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2023年開催! 漁業民の先祖を、厳かに、にぎやかに送る風流踊 「対馬の盆踊」(ユネスコ無形文化遺産

2023/10/2
2024/3/5
2023年開催! 漁業民の先祖を、厳かに、にぎやかに送る風流踊 「対馬の盆踊」(ユネスコ無形文化遺産

島の約9割を山林部で占めるという雄大な自然や、国の天然記念物に指定された「ツシマヤマネコ」、また最近では『Ghost of Tsushima』(ゴースト・オブ・ツシマ)という人気海外ゲームの舞台ともなり注目を集めている対馬(長崎県対馬市)。

九州と朝鮮半島の間に位置するこの地域には、「対馬の盆踊」という郷土芸能が継承されています。2022年には、日本各地に伝わる「風流踊」の一つとして、ユネスコ無形文化遺産にも登録されました。今回は、そんな対馬の魅力の一つである「対馬の盆踊」を、実際の行事の模様とともにご紹介します。

衰退と復興の歴史をたどった対馬の盆踊

沖縄の本島と北方四島を除くと、佐渡島・奄美大島の次に大きい対馬。「対馬の盆踊」の舞台ともなるこの島へは、博多からフェリーや飛行機の便が出ています(長崎からプロペラ機の便もあり)。博多港から対馬の港までの航路が132キロで、韓国から対馬までの直線距離が49.5キロ。「国境の島」とも呼ばれるこの島は、江戸時代には朝鮮外交の拠点となり、日露戦争時には戦(いくさ)の前線となった歴史があります。

時代はさらに遡り、室町時代。「対馬の盆踊」は、この時代の念仏踊りが起源とされています。また明治の末ごろまで、80を超える地区で盆踊りが踊り継がれていたことも記録に残されています。

その後、高度経済成長期により若者が島を出てしまったりなどで、盆踊りは一時激減しまいましたが、1950年代後半ごろ、外部の研究者による対馬の盆踊りの調査が行われたことで、その価値が再評価されるようになりました。

そして現在、対馬市では「厳原町曲(まがり)」と「厳原町曲阿連(あれ)」、「峰町三根上里」と「峰町吉田」の4地区で踊り継がれています。今回は厳原町曲で行われた盆踊りを見学させていただきました。

対馬の盆踊、曲(まがり)地区の港曲の港にこぢんまりと飾られた提灯

二つ扇を手に先祖を思う、曲(まがり)地区の人々

祝言の扇子踊、物語形式の手踊、太刀・杖などを持って踊る採り物踊、笹竹に色紙などをつけたエヅリを振るエヅリ作法など、踊りの種類が豊富な「対馬の盆踊」。曲地区では、「二本扇踊り」という二本の扇を用いる踊りが奉納されます。

最初に、曲地区の先祖が眠る墓地の真ん中で、「二本扇踊り」が最初に納められます。「盆踊り」と聞いて一般人がまず思い浮かべるのは、男女が輪をつくって踊る光景でしょう。しかし対馬では、男性のみがこの行事を担います。また、輪になるのではなく、”二列縦隊”を組み踊ります。これらは「対馬の盆踊」の大きな特徴となります。

対馬の盆踊、お墓の前で踊りを奉納する男性たち

力強く舞う法被姿の男性たち。8人の踊り手たちは、ジューテー(地謡)と太鼓に合わせて、ゆっくりと、そして厳かに舞い続けます。

左手に三つ雲、右手に日の丸の扇を手に、一つひとつの所作に対して一所懸命に。先祖供養の意味合いが強いという、曲地区の盆踊。それは踊りの所作からも十分に伝わるものでした。

対馬の盆踊お墓の場所から見えた美しい夕焼け

専業漁業民だった先祖が生き抜いた証

墓前で舞いを納めた後は、曲地区の中心部である港でも、再度同じ舞いを披露します。お墓での踊りと違い、港では多くの住民たちが見守っていたのが印象的でした。

対馬の盆踊

踊り手には、10代や20代の青年も含まれています。墓地で披露された踊りと同じものであるため、これもまた、先祖を思う踊りに違いありません。しかし、息子や孫が踊る姿を見届けようとする人たちのあたたかな視線からは、先祖供養の思いだけでなく、地域住民同士の繋がりをより強く感じることができました。

踊り手たちを見守る人々

厳原町曲の集落は、1243から47年ごろに福岡県筑前鐘崎から移住してきた人たちによって築かれたとされています。専業漁業民であった先祖たちは、見知らぬ土地で結束して生き抜いたことでしょう。

踊り手たちや見守る人々の姿からは、曲地区の起源が思い起こされました。

手を振り、ペンライトを振り、花火を上げる精霊流し

曲地区の盆踊りの締めくくりは、精霊流し。かつては精霊船を直接海に流していましたが、環境面への配慮から、近年では精霊船を漁船で沖まで運び、精霊を海には流さずにそのまま船で持ち帰る弔い方が定着したようです。

曲地区の精霊船

一人で持てるくらいの小さな灯籠を想像していましたが、これがかなりデカい! 初盆(新盆)の家ごとに精霊の装飾やデザインの違いがあるのも興味深いです。目を引く船を模したデザインは、専業漁業民の歴史を感じさせます。

そしてついに、先祖を海上へ、あの世へと、送り届けます。家ごとに船に乗り込む先祖の御霊。

精霊船を送り出しに行く人々

船に乗って沖まで灯籠を送り届ける家族たちは、陸に残る人々に手やペンライトを振り(?)ます。さらには船上から花火を発射…..!? なんとにぎやかな弔い方でしょう。先祖への想いの寄せ方は、ほんとうにいろんな形がある、そう実感した場面です。

こうしてお墓の前の厳かなムードとは一転、曲地区の盆踊りと精霊流しは、楽しい雰囲気とともに幕を閉じました。

それぞれの地域にそれぞれの文化や伝統がある。「国境の島」で、ごく当たり前の事実を噛み締めた「対馬の盆踊」。自然やレジャーなど、魅力あふれる対馬を、あえて、盆踊りと言う観点から着目してみる。そんな探求方法が、対馬の更なる奥深さに気づかせてくれるはずです。

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