夏の終わりと秋の涼しさを感じながら、夜空の下に集い奏でる山車のお囃子。その音色が響き賑わう空間は、地域の底力のようなものを感じる場だった。
東京都日の出町で9月23~24日に開催された平井まつり。神輿、山車、鳳凰の舞といったさまざまな出し物を2日間通じて楽しめるお祭りだ。この賑わいの秘訣と魅力を知るために、24日に現地を訪れた。そのときの様子を振り返る。
平井まつりとは?
春日神社と八幡神社で行われる秋の例祭。この2つの神社のお祭りを合わせて「平井まつり」と呼んでいる。見どころはまず、ユネスコの無形文化遺産となった、各所で開催される「下平井の鳳凰の舞」だ。
また加美町、志茂町、八幡、桜木、三和という5つの囃子連があり、5台の山車が登場して練り歩いたり、お囃子が行われたり、夜には山車が集まって競演が行われたりする。
さらに、氏子町内を回り歩くお神輿の姿も圧巻である。これらの出し物を通じて、秋の訪れを告げるのが平井まつりだ。
ではここから、2023年9月24日に現地を訪れ、お祭りの様子を拝見した時の様子を振り返っていこう。
大きな神輿の渡御
JR武蔵引田駅から約25分のところにある春日神社。そこへたどり着いたのが11時半前だった。ちょうど子ども神輿が拝殿方向から出発したところだ。地域の方々を中心に賑わいが見られ、その周囲には出店が軒を連ねていた。
その後に登場したのが巨大なお神輿。大勢の担い手が拝殿前の階段を埋め尽くすようにして運び始めた。4つの棒によって神輿は支えられており、持ち手の部分が大きいように感じたが、これは大勢の担い手が参加できるように思われた。
お囃子が登場する舞台
境内の舞台では、何やらお囃子の演奏・演舞が始まったようだ。まずは獅子舞が2頭出てきて舞っている。その動きは1頭の舞ということもあり、動きがかなり機敏で激しい。
なんとびっくり、獅子舞の中からおかめが登場!突然、獅子舞がおかめの踊りに切り替わった。笑顔満点の表情で、会場にそのスマイルを振りまいている。
その後、天狐も出てきた。髪がぶわっとなびく様子や、鉤爪のような手先の所作がとても格好良い。
今回は平井まつりに5団体のお囃子団体が参加しており、これが終わると、山車に乗り込んで町を練り歩き始めた。
ユネスコ無形文化遺産の「鳳凰の舞」
11時半からは鳳凰の舞が始まった。京都や日光から伝来説があるこの踊りは日本全国でも珍しい形態を今に伝える風流踊だ。
前座として奴(やっこ)の舞があり、子どもは右手に白扇、左手に木刀を持ち舞を繰り広げる。その後に鳳凰をかたどった冠や赤い頭巾をつけた担い手が登場して、躍動感あふれる演舞が披露された。令和4年11月には、ユネスコ無形文化遺産に「風流踊」41件のうちの一つとして登録されている。
鳳凰の舞については、詳しくレポートした記事があるのでぜひ併せてご覧いただきたい。
お囃子の音色が夜空に響く、5町の競合い!
さあ、夜になった。19時半ごろまた町歩きに出てみると、平井宿通りで5町の山車が各々の音を奏で、演舞が行われていた。夜になると見物客も倍以上になっており、とても賑やかだ。
ここで登場するのは、春日神社の加美町、志茂町、桜木、八幡神社の八幡、三和の5町のお囃子だ。このうち加美町と志茂町の山車は町指定有形民俗文化財、山車上で囃されるお囃子「重松流祭り囃子」は、町指定無形民俗文化財となっている。
このように江戸時代後期から明治時代に栄えた八王子流の山車は、今でもなお非常に煌びやかな姿を私たちに伝えてくれる。
それにしても煌びやかな屋台が、夜空を照らすようにより一層光り輝いており、美しかった。各町での演奏の時もあれば、2町同時に向き合って、各町のお囃子を披露している場面もあった。自分たちの町が一番!と競い合いをすることで、祭りはより賑わいをみせていく。
春日神社の万燈が高々と掲げられ、ぶわっと花開く様は迫力がある。
屋台の背面を飾る幕に縫われた刺繍の柄もさまざま。町名を書くところもあれば、このように錦鯉が描かれることもある。
おかめやひょっとこがたくさん登場。高張提灯を持ちながら、あたりをぐるっと見渡して、子供が手を差し伸べてきたらそれをつかんだり、記念撮影に応じたりしていた。町によってはこの囃子の人々がお餅などを撒いている姿も見られた。
山車が移動中にこのように横並びになる瞬間もあって、その時の光景は2倍美しい。
最後は田中歯科病院前にて、5町の競合い(せりあい)が行われた。5つの山車が一堂に会して、半円を描くように並んで配置され、お囃子を奏でる様子は本当に賑やかで美しかった。日の出町の地域の底力を十分に感じるような機会となった。
この時の様子を、動画でもぜひご覧いただきたい。
昨日、東京都日の出町の平井まつりを訪問。ラストの場面は、5町の山車が勢ぞろい!獅子舞などのお囃子の演奏がどんどん激しくなっていく。春日神社と八幡神社の秋祭りが同時開催されることでこの賑わいが生み出されているのかも。競合いによってその技が高められていく感じが素晴らしい。#平井まつり pic.twitter.com/pEtzY1SCS6
— 稲村行真 / 獅子舞研究 (@yukimasa3858) September 25, 2023
地域は集い、競合い、誇りを再確認
20時過ぎに5町の競合いが終了してもなお、賑やかな演奏が続くお話の音色を聴きながら帰路に着いた。そろそろ秋の季節がやってきたとしみじみ感じる。肌寒い暗がりの道を武蔵引田駅へと帰った。
春日神社と八幡神社の秋のお祭りが同時に行われ、大きな賑わいが作り出されている平井まつり。平井宿通りを中心として、地域は集い、競合い、誇りを再確認する。そのような素晴らしい循環が作り出されているお祭りだと感じた。