日本各地には実に様々な踊りがある。農作業をルーツとしたもの、手毬唄の動きを取り入れたもの、お座敷での芸者踊りの流れを汲む艶やかなものなど、それぞれ全く所作は異なるものの、唄と踊りが合わさると、それは一つの文化でもある。
こうした数ある文化の中でも、今年大きな話題となりそうなのが、京都は福知山で400年以上の歴史を持つ『福知山踊り』だ。
そして『日本一難しい盆踊り』と称されるその魅力について、有識者に尋ね、紐解いてみたいと思う。
目次
京都・福知山で400年以上の歴史を誇る福知山踊り
一度聴いたら忘れられない、なんとものどかな節に加わる、『ドッコイセ、ドッコイセ』という掛け声。
『福知山出て 長田野(おさだの)越えて 駒を早めて亀山へ』
という唄い出しで知られる《福知山音頭》にのせて、軽快でありながら難解な振り、しかも優雅に踊られるのが『福知山踊り』だ。
『明智光秀公が福知山城を築いた時に誕生したといわれています』と語るのは、福知山市内で呉服店を営みつつ、福知山踊振興会会長を務める田村卓巳さん。
長谷川博巳さん演ずる明智光秀公を主人公に据えた、2020 年度のNHK大河ドラマ『麒麟(きりん)がくる』が話題となる中、光秀公の出生地である岐阜県とともに、今盛り上げりを見せているのが京都・福知山なのだ。
福知山踊りとはどういう踊りなのか、田村さんにお話を伺ってみた。
ルーツは明智光秀公?福知山城築城の作業唄から誕生
田村さん:
福知山踊りの誕生は、400年以上前の1579年頃、明智光秀公が丹波を平定した後、福知山城を築く際だといわれています。領民たちが『ドッコイセ、ドッコイセ』と作業唄を口ずさみ、石材や木材を運ぶのにあわせ、手や足を振りながら、ユニークに踊り出したことがはじまりだと伝えられています。
明智光秀公は領民を愛し、領民に愛されたからこそ400年もの間、この『ドッコイセ踊り』が受け継がれてきたのでしょう。
長い年月とともに変遷をたどりながら、舞踊的な要素が加わり、現在の福知山踊りの型となったといわれ、今では福知山市の指定民俗文化財となっています。
和気あいあいと作業に勤しむ姿が見に浮かぶような《福知山音頭》であるが、地元では盆踊りの定番曲だという。
田村さん:
近畿地方で盆踊りというと、河内音頭や江州音頭が有名ですが、京都では盆踊りという文化がほとんどありません。しかしながら福知山では毎年夏に開催される『福知山ドッコイセまつり』で福知山踊りが踊られています。
『福知山ドッコイセまつり』は8月14日から16 日の3日間と、翌週の土日、計5日間開催されます。広小路通りには櫓が組まれ、二重三重の踊りの輪ができます。
田村さん:
花火大会や子どもドッコイセ踊り、学生ドッコイセ踊りなどが行われる中、最終日の日曜日には、メインイベントなる『市民総踊り大会』が開催されます。福知山駅北口公園広場や広小路通りを練り歩く姿は壮観です!ぜひ踊りにいらしてください。
福知山踊りは日本一難しい盆踊り?
