「京のかがやき」夢ひろがる新感覚な民俗芸能エンターテインメントショー

2025/2/19
2025/3/7
「京のかがやき」夢ひろがる新感覚な民俗芸能エンターテインメントショー

2025年「京のかがやき」!魅力あふれる民俗芸能のエンターテインメントショーを京都から発信〜テーマは「夢」

2024年2月に南座で開催し、約600名の観客を魅了した新感覚民俗芸能エンターテインメントショーがテーマや場所も変え、2025年はさらにパワーアップ!

昨年の「京のかがやき」は「新・京都歴史絵巻」がテーマ。京都各地の民俗芸能がどのように生まれてきたかを、ストーリー仕立てで紹介する趣で、光や映像の演出で観覧者を壮大な歴史へのタイムスリップ体験に誘う没入感のある舞台として話題になりました。

そして今年、2025年のテーマは「夢」。今現在、伝統を繋いでいる人々の夢がストーリーの軸になっています。

5つの団体の夢を紡ぐのは京都出身の俳優、佐々木蔵之介さん。
NHK大河ドラマ『光る君へ』に出演されたりと、大変人気のある俳優さんです。
京都観光大使でもあり、京都を深く知る蔵之介さんが昨年に引き続き、ストーリーテラーを担い、京都各地の民俗芸能を語りだすと、その優しい笑顔と心地よいリズムの声により、物語の世界へと引き込まれます。

「お父さんと一緒に太鼓を叩きたい」という原谷弁財天保存会の風花さん

文化庁もある京都から、民俗芸能が大好きなカメラマン佐々木美佳が「京のかがやき」の魅力をたっぷりとお届けいたします。

新時代の民俗芸能を繋ぐ舞台が、いよいよ開幕ーー。

網にビニール紐を結んで自分たちで作る獅子舞を使用している

「原谷弁財天保存会」沖縄の庭師が披露した手作り獅子舞

まず最初にご紹介するのは2025年に初めて「京のかがやき」に登場した原谷弁財天太鼓保存会・原谷弁財天獅子舞保存会(以下、原谷弁財天保存会)。

沖縄出身の庭師が、故郷の獅子舞を京都で披露したところからはじまったという民俗芸能です。獅子頭は庭師さんが持っておられたものを塗り直し、獅子舞の胴体はプロに頼むと多額の費用がかかる為、自分たちで作っています。その作り方がまたおもしろい。漁網に荷造り紐を一つ一つ結び、長い月日をかけて一頭を完成させています。昨年、一方の獅子頭の材料を軽量化し、現在に至ります。

現在は京都市北区原谷(はらだに)を中心に20代から70代まで幅広い年代の人が原谷弁財天保存会に所属しています。保存会が発足して約30年が経ちますが、無形文化遺産に登録されるにはおおよそ100年は必要と言われています。この原谷弁財天保存会のような歴史の浅い団体も、大きな舞台に立つことで、今後の継承活動の刺激になるのではと京のかがやきに参加をしているそうです。

プロの演出家による演出で民俗芸能がより魅力的に輝く

今回は事前に原谷の練習風景も拝見してきました。
この日の内容は自分たちの練習とは別に「京のかがやき」の出演に特化したもの。すばやく舞台へ太鼓を運ぶための出ハケの練習や、2025年のテーマ「夢」の演出の打ち合わせです。演出家さんから、音楽のどの部分がきっかけで用意を始めるかが伝えられ、全員で丁寧に確認作業を進めていました。

演出家さんの熱意と分かりやすいその言葉は、はじめて練習を見学に来た筆者にも、すっと理解できるものでした。例えば「経験上、2分くらいあれば十分に余裕を持って出ハケができます。もしトラブルがあって時間がかかっても、こちらで繋ぎの音楽や照明で調整します。大丈夫です!」という話はなんとも心強く、これなら初めて大きな舞台に出る保存会でも安心できるなと感じました。

