1954年に高知県ではじまった『よさこい祭り』。今や全国200箇所以上で楽しまれているお祭りですが、他のお祭りと比較して感じるのは「若者の参加率の高さ」。
川竹大輔さん著『よさこいは、なぜ全国に広がったのか〜日本最大の交流する祭り〜』の中には、「学生」と名のつくよさこいチームは全国に200チーム存在し、チーム名に「学生」と入っていないものもあわせれば300チームほどになると記載されており、若者からのよさこいへの注目の高さが窺えます。
今回は、学生チームの中でも一際存在感の放つ「早稲田大学“踊り侍”(以下、踊り侍)」さんを取材。22代目代表を務める藤井雄太郎さんに、学生ならではのよさこいの魅力や、お祭りに参加することの意義、2023年度の踊り侍の見どころについて伺いました。
目次
元々は幽霊部員。コロナ禍での苦悩を乗り越え、代表へ立候補
2002年に結成し、早稲田大学の学生を中心に活動をしている踊り侍。体だけでなく、まるで魂ごと踊っているようなエネルギッシュな演舞が特徴で、日本全国にファンがいる人気チームの一つです。その実力は賞にも現れており、毎年8月に高知で開催される「よさこい全国大会」では、元気さや力強さに値する優秀賞『豪』を4年連続受賞しているほど。
そんな踊り侍を含めた学生チームの特徴は、代表を含めた運営人が1年ごとに代わること。22代目の藤井さんも2023年の11月に引退する予定です。藤井さんと踊り侍との出会いは何だったのでしょうか。
ーーー藤井さんと踊り侍との出会いを教えてください。
大学1年生のとき(2020年)に学園祭の運営を行うサークルに所属していたのですが、学園祭で踊り侍の演舞を見たことがきっかけです。あまりの格好良さに「自分も踊ってみたい!」と、翌年の春に踊り侍に加入しました。
ーーー加入された時ってコロナ禍真っ只中ですよね?お祭りもほとんどなかったのではないですか?
そうなんです。加入したのが2021年なんですが、コロナ禍でお祭りもないし、あっても人数制限されているものや映像作品をつくってオンラインでお祭りに参加する程度。なので僕自身、練習にたまに顔を出す幽霊部員レベルでの関わり方でした(笑)。
ーーー幽霊部員だったのにも関わらず、「代表をしよう」と思うまでよさこいにのめり込めたきっかけは何だったのですか?
僕自身よさこいに本格的にハマったのは大学3年生の時(2022年)。その年の踊り侍の演舞名が「滾れ」というものだったんですが、その振りが自分の好みにぴったりで!「滾れ」のお披露目が6月に開催される北海道のYOSAKOIソーラン祭りだったんですが、お客さんの前で踊る楽しさを知ってしまったのもよさこいにハマったきっかけでしたね。
さらに、9月に開催された大阪の「こいや祭り」の遠征担当をしたことで、運営側のやりがいや魅力に出会い、「踊り侍の代表にチャレンジしてみよう」と立候補しました。
ーーー2022年までは映像演舞が多かったとお聞きしていますが、「滾れ」で出たYOSAKOIソーラン祭りが、藤井さんにとって初めての大きなお祭りだったんでしょうか?
そうです。コロナ禍で溜め込んでいたものが一気に爆発したような気持ちになりましたね。大きなステージに、パンパンのお客さん。今までそんなところで踊ったことがなかったので、ガンガンにライトが当たった場所に仲間と共に走り込む瞬間、体がゾクゾクしたのを覚えています。
先輩たちが踊ってきた憧れの地へ!祭りに参加する学生チームならではの苦労
踊り侍のメンバーは約140名。早稲田大学の公認団体ではありますが、早稲田大学だけでなく関東圏を中心としたさまざまな大学生のメンバー(上智大、明治大など)で構成されています。中には高校生の時から「踊り侍で踊りたい!」と決め、入部しているメンバーもいるのだとか。たくさんの人たちの想いを背負って代表を務める藤井さんに、「学生ならではの苦労」を聞いてみました。
ーーー他大学のメンバーが集まり活動するとなると、大変なことも多いのでは?
LINEなどを駆使して連絡をとっているので、「他大学だから」という特別な苦労はありません。ただ、140人もの人が集まって練習しないといけないので、練習場所の確保は大変ですね。
ーーーたしかに、140人が踊れる場所となると、練習場所が限られそうですね。
体育館を予約することもありますが、河川敷や公園を利用することが多い。学業とよさこいの両立をさせないといけないので、練習にお金をかけられないんですよ。僕らは北は北海道から南は高知までのありとあらゆるお祭りに参加をしているので、遠征費用もかかりますしね。
ーーー踊り侍さんが参加するお祭りに全部出ようと思うと、費用はどれぐらいかかるのですか?
