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埼玉県上尾市の奇祭「どろいんきょ」2023年も神輿が盛大に泥まみれに!4年ぶり開催をレポート

2023/7/31
2024/5/21
埼玉県上尾市の奇祭「どろいんきょ」2023年も神輿が盛大に泥まみれに!4年ぶり開催をレポート

2023年7月16日に開催された、奇祭「平方のどろいんきょ」(埼玉県上尾市)を見てきました。コロナ禍を挟んで、4年ぶりの開催となるこの祭り。規模を縮小しての実施となりましたが、地域の伝統行事を再開できたという地元の方々の喜びに満ち満ちたお祭りとなりました。

荒川の舟運で栄えた宿場町のお祭り

「どろいんきょ」が開催される平方の町は、荒川に接する元宿場町。運送の中継地点となった平方は舟運によって栄え、「平方河岸」と呼ばれました。

その栄華は大正時代まで続き、かつては製糸工場、醤油工場、レンガ工場まで町中にあったそうです。

経済の生まれる場所には、必ず派手な祭りも生まれるもの。ということで、この平方という地でも「どろいんきょ」というユニークな祭りが育まれました。

上宿地区の八枝神社

上尾市無形民俗文化財活用活性化実行委員会『平方上宿の祇園祭 どろいんきょ』によりますと、どろいんきょは、平方の上宿地区にある八枝神社の祇園祭の中で行われる行事。

かつては平方の上宿、下宿、新田、南の四地区合同で行われていましたが、大正12年を最後に、祭りの規模が縮小化。祇園祭やどろいんきょは各地区で行われるようになりましたが、昭和48年に上宿地区がどろいんきょを本格的に復活させました。

その後、どろいんきょは昭和57年に上尾市の無形民俗文化財、平成23年には「平方祇園祭のどろいんきょ行事」として埼玉県の無形民俗文化財に指定されます。

八枝神社に着くと、法被姿の人々が境内に集まっています。4年ぶりの開催ということで、会場には熱気が満ちていて、人々の高揚感が伝わってきます。

どろいんきょのメインで使用される「神輿」(奥)と、「隠居神輿(いんきょみこし)」(手前)

八枝神社のホームページによると、「どろいんきょ」という名称の由来は定かではないようですが、隠居した御神輿を担ぎだして泥だらけにしたとか、隠居した人たちが余興で担いだのが始まりだとか言われているそうです。

現在は使用されていない「大神輿」

神輿の奥に控える獅子頭は「お獅子様」と呼ばれ、霊験あらたかな存在として周辺地域から信仰対象となっているそうです。

「小山出し」の時間になると、境内にお囃子が鳴り響き、人々が一斉に2基の神輿に取り付きます。

その勢いたるやすさまじく、ほとんど暴動のような様相。観衆が取り囲む境内の中を、「ソーレ、ソーレ」の声をあげながら、右へ左へと練り回します。

神輿はついに神社を飛び出して、通行止めにした路上を自在に練り歩きます。炎天下で数秒もじっと立っていられないような暑さなのですが、暑気を吹き飛ばすように威勢よく神輿が担がれます。

子ども神輿も元気です

隠居神輿がお神酒所に到着すると、どろいんきょが始まります。土の地面にはあらかじめ水が撒かれ、どろどろの状態となっています。そこに隠居神輿が運ばれ、お囃子の演奏とともに、神輿を泥の上でドタンバタンと力任せに転がします。

ただやみくもに転がしているようですが、その転がし方は当番や若衆頭から指示が出ています。

「キリモミ」「トンボガエシ」「タテガエシ」など、転がし方にも名称があるそうです

泥にまみれながら、傍からはバケツやホースで水をかけられ続けます。泥跳ねは観客の方にも躊躇なく飛んでくるため、見ている方も真剣(ガチ)勝負。結局は、みんな泥まみれになってしまうのですが、とにかく楽しい! しかも、この泥をかぶると家内安全・無病息災・悪病退散のご利益につながるそうです。

私も撮影中にあえなく派手に泥まみれになったのですが、隣のおじさんが「ご利益あるねぇ」とニコニコ声をかけてくれました。

神輿渡御の最中には「伊勢音頭」が唄われます

どろいんきょが終わると、神輿は再び担ぎ出されて、次の場所へと移動します。休憩場所や、いくつかのお神酒所を移動しながらどろいんきょを繰り返す、祭りはそういった流れで進行していきます。