左から二人目が原谷弁財天保存会の中矢さん

そんな貴重な練習時間の合間、保存会の中矢さんにお話を伺うことができました。

ーどんなところに苦労されていますか
「技術向上に苦慮しています。プロがいるわけではないため、カメラで撮って確認し、どうしたら良くなるかを試行錯誤しています。また太鼓の音で近隣から苦情が出ないように郊外で練習をしています。そのため車での移動が必要で子どもは一人で練習に行くのが難しい状況です。大人の練習が終わったあと、近所のダンススタジオに移動して、子どもたちの練習を行っています。」(中矢さん)

新しい白の獅子頭は重い素材から軽いスチロール製に変更

こうした練習を重ねた成果により「京のかがやき」では見事な演奏を披露。獅子舞は客席に舞い降り、観客の邪気を払いながら練り歩き会場を盛り上げました。

京都ではこういった手作りの獅子舞を見る機会はほとんどありません。
原谷弁財天の年中行事はお正月の初詣をはじめ、どんど焼き、夏祭りには近くの地域の新阿弥(いまあみ)という狂言とのコラボイベント、秋の祭礼は10月第三土曜と日曜に行われます。ぜひ一度、鑑賞に訪れてみてください。

花街発祥「宮津おどり」財布が空になるほど夢中になる踊り

次にご紹介するのは「宮津おどり」。
舞台には一台の車椅子を押す若い女性が登場します。福祉の仕事をしている清水さんです。彼女は「どんな人も幸せに生きていける世の中に」といつも願っています。時には「そんなのは夢物語だ」という言葉をかけられることもありますが、それでもひたむきに仕事に向き合う日常が語られます。
そんな中、「早く着替えておいで。一緒に踊ろう。」と宮津おどりのメンバーが声をかけると、清水さんはまるで花が咲くように笑顔になっていくのでした。その笑顔で踊る姿に心を掴まれます。

写真中央 笑顔で踊る清水さん

今回、披露された曲は「丹後小唄」、「橋立おどり」、「あいやえおどり」。
通常のあいやえおどりでは行われない特別な歌詞も加えたバージョンでの演奏です。

日本三景の一つに数えられる特別名勝「天橋立」のある宮津市は、現在では観光の町ですが、近くの新浜はかつて北前船で栄え、花街では船乗りや商人たちが芸妓とともに賑やかな夜を楽しんでいました。江戸時代にこの花街で生まれたのが「宮津おどり」。地唄の宮津節には「二度と行くまい丹後の宮津。縞の財布が空となる」と歌われ、祇園に次ぐ格式の高いお座敷として人気がありました。

2階席から客席へと粋な三味線の音が降ってくる

「宮津おどり」の歌詞は「丹後の宮津でピンと出した」という独特な言葉が有名です。このはやし言葉の「ピンと出した」という意味には諸説あり、「ピンからキリまで」という博打言葉、また女性をたたえた別嬪(べっぴん)という言葉、三味線のピンッという音からとられたとも言われています。

「宮津おどり」は、古くから伝わる民謡「宮津節」と「宮津盆おどり松坂」、それに北前船で九州地方から伝わったといわれる「あいやえおどり」の三つが組み合わされた踊りです。毎年8月のお盆に開催される市民総おどり大会で披露され、誰もが一緒に輪になって踊ることができます。

「宇治田楽まつり」狂言や能の源流”田楽”を現代に復活

次に登場したのは「宇治田楽まつり」。この宇治田楽の舞台はとにかく華やか。舞台の両側にある花道いっぱいに老若男女、大勢の人たちが鮮やかな色の装束を身につけ踊る姿は心が浮き立ちます。

70歳を超えても「これからも宇治田楽が続くように」と願い舞う山岡さん

田楽はもともと田植えの前に豊作を祈る農耕儀礼であったとも言われ、田植えの共同作業にリズムを取ったり、稲作の重労働をねぎらうため披露されるものでした。平安時代には芸能として発展し、宇治にも芸能集団(座)が存在していたことが記録に残っています。源氏物語の舞台としても知られる宇治は、かつて田楽が盛んでしたが、やがて狂言や能の隆盛とともに衰退していきました。現在は市民も街づくりに参加しようと宇治田楽まつり実行委員会が中心となり田楽の復興が進められ、宇治田楽が創作されました。

