日本各地で受け継がれる伝統的な祭りや地域イベント。しかし、その継続には多くの課題が立ちはだかっています。2025年12月にオマツリジャパンが実施した「祭り・イベント関係者アンケート」から、現場のリアルな声を紐解きながら、地域文化の未来について考えます。
(株式会社オマツリジャパン「オマツリリーダーズ」登録者などを対象に2025年12月2日〜17日にWEBアンケートを実施。総回答数68)
目次
回答者の姿——全国の祭り・イベント運営を担う当事者たち
今回のアンケートには、全国各地で祭りや地域イベントの運営に関わる68名の方から回答が寄せられました。回答者の立場は、祭り実行委員会メンバーを中心に、保存会関係者、神社・仏閣関係者を中心に、地方自治体職員、観光協会・DMO職員、商工会議所・青年会議所関係者など、多岐にわたっています。いずれも、祭りやイベントを「外から見る立場」ではなく、現場で運営や調整を担う当事者である点が、本調査の大きな特徴です。

関わっている祭り・イベントの来場者規模を見ると、「500人未満」から「50万人以上」まで幅広く分布しており、規模の大小を問わず、多様な祭り・地域イベントから満遍なく回答が寄せられました。これは、全国的に知られる大規模な祭りから、地域住民の暮らしや信仰、年中行事と密接に結びついた祭りまで、幅広い実態を捉えたデータであると言えるでしょう。

また、祭りの性格については、「市民祭り・地域イベント」が最も多く、次いで「神事・仏事を伴う伝統的な祭り」「神事・仏事の要素を持ちながらイベント的側面もある祭り」と続きました。

こうした二重の性格を持つ祭りは、運営方針や日程、資金調達のあり方など、さまざまな場面で判断の難しさを抱えがちです。本アンケートは、そうした現場の葛藤や試行錯誤を、数値と自由記述の両面から浮かび上がらせるものとなりました。
【課題】祭り・イベント運営が直面する現実——担い手不足と資金不足
祭り・イベントを実施するにあたって、現在どのような課題を感じているのか。本アンケートでは、まず「最も大きな課題」について尋ねました。

その結果、最も多く挙げられたのは「資金不足」でした。近年の資材費の高騰や、警備などにかかる運営費の高騰は、多くの祭り・イベントにおける課題となっています。次いで多かったのが資金不足であり、スタッフや実行委員、演者など、祭りを支える人材の確保が年々難しくなっているという声が、全国各地から寄せられています。また、来場者の減少や運営ノウハウの不足、PRの難しさなども、複合的な課題として挙げられました。
担い手不足への対応策——広がる工夫と、限界としての現実

担い手不足に対して現在実施している対応策としては、SNSやチラシなどによる活動情報の発信、体験会・講習会の開催、他地域の団体との連携などが多く挙げられました。新たな担い手との接点をつくろうと、工夫を重ねている現場の姿がうかがえます。
一方で、「特に対策を講じていない」という回答も一定数見られました。これは課題への無関心を示すものではなく、他の設問の自由回答などを見ると、むしろ「対策を考えたくても、そこまで手が回らない」という切実な状況を反映しているのではないかと考えられます。担い手不足が、担い手不足への対策を考える余力そのものを奪っている姿が見えてきます。
資金不足への対応——補助金・協賛・自己負担という選択肢

もう一つの大きな課題である資金不足についても、現場の厳しさが浮き彫りになりました。資金不足への対応策としては、自治体の補助金活用や企業協賛の募集が比較的多く挙げられています。一方で、入場料や観覧席の導入、物販の強化、クラウドファンディングなど、多様な手法を模索している団体も見られましたが、地域の理解を得て「値上げ」に踏み切れるところは多くない現実も伝わってきます。
注目されるのは、「自己負担」を選択肢として挙げている回答が少なくない点です。祭りが地域全体の文化資産であるにもかかわらず、運営に伴うリスクや不足分を、個人が背負っているケースが存在していることが分かります。

地域外の大企業などからの企業協賛については、「収益面で運営が安定する」「祭りの認知向上につながる」といった前向きな評価が大半でした。一方で、自由回答からは「地域性が失われるのではないか」といった懸念も見られます。これは、協賛そのものを否定するのではなく、どのような形で受け入れるかを慎重に考えたいという姿勢が読み取れます。
デジタル寄付への関心と課題——「関心はあるが分からない」

一方、今夏各地の祭りなどで見られるようになった、デジタル寄付の導入について尋ねました。結果は、「関心あり」が約8割と、注目が高まっていることが浮き彫りに。ただし、関心は高いが、「よく分からない」「運用面に不安がある」という回答が目立ちました。すでに導入済みと答えた団体も一定数ありますが、全体としてはまだ情報やノウハウが十分に行き渡っていない段階と言えます。
資金確保に関する設問を通じて浮かび上がるのは、単なる資金不足ではなく、「誰が、どのような形で祭りを支えるのか」という問いです。特に「自己負担」が今なお選択肢として挙げられている点は、運営者の献身に依存した構造が続いていることを示しています。
【PR・観光】祭り・イベントの情報発信の現状——SNS活用と地域内外への発信
祭りや地域イベントの継続に向けて、PRや観光活用にどのように取り組んでいるのか。本アンケートでは、現在行っている情報発信や広報活動について尋ねました。

