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「戸畑祇園大山笠」を支えているものとは?今年の当番山の総監督の言葉に滲む地域への深い愛情

更新日:2024/3/5 yukiko
「戸畑祇園大山笠」を支えているものとは?今年の当番山の総監督の言葉に滲む地域への深い愛情

祇園祭といえば、京都。誰もが知るお祭りだ。疫病が流行していた平安時代の京都で、疫病退散を願い、スサノオノミコトに祈願したのが起源とされている。しかし「祗園」と名のつくお祭りが、実は全国各地に存在しているのをご存じだろうか。

今回紹介する九州の戸畑祇園大山笠(とばたぎおんおおやまがさ)も、祇園祭の一つだ。疫病で苦しんでいた戸畑村の人々が、ご祭神・須賀大神(スサノオノミコト)に祈りを捧げると、村に平癒がもたらされたという。そして、疫病退散を祝った村人の姿は、現在の戸畑祇園大山笠の見せ場として継承されている。

※戸畑祇園大山笠の「祇」という文字は正式には「ネ氏」ですが、この記事では多くの端末に表示される「示氏」を使用しています。あらかじめご了承ください。

猛き者たちが巨大山笠を築き上げる戸畑祇園大山笠

戸畑祇園大山笠、幡山笠、東大山笠

国の重要無形民俗文化財、福岡県の夏の三大祭り、そしてユネスコ無形文化遺産に登録。この実績は、京都の祇園祭のものではない。しかし、京都の祇園祭と起源を同じくする戸畑祇園大山笠のものだ。多方面から評価されている戸畑の祗園祭の特色は、「鉾(ほこ)」ならぬ巨大な山笠。この山笠は、昼と夜とで姿を変える。

東大山笠、西大山笠、天籟寺大山笠、そして中原大山笠の4基の大山笠は、昼間は12本の大幟を立てる幟大山笠、夜間は309個の提灯で提灯大山笠を作る。華やかな旗の装飾から一変、光のピラミッドとなるのだ。

メイン行事の競演会では、4基の大山笠の他に中学生が担ぐ4基の小若山笠の合わせて8基が、一斉に昼から夜の姿へと変わる様子を実際に目の前で見ることができる。そうして完成した提灯大山笠が「ヨイトサ、ヨイトサ」と力強い掛け声に合わせて、進んでいく姿はまさに圧巻だ。

今年2023年は7月21日(金)~23日(日)に開催される戸畑祇園大山笠で、4基の山笠がコロナ禍以降初めて揃う。そこで、今年の当番山となる東大山笠の総監督・森貴志さんに、戸畑の祇園祭の隠された魅力や東大山笠の独特な歩み、そして、総監督としての想いなどを伺った。

東大山笠の今とこれからを作るお祭り愛と独自の工夫

――森さんが総監督を務めている東大山笠について教えてください。

森さん:山笠は約80~100人くらいで担ぐのですが、東大山笠には約1400人も担ぐ人員がいて、4基ある山笠の中で一番人数が多いんです。大所帯で大変なこともありますが、東大山笠はすごく良い雰囲気でやれていると感じています。

――それはなぜだと思いますか?

森さん:山笠の担ぎ手である「担ぎ方」たちが所属する会が10団体あります。山笠の中でも東大山笠だけのルールなのですが、担ぎ方の人たちは、この会に所属していないと山笠を担ぐことができません。
ただ、この会には同級生や友だちが一緒になって入る場合が多いです。条件である会への所属は一方で、メンバー間の繋がりや信頼感も芽生えやすい環境作りになっているのではないかと思います。

――会への所属は、東大山笠のチームワークを作っているんですね。

森さん:その他にも、担ぐ棒の位置も会ごとに決まっています。会でまとまった担ぎ方たちが、一つひとつの棒に責任感を持ち、力を入れている姿からも、この規則の価値を感じていますね。

――観賞者の視点ですが、担いでいる位置が固定していると写真や動画も撮りやすそうですね!

森さん:そうですね。ただ、山笠自体かなり激しいので写真が撮れる状態ではないと思います(笑)

戸畑祇園大山笠の東大山笠、総監督の森さん山笠の先頭を行く総監督の森さん

――東大山笠は、一般社団法人化もしているそうですね。お祭りの団体としてはかなり珍しい取り組みではないでしょうか。

森さん:そうですね。法人化しているのは4基の山笠のうち東大山笠だけです。例えば、東大山笠では、いただいたご祝儀の金額やご祝儀の使い道などの収支報告書をすべて作成し、各自治会の皆様や各会に説明しています。メンバー以外の人たちにも、東大山笠がどのような団体なのかを把握してもらえるきっかけにもなっています。
法人化することでやるべき仕事が増え、大変なことも多いですが、自治会を始め地域の方々と良いコミュニケーションを築いていくための一歩だと思っています。

――異例とも言える法人化の選択は結果として良かったと感じていますか?

森さん:法人化して良くなかったと思うことはないですね。特にコロナ禍では、お祭りが開催されませんでした。この時期にこの地域に引っ越してきた人たちは、やっぱり戸畑祇園大山笠のことを全然知らないんですよね。
そういう人たちにも、法人化していることできちんとした団体だと信頼してもらえるよい機会になると思っています。

――法人化の決断は、伝統あるお祭りを次の世代に引き継ぐという、より大きなテーマに繋がるようにも感じます。

森さん:僕もそう感じています。法人化当初は、もちろん批判的な意見もありました。でもより先の10年後、20年後を見据えた試みとして、子どもがどんどん増えていったら嬉しいですね。

「山笠に出れんでもいいけど、お前には総監督をやる」

――森さんが過去に大病を患ったことを伺いました。

森さん:はい。2018年の11月に急性骨髄性白血病になりました。そこから6か月間の抗がん剤治療を終えて、翌年の5月に退院しました。病気になる前の山笠の時に、総代表から来年は総監督をする準備だと言われていたんです。

――退院してたった数か月でしたが、2019年の戸畑祇園大山笠への参加を迷われることはありませんでしたか?