この「宇治田楽まつり」は毎年4月に小学1年生以上の一般参加者を募集し練習を重ね、10月に宇治市で開催されます。本番では、王舞(おうのまい)、龍舞(りゅうまい)、獅子舞など、さまざまな演目も披露されます。

「福知山踊り」福知山城築城の唄(ドッコイセ)が、認知症予防にもなる盆踊りに

明智光秀が築いた城下町や大江山の酒呑童子物語として有名な福知山。
「福知山踊り」は、安土桃山時代の1579年ごろに始まった伝統的な踊りです。織田信長の命を受けた明智光秀が丹波を平定し、福知山城を築く際、石材や木材を運ぶ領民たちが「ドッコイセ、ドッコイセ」と手振り、足振り面白く唄いだしたのが始まりとされています。この唄は時を経て、江戸時代の慶応年間には優雅で素朴な踊りへと発展しました。

福知山音頭のキャッチコピーは「日本一難しい盆踊り」。振り付けはなんと16もの手数があり、なかなかの難易度です。2006年には、踊ることで脳が活性化し、達成感を得られることから、認知症予防にも効果があるとの研究結果が出たのだそうです。

花道に踊り手がやってきて、観客席の人と一緒に踊り出す

今回はそんな難しい踊りに観客も挑戦。踊り手たちから「一緒に踊ってみましょう!」と声がかかり、客席のあちこちで手があがりはじめます。一緒に手振りをしてみるものの、難しくて思わず笑い声が聞こえてくることもありました。

手振りだけではなく、やはり現地の福知山踊りに参加したい!という方は8月の「福知山ドッコイセまつり」へ足をお運びください。健康長寿を願いながら全身を使って踊りを楽しんでくださいね。

民俗芸能の間に、空手と尺八の二刀流を目指す希美奈さんの演奏。空手の演舞もかっこいい。

源頼光の鬼退治「和知太鼓」で武運長久と士気を高める

舞台の最後を飾るのは心が沸き立つ音色が特徴の和知太鼓。

和知太鼓の始まりは約1000年前の平安時代にさかのぼります。源頼光が大江山の鬼退治へ向かう途中、雷雨に見舞われ、京丹波町の藤森神社で雨宿りをしました。その際、村人たちは頼光の武運長久を願い、祈りを込めて太鼓を打ち鳴らしたのが和知太鼓の起源と伝えられています。

舞台中央は太鼓芸能集団「鼓童」創設メンバーの藤本吉利さん

中でも印象的なのは舞台中央で太鼓を叩いている藤本吉利さん。プロの太鼓芸能集団「鼓動」創設メンバーです。その姿はまさに「たいこわらべ=鼓童」。筆者は過去に何度か舞台を拝見しているのですが「太鼓が大好き!」という気持ちが毎回、客席まで届きます。それに笑顔がまた素敵。大迫力の太鼓の音色に加えて、武道の型のような個性的な構えに、いつも気持ちがアガります。

エンディングで全員が舞台に上がる中、和知太鼓がきっかけで結ばれた出野さん夫妻が手を振る

この和知太鼓保存会の舞台では、太鼓がきっかけで出会った二人が夫婦となり、日本一の太鼓を叩いて、次世代に継いで行きたいという夢が語られました。

5つの夢が集まり、観客は拍手喝采

全員が舞台に集まるフィナーレでは会場いっぱいに大きな拍手が鳴り響きました。

これからもそれぞれの地域の人たちの「夢」や思いが繋がり、民俗芸能が輝いていくようにと願わずにはいられません。

民俗芸能を新感覚エンターテインメントショーにした京都府のねらいとは

主催の京都府文化生活部文化政策室・小林広季さんにお話をお伺いしました。

ー「京のかがやき」の魅力について教えてください
「演舞するだけでは勉強会になってしまうため、光と音の演出をして、若い方や海外の方にもエンターテインメントとして民俗芸能に興味を持ってもらえるようにしています。」

