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「祭り」公式SNSを育ててきた現場から伝えたい運営ノウハウ── Xフォロワー6.8万人。相馬野馬追「中の人」インタビュー

yusuke.kojima
2026/2/13
2026/2/13
「祭り」公式SNSを育ててきた現場から伝えたい運営ノウハウ── Xフォロワー6.8万人。相馬野馬追「中の人」インタビュー

福島県南相馬市で千年以上続くとされる国指定重要無形民俗文化財「相馬野馬追(そうまのまおい)」。この伝統行事の公式X(相馬野馬追執行委員会:@nomaoi_official)は、祭りや伝統行事のアカウントとしては異例の約7万人のフォロワーを抱え、多くのファンに愛されています。その立ち上げから今に至る運用を担ってきたのは、なんと地元の生まれでも広報の専門家でもない、とある南相馬市職員です。ゼロから積み上げたからこそ見えた視点、そして伝統を守るためにSNSが必要だった理由とは。現場のリアルな経験を伺いました。

中の人

相馬野馬追〝中の人〟

 

相馬野馬追との出会い― 「中の人」になるまで

──相馬野馬追の公式SNSの立役者として知られていますが、もともとのキャリアはどのようなものだったのでしょうか。

相馬野馬追〝中の人〟(以下〝中の人〟): 元々は東京の杉並区役所の職員でした。キャリアとしてもシステムエンジニアで、ずっとシステム部局にいた人間です。 2011年の東日本大震災の際、杉並区と南相馬市(旧原町市)が災害時相互援助協定を結んでいた縁で、職員の派遣が行われ、私は2014年から災害派遣という形で現地に入りました。当初の業務は復興計画の策定や、沿岸部の農地の対応などをしていました。

──そこからどうやって相馬野馬追に関わることになったのですか?

〝中の人〟: そもそも私は馬という生き物の、あの流線形のフォルムが好きだったんです。馬券も買わずに競馬場でただ走る姿を見ているくらいに。派遣先でも 「馬が好きなんです、ここにお祭りありますよね」と話していたら、職員の中にも野馬追参加者がたくさんいるので、「じゃあ、乗ってみる?」と誘ってもらえたのです。派遣された最初の年は、馬に乗せてもらったり、祭りのお手伝いをしました。

──なるほど。いちファンとしての想いが実ったわけですね。

〝中の人〟: そうなんです。さらに派遣2年目の次の年、「小学生の女の子が初めて出るから、その馬を引く役として出てみるか」と言われました。小学生までの参加者は、安全のために馬を引く役をつけられるんです。ただ、参加できるのは嬉しかったのですが、野馬追馬の会場は、観客との距離が数10センチしかなくて、柵もない。もし馬が気まぐれで蹴ったりしたら大惨事。1000年続いてきた祭礼を自分がうまくできないせいでめちゃくちゃにしたらどうしようと、ガチガチに緊張していました。

──伝統の重圧を肌で感じたと。

〝中の人〟: はい。幸いつつがなく役目を終えることができたのですが、次の年にはなんと今度は「乗って出てみるか」と言われて、今度は甲冑を身にまとい、騎馬武者として参加させてもらいました。その時、参加する側の目線で野馬追を見て、「なんて心が躍る行事なんだろう」と、ますますその魅力に強く惹かれました。

──任期の3年を終え、一度杉並に戻られてから、また南相馬に戻られたそうですね。

〝中の人〟: 派遣期間が終わって2年間杉並に戻ったんですが、やっぱり南相馬がいいなと思って、もう一度行かせてくれと志願しました。希望が叶って2019年4月に再派遣された際、配属されたのが野馬追の事務局である「観光交流課」でした。南相馬市役所の人が気を利かせて、「野馬追好きなんでしょ?担当にしといたよ!」という感じで。

──念願の相馬野馬追担当ですね。

〝中の人〟: ただ、落とし穴があって、担当になると当日は運営側なので、祭りに参加できないんですよ(笑)。 そこからは、事務局の現場責任者として、全体を取り仕切る立場になりました。すでに出演者としての経験はありましたが、運営を回すのは初めて。しかも着任した4月にはすでに観覧席の販売も始まっている状況で、必死になりながら「主催者側」の世界に足を踏み入れていきました。

 

なぜ、公式SNSに向き合う必要があったのか

──事務局に入った2019年当時、相馬野馬追はどのような状況だったのでしょうか?

