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気になるお祭りの撮影マナー問題、どうあるべき?どうすればいい?プロのカメラマンに聞いてみた

2023/12/17
2023/12/16
気になるお祭りの撮影マナー問題、どうあるべき?どうすればいい?プロのカメラマンに聞いてみた

盆踊りのヤグラから放射状に連なる提灯。壮麗な彫刻が施された山車。神社の参道に立ち並ぶ屋台など日本のお祭りはフォトジェニックな空間でもあります。

美しさのあまり写真を撮影することについ夢中になってしまいがちですが、まわりが見えなくなってしまって無用のトラブルを招いてしまうことも時にあります。

かくいう筆者も数年前に一眼レフカメラを買ってから祭りの現場には常にカメラを持参して勇んで撮影しているわけですが、そのようなトラブルを目撃することは少なからずありますし、自分自身もまた行動が過剰になりすぎて周りの人に迷惑をかけたり、お祭りの雰囲気を台無しにしてしまっているのではないかと、自省することがあります。

そこで今回は、お祭りでの撮影におけるマナーについて、自分の体験や、プロの方の意見をもとに、考えてみることにしました。

撮影マナーを意識するきっかけとなった3つの出来事

果たしてお祭り撮影でのマナー違反とはどういうものなのか? 人によって感じ方はさまざまでしょうが、事例としては私が過去に体験した出来事を紹介したいと思います。

(1)フラッシュ撮影禁止のお祭りで…

お祭りというと、夜に開催されることが多くなるため、どうしても撮影の際にフラッシュを焚く必要が出てきます。しかし、暗闇の中で行われるからこそ雰囲気の出る祭りなどにおいては、フラッシュを使った撮影を禁止している主催団体もあります。

数年前、私が見に行ったとある念仏踊のお祭りでも、観光協会のホームページにフラッシュ禁止のアナウンスはありました。実際に現地に足を運んでみると、カメラを構えた方々がたくさんいらっしゃって、いまかいまかと祭りの開始を待ち構えています。少し異様な雰囲気でしたが、本当に写真映えのするお祭りだったので、これは仕方ありません。

祭りは夕方からスタートし、進行とともにだんだんと日が暮れてきました

日が暮れてきても、会場には照明は灯りません。念仏踊りという宗教行事なので、おそらくそのような演出になっていたのだと思いますが、やはり暗闇で撮影がしにくいということもあり、フラッシュの発光が会場のあちこちで起こり、まるで記者会見の会場のような状況に……。

もちろん自分もスマホで撮影はしていたのですが(もちろんフラッシュなしで)、なんだかなあというガッカリした気分になりました。

(2)場所取りをしているカメラマンたちの怒号

これは、ちょっと判断が難しいケースだと思うのですが、何かいい解決策がなかったのかなと個人的に回想する事例です。

とある田植え神事に参加した時の話ですが、そのお祭りでは、まず神社の境内の方で行事が行われ、その後に敷地の外にある田んぼに移動して早乙女たちによる田植え式が行われるという内容でした。

多くの観客は神社での行事を観覧してから、田植え式を見に田んぼに移動するという動きをしていたのですが、熟練風のカメラマン集団は、田植えの様子を好ショットでおさえようと早い段階から田んぼの畦の高い位置で場所取りをして、その時を待ち構えていました。それとは知らずに、初めてお祭りを見にきた風の女性二人組が、カメラマンたちの視界を遮るような場所に腰を下ろしたのです。

もちろん、その場所に座ることが主催者から禁止されているというわけでもなく、私もその女性たちの2メートルほど横に座っていたくらいなのですが、カメラマンたちから怒号ともいえるくらいのブーイングを浴びせられて、女性たちは困惑しながら場所を移動していました。「お願い」や「注意」というレベルを超えた、罵声をぶつける感じです。

祭りの後、カメラマンの仲間たちは楽しそうに談笑をしていましたが、怒鳴られた方はどんな気持ちでその場を後にしたのだろうかと考えて、複雑な気持ちになりました。

確かにそのカメラマンの方々は、いい写真を撮ろうと早くから会場に来て待ち構えていたわけですし、気持ちも少しは分かるというか、理はないわけではないのですが、お祭りの場がこんな感じになってしまうのは、果たしていいことなんでしょうか。誰かに責任を負わせたいわけではなく、最初に言ったようにもっといいやり方があったのでは、と思ってしまう出来事でした。

(3)子どもの視界をさえぎり取材に没頭

最後に、自身自身の振る舞いで地元の方々に迷惑をかけてしまった失敗体験を恥ずかしながら紹介したいと思います。厳密には、これは撮影をしていたというわけではないのですが、とあるお祭りにライターとして取材で参加した時の出来事です。それは、ほとんどが地元の人だと思われるお客さんがたくさん押しかける火祭りで、観客はロープで規制された範囲の中でお祭りを楽しんでいました。