森さん:いえ、全然ないですね。総代表からは「山笠に出れんでもいいけど、お前には総監督をやる」と言われましたね。退院して2ヵ月だったので、僕も15キロぐらい痩せちゃいましたし、髪の毛も全部抜けて、やっと動けるような状態でした。
結局、戸畑祇園すべての行事を歩き切ることはできなかったのですが、山笠の運行に一緒に歩かせてもらったり、大事な神事に参加させてもらったりして、初の総監督としての参加が叶いました。

――ご家族や身近な方たちからはどのような反応がありましたか?

森さん:参加にはめちゃくちゃ反対されましたね(笑)総監督なので、基本的に担いだりすることはないのですが、無事に最終日までやり遂げることができました。今まで参加した戸畑祇園大山笠の中でも特別な年でした。

最後の総監督、今までとは違う東大山笠を思い描く

――山笠の運行を映像で拝見して、けっこうなスピードで進んでいくことに驚きました。

森さん:これは強調しておきたいのですが、簡単に運行しているように見えて、実は山笠はものすごく重たいんです。夜の姿の提灯山笠だと、高さは約10m、重さが2.5トンもあります。でもだからこそ、担ぎ方たちが棒を落としそうになった時の踏ん張って担いでいる姿、あるいは棒を落としてしまってすぐに山笠をあげようとしている姿は、見どころでもあります。担ぎ方の人たちの絶妙なバランスで重たい山笠が保たれているんだということが感じられると思います。

――ものすごい高さになる山笠を、担ぎ方の人たちが苦労しつつも担いでいく姿は迫力がありそうです。

森さん:それと、山笠は見た目が華やかなだけでなく、4基の山笠それぞれ組み立て方も違うんです。提灯山笠に姿変えする速度を競う競演会では、山笠が作り上げられるプロセスの違いを比べてみてほしいですね。
また、山笠と同じくお囃子も4~5種類あり、4基とも音色が違います。各山笠のお囃子を聞き分けながら、それぞれの曲調を楽しめると思います。

大山笠の五段上げ、提灯山笠昼の幟山笠から夜の提灯山笠へ

――4基の山笠が一同に揃うのは、コロナ禍以降は初となりますね。東大山笠のみなさんとはどのようなお話をされましたか?

森さん:ほぼ4年やっていないに等しいくらいなんですけど、何ですかね。若い子たちに話したことは、今年はもう、昔を思い出しながら頑張ってやろうということと、失敗しても今年は怒らんということ。
そして「今年は、戸畑祇園ってやっぱりおもしろいねっていう年にしよう」というのが僕から東大山笠のみんなに対しての言葉です。

――今年は東大山笠のみなさん自身が楽しんでいる、ある意味、初々しい様子が見られそうですね。

森さん:昔は、戸畑祇園を毎年成功させることが当たり前でした。でもさすがに3年以上全体を通してのお祭りをやっていなかったら、ままならないこともあると思います。おそらくみんなで「あんなやったかねー」なんて話し合いながら。周りから見たら「えらいもたついとうね」と思われるかもしれません。でもそれでもいいと思っています。

――最後に、お祭りを楽しみにしている方々へのメッセージや、森さん自身の意気込みをお願いします。

森さん:戸畑祇園大山笠は、夜の提灯のイメージで「提灯山笠やろ?」って言われることが多いです。でも、夜だけでなく昼間の山笠も綺麗なんですよ。かっこいい刺繍が施された幕などの装飾もすごく華やかです。戸畑祇園大山笠は、派手さの魅力もありつつ、細部も楽しめるお祭りだと思っています。

また、メインの山笠の運行ではないので、なかなか注目されにくいのですが、宮司さんにお祓いしてもらったり、御霊(みたま)を乗せてもらったり、お返ししたりなどの神事も見ていただきたいです。Youtubeなどではほとんど見られない部分です。山笠が運行する時は、戸畑弁の結構きつい言葉が飛び交うんですが、山笠とは違う、しずかで真剣な様子もなかなか貴重な場面だと思います。

そして僕自身が今年で最後の総監督です。体調も回復しているし、コロナも5類になりました。総監督として、やっと普段通りにできる最後の年です。先ほども言ったように、やっぱり楽しい戸畑祇園を作り上げたいな、というのが一番にあります。

「お祭り最終日の夜、楽しかったねってみんなで言い合えればいいね」といつも話しているんですよ。

戸畑祇園大山笠

4基の山笠を初めて見上げる人々は、戸畑弁が飛び交う中、誰よりも担ぎ方たちが楽しんでいる姿に何を思うのだろうか。荒々しさの中に隠された、戸畑祇園大山笠の男衆たちの純な想いが、コロナ禍以降の人との繋がりの光になってほしいと強く願う。

この記事を書いた人
オマツリジャパン オフィシャルライター
エンタメ、ライフスタイル、フランス関連と幅広く執筆中。ライター活動を続ける中で、日本の文化史や民俗史に魅了され、オマツリライターに。

生活の延長線上に、あるいは重なって存在するさまざまな日本の”祝祭”を届け、日本の魅力と出会い直すきっかけを作る。

パリで見た阿波踊りが印象に残っている。

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