〝中の人〟: まず、情報発信みたいなものは基本的にほとんどありませんでした。ホームページはあるものの、日頃から更新されているわけではなく、歴史や成り立ちが書いてある程度。本番直前にスケジュールや騎馬一覧を載せるくらいで、1日のアクセス数は1日20〜30件ほどでした。 ずっと地の底を這っていて、当日にアクセスが跳ね上がってサーバーが落ちる、というのを何年か繰り返していました。春と秋にある競馬大会のお知らせを載せ忘れたりするなど、毎年続けていくのが第一で、外の人にどう知ってもらうかという考えは、事務局にもあまりなかったように思います。

──こういう伝統行事を、行政としても観光資源としてしっかり売り出そうという地域もありますが。

〝中の人〟: そうですね。「観光」という側面と「文化財(伝統行事)」という側面があって、組織が複雑でした。参加する方々の中には「俺たちは金のためにやってるんじゃない」と商売気を嫌う人たちもいます。事務局を担っていた役所としても、営利活動的なことをやったことがなく、やり方がわからない。とりあえず観覧席の種類を少し変えてみるものの、売れば売るだけ赤字になる席があったり(笑)。

──それは運営上大きな課題ですね。

〝中の人〟: はい。そんな中で2020年、新型コロナウイルスの流行が直撃します。相馬地方でも感染者が出て、改善しようとしていた矢先に多くのことができなくなりました。ただ、相馬野馬追には江戸時代の大飢饉や戊辰戦争の時も、「省略」という縮小した形で開催し続けた記録が残っていたんです。それを参考にして、2020年は行列も甲冑競馬も行わない、神事のみの縮小開催とすることを決めました。

──規模縮小となると、運営上の課題も大きかったのではないでしょうか。

〝中の人〟: 一番の問題は「馬」でした。参加者には毎年役所から「出場奨励金」が支払われるのですが、これはあくまで「出場して伝統継承や観光誘客に力を貸してくれた」ことへの対価なんです。 縮小開催で行列も競馬もできないとなると、役所の規定上、このお金が出せません。しかし、地域で馬を飼っている人たちは相馬野馬追のためだけに馬を飼っていて、飼育費用に奨励金を一部充てているのが実態です。エサ代などでも毎月数万から十数万円かかっているわけですから。「縮小開催がいつまで続くかも分からないのではもう飼えない、手放さざるを得ない」となれば、地域から馬がいなくなり、コロナが明けても相馬野馬追ができなくなってしまう。

──これは大変なことです。どう乗り越えたのですか?

〝中の人〟: 本当に弱りながらもなんとかしなければ、と「伝統行事を継承するために、地域の馬主を支援してください」とお願いするクラウドファンディング(CF)を2020年6月に立ち上げました。実は、相馬野馬追のSNSアカウントを作成したのは、この告知をするためが最初だったんです。誰もやったことがない中でバタバタと始めましたが、結果として目標1000万円に対し、1200万円以上の支援が集まりました。

──多くの支援が集まったのですね。

〝中の人〟: はい。大変ありがたく思っております。相馬野馬追は仙台七夕まつりや青森ねぶた祭のような全国区の知名度はありません。特に関西以西ではほとんど知られていませんでした。ところがCFをやってみると、関西や九州の方からも多くのご支援を頂けたんです。「見てみたいから残してください」というコメントをもらい、外から見てくれている人がいるんだ、と実感できました。既存のお客さんだけでなく、潜在的にファンになってくれる人たちは日本中にいるーー。その人たちとつながり、情報を届ける手段として「SNSは使える」と確信したのがこの時でした。

 

「中の人」はSNSをどう使ってきたのか―「言いたいこと」を、あえて減らす

──今では6.8万人のフォロワーを持つ(※2026年2月)相馬野馬追アカウントですが、元々SNSはお得意だったのでしょうか?

〝中の人〟: いえ、むしろTwitter(現X)とか「怖い」って思っている方でした(笑)。ただ、運用を始めるにあたって参考にしていたのが、いわゆる「企業公式アカウント」さんたちでした。有名な「わかさ生活」さんや「キングジム」さんなどが盛り上がっていた時期で、その発信の仕方が面白いなと思って、まずは「型」を真似するところから始めました。

──そうなんですか!具体的にどのような点を真似されたのですか?

〝中の人〟: コミュニケーションの「フランクさ」ですね。一方的に「自分たちはこうだ、すごいんだ」と情報を出すのではなく、「これどう思う?」と投げかけて、それに対して「あーだこーだ」言ってもらう。それに対して「言ってくれてありがとう」と返す。公式アカウントという名前はついていますが、向こうに人がいて、こっちにも運用している人がいる。「団体対人」ではなく、「人対人」であることを意識してスタートしました。

──なるほど、人と人のコミュニケーション。これまでやってきた中で、印象に残っているやり取りはなんでしょうか?

