観光経済新聞のコラム記事連載が、2019年9月14号からスタートしました!「お祭り」をフックに旅情あふれる記事を、オマツリジャパンライターの皆さんに書いていただき、毎週掲載して行きます。普段のマツログ記事とは一味違う表現で書いていただいていますので、ぜひお楽しみください。(オマツリジャパン編集部)
淡嶋神社のひな流し(和歌山市)
私は「奇祭ハンター」として毎月、日本全国へと奇祭旅を行っている。今回の旅の日付は3月3日、ひな祭り。目的地は和歌山市加太にある淡嶋神社だ。人形供養で有名な淡嶋神社では3月3日、ひな祭りの原型となったと言われる「ひな流し」が行われる。全国から寄せられたひな人形たちを海に流して供養するのだ。
最寄りの加太駅に到着すると、加太は紀淡海峡に面する漁師町だった。名産の真鯛(まだい)をはじめ、しらす丼やサザエのつぼ焼きなどの海産物が豊富で、加太淡嶋温泉だってある風情ある町並みだ。
駅から淡嶋神社まで徒歩20分。境内にはその数2万体ともいわれる人形が所狭しと並べられていた。ひな人形だけではない。日本人形や招き猫、狸の信楽焼きだってある。中には髪が伸びる人形も安置されているという噂だが、本当だろうか。
境内で待つこと約1時間。大量のひな人形を乗せた白木の船が3隻、神主を先頭にこっちへやってきた。白木の舟をかつぐのはすべて女性。ひな流しだから、当然か。
大量のひな人形は境内を出て、やがて海岸をのぞむ桟橋へと運び込まれた。見学に来ていた幼稚園児たちのうち、女の子だけが桟橋へと降りることを許された。「女の子だけずるい~」。男の子たちから非難の声が飛ぶ。「ひな祭りだからね~」と先生。
やがて神事が始まり、神主さんが色とりどりの紙吹雪を宙に撒(ま)いた。紙吹雪には、神の国の扉を開く意味があるらしい。偶然、風向きが良く、紙吹雪は私が立っている位置へと飛んできた。そこで撮れた偶然の一枚が、掲載した写真である。神事の後、ひな人形は無事、海へ、神の国へと旅立っていった。われわれ一同は厳かな気持ちでそれを見送った。