実はまだ福知山踊りを踊ったことがない筆者。その魅力について田村さんにお尋ねしてみる。
田村さん:
私が福知山踊りを語る際、『伝統ある、日本一難しい盆踊り』という言葉を使っています。福知山踊りの振り付けには16もの手数があり、盆踊りでこれほど複雑なものは珍しいと思います。複雑とはいいながら、長い年月愛され続けてきた踊りですし、これこそ福知山踊りの魅力だと考えています。
16もの手数があると、踊りながら頭を使うので、最初は顔を引きつらせつつ踊ることになるかもしれない(笑)。
脳トレ効果も期待できそうだ。
田村さん:
福知山踊りは難しい踊りではあるものの、ただ難しいだけでなく、実は脳の活性化や認知症予防に効果的なことが実証されたんです。
なに?認知症予防とな!その内容について尋ねてみることにする。
効果は実証済み⁈福知山踊りで認知症予防⁈
田村さん:
2008年に京都府中丹西保健所の実証実験で、福知山踊りが脳の活性化に効果があるとした結果が報告されました。そして2018年の5月から、市立福知山市民病院で、認知症予防や改善に効果があるのかを検証する取り組みをはじめました。
70歳以上90歳までの市民56人に協力してもらい、週1回のペースで福知山踊りを踊り、認知機能の変化を調べるというものです。タッチパネルを使った認知機能検査を受け、半年ごとに同じ検査を受けることで、機能にどのような変化が見られるのかを検証します。
田村さん:
福知山踊りは複雑ですが、頭を使いながらできる運動です。さらに、「定期的に集まる」「頭を使う」「運動をする」ということが認知症の予防に効果があるようです。
楽しみながら健康にもつながり、さらには脳の活性化も期待できる。
福知山踊りはなんとも素晴らしい文化ではないか!
田村さん:
実はこうした取り組みがインターネットや口コミで広まり、海外からも注目されています。福知山踊りが地域の健康運動として定着し、地域活性化にもつながることを期待しています。
福知山踊りの機運を高める大河ドラマ『麒麟がくる』
2020年1月19日から放送される大河ドラマ『麒麟がくる』。
ドラマの中で福知山城築城の際には、ぜひ福知山踊りが登場することを期待したいものだ。
今でいうところの文化人であった明智光秀公。茶人としての彼も愛した川端道喜の水仙粽(ちまき)は、今も当時と変わらぬ製法で作られ、販売されている京都の名品だ(筆者撮影)
さて《福知山音頭》の歌詞といえば、先述の『福知山出て〜』の唄い出しのほか、時代とともに実に様々な歌詞が作られてきたのだが、中でも
『おまえ見たかや お城の庭を 今が桔梗の花盛り』
など、明智光秀公のことを詠んだものが多い(ちなみにこの唄は、明智氏の家紋である『桔梗紋』をして、光秀公の繁栄を詠んだものである)。
そこで福知山踊振興会では、『麒麟がくる』での機運醸成も期待しつつ、2019年4月20日から6月10日の間、《福知山音頭》の新しい歌詞を公募した。
北海道や岡山県など、各地の15歳から88歳まで、幅広い世代にわたる応募者から歌詞が寄せられ、「音頭にのりやすい歌詞か」「誰が聞いても光秀公の歌詞と分かるか」「オリジナリティーがあるか」といった点を基準に入賞作品を決定。
入賞作品は、同年8月3日に開催の「第39回ドッコイセフェスティバル」で披露された。
大河ドラマが始まれば、光秀公所縁の踊りとして、さらなる注目を集めることは間違いない。
今、福知山踊りがじわじわと盛り上がりを見せているのだ。
『ドッコイセスピリット』がつなぐ未来
残念ながら、福知山と聞くと、地元の人間でないボクにとっては、2014年や2018年の集中豪雨など、災害に見舞われる話題をよく耳にする気がするのだが…。
田村さん:
福知山は災害が多く、その度に復興を繰り返してきました。これは潜在能力としての『ドッコイセ力』というか『ドッコイセスピリット』が成せるものだと考えています。福知山踊りが400年もの間受け継がれてきたのも、福知山の人々が持つ底力、『ドッコイセスピリット』があったからではないか、と思っています。
福知山踊振興会は現在およそ90名の会員がおり、福知山踊りの伝統を引き継いでいく活動をしています。イベントでの出演や指導はもちろん、教育機関や福祉施設を中心に、踊りについての講義も実施。踊り教室のほか、三味線教室・唄教室・尺八教室・太鼓教室も実施しています。
みな『ドッコイセスピリット』で福知山踊り、強いては福知山を盛り上げようとしていますよ。
田村さんの力強い言葉を聞くと、確かに福知山は『ドッコイセスピリット』に支えられているような気がする。
最後に今後の活動目標について伺ってみる。
田村さん:
富士山は高さが日本一ですが、実は富士山を支えているのは広い裾野なんです。自分たちが誇る文化である福知山踊りも富士山同様、裾野を広げていくことの重要性を感じています。
若い人たちに福知山踊りを伝承していくために、どうやって関わっていくべきか、一緒になって考えていくことこそ重要ではないでしょうか。
2015 年に福知山淑徳高等学校とコラボレーションを実施しましたが、若者たちを取り込みつつ、今後もさまざまな機会で福知山踊りに興味を持っていただき、未来につないでいきたいと思います。
ますます興味を湧かせる福知山踊り。
間もなくはじまる(2020年1月9日現在)大河ドラマとともに、その魅力がより多くの方に『くる』ことを期待したい。いや、確実にくるであろう!
