「弘前ねぷた」は2022年、文献に初めて登場してから300年目という大切な節目を迎えます。新型コロナウイルス感染症の影響で弘前ねぷたまつりは2年連続で中止となりましたが、今年、3年ぶりに開催することが決まりました。弘前市民にとって祭りがなかった2年間はどのように映ったのか。中止になったからこそ気づいたねぷたの意義は何か。ねぷた文化を伝承するためにどのような取り組みを実施したのか。大のねぷた好きとしても知られる櫻田宏・弘前市長にお話を伺いました。
櫻田宏(さくらだひろし)
1959年弘前市生まれ。弘前高校卒業後、弘前大学を経て、弘前市役所に入庁。市職員が制作するねぷたの責任者として、長年組ねぷたの制作に携わる。2018年から弘前市長。現在2期目。
――ねぷた好きとのことですが、弘前ねぷたまつりにはどのような思い入れがありますか?
好きを通り越した「ねぷたばか※」を自称しています。ねぷたは幼い頃から大好きで、中学時代にはクラスメートと小型ねぷたを作り、市のねぷたまつりに参加していました。夏が近づくと、「じゃわめぐ(津軽弁で居ても立っても居られない高揚感のこと)」典型的な津軽人です。
※ねぷた好きを指す地元でよく使われる言葉。悪い意味はない。
高校もねぷたを制作・運行できるといった志望動機で学校を選びました。就職も家族の勧めはありましたが、ねぷたに関わりたいという思いで公務員を選びました。弘前市では市役所としてねぷたまつりの合同運行に参加しているため、在職中は組ねぷたの制作責任者として16年間作り続けました。10年近く観光課に在籍したこともあるので、行政の立場から弘前ねぷたまつりを支えていたこともあります。
――3年ぶりに合同運行が開催されますが、その思いを教えてください
それこそ「じゃわめぐ」でしょうか。個人的には、開催に漕ぎ着けたことに意味があったと考えています。30年以上前の話になりますが、合同運行のコンテストで最高賞にあたる県知事賞に選ばれた、あるねぷた団体がありました。その団体は翌年、賞を取ったことを理由に活動を休止。合同運行には参加しませんでした。その翌年も活動を休止してしまい、3年後には団体自体がなくなってしまったということがありました。この事例は、文化の継承は2年といった期間でも、何もしなければなくなってしまうということを痛感させられます。
――弘前ねぷたまつりを開催しなかった2年間、市としてどのような取り組みを行ったのでしょうか?
中止だからこそ楽しむ取組として、祭りの代替え事業「城下の美風」という取組を行いました。これは金魚ねぷたや角灯籠を弘前市内の商店街などに飾ることで、弘前ねぷたまつりの雰囲気だけでも感じてもらうことを目的としたもので、大正から昭和にかけて見られた、軒先などを手持ちねぷたで飾っていた風習を再現しています。町内運行を行わない年や合同運行に参加しない年にその町会で飾っていたと言われ、市がさまざまな意見を取り入れて実施したものでした。
昨年は「城下の美風」だけでなく、町内運行や各団体のねぷた活動を支援するため、感染症対策としての助成を用意しました。これは先にお伝えした活動が途絶えれば継承もなくなってしまうという危機感が背景にあったことは否めません。
その成果もあり、昨年は町内会を運行する団体やねぷた絵師らが集まり、ねぷた絵の展示など、祭りができないなりに、さまざまな形で市民の中から動きがありました。
――3年ぶりの開催は、ねぷたの伝承につながるでしょうか?
今年の合同運行の参加団体は例年に比べるとおよそ3割少ない、47団体を予定しています。参加団体が少なくなることは想定していましたが、その中でも新しい団体が生まれたり、町内会の運行や囃子を練習したりするなどの活動を続けている団体もありました。
ねぷたの運行には、さまざまな準備が必要となります。ねぷた小屋を設置するための場所探しやねぷた作り、運営するための資金集めもあります。私自身も経験したことがあるのでその大変さは理解しているつもりですが、慣習となっていることであれば続けやすいものです。一度途絶えたものを再開したり、ゼロから始めたりすることはそう簡単ではありません。今年、弘前ねぷたまつりを開催することは伝承に向けた大切な第1歩です。
――弘前ねぷたまつりを今後も継承していくために必要なことは何でしょうか?
子どもたちにねぷたを見せること、そして参加させること。そのためにねぷたまつりをやることが大切です。例えば祭りの合同運行をしている時に探してほしいのですが、「ヤーヤドー」の掛け声や太鼓、笛の囃子が大きく鳴り響く中でも、沿道から見ている子どもたちの中には、親に抱かれながら気持ちよさそうに熟睡している子がいます。こういったところからDNAや記憶となって、ねぷたが次世代に刻まれていくのではないかと感じることがあります。
私自身も小さい時に見たねぷたの記憶が原点のような気がします。その光景はしっかりと今でも脳裏に焼き付いていて、思い浮かべることもあります。そういった体験を次の子どもたちに感じてほしいなと思います。
――弘前ねぷたまつりの新型コロナウイルス感染症の感染防止対策を教えてください。
今年の弘前ねぷたまつりは新型コロナウイルス感染症の感染防止対策として、観客のみなさまには沿道での飲食は控えていただくことをお願いしています。飲酒も同様に自粛をお願いいたします。可能な限りソーシャルディスタンスの確保もお願いすることになります。運行コース付近の飲食店さまには期間中の飲食はなるべく店内でお願いするようにし、沿道での飲食を控えていただくよう、お客様へのお声がけをお願いしています。運行団体においては、ソーシャルディスタンスの確保はもちろん、掛け声を出す際にもマスクの着用をお願いしています。
運行コース上の歩道における対策のお願い
<基本的な感染防止対策>
○マスクの着用をお願いします。
○身体的距離の確保をお願いします。
○歩道上での飲酒、食事、食べ歩きの自粛をお願いします。(熱中症対策として水分補給は可能です。)
○大声での歓声を自粛お願いします。(拍手での応援を推奨します。)
※運行コースの歩道上に手指消毒スポットを設置します。
※歩道上の場所取りはおやめください。ねぷた団体における対策
弘前ねぷたまつり合同運行安全会議にてねぷた小屋ガイドラインの改訂、及び合同運行時におけるガイドラインを策定します。運行台数・コース等
1日当たりの台数制限及びコース変更については、実施いたしません。出展:弘前ねぷたまつり(公式)
――最後に弘前ねぷたまつり開催にあたるメッセージをお願いします。
感染対策を行いながらの開催となりますので皆様にご協力をお願いいたします。体調管理は万全に行っていただき、体調のすぐれない方は観賞をお控えください。その上で、3年ぶりに開催する弘前ねぷたまつりを体験していただきたいです。
今年、兵庫県神戸市と香川県琴平町に弘前からねぷたを派遣する機会がありました。琴平町には多くの人でにぎわう金刀比羅宮の初詣というのがあるようなのですが、それに勝るような人出だったと聞いています。その後、神戸でもねぷたを展示しましたが、見にこられた方の中には琴平町から来てくれた人もいました。ねぷたの感動は全国共通で、ねぷたを初めて見るような人にもこの魅力は伝わっているのだと手応えを感じています。
2年間運行できなかった「ねぷたばか」たちが集まり、3年ぶりの開催を楽しみにしております。ご覧になる皆さまにもぜひ楽しんでほしいです。
取材:2022年6月22日