人工的な光の及ばない月夜。
川や田畑が支配する里の静寂。
数歩先は漆黒の闇が待っている。
そんな中、裸体を晒した者たちがもつれ合う「オマツリ」があると聞いたら……。
あなたは信じますか?
どうも。奇祭ハンターのMacです。
今回は群馬県、みなかみの「ヤッサ祭り」を紹介。
「何か群馬のみなかみ町で、月夜の晩に裸で何かする『ヤッサ』とかいう祭があるらしいから見て来てや」
と、ザックリにも程がある情報をボスからもらった私は、9月の最終土曜日、急きょ群馬へ。
それにしても……。
「月夜の晩に裸で何かする」
そこだけ取り出すと、何と淫靡な響きでしょう。
「地球上唯一残された秘境」とも噂されるグンマー初上陸となる私は、
知られざるグンマの実態に迫った貴重な資料「お前はまだグンマを知らない」
を読んでしっかり読んで、グンマーへと旅立ちました。
大宮から上越新幹線に乗って、高崎を経由し、上越線「後閑」駅へ。
後閑駅はこんな感じ。特に売店とかはなく、待合室で寒さはしのげます。
ところで、ホームページには、アクセスについて下記のような情報がありました。
<注意>地域のお祭りです。駅からの送迎等はございません。近隣には駐車場がございません。
電車でお越しのお客様はJR後閑駅より徒歩でお越しください。
さらに、後閑駅から会場の若宮八幡宮境内までは徒歩30分だとか。
ぐぬぬ。こ、これがぐ、グンマー!
しかし、そこはGoogle Map先生に聞けば、無問題!(のはず)。ポチっとな。
!!!
何だ、このミミズの貼ったようなクネクネした進路は?
しかも、この地図、川を4回またいでないか?
ぐぬぬぬ。こ、これがグンマーのやり方か!!
……。
まさか、ここでこんな小橋を渡ることになるとは……。
橋を何度も渡り、サッカー場隣りの脇道を抜けて(マジかよGoogleさん)、ようやく会場付近へ。
しかし、ここで問題発生。
18時を過ぎてあたりはすでに真っ暗(街灯とか案内とかない)。
しかもブドウ畑に阻まれ、進路がよく見えません。ひょっとして迷った?
ぐぬぬぬぬ。おのれ。こ、これがグンマーの洗礼ってやつか!!!
その時です。
何やら、遠くの闇夜から、古き良き昭和歌謡のような音頭が聞こえてくるではありませんか。
突然の光明に確信を深めた私は、いざ音のする方へと向かいました。
そして、つ、ついにお目当てのオマツリ会場である「若宮八幡宮境内」へと到着!
周りに縁日とか土産物屋とかがあるわけではありません。何なら電灯もほとんどない。
若宮八幡宮境内は、町の寄り合い所といった様相で、木のぬくもり感のある雰囲気。
「若」の一文字を大胆にあしらった大提灯。なかなかの趣きです。
前座その1。まずは地元の女性陣が円陣を組み、踊ります。黄色の法被がキマってます。
前座その2。静かな夜にジャズ太鼓の大打音が響きます。
そして時刻は19時半。見物客も多くなってきました。
いよいよ、今回の目玉である「ヤッサ」が始まるようです。
頭に淡いブルーのハチマキを巻き、下は白の短パンという半裸姿の男性たちが集まってきました。
「選ばれし精鋭たちよ!!!」。その数、総勢20数名。
鍛え抜かれた屈強な筋肉マンというよりは、本当にふつうに「町の若い衆」といった雰囲気です。
さあ、ここで改めて説明しておきましょう。
●ヤッサ祭りとは?
小川島地区の氏神様の秋祭りに行われる勇壮な裸祭りで、その歴史は400年にも及びます。
その内容は、下帯姿の若者が数珠つなぎになり、「ヤッサ、シンジュウロウ」と声を掛け合いながら、
3時間くらいかけ、境内を駆け巡ったり、社殿を回ったり、社殿の柱を上がったりしながら、最後に社殿大鈴の紐をもぎ取ります。
五穀豊穣、無病息災、水害除けを祈願するオマツリなのです。
●なんでそんなことするの?
な、なんでって。その昔、大木新重郎という郷士がいてな。この地は、利根川と赤谷川の合流地点で、たびたび洪水が起きていたんじゃ。
ある年のこと。大洪水が起こり、新重郎は大勢の村人とともに、夜間の峠越えを余儀なくされてな。
村人が道を迷わぬよう自ら先頭を進み、前の者の帯に捕まらせて長い列を作り、機知と勇気とで人々の命を守った。
ヤッサ祭りはその再現。ヤッサはアサという掛け声から、シンジュウロウは大木新重郎の名から来とるんじゃな。
お神酒を捧げ、お祈りを済ませて……。さあ、いよいよ始まります。
ヤッサ その1。これぞ言わば「半裸男人若衆大蛇行脚」(名前は今、適当に形容しました。以下同)
下帯の腰ヒモを互いにつかんだ男性たちが、熱湯をかけられて暴れ回るムカデのようにウネウネと暴れ回ります。
これはどうやら、その昔、村人が帯に捕まって長い列を作った様子を再現しているようですね。
ヤッサ その2。「半裸男人若衆竜巻回転走」
今度は社殿の周りをグルグル回ります。この時の掛け声は「ヤッサ、シンジュウロウ」。
この言葉を叫びながら、鉦叩きの男性を先頭に、社殿をバシバシとシバきまくります。
ヤッサ その3。最終奥義「半裸男人若衆人柱之構え」。
この祭の一番のハイライト。組体操のようにピラミッドを組んだ陣形で、社殿の柱を上ります。
先頭の者がいちばん上に到達すると、そこでガッツポーズ。「ヤッサーーー!」
この祭、いちばんのシャッターチャンスです。
ヤッサ その4。「半裸男人若衆騎馬之構え」
先頭の牽引者が騎馬形態のまま境内を走り去ります。
これでフィナーレ。
……ではなく、この1~4の工程を計7回くり返す、
それがこのみなかみの「ヤッサ祭り」なのです。
さあ、それではまとめて動画でご覧ください。「ヤッサーーー!」
秋の寒空のもとで長時間裸になるため、男性陣はお神酒を飲みながらの奉納儀式となりますが、
段々と酔いが回ってくるので、これがなかなかにそれだけ危険度も増してきます。
私は何だか昔、中学の運動会でやったムカデ競争や組体操を思い出しました。
しかし、嫁や地元の仲間たちに良いところを見せようと奮闘する男たちの顔は真剣そのもの。
組体操の原型・原風景も、ひょっとしたら、こうした古き良き日本の秋祭りと何か関係があるのかもしれません。
(文/撮影:Mac)
■やっさ祭り(群馬県)
日時:毎年9月第四土曜日
会場:若宮八幡宮境内
交通:JR上越線・後閑駅から徒歩30分(迷わなければね)
近隣には「月夜野温泉」などもあります。
http://www.enjoy-minakami.jp/index.php?itemid=841