春といえば、新たな出会いと別れの季節。引っ越しシーズンでもありますよね。
皆さんは、「引っ越しそば」とは何かをご存じでしょうか?
言葉の響きは、なんだか「年越しそば」と似ていますが、これらはまったくの別物です。
この記事では、引っ越しそばをはじめとした、転居にまつわる願掛けや風習を中心に、方位による災いを防ぐ「方位除け」のご祈願についても紹介します。
「引っ越しそば」いつ食べる?は大間違い!
引っ越しそばは、江戸時代から続く転居に関する風習です。当時、人口が密集していた江戸では住宅火災が多発しており、人々はそのたびに引っ越しを強いられていました。引っ越しそばの風習は、やがて関東・東北・甲信越地方などへ広まっていき、現代まで受け継がれてきたのです。
「引っ越しそばっていつ食べるの?」とさっそく気になった方もいらっしゃるでしょう。しかし、その疑問に答えることはできません。なぜなら引っ越しそばは、引っ越した本人が食べるものではないからです。
「引っ越しそば」は新しいご近所さんへの贈り物!
引っ越しそばは、実は転居先のご近所さんに渡す贈り物なのです。由来となったのは、「おそばに引っ越してきました」「細く長いそばのような関係を築きましょう」といった言葉遊び。隣人に対する挨拶の意味合いが込められています。
もともとはお粥?柱に塗るってどういうコト!?
引っ越しそばの風習の起源ははっきりわかっていません。少なくとも江戸以前は、引っ越しや転居がさほど頻繁に行われることはありませんでした。しかし古来、新築した際に「家移り」の儀式の一環として、新築した家主が近隣の人々に粥を振る舞う「家移り粥」という風習がありました。地域によっては、柱に粥を塗りつけたり、「柱褒め」と言って、「この家に福がつく」という内容のまじないの言葉をかける風習もあったそうです。諸説ありますが、江戸時代、米は貴重品でしたから小豆粥や餅ではなく、より安価なそばを贈るようになったのではないか、との説が有力です。
初対面で悪印象!?「三隣亡」は避けて!
暦の上で、引っ越しをするのに良くないとされる日が存在します。それが「三隣亡(さんりんぼう)」という凶日で、特に建築関係の物事を行うことは避けるべきである、とされている日です。土産物を渡す日としても適しておらず、「受け取った側は没落し、渡した側は繁栄する」といわれています。
この「三隣亡」、由来が全く不明で、江戸期には「三輪宝」と書いて吉日とされていました。暦注の誤りが原因ともいわれていますが、ある時から真逆の凶日になってしまった不思議な日です。当然、この日に引っ越しや建築を避けよ、というのは全くの迷信にすぎませんが、地域によっては非常に気にする人も多いそうです。初対面の人からの印象が悪くなり、後々の生活に影響が及ぶこともあるので、知っておくべき風習の一つです。
新居には何から運び込む?開運引っ越しテク
引っ越しの際は、家具や家電の運搬作業を業者に任せる方が多いでしょう。この時、新居に運び込むモノの順番が、実は運に影響するといわれていることをご存じでしたか?
ここからは、新居にはどんな物から運び込めば良いのか、さまざまな説を開運の観点から解説します。
神棚、鏡、塩・味噌がいい説
神棚や鏡を最初に運ぶのが良いという説には、前述の「家移り」の儀式が深く関係しています。家移りは、新築した家に入る際、家の神様を旧居から移す儀式で、古くは飛鳥時代から行われていたといわれています。ここでの鏡とは神鏡のことを指しています。民家では火の神様を移すために、一番初めにかまどの灰を運び込むという風習もあったそうです。
また、地域によっては調味料を最初に運ぶのも良いといわれているようです。沖縄では、竈神「ヒヌカン」に供えるため、塩と味噌を台所に運び、儀式をする風習が今も行われています。
引っ越し先の台所で、引っ越しの儀式?的なものをしてきました。
台所に米、味噌、塩を供えるというもの。確か、沖縄には「ヒヌカン」という神様を台所に祀る風習があると本で読んだ記憶。
きっと琉球圏の文化なんだろうなぁ。 pic.twitter.com/JK5UxEe1wD— N (@Mumura13) April 24, 2021
観葉植物がいい説
ここでカギとなるのは、「万年青(おもと)」というスズラン科の草。徳川家康が江戸城に入城する際、三河の長嶋長兵衛なる人物から贈られたそうです。家康は献上された3種の万年青をとても気に入り、床の間に飾りました。その後、徳川幕府が300年にもわたり繁栄したことで、観葉植物を最初に運び込むのは縁起が良いといわれるようになりました。
引っ越しに合わせて方位除けはいかが?
方位除けは、陰陽道や九星気学をもとに、方位にまつわる吉凶をみる占いです。この占いでは、自分の生まれ年に紐づく星によって、その年々に良くないことが起こる「凶方」があると考えます。星回りによっては、8つの全方位が凶方に当たる「八方塞がり」という状況になるので、厄除けをすべきだとされます。転居に際しては、自分やその家族の誰かの凶方が転居先の方角に当たる場合、方位除けのご祈祷を考えてみてはいかがでしょうか。
方位除けで名高い神社を3つご紹介します。
唯一の「八方避」・寒川神社(神奈川県)
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全国唯一の「八方避(はっぽうよけ)」の守護神として古くから信仰を集める寒川神社。八方避は、「地相・家相・方位・日柄などに起因するすべての禍事・災難を取り除き家業繁栄・福徳円満をもたらす」ものとされています。祈祷を受けた人だけが入れる回遊式の日本庭園「神嶽山新苑」も清らかな気持ちになれます。
三国境の清地・方違神社(大阪府)
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方違(ほうちがい)神社は、摂津・河内・和泉(大阪・一部兵庫県)の3つの国の境界に当たることから「方位のない清地」と考えられ、神功皇后の故事にちなむ方位を祓う信仰をもって、古来から方位除けのご神徳があると信仰されてきました。現在も、転居や建築、旅行などの際に方位の祈祷を望む人が全国から訪れます。
方除けの大社・城南宮(京都府)
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その名の通り、京都の南の守護として創建された城南宮は、皇族や貴族たちの熊野詣における宿所となり、道中の無事を祈願する方位除けのご神徳を得る宮でした。城南宮の方除けのご祈祷は、短いもので7日間、長いものでは1年間をかけて丁寧に行われます。いわゆる方位除けのご神徳に加えて、家庭や人間関係の円満を願う人も訪れるそうです。
まとめ
この記事では、引っ越しにまつわる願掛けや風習について解説しました。引っ越しそばを贈ったことがない方、物を運び込む順番を意識してこなかった方は、実践してみると幸運に恵まれるかもしれません。
また、方位除けは上記で紹介した以外の神社でも受けられます。引っ越しをする際はぜひ祈祷を受けて、気持ちよく新生活をスタートさせましょう。