ーたしかに京のかがやきは、佐々木蔵之介さんによるストーリーテラーということもあり、まるでミュージカルを見ているようです。心にぐっと響く舞台構成で、あっという間に時間が経っていました。

ー今回、舞台を舞妓さんたちの「祇園甲部歌舞練場」にした理由を教えてください
「前回の南座とまた違った新しい見せ方をしたいということと、祇園甲部歌舞練場も令和の大改修を終えたところから選びました。国の文化財を次世代にと耐震改修を施し、玄関ロビーや廊下が新しくなっています。」

ー伝統文化の継承に対する思いや、今後に向けての特別な取り組みを教えてください。
「京都府では民俗芸能の活性化を図っています。もっと京都の魅力を知ってもらいたいとDMO文化観光サポーターに相談したり、京都市との連携も進めています。いくつかの保存会の方に出演交渉もしましたが『自信がない』と辞退されるところもあるのが現状です。地域で受け継いできた伝統のカタチは変えず、魅力を引き出すお手伝いをプロの演出家が優しく丁寧にいたします。出演することで保存活動の刺激にもなります。色々な団体にぜひ出演していただきたいです。また、地域の文化を多くの人に知っていただくことで、民俗芸能を起点とした地域周遊につなげたいとも考えています。」

観客と一体になって踊る福知山踊振興会

ー小林さん、ありがとうございました。

筆者は以前、出演された団体から「『観客に見ていただく』という視点を知り、普段の練習にも舞台に出た経験がとても役立った」という話をお伺いしたことがあります。

「子どもたちは、舞台袖に帰ってくると、本当に全員興奮しており、目をキラキラ輝かせながら『あー!楽しかった!これまでで一番良い舞ができた!ほんまに楽しかった!隼人舞やってて良かった!』と口々に喜びを発していました。」

「今回の催し・発表の場が、府内各地の伝統芸能の発展に大きく役立つと思います。各地で継承されている方々には、これまでにない大きな舞台で自分たちの芸能を披露できる機会です。知らなかった方々に広く知っていただくこともできました。継承していく方々にとっても、大舞台での経験が自信になります。また地元に帰って披露する際にも、南座の舞台で得た感覚を活かすことができます。

子どもたちにとっては、これまで普通の地域の芸能であったものが南座で演じることができるという憧れの対象になるでしょう。役員や裏方さんにとっても、これまでの継承だけでなく『見ていただく』ということを考え実践する経験になりました。京都の観光資源としても、比較的安価で南座での鑑賞の機会を得られます。本当に色々良いことがあったと思います。」
(佐々木「民俗芸能にデジタル演出で新たな魅力!「京のかがやき」企画・開催した京都府のねらいは?」より抜粋)

「京都府が年1回開催しているこの『京のかがやき』では、京都府の職員さんたちが驚くほど、それぞれの郷土芸能がキラキラと輝いています。もともと地域で続いていたものが大きな舞台に立たせてもらうことがきっかけで、『見ていただく』とは何かをそれぞれが掴んだのです。最初は演出家さんの指示に対応できないこともありましたが、自分たちからアイディアを持ってくるほどになったと聞きました。いつもと違う場所で、求められて出演すると自発的に表現するという意識が生まれます。」
(佐々木「民俗芸能をネットワークし、アップデートする男=新阿弥が描く伝統文化の未来」より抜粋)

宇治田楽まつり

筆者はさらに「京のかがやき」が活性化するには、写真や動画が撮れるようになると良いのではと感じました。近年は美術館などでも写真撮影が可能なところも増えてきています。より多くの方がSNSを通して民俗芸能の魅力を知り、来年は更に盛り上がるのではないでしょうか。

2024年は歴史絵巻、2025年は夢を繋ぐ物語、さて来年はどんな魅力的な民俗芸能がキラキラと輝くのでしょうか。
見るのも出演するのも楽しい「京のかがやき」、今後に期待が膨らみます。

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