神輿は時に、どろいんきょに貢献した故人の家など、御神酒所ではない場所に立ち寄ることもあります。

次なる御神酒所に到着すると、再びどろいんきょが始まります。
この日は灼熱の暑さで、カラカラに乾燥した地面から常に土ぼこりが舞っていたのですが、どろいんきょが始まると、途端に辺りはぬかるみ地獄に! 周りから容赦なく水をかけられながら、人々は一心不乱に神輿を転がします。

神輿の上でひょっとこが踊り出す

続いて神輿は、民家の敷地のような場所に入ります。広いお庭で、しばし休息をとった後に、再びどろいんきょへと臨みます。

コロナ禍で制限されていますが、以前は祭りに参加していない方々にも様々なおふるまいがあったそうです。

休息をして英気が再注入されたのか、先ほどにもましてパワフルにどろいんきょが行われます。

しばらくすると、隠居神輿が担ぎ棒(トンボ)を支柱に、高く掲げられました。何が始まるんだ?と思っていると…

なんとひょっとこ面を被った二人が神輿の上によじ登って、お囃子に合わせて舞い始めました。この神輿って、お立ち台にもなるの…?

ひょっとこの舞い手を乗せて、神輿はジリジリと時計回りに回転します。すごい舞台装置。

拍手喝采を浴びるひょっとこ少年

ひょっとこ踊りの後、再びどろいんきょが行われ、次の場所へと移動が始まります。この時、なぜか隠居神輿は天地を逆転して運ばれます。その理由は後ほど判明することに。

神輿が山車に!?次々と予想もつかない展開が

荒川の近くまでやってきた隠居神輿は、さまざまなパーツやロープが装着され、着々と何かしらの準備が進められていきます。何が始まるんだ?と固唾を飲んで見守っていると。

先ほどのように高々と掲げられた神輿の上に、仮装をしたひょっとことおかめが乗ります。しかしそれだけではありません。

なんと、神輿を「山車」に見立てて、ロープで牽引していくのです。もちろん神輿の担ぎ棒には車輪などついてないわけですから、ずるずると道路を引っ張っていく形となります。ものすごい荒技。さっきから驚きでまったく言葉が出ません。

ちなみに、先ほど神輿を逆さまに担いでいたのは、本来の神輿渡御の順路から外れたコースを進んだからです。

神輿と隠居神輿は、 進んだ道を戻らないことが基本であるが、隠居神輿を逆さまに担ぐことで、 本来の巡行ではないことになり、一度進んだ道を戻ることができる

『平方上宿の祇園祭 どろいんきょ』 p34より

ルールを遵守しながらも、時には鮮やかな機転によってルールを逸脱し、神事の中にも積極的に遊びを見出していく、昔の人たちの発想力や、茶目っ気に舌を巻きます。

山車の引き廻しのあと、先ほどの御神酒所に戻って、再びどろいんきょをします 。

ついに最後の御神酒所に到着します。しばし食事をとって休息の時間。英気を養って、ラストどろいんきょに臨みます。

祭りの終わりをなごり惜しむように、神輿を何度も泥の中で転がします。その勢いも凄まじく、神輿が解体されないかと心配になるほど。

ひとしきり転がした後、2基の神輿はいよいよゴール地点である八枝神社に出立します。

宮入りしようとする人々と、それを鳥居の前で押しとどめる人々との攻防が何度か繰り返されます。まさにクライマックスに相応しい光景。何度かのせめぎ合いの後、ついに神輿は宮入りし、大きな歓声があがります。

神輿が再び神社に安置されると、祭りは終了です。「シャン、シャン、シャン、シャシャシャンシャン、シャン」の“平方締め”の手締めで解散となりました。

今年は、規模縮小での開催となった、どろいんきょ。例年は川に神輿を投げ込む「川入り」が行われるなど、さらにパワフルなお祭りになるそうです。これだけ盛りだくさんの内容なのに、まだまだ完全体ではないとは。すごすぎるぞ、どろいんきょ。

おわりに

神輿ってこんなこともできるんだ、と無限の可能性を感じさせてくれた「どろいんきょ」。神様の乗り物にそんな恐れ多いことを…と最初はひるみますが、泥まみれになりながら神輿を転がしたり、担いだりする地元の方々の姿を見ると、その不安は杞憂だったことがわかります。

むしろ、神様の深い懐の中で、妥協なく、徹底的に遊び尽くすこと、それこそが本来の「祭り」というものはのではないかという気づきすら、この祭りは与えてくれます。

庶民の「遊び」の真髄を教えてくれる奇祭、「どろいんきょ」をぜひ皆さんも目撃してみてください。

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