その火祭りでは、お祭りの中盤で大きな複数の松明に一斉に火が点火されるという、大きな見せ場があります。お客さんもロープから身を乗り出すように火柱を見守る中、取材中の私も火をよく見ようと、思わずロープの前に出てしまいました。

しばらくすると後ろから背中を叩かれてお客さんから注意を受けました。ルール違反をしているので、お叱りがあって当然なわけですが、あろうことか自分は「すみません、ちょっといま取材中でして……」と、反射的に言い訳をしてしまったのです。

その時、ロープの前にいらっしゃった女性の足元に幼稚園児くらいの小さなお子さんが二人いるのが、目に入りました。この子たちの視界を遮って「取材だ」とか言い張っていたのかと思うと、本当に恥ずかしくて情けない気持ちになり、すぐにその場を立ち去り、できるだけ迷惑のかからない場所から取材を続行しました。

お祭りで撮影をする時に気をつけるべきこととは?

以上、ご紹介した3つの体験が、私がお祭りでの撮影マナーについて考えるきっかけとなった出来事になるのですが、日頃悶々と考えている中で、この人の立ち振る舞いこそが理想なのでは?と思うプロのカメラマンさんと出会いました。それが、フォトグラファーの五十川満さんです。

写真提供:五十川 満

五十川さんとは、オマツリジャパンでの祭り取材で何度かご一緒させていただいたのですが、プロとしてしっかり撮るべきカットはおさえつつ、常に周りのお客さんへの配慮を忘れていませんでした。撮影中、後ろで見ている子どもに場所を譲ってあげたり、五十川さんの脚立とは知らずに腰休めに座っていたおばあさんに「大丈夫ですよ、そのまま座っていて」と笑顔で声をかけ、別のアングルからの撮影を試みたり、それでいて上がってくる写真の仕上がりはパーフェクト。

一体、どうやったらこんな立ち振る舞いができるんだ!?と、常々疑問に思っていた私は、何かヒントをもらえないかと、五十川さんにお話を聞いてみることにしました。

――五十川さんは、オマツリジャパンのお仕事でも何度か撮影をお願いしているカメラマンさんです。お仕事では普段、どのような撮影をされていますか?

五十川:いろいろ撮ってますよ。最近、多いのはeスポーツの撮影です。大会の撮影をしたり、選手のプロフィール写真を撮ったり。あとは着物屋さんのWebサイトのお仕事や、女性誌での連載の撮影もやっています。

――お仕事以外では、作品撮りとして神楽の撮影もライフワークにされているとお聞きしました。

五十川:そうです。もともと僕、22歳の時に師匠の宮澤正明さんという、当時からグラビア撮影で有名だった方についてカメラマンになったんですけど、独立する時に、何か作品を作るという約束をその師匠としたんですよね。

何を撮ろうかと考えた時に、出身地の宮崎県延岡市に高千穂神楽というものがあると知って。それで高千穂神楽をテーマにしようと、一カ月通って撮影したんです。

高千穂神楽 写真提供:五十川 満

高千穂神楽 写真提供:五十川 満

――1カ月も!

五十川:撮影の後、新宿のニコンサロンに応募したら受かって、ありがたいことに高千穂神楽の写真展をすることができたんです。さらに、それがきっかけで、高千穂町の観光大使にもしていただいて。

――すごい展開ですね。

五十川:それで、高千穂に何回も通っているうちに、他の神楽も見てみたいなと思うようになって、島根県の石見神楽にも行きましたね。それもまた一カ月近く島根に泊まり込んで撮影をして……。他にもまだまだ撮りたい神楽が全国にあるので楽しみですね。

石見神楽写真展 写真提供:五十川 満

子どもを押しのけてまで撮影したいものって?

――五十川さんは作品撮りや、お仕事などでお祭りの現場に立ち会うことがよくあると思います。何か撮影のマナーなどについて、普段感じられていることはありますか?

五十川:ありますね。まだ師匠について仕事をしていた時の話なんですけど、うちの師匠が伊勢神宮を撮影するカメラマンとしても有名な方で、式年遷宮(※)の正式記録写真家としても長年活動をしているんですね。

僕もアシスタントとして伊勢神宮にたびたび同行していたんですけど、やはり師匠も周りの人にすごく気をつかっていたというか、一般の方たちに迷惑がかからないようには注意していましたね。

※式年遷宮:20年に一度、社殿と神宝を新調して大御神にお遷り願う神宮最大の神事

――伊勢神宮の神事となると、一層気をつかいそうです。

五十川:それで、式年遷宮が差し迫ってくると、カメラマンの数がどんどん増えてくるわけですよ。一般の方に混じって報道関係のカメラも入ってくるようになって、もう戦争みたいな状況になるわけですね。場所取り争いがとにかくすごいですし、僕らが持って行った脚立に勝手に乗って撮影をする人が出てくるし(笑)。

