Now Loading...

予算0から来場者1万人級の市民祭りを立ち上げ!夏祭り復活の奇跡はなぜおこった?発起人に聞いた

2023/8/8
2024/3/5
予算0から来場者1万人級の市民祭りを立ち上げ!夏祭り復活の奇跡はなぜおこった?発起人に聞いた

2022年、コロナ禍によって祭りのない日常が常態化しつつあったこの年に、ひとつの夏祭りが産声を上げました。それが、「笠間納涼盆踊り花火大会」。市民祭りレベルの規模ながら、なんと一人の有志が予算ゼロの状態から立ち上げ、多くの市民を巻き込みながら、成功に導きました。

2022年の笠間納涼盆踊り花火大会の様子

祭りの発起人である株式会社ADACHI HOUSEの安達勇人さんに、祭りを立ち上げた経緯や、祭りにかける熱い想いをうかがいました。

「田舎じゃ無理」の常識を覆したかった

笠間市は茨城県の中部に位置する都市。その象徴的なスポットとなるのが、日本三大稲荷の一社に数えられる、笠間稲荷神社。1300年以上の歴史を誇る由緒正しき神社で、農業や商業の神様として、笠間の人々から篤い信仰を集めてきました。

笠間稲荷神社 観光いばらきフォトライブラリーより

笠間の名産といえば「栗」。実は茨城県は、栽培面積・生産量ともに全国一位の栗の生産地。なかでも、笠間は栗の栽培が盛んな町で、秋には栗にちなんだお祭りも開催されています。

笠間の栗 観光いばらきフォトライブラリーより

笠間といえば「笠間焼」も有名。江戸時代中期から歴史を持つ伝統的な焼き物ですが、時代を経るごとに新たな技法も加わり、自由な作風で新たな商品を生み出しているそうです。

にこやかに取材対応いただいた安達勇人さん(左)

今回、インタビューをさせていただいた安達勇人さんは笠間市に隣接する、桜川市の出身。幼い頃から芸能の道を夢見ていた安達さんは、大学入学とともに上京。ファッションモデルとしてスカウトされたのをきっかけに、俳優・声優・歌手として活動の幅を広げていきます。2018年には海外進出を果たし、日本をはじめ、台湾、上海、香港、韓国、タイ、シンガポールのLIVEツアーを開催しました。

ワールドワイドに活躍する安達さんが、なぜ地元笠間市で盆踊り・花火大会を?と疑問に思うところですが、きっかけとなったのは幼い頃に抱いた郷土への反骨心にも似た思いでした。

「子どもの頃、『芸能界に行きたい』『歌手になりたい』なんて言うと、周りのいろいろな人から『そういうのは田舎(茨城)では無理だよ』と言われました。そんなの、やってみなければわからないじゃんと思ったし、『田舎では無理』という常識を変えたい、そのような風潮を次の世代に残したくないと思ったんです」

大人になってから上京し、俳優やアーティストとして着実にステップアップしていった安達さん。しかし、依然として郷土への熱い思いは消えることはありませんでした。20歳の時にはかさま観光大使に志願。履歴書を書いて応募し、見事審査を突破します。

「やっぱり地元を盛り上げたいという気持ちがあったんですよね。その頃は、観光大使といえば『ミス●●』みたいに女性が務めることが多かったんですけど、笠間市長の山口伸樹さんが『男が応募してきたぞ』といって、面白がってくれたんですよね。審査にも受かり、晴れてかさま観光大使に任命していただきました」

かさま観光大使に任命された当時の安達さん

観光大使就任を足掛かりに、地元での仕事も増えていきますが、もっと地元と深い関わり方をしたいと決意し、ついに所属していた芸能事務所からの独立を果たします。

「わかりやすく言うと、北海道の大泉洋さんじゃないですけど、地域に根付いた人になりたいなと思ってて。(笠間のイベントなどに)ゲストで呼ばれて、『安達勇人でした、ありがとうございました』じゃなくてね、県や町など、地元の方々と一緒に何かを作り上げるということが、僕のやりたいことだったんです」

2017年に「ADACHI HOUSE」という屋号を立ち上げ、翌年には株式会社ADACHI HOUSE(アダチハウス)として法人化。 フェスやコンサートの企画・運営から、カフェ、アパレルショップ、ファーム、来年から美容室オープンなど笠間市を拠点に地域密着の事業を展開しています。

 

ADACHI HOUSEが手がけるファッションブランドAYHのショップ

地産地消キッチントレーラー「ADACHI HOUSE DRIVE IN」

町おこしとは、人の心を「起こす」こと

そんな安達さんにとって転機となったのが、約30年もの歴史を誇る地元の夏祭り「笠間のまつり」が2021年を最後になくなってしまったこと。

「笠間の祭りというと、春は『笠間の陶炎祭(ひまつり)』、夏は『笠間のまつり』、秋は『かさま新栗まつり』や『笠間の菊まつり』があったわけです。『笠間のまつり』がなくなってしまうと、子どもたちにとっては、夏の思い出がなくなってしまうに等しいわけです。それはかわいそうだなと思って、(誰かが新しい祭りの主催者として名乗りを上げないかと)様子を見ていたんですけど、誰も手を挙げませんでした」

 

この投稿をInstagramで見る

 

笠間市広報戦略室(@kasama_city)がシェアした投稿


その大きな要因は、それまで市から出ていた夏祭りの予算がゼロになってしまったことでした。つまり、この地で再び大きな祭りを起こすためには、発起人としてゼロからお金や人を集めることができる、プロデューサー的な人材が必要だったのです。

