史があります。
また、海外開催、例えば2010年上海万博では、日本館において日本の四季を表現する中で、夏の風物詩として青森のねぶたが披露されました。
また2015年ミラノ万博のジャパンデーという催しでは、東北の6つの祭り(青森ねぶた祭、秋田竿燈まつり、盛岡さんさ踊り、山形花笠まつり、仙台七夕まつり、福島わらじまつり)と、JA福島グループによる福島の4つの祭り(二本松木幡の旗祭り、いわきじゃんがら念仏踊り、郡山うねめまつり、会津彼岸獅子舞)が、東北復興支援に対する感謝と東北の元気を伝えるためにパレードを行い、大好評を得ました。
――2025年大阪・関西万博でもお祭りがフューチャーされる可能性はありますか?
柴原 残念ながら現時点では具体的な企画を公表できないのですが、個人的な意見として、お祭りというものが日本の文化の結晶であることは間違いないと思っています。
一方、私たち機運醸成局が進めている「TEAM EXPO 2025」では、日本各地のお祭り団体様にも加わっていただいて、2025年に向けてすでに取り組みを進めています。
「TEAM EXPO 2025」で誰もが万博に参加できる!
――「TEAM EXPO 2025」について詳しく教えてください。
柴原 まず、2025年大阪・関西万博のメインテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」、サブテーマは「Saving Lives(いのちを救う)」「Empowering Lives(いのちに力を与える)」「Connecting Lives(いのちをつなぐ)」の3つです。そして、大会のコンセプトとして掲げられているのが「Peopleʼs Living Lab(未来社会の実験場)」、これを端的に言うと、未来社会はどんな社会なのかみんなで考えようという呼びかけなのです。
これまでの万博では、さまざまな国のパビリオンを見る、というのが基本的な楽しみ方だったわけですが、2025年大阪・関西万博では「参加型万博」、という点も大きな特徴になっています。
そして、このコンセプトを体現するプログラムの一つが「TEAM EXPO 2025」。会期前の現在も進行中で、SDGsをはじめとするグローバルな社会課題に対して今現在解決に向けて取り組んでおられる多種多様な企業・団体が、その取り組みをこの「TEAM EXPO 2025」という場で共有しながら、より良い未来社会を共創していこうというプログラムです。そして、万博の会期中には各団体の成果を万博会場で世界に発信します。
――参加する団体は現在どのくらいの数なのでしょうか。
巣山 「共創チャレンジ」と呼ぶ、万博のテーマやSDGs達成へ向けた活動の総登録数は、現時点(2023年7月末)で1283件、自らのリソースで共創チャレンジを生み出し、他のチャレンジを支援する団体である「共創パートナー」は、327団体になっています。
柴原 「TEAM EXPO 2025」という場の中で、こうした未来を作ろうとする仲間との出会いがある点も強調してお伝えしたい点です。それぞれの取り組みが、プログラムの中で出会い、さらに新しい取り組みを共創していく、これが参加していただいた皆さんにとって大きなメリットになるのではないでしょうか。
ここまでお話ししたように、万博は屈指の国際イベントです。その大きなイベントで自分たちの取り組みを発信すれば、大きな注目を集める可能性があります。いわば万博を通じたブランディングが可能になるということです。
ぜひ、皆さんが社会課題の解決に向けて取り組んでいることを、この「TEAM EXPO 2025」を通じて発表していただきたいのです。
――「万博会場で世界に発信」とおっしゃいました。具体的にはどういう形になるのでしょう?
柴原 「TEAM EXPO 2025」の取り組みの発表の場となるのは、2025大阪・関西万博会場となる「夢洲(ゆめしま)」の一画に設置予定の「フューチャーライフエキスペリエンス」です。
ここは「未来の生活の体験」ができる場で、「未来のヘルスケア」「未来の食」「未来の行動」についての展示・発表が行われます。
「TEAM EXPO 2025」が実行しているのはまさに「未来の行動」。つまり、インターネットをはじめとする通信・コミュニケーション技術の進展で、今までつながることのなかった人やモノなどがつながる世界で、この新しい行動による出会いによって新しいものが生まれることを検証・実験してみようという試みです。
巣山 万博会場での展示・発表の形としては、2つのメニューを用意しています。一つは、1日ブース出展+準備も含めた30分のステージ、というもの。もう一つはステージのみで1.5時間。前者は20万円、後者は30万円の参加料金を予定しています。
ステージでは世界からやってくる大勢の来場者に向けて広くアピールできます。ステージのみのメニューは、夕方からのスケジュールになっており、夕暮れのよい雰囲気のなかで公演ができるイメージです。
その他、展示・発表内容についての規約や規制は、今後の万博会場全体のレギュレーションが取り決められる中で決まってくることになります。
――誰もが万博に参加できるというのは大変貴重な機会です。当メディアの読者であるお祭り関係者・団体も、万博会場で伝統文化の継承・発展への取り組みを世界に発信することができるわけですね。
柴原 お祭りは、日本人の考え方の縮図というか、伝統文化の結晶だと思うのです。万博のステージで生き生きとした「お祭り」が見られるとあれば、万博を訪れる世界の方々に大きなインパクトを残すと思います。
実は私自身も毎年地元のお祭りに参加して神輿をかつぐのを楽しみにしておりますが、お祭りって、見るだけじゃなくて参加ができる。そして参加すれば人と人がつながることができる。これは、ここまでお話ししてきた「TEAM EXPO 2025」のコンセプト、ひいては万博全体のテーマに通じるものだと思っています。
参加者同士がつながり、会場で来場者ともつながっていく。この体験が世界に広がって、世界中でお祭りをきっかけにした新しいものが生まれることになったら、こんなに素晴らしいことはないと思うのです。
万博は一つのお祭りです。「TEAM EXPO 2025」を通じて、みんなで作り上げるこのお祭りに参加し、万博の主人公になっていただきたいと思います。ぜひ一緒にこのお祭りを盛り上げていきましょう。
――本日はありがとうございました。
<profile>
柴原 佳孝(しばはら・よしたか)
1975年生まれ。2023年5月より現職。
巣山 広大(すやま・こうだい)
1984年生まれ。2022年5月より現職。