〝中の人〟: 手応えを感じ始めたという点では、茨城県坂東市にある「國王神社」さんとのやり取りが大きかったですね。平将門公ゆかりの神社で、将門公は当地の領主だった相馬氏の祖先に連なるとも言われているため、毎年、騎馬武者が出向いたりしています。もともと縁が深い神社なのですが、Twitter上で神社の公式アカウントとやり取りをしていると、それを見たファンの方々が「野馬追のアカウントが来てる!」と喜んでくれるんです。名前も顔もわからない不特定多数に向けた発信も大事ですが、公式同士の「顔」が見えるやり取りを周りのユーザーが見ていて、そこから輪が広がっていくのを肌で感じました。

 

投稿7割は「関係づくり」、2割「お役立ち」、「公式発表」1割で

 

──〝中の人〟さんは運用の黄金比として「7:2:1」という数字を挙げられています。これはどういった考え方なのでしょうか。

〝中の人〟: これは2021年の4月、本格的に運用を始める最初の戦略に明記したものです。当時参考にしていたTwitterのアカウント主が、「自分の伝えたいこと、言いたいことは1割ぐらいに抑えて」という発信をされていて、なるほどその通りだなと。そこで、7割はコミュニケーションや関係づくり、2割は相手に役立つ情報、そして自分たちが本当に言いたい「公式発表」は1割に留める、というルールを決めました。

──組織の公式でやっていると「なんだ関係ないことばかりつぶやいて!」「もっと商品情報を出せ!」と言われるのはよくある悩みです。

〝中の人〟: ええ、きっとありますよね(笑)。だから、「言いたいことだけ言っていても、そもそも見てくれないんだ」ということを説明して事務局の中で決裁を取ったりしました。こちらが興味を持ってほしいことではなく、相手が興味を持っている材料を提供しないと、肝心の「今年の野馬追は何月何日です」という情報すら届かないのです。

 

──確かに、受け手の立場ならそう感じます。

〝中の人〟: そうなんです。道端で会った人に、いきなり「私、今度ライブやるんで来てください」って言われても困るじゃないですか。「あなた誰ですか!?」ってなる(笑)。 だからまずは、「中の人」への興味でも何でもいいから、このアカウント自体に興味を持ってもらう。その土台があって初めて、本当に伝えたい1割の情報が届くようになるんです。

 

SNSは、祭りにとって何になり得るのかこれから始める主催者・自治体担当者へ

 

── SNSは「炎上」が怖いという声もよく聞きます。運用する人手がない、という話も。これから始めようとする主催者の方に、どのようなアドバイスを送りますか?

〝中の人〟: 確かにSNSは諸刃の剣で、全世界に見られている怖さはあります。でも、例えば「祭りに行きたいけど、アクセスはどうすればいいですか?」「何時からですか?」という何気ない質問が来たときに、それを無視するのは本当にもったいない。 「この日は何時からですよ」と返す。そのやり取り自体は1対1ですが、その丁寧な対応を世界中の人が見ているんです。「あ、ここは親切に答えてくれる団体なんだ」という信頼が積み上がっていく。 そうした日頃のコミュニケーションの土台があって初めて、「○月に祭りをやります!」「御輿の担ぎ手募集します!」と呼びかけた時に声が届くようになるんです。いきなり募集だけ投げても、誰も反応してくれませんから。

 

──自分の言いたいことだけ言うな、と(笑)。コミュニケーションの積み重ねが大事なんですね。

〝中の人〟: 手間がかかる、と言う点にお答えすると、そこは多少頑張っていただく必要はあるでしょうね。もちろん、最終的には平日毎日投稿などが理想ですが、いきなりそれをやろうとすると負担でしかありません。反応がないことを続けるほどストレスなことはないですから(笑)。 最初は「7:2:1」の比率にこだわらなくてもいいので、公式情報を少し頻度を増やして出すところからで十分です。「自分たちのリソースならこれくらい」という無理のない範囲から始めて、徐々に育てていけばいいと思います。

──それでは最後に、今後、公式SNSとして目指していることはありますか。

〝中の人〟:相馬野馬追のファンを増やす、ということはもちろんですが、祭り同士がもう少し自然につながっていけたらいいなと思っています。

実際、馬つながりで岩手の「チャグチャグ馬コ」さんと開催情報を紹介し合っていますし、ひとつの祭りをきっかけに、別の地域の祭りを知ってもらえる。そういう広がり方は、SNSならではだと感じています。

祭りはそれぞれ独立していますけど、対立するものではないですし、むしろ支え合える関係だと思っています。お互いの開催情報を紹介したり、ちょっとしたやり取りをしたりするだけでも、その先にいるファンの方が「次はここに行ってみようかな」と思ってくれるかもしれない。

そうやって、祭りのファンが地域を越えて少しずつ広がっていく。公式アカウント同士の交流を深めながら、結果として祭り全体の裾野が広がっていくような世界になったらいいな、と思っています。

――それは素敵な広がりですね、共感します!本日はありがとうございました。

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