「それで、誰も手を挙げないながら、俺がやるよって名乗りをあげたんです。もしお金が集まらなかったとしたも、俺が全部出すからって。それぐらいの思いがないと『祭り』って起きないじゃないですか?」

資金集めは、普段から仕事でイベントのプロデューサー的な立ち回りをしていた安達さんにとってはうってつけの役割。しかし、祭りの開催に向けて動き出してみると、さまざまな困難が目の前に立ちはだかります。そのひとつが、未知なるチャレンジに地元の人から賛同を得ることの難しさ。最初から協力的な人も少なからずいたそうですが、多くの方々は安達さんの挑戦に懐疑的だったそうです。

「新しいことを始めるにあたって、『そんなこと絶対にできないよ、無理だよ』と批判が来るのは当たり前だと思っています」と安達さんは語りますが、腐らずに少しずつ地元の方々との信頼関係を築いていき、最終的には、街の方々も、商店街の方々も、一丸となって協賛金集めに協力してくれたそうです。

「祭りを起こすってそういう作業だと思っているんです。僕、『町おこし』って『人おこし』だと思っていて、どれだけ人の心を起こすことができるかってことなんですよね」

新型コロナウイルスに対する警戒心も、人々が祭りの実施を躊躇する要因となっていましたが、そこに対しても、安達さんが「すべての責任は自分が負います」と声を大きく明言することで、みんなの不安を払拭しました。

何かあったら誰が責任を取るの?って、この言葉、結構言われましたね。やっぱり、みんなそこが怖いんですよ。でも、それで祭りがなくなってしまったら、子どもたちがかわいそうだし、笠間の夏がなくなってしまう。だったら安達が責任を取るから、祭りをやりましょうよと言ったんですよね。いや本当に俺、ヤグラの上からも言いましたからね(笑)。何かあったら俺に言ってよ、俺、全責任を取るから!って」

祭りの言い出しっぺと、祭りに関わるすべての責任を引き受けた安達さん。しかし、あくまで祭りの主役は地域の人たちであると、安達さんは言います。

「金魚すくいや射的など、縁日の屋台は、僕のファンの方々が主体となったアダチハウスボランティア実行委員会の方々にやっていただいています。ですが、そのほかの飲食店などは全部地元の方々に出店いただきました。開催地は笠間だけど、実際地元の方々は全然携わってないという風にはしたくなかったんですよね。本当に地元に根付いていくお祭りを作るために必要なことは、地元の方々にやりがいを感じてもらえること。いかに『俺たちがこの祭りを作ったんだ』と言わせるかが大事なんですよね」

結果的に、安達さんと地元の方々が作り上げた新しいお祭りは、冒頭でお伝えした通り来場者約一万人の大盛況に。出店者の売り上げも予想を遥かに超えるなど、地元への還元という意味でも大成功の夏祭りとなりました。

祭りは人と人とのつながりを確認する場所

2023年には第二回を数え、早くも笠間の夏の風物詩になりつつある笠間納涼盆踊り花火大会。しかし、安達さんはさらなる未来の展開を思い描いています。

「数万人規模の町おこしフェスティバルを作ろうと思っているんです。いま笠間納涼盆踊り花火大会は大池公園という会場で開催しているんですけど、キャパシティ的に手狭になってきているということもあって、笠間芸術の森公園という、より広い場所に会場を移したいと思っています。同時に、ひたちなか市の阿字ヶ浦海岸でもお祭りを同時開催したいと思っていて、山の祭り、海の祭りをドッキングさせた、花火、盆踊り、食、音楽フェス、マーケットを全部楽しめる夢の国、ドリームランドを作りたい」

規模が大きくなることで運営費的に無料は難しくなりそうですが、それでも参加費は低価格に設定したいと安達さんは言います。

「フェスというと、何千円、何万円払って参加するというのが当たり前ですが、やっぱり笠間納涼盆踊り花火大会のように、笠間の町の方々に楽しんでもらえるようなコンテンツにしたいので、例えば一人500円ぐらいだったら子どもやファミリーでも参加しやすいと思うんですよ。子どもでもお小遣いを貯めれば参加できる金額ですよね。もちろん、いただいたお金は全部、運営費に注ぎ込みますよ」

お祭りの火を絶やさないように、身銭を切る覚悟で奮闘するその情熱。安達さんにとって、「祭り」とはなんなのでしょうか。

「(祭りとは)人と人とのつながりや、愛を再確認する場なのではないでしょうか。やっぱりお祭りって人の熱量と心が作るものだと思っていて、いくらデジタル化が進んで世の中が便利になっても、ヤグラを組み立てるのだって、神輿を担ぐのだって、太鼓を叩くのだって、全部人の手がアナログで行っているわけですよ。祭りの場に、おじいちゃんやおばあちゃん、それから子どもたちまで、世代を問わずに多くの人が集まるのも、そういう人の温もりを確認したい、生きる意味を感じたいからなんじゃないですかね」

 

笠間市民の思いの詰まった夏祭り。その熱量を、ぜひ現地で確認してみてください!

「第2回 笠間納涼盆踊り花火大会」
開催日:2023年8月11日(金)15:00~20:45
開催地:大池公園(ポレポレシティ)
参加費:無料
※イベントの詳細や最新情報は公式Twitterでご確認ください。

タグ一覧