――まさにルール無用の戦場。

五十川:アシスタントながらにそういう光景を見ながら、この人たちは一体何を撮りに来たんだろうと疑問に思いました。仕事だから撮らなければいけないことはわかるんですけど、そうやって撮影したものに何が写るんだろうって。

――一歩引いた目線で見ることができたんですね。

五十川:神事なのに、これは誰にとっての祭りなんだろうって結構考えるようになって。式年遷宮に限らず、お祭りの現場で撮影をしていると、子どもを押しのけてまで撮影をしようとしている人をよく見るんですよね。子どもにとって、小さい頃に見た祭りの風景や記憶って、めちゃくちゃ素晴らしいものじゃないですか。

――ずっと記憶に残ってますよね。

五十川:言っても、子どもが前にいたところで、座ってもらえば、全然撮影の邪魔にならないわけです。だから僕は祭りの撮影をしている時に子どもが後ろで見づらそうにしていたら「おいでおいで」ってどんどん前に行かせちゃいますね。作品撮りの時は特にそのようにしてるんですけど。子どもたちには一番前で見てもらいたいですから。

この祭りは何のためにやっているんだろう

――仕事で撮影に行くと、周りのお客さんを優先できない状況というのも出てきませんか? このカットを撮るためには、どうしても前に出ていかなければいけないとか。

五十川:そうですね。例えば自分も撮影に行く時は、早めに行ってロケハンをしたり、場所取りをすることはありますし、場所取りをしてはいけないということではないと思うんです。

ただ、場所取りをするにしても適度な場所取りというか、座ってカメラを構えるだけのスペースがあれば写真は撮れますからね。三脚を立てる必要がない場面で、大げさな三脚を立てている方を見ると、どうかなと思いますね。

イメージ画像 写真:Photo AC

――僕自身もお祭りで撮影をすることがあるので、「いい写真を撮りたい」という欲が出て、周りが見えなくなってしまう気持ちもわかるんです。どうバランスを取ればいいでしょうか。

五十川:カメラマンの人がたくさん集まる撮影スポットってありますよね。その場所から撮られた写真って、いってみればこれまでも多くの人に撮られてきた写真でもあると思うんです。みんなそのスポットに殺到して、まったく同じ写真を撮って気持ちよくなっているかもしれないけど、本当にいい写真が撮れる場所って、実はそこじゃなくて。実際、みんなが集まる場所から離れて俯瞰して見てみると、結構面白いアングルが見つかるんですよ。

――確かに、最前列の場所を独占して、同じ場所からずっと撮影されている方はいますね。

五十川:そうです。なかには前でブルーシートを広げて、三脚を高く構えてずっと撮影されている方もいたり。それだと、遅れて来た地元の人が見られないじゃないですか。であれば、脚立の一つでも持っていって、最初に前で5分〜10分ぐらい撮ったら、後は後ろから脚立に乗って望遠レンズで撮ればいいんですよ。そのための望遠レンズなんですから。

――なるほど。

五十川:大事なのは、「自分」が何を撮りたいかということじゃないでしょうか。ちょっとでも下調べをして、この祭りってなんのためにやっているんだろう、みたいな本質的な部分を考えれば、多分みんな同じ場所から撮るなんてことにならないんじゃないかなと思います。

また20年後に撮りに来ればいいよ

五十川さんの「子どもたちに祭りの風景を見せてあげたい」という視点は、ハッとさせられるものでした。大人になってから見る祭りもまたいいものですが、目の映るものすべてが新鮮な子ども時代にしか受けられない印象というのもあるのではないでしょうか。

最後に、五十川さんは次のような印象的なエピソードを紹介してくれました。

「伊勢神宮の神職の方から聞いた『好きな写真を撮ることってこういうことなんだ』と衝撃を受けたエピソードがあるんです。
それは多分40年ぐらい前の話だと思うんですけど、式年遷宮の撮影にあるカメラマンが来られたそうなんですね。伊勢に精通した方で、神職の方も優先して案内したそうなんです。
さて神事を撮ろうということになって、そのカメラマンが三脚を構えたら、前に一般のお客さんがぞろぞろと入ってきてしまって。アシスタントの子がそれを止めようとしたら、カメラマンが『いいから、いいから』と制したそうなんです。『これが撮れなかったら、また20年後に撮ればいいよ』って。すごい余裕ですよね。そうですよ、撮れなかったら、また来年来ればいいことなんですよ」

祭りの写真を撮るということは、その祭りとどのように向き合うかという、自身の態度も問われる行為なのかもしれません。カメラのファインダーを覗きながら、自分の心にも意識を向けてみる、そうすることで、お祭りとのより良い関係も築くことができるのではないでしょうか。

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