全国各地に伝わる郷土玩具が、いま注目を集めています。かわいくて深い、郷土玩具の魅力や楽しみ方について、文筆家であり、郷土玩具に関する本も出されている甲斐みのりさんにお聞きしました。
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甲斐みのり
文筆家。静岡県生まれ。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に、書籍、雑誌、webなどに執筆。著書に『歩いて、食べる 京都のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)、『田辺のたのしみ』(ミルブックス)など。
甲斐みのりさんがおすすめする「キュン♪」な郷土玩具4選
――甲斐さんのおすすめの郷土玩具を教えていただいてもよろしいですか?
甲斐さん:郷土玩具はいろいろな素材で作られているのも特徴です。今回は、素材ごとに私のお気に入りの郷土玩具を持ってきました。一つ目は千葉県香取市佐原で生産されている「佐原張子」です。
――張子ということは和紙でできているんですね。このなんとも言えないかわいさ!
甲斐さん:表情がいいですよね! 狙っていないかわいさというか、無垢なんです。友だちにプレゼントしようと思って買ったものでも、結果的には自分のコレクションに加えて、佐原張子はいくつか所有しています(笑)、それくらい大好きで。佐原張子は、鎌田さんという職人さんの家だけでしか作っていないんですけど、ちょっと気持ちがささくれ立った時も、鎌田さんの郷土玩具を見ると、心が和んで、イライラするのはやめようと思えたりする。本当に自分にとっては天使みたいな存在なんです。
――佐原張子の職人は、鎌田さんお一人しかいないんですか?
甲斐さん:そうですね。ご高齢なので、現在でも定期的に作られているかわかりません。鎌田さんの技術を継承したいという方も現れていると聞いたことがあります。
――この味わいを出すのは、なかなか難しそうですけど、なんとか伝統を引き継いで欲しいですね。
甲斐さん:続いてご紹介したいのは、土でできた郷土玩具、大分県の「福獅子」です。
――これもかわいい! 獅子……ですか?
甲斐さん:獅子舞の獅子みたいですね。厄除けとか豊穣の神様みたいな感じらしいんですけど、すごくデフォルメされているというか、妖怪的、アニメ的ですよね。
――かわいいだけじゃなくて、ご利益もあるんですね!
甲斐さん:この福獅子は、大分県の別府にいる職人さんに連絡をして、直接購入させていただきました。福獅子を作っているお座敷も見せていただいたのですが、まだ色つけ前の福獅子がズラリと並んでいてすごかったですよ!
3つ目にご紹介するのは、宮崎県国富町の「法華嶽(ほけだけ)うずら車」です。素材には「タラノキ」というトゲのある木が使われていて、トゲトゲを削ぎ落として加工するそうです。
――面白い! 鳥の胴体に車輪がついているんですね。大きいうずらと、小さいうずら……これはオスとメスですかね。
甲斐さん:そうなんです、赤がメスで、黒がオスです。これも今は職人さんが一人しかいらっしゃらないんですけど、昔はいっぱい作る人がいて、お祭りの日になると薬師寺というお寺の参道で厄除けのお守りとして販売されていたそうです。実際に私が国富町を訪れた時も、食堂や役場など、行く先々でうずら車が飾ってあって。地元の人に「これ、すごくかわいいですね」と言ったら、「え、かわいいの?」とみなさん驚かれていて(笑)
――当たり前の存在すぎて、「かわいい」という感想が新鮮だったのか、それぐらい生活の中に溶け込んだ郷土玩具ということなんでしょうね。
甲斐さん:最後にご紹介するのが、長野県上田市真田町戸沢の郷土玩具「馬引き」です。この地域には、無病息災を願って、子どもたちがワラでできた馬を引いて道祖神にお参りする「戸沢のねじと馬引き」というお祭りがあるのですが、そのお祭りに由来するものです。
――かわいい郷土玩具から一転、これはカッコいいですね!
甲斐さん:私は、これも「かわいい」と思うんですけど(笑)。でもシンプルで洗練された印象もあるので、おしゃれな雰囲気の部屋に飾ってあってもしっくり馴染むでしょうね。
買ってよし、飾ってよし、贈ってよし! 魅力がいっぱいの郷土玩具
――お話を聞いていると、郷土玩具の世界って奥が深そうで、コレクターも博識の方が多そうだなという印象です。初心者でも気軽に入り込めますか……?
甲斐さん:全然、大丈夫ですよ! 確かに郷土玩具が好きな方って、歴史が好きだったり、すごく勉強熱心な方が多かったりする印象ですが、最初は難しく考えないで、純粋に「かわいい!」という気持ちから入ってもいいと思います。私自身もそうでしたし(笑)。郷土玩具の世界は本当に一期一会で、いつ職人さんが不在になってしまうともわからないので、旅先とかでグッとくる郷土玩具に出合ったら、迷わず購入することをおすすめします。
――ひと目惚れってやつですね。郷土玩具には「出合い」という楽しみ方が一つありそうですが、それ以外にどのような楽しみ方がありますか。
甲斐さん:購入した郷土玩具を部屋に飾るのもまた楽しいですね。インテリアとしてもおすすめですが、部屋にコレクションを飾るような広いスペースがないという方は、今回ご紹介したような小さいサイズの郷土玩具を選んでみてください。贈り物として郷土玩具をプレゼントする時も、小さいものだと、ちょっとしたスペースにも飾ることができるので、喜ばれますよ。
――郷土玩具を贈り物にするというのも、またいいですね。
甲斐さん:はい、私もプレゼントしたり、されたりすることも多いです。郷土玩具は縁起物が多くて、例えば犬の郷土玩具だったら、犬は多産なので安産祈願の意味を持っていたり、タコの郷土玩具なら、「多幸(たこう)」という願いが込められていたり、プレゼントに最適なんですよ。もちろん縁起に関係なく、猫好きの人に猫の郷土玩具をプレゼントする、というのもいいですし。
実は身近な場所でも購入することができる郷土玩具
――いろいろとお話を聞いて、郷土玩具を買ってみたくなりました! 実際に、どこに行ったら購入することができるのでしょうか。
甲斐さん:一番スタンダードなのは、やはりその郷土玩具の生産地に行って、お土産屋さんで購入するという方法ですね。また、より深く楽しみたい方は、職人さんの元に出向いて直接購入するのもおすすめです。職人さんによっては、オーダーメイドで作品を少しアレンジしてくださる方もいらっしゃいます。私も、以前お願いしてこけしにリボンを書き加えていただいたことがありました。
現地に行って買いたいけど、忙しくてなかなか旅行に行けない、ご時世がら遠くに行きづらいという方もいらっしゃるかもしれません。そんな時は、近場にあるお店で買うという手もあります。例えば東京なら、若松河田の「備後屋 BINGOYA」という民芸品屋さんは品揃えが豊富で、おすすめです。また、あまり品数は多くないですが、生産地のアンテナショップでも販売されていることがありますので、ぜひのぞいてみてください。
――ネット通販なども利用できますか?
甲斐さん:ネットでも購入できますよ。職人さんが個人で通販をしている場合もあれば、全国の民藝ショップや、その地域の観光協会がネット通販を行っていることもあります。ぜひ利用してみてくださいね。
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見た目がかわいくて、コレクションしたり、家に飾ったり、誰かにプレゼントしたりと、雑貨としても楽しめそうな郷土玩具。しかも、その郷土玩具を通じて、生産地の風土が見えてくるという奥深さもあります。
職人さんの手作りだからこそ、世界に一つとして同じものが存在しない郷土玩具。みなさん、自分だけの郷土玩具をおうちにお迎えしてはいかがですか?