田村さん、お忙しい中ありがとうございました!
東京ドームでドッコイセ!『ふるさと祭り東京2020』に福知山踊りがやってくる!!
さて残念ながら都内では踊る機会のほとんどない福知山踊りであるが、この度、東京ドームで開催される『ふるさと祭り東京2020―日本のまつり・故郷の味―』に福知山踊りの出演が決定した。
『ふるさと祭り東京』といえば、日本各地の美味しい「食」と、その土地ならではの魅力ある「祭り」が一堂に会し、誰もが日本の文化に触れることができるまたとない機会だ。
毎年迫力ある山車灯籠が会場を彩る『青森ねぶた祭(青森県青森市)』や、エンタテインメント性の高い技にも注目の『秋田竿燈まつり(秋田県秋田市)』、神事でありながら演芸的要素が観客を惹きつける『石見神楽(島根県石見地方)』など、日本を代表する祭りの見本市ともいえるほど、多くの祭りを堪能することができる。
また、盆オドラーにとっては、『郡上おどり(岐阜県郡上市)』や『西馬音内(にしもない)盆踊り(秋田県羽後町)』、『東京高円寺阿波おどり(東京都杉並区)』といった三大盆踊りや、『沖縄全島エイサーまつり(沖縄県沖縄市)』、『牛深ハイヤ祭り(熊本県天草市)』などの出演も見逃せず、踊りに参加できる夜のプログラム『みんなで踊らナイト』や、披露後の『ふれあいタイム』など、ぜひとも参加したい演目が目白押しだ。
今年はこのプログラムに『福知山踊り』が加わるのだから、ぜひこの機会をお見逃しなく!
なお福知山踊りの出演は
*1月13日(月・祝)
<お祭りひろば>17:00〜17:20、19:00〜19:20『スペシャルお祭りナイト』内
<ふるさとステージ>15:20〜15:40
*1月14日(火)
<お祭りひろば>11:10〜11:30、13:20〜13:40
が予定されている。
会場内は大変な賑わいで、移動にはことのほか時間を要する。ぜひ余裕を持って参戦したい。
プログラムの詳細などはぜひオフィシャルサイトでチェックしよう。
なおこちらはアンオフィシャル情報だが、会場内で祭りも食もスムーズに楽しむために、経験上あったら便利なアイテムを記載しておく。どれも100円ショップなどで入手可能なものばかりだ。
*お土産用マイバッグ(名産品や買い物をスマートに持ち帰ろう)
*小さなトレイ(丼や汁物は器のまま手渡しされる。絶対あると便利!)
*滑り止めシート(ドーム内の階段や持ち歩きの際も安心)
*マイ箸・カトラリー(環境に配慮しよう)
*ティッシュ、ウエットティッシュ(用意していない店舗も多い)
*リュックやたすき掛けできるバッグでの参戦(移動も参戦もスムーズに)
今年大きな話題となりそうな『福知山踊り』。
ぜひ実際に踊って、その魅力に触れようではないか。
ドッコイセ&
盆ボヤージュ!
取材:2019年2月15日都内某所にて
参照:両丹日日新聞/2019年7月28日記事「大河盛り上げへ福知山音頭に新歌詞 全国から応募」
写真提供:一般社団法人日本盆踊り協会
注:曲についての表記は《福知山音頭》、踊りを表す際には『福知山踊り』、振りの特徴を表す際には『ドッコイセ踊り』、団体に関しては『福知山踊振興会』としている。
取材・文章:大ちゃん/佐藤智彦