近隣のお祭りだとそんなに費用はかからないのですが、よさこい二大祭りである高知のよさこい祭りや、北海道のYOSAKOIソーラン祭りに出ようと思うと、交通費と宿泊費がかかってくるんですよね。大きいお祭りになると祭り期間も長くなってきますし。だから踊り侍が参加している全部のお祭りに参加するとなると、年間50万円くらいかかるんじゃないでしょうか?
ーーー大人にとってもなかなかの大金ですね!それでもチームとして各地のお祭りに参加する理由は何ですか?
シンプルにお祭りに出る楽しさを知ってしまったというのも大きいですが、先輩たちが踊ってきた場所で自分たちも踊りたいという気持ちが強い。コロナでお祭りがなかった期間も、先輩たちから「お祭り最高だよ」って教えてもらってきていて、僕たちはYouTubeを通してその感動を伝えてもらっていた。
だからこそ、先輩たちが踊ってきたお祭りは、自分たちの憧れの地でもあるんです。その想いを、今度は僕たちが下の代に引き継いでいけたらと思っています。
引退があるからこそ儚さがある。22代目代表が語る「学生よさこい」の良さとは
「踊り侍としてのバトンを次の世代へと繋いでいく」と決めたという藤井さん。遠征費用を稼ぐため、週4日ほどバイトも頑張りながら、2023年度の踊り侍を運営している藤井さんの想いから、学生よさこいの良さを紐解きます。
ーーー藤井さんが思う、「よさこいの良さ」って何だと思いますか?
僕からはあえて「学生よさこい」に特化してお話させていただきたいのですが、学生よさこいの良さって、活動できる時間が限られていることだと思っています。僕たちは2年半で引退を迎えます。だからこそ、「引退までにこれを実現したい」とか、期限があるからこその想いが生まれてくる。その中で、一人一人がチームのためにがむしゃらに進んでいくことに、儚さがあるんじゃないかなって。
ーーー確かに儚いですね。それが演舞の魅力にも繋がっているのかもしれませんね。
学生よさこいは一代一代変わっていくからこそ、歴代の先輩方がつくってきたものを引き継いで繋いでいきたいという想いが強い。そこが学生チーム特有の強い絆になっていると思います。
見てほしい中盤の連鎖!2023年度のテーマ『仁』に込められた想い
コンセプトから衣装・振り・曲のテーマ設定などの全てを自分たちで行っている踊り侍。2023年度のお披露目はYOSAKOIソーラン祭りとのことで、藤井さん直々に2023年度の踊り侍の演舞名『仁』の見どころについて教えてもらいました。
ーーー2022年は『滾れ』、2021年は『#らしら』が演舞名でしたが、今年のテーマ「仁」に込められた想い、つくられた背景を教えて下さい。
2023年度をつくる僕らの代って「全員が仲良く暖かい代だよね」っていう話から「愛」が演舞コンセプトになりました。調べていく中で、「広く深い愛」という意味を持つ『仁』という言葉に出合い、語感もいいのでこのテーマに決めました。
ーーー是非「仁」の見どころを教えてください。
中盤あたりの振りの連鎖を見てもらいたいですね。とても難しい振りなんですが、難しいからこそ、うまく決まると見ている方が引き込まれるような演舞になると思っています。
また、今年の衣装は前後で切り替えがあるのですが、振りと共に見える色の変化も楽しんでもらいたいです!
踊り侍の今後の出演情報とまとめ
踊り侍さんに今後の出演演舞をお聞きしたところ、関東圏のお祭りだけでなく、『神戸よさこいまつり』、『こいや祭り(大阪)』といった関西圏などに参加する予定とのこと!
「引退演舞は11月の早稲田大学学園祭ですが、10月に東京で開催される『ふくろ祭り』は22代目引退直前の全員で踊れる貴重な演舞なので、是非リアルで僕たちの勇姿を見ていただきたい!」と藤井さんからコメントいただきました。
今年は新型コロナウィルスが5類感染症に移行したことで、本格的に復活することが決まっている各地のお祭り!是非現地へ出向いていただき、「お祭りを通じて、自分たちも成長したい」と語ってくれた藤井さんたち踊り侍の有志を目に焼き付けてくださいね。