回答を見ると、SNSを活用した情報発信が最も多く、次いでポスター掲示やチラシ配布、ウェブサイトでの情報掲載など、複数の手法を組み合わせてPRを行っている団体が多いことが分かります。また、テレビ・新聞・ラジオといったマスメディアを通じた発信に取り組んでいるケースも見られました。
これらの結果から、多くの祭り・イベントが、規模の大小を問わず、何らかの形で外部に向けた情報発信を行っている状況がうかがえます。
そして、PRの中でも、地域外からの来訪や交流を意識した取り組みとしては、他地域との連携イベントなどが挙げられました。
また他の設問の自由記述からは、SNSを通じて日常的に活動の様子を発信している例や、開催情報だけでなく準備風景や関係者の思いを伝える工夫を行っている取り組みも伺えます。
有料観覧席・特別体験は必要——関心は高いが検討段階

観光資源としての祭りの活用を考える際、新たな収益源として注目されることの多い「有料観覧席」や「特別体験」「限定グッズ」など観光客向けのさまざまな商品開発について、本アンケートでは導入の検討状況を尋ねました。回答を見ると、もっとも多いのは「必要だが、内容を検討中」というもので、多くの祭りで関心はあるが実施には至っていない段階にあることが分かります。その理由としては、会場設営や安全管理、運営体制の確保など、追加の負担が生じることへの懸念といった声が自由記述から読み取れます。一方で、地域の理解が得られるか分からないという声もありました。
これらの声からは、有料化への拒否感というよりも、祭りの価値観や地域との関係性を慎重に考えている姿勢がうかがえます。
【運営方針】開催日変更・新演出をどう判断するか——守る文化、変える現実
本アンケートでは、祭り・イベントの運営方針に関わるテーマとして、開催日の変更や新たな演出手法、祭り関係者同士の互助関係についても意見を尋ねました。
開催日の変更——猛暑・担い手不足と伝統のはざまで
まず、開催日の変更については、「変更した、または検討したことがある」と回答した団体が25、「検討したことがない」と回答した団体が26でした。
変更を検討・実施した理由としては、猛暑や豪雨など気象への対応、担い手不足への対策、平日開催による来場者減少への懸念など、運営上の現実的な事情が多く挙げられています。とくに近年は、来場者や担い手の安全確保の観点から、夏季開催のあり方を見直す必要性を感じている声が目立ちました。
一方で、開催日を変更していない理由としては、「祭礼日は神様との約束であり、変えるべきではない」「日程は神社や宗教法人が決定する事項である」「長年続いてきた伝統や地域の慣習を重視したい」といった声が多く寄せられています。開催日が単なるスケジュールではなく、祭りの意味や信仰、歴史そのものと結びついていることが、あらためて確認できる結果となりました。
自由記述の中には、神事の日程は維持しつつ、神輿や付け祭、関連イベントのみを週末に移すといった工夫も見られ、守る部分と調整する部分を切り分ける判断が行われている例もあります。
ドローンショーなど新演出への意識——関心と慎重さが同時に存在

ドローンショーなどの新しい演出手法の導入については、「前向きに捉えている」「良いと思う」が半数以上でしたが、やはり祭りの趣旨や世界観に合うのかといった点については、慎重な検討が必要だとする声が多くありました。新技術の導入そのものを否定するのではなく、各祭りの文脈に即して判断したいという姿勢が見られます。
祭り現場同士の交流は?——「横のつながり」は求められている

また、祭り・イベント関係者同士のコミュニティがあれば参加したいか、という問いには、前向きな意見が多く寄せられました。他地域の事例を知りたい、課題や悩みを共有したいといった声からは、個々の現場が孤立しがちな状況が背景にあることがうかがえます。
その一方で、「企画や運営にも携わりたい」「交流目的」といった回答に比べ、「情報収集目的」が多かったのは、やはり時間などの現実的な制約も背景にあると見られ、関心と実行のあいだには少し距離があることも明らかになりました。
開催日の変更、新たな演出手法、ネットワークづくり。いずれのテーマについても、アンケート結果から見えてきたのは、「変えるべきか、守るべきか」という単純な二択ではありません。各地の現場では、伝統や信仰、地域との関係性を尊重しながら、同時に安全性や継続性、社会環境の変化にも向き合い、その都度、判断を積み重ねていることが分かります。
祭りを「続けたい」という声を、社会の問いへ

本アンケートでは、祭りや地域イベントを続ける意義についても意見を寄せていただきました。そこに共通していたのは、祭りが単なる催しや観光資源ではなく、人と人、人と地域をつなぐ営みとして捉えられているという点です。「伝統を次世代に継承するため」「コミュニティの結束」「住民や参加者のため」「地域に帰属意識や誇りをもたらすこと」といった代替しがたい価値が祭りにあるという回答が多く見られます。
一方、本アンケート全体の自由記述を通して見ると、「本当にこの先も続けられるのか分からない」「運営への不安や負担が大きい」といった、切実な思いがにじむ記述も見られました。担い手不足、資金不足、PRや運営負担、行政との調整。どの課題も、個々の現場の努力だけで解決できるものではなく、社会環境の変化と深く結びついています。
皆さまから寄せられた回答は、各地の現場が抱えている悩みや判断の背景を可視化し、「祭りをどう支えていくのか」という問いを社会全体で共有するための貴重な資料となりました。祭りを次の世代へとつないでいくために、どのような支え方があり得るのか。オマツリジャパンは、祭りの現場の声に耳を傾けながら、その問いに向き合い続けていきます。