秋田の民俗芸能というと、何を思い浮かべるだろうか?秋田県内には、竿燈に番楽、剣ばやしなど本当に様々な民俗芸能が存在し、とりわけ県北は民俗芸能の宝庫とも言われる。ただ、人口減少が進む中で、秋田県は「消滅可能性都市」を最も多く抱える都道府県とされ、民俗芸能の担い手不足の問題もある(2014年, 日本創成会議まとめ)。
民俗芸能を次の世代に繋ぐべく、様々な素晴らしい取り組みが始まっている。秋田市民俗芸能伝承館(ねぶり流し館)の展示と合わせて紹介していきたい。
秋田県の民俗芸能はどのくらいある?
平成5年の秋田県教育委員会が実施した「秋田県民俗芸能緊急調査」によれば、県内で315件の民俗芸能が確認された。その後、「秋田県の民俗芸能:現状と課題そして今後について」(平成22~24年, 熊谷嘉隆氏)という論文によれば275件にまで減少していることが分かった。19年間で38件のペースで県内から民俗芸能が消滅している。これには担い手不足や資金不足、芸能に対する関心の低下など、様々な要因が考えられる。
民俗芸能を伝承!ねぶり流し館に訪問
このような状況を踏まえ、秋田県内では、民俗芸能を伝えていくためにどのような取り組みが行われているのだろうか。そのことを知るために、秋田駅から徒歩15分の場所にあるねぶり流し館に伺ってきた。秋田県の県庁所在地である秋田市に伝わる様々な民俗芸能について学べるこの施設は、ガラス張りの建物に竿燈が展示されているのが目印だ。観覧料の100円を払うと、展示を拝観することができる。
1階には巨大な竿燈の展示!ミニ竿燈体験も
まず1階部分に入ってみると、見えてきたのが巨大な竿燈の数々。人間の身長をはるかに超える大きさの竿燈を軽々腰などに乗っけて操る差し手がいると思うと驚きである。しかも、なんとこの竹の幹をどんどん継ぎ足していくというからびっくりだ。
このコーナーでは右側の一番小さな竿燈を持たせてもらう体験も無料でできるので、ぜひ興味がある方は試していただきたい。小さなものでも持つためにはコツがいるので、職人技のすごさを実感するに違いない。このように、民俗芸能が身近に感じられるような工夫がされているのが素晴らしい。
2階では民俗芸能に関する展示や継承についての取り組みを紹介
2階に上がると、竿燈だけでなく、秋田市内にある様々な無形民俗文化財の道具や衣装が展示されている。平成4年の開館当初から展示されているもので、過去に実際に使われていた道具を拝見することができた。こちらが、秋田市内にあるお祭りや民俗芸能が記された地図だ。それでは、いくつかの民俗芸能をご紹介したい。
小中学校で伝承されている!?山谷番楽
山谷(やまや)番楽は、太平山の信仰に関わる修験者が伝えた民俗芸能だ。「番楽」とは秋田県と山形県北部にある山伏神楽のことで、翁舞、式舞、武士舞などの決まった演目を順次その時々に合わせて演じることからこのような名前がついた。その中でも、山谷番楽は古い形式の所作が多く素朴な舞い方が特徴だ。
この番楽は保存会のメンバーが地域の小中学校で指導することで受け継がれてきた。しかし、平成24年3月に山谷小学校が閉校となり番楽は存続の危機を迎えるが、統合先の太平小学校や中学校、地域の協力もあり、現在でも子どもたちへの伝承活動が続いている。その成果を学習発表会で披露したり、地域、他団体の要請により披露したりと発表の場も多くあるようだ。
▼山谷番楽
(参考:秋田魁新報)
鑑賞会や講習会の開催!秋田万歳
また、秋田市内を中心として継承されてきた秋田万歳(あきたまんざい)についても触れておきたい。この芸能の由来は、江戸時代に尾張や三河の方面から伝わったのが始まりとされており、儀式的な色合いが強くて秋田弁のユーモラスな囃万歳がついてくるのが特徴だ。年の始めから小正月にかけて家々を訪問する門付けが行われるのが一般的だが、現在は依頼に応じて不定期に演じている。「まんざい」と言われると私たちは、どうしてもお笑い芸人の漫才を思い浮かべがちだが、漫才のルーツはこの万歳にあるという。テレビのなかった昔の時代には、このような形式が主流だったと考えると想像しやすいかもしれない。
この秋田万歳は、昔のように家々を回って演じることなく、依頼に応じて舞う形になった。ただ、それでも普及や継承に向けた活動は活発のようだ。例えば、ねぶり流し館では、毎年秋田万歳の鑑賞会を開催し、解説とともに実演が行われている。また、今後は万歳をやってみたい人を対象とした講習会も企画されているそうだ。このように、民俗芸能の発信地があることで、講習会などを開いて認知を広げていくような動きもあるのだ。
▼秋田万歳
(参考:AkitaMinzokuGeino)
学校祭などで披露される!羽川剣ばやし
秋田市下浜羽川地区に伝わる、羽川剣ばやしの取り組みもとても興味深い。この芸能の由来は、天正年間(1573~92年)に大曲城を攻め落とした羽川小太郎義植(よししげ)が、戦勝の酒盛りで自ら剣を振るって踊り、居合わせた人々に銀扇を与えて舞わせたのが始まりと言われている。時代とともに剣舞は廃れ、婦女子が舞う奥ゆかしい優雅な踊りが羽川剣ばやしとして受け継がれてきた。
この羽川剣ばやしも学校現場が継承の場となってきた。これまで受け継がれてきた剣ばやしは、女性が舞手、男性が囃子方だったが、近年では創作太鼓を取り入れたり、剣舞も創作したりと、新しい要素を取り入れながら、地域のお祭りや学習発表会、学校祭などで披露されている。
▼羽川剣ばやし
(参考:AkitaMinzokuGeino)
毎年夏、合同発表会も開催!
このように、ねぶり流し館では、さまざまな秋田の民俗芸能の特徴を理解するとともに、各団体の由来や継承に向けた取り組みまで知ることができた。秋田県は民俗芸能の担い手不足が叫ばれる中で、各団体工夫をされて次の世代に伝えていることがわかった。
最後に、毎年小学生が夏休みの時期に、このねぶり流し館の5階で「秋田市民俗芸能合同発表会」というイベントを開催していることについて触れておきたい。これは平成4年に始まった取り組みで、秋田市内の民俗芸能団体が一堂に会し演舞するそうだ。令和元年の出演団体は三皇熊野神社獅子舞、秋田民謡、秋田万歳、黒川番楽、荒巻番楽、土崎港ばやし、萱カ沢番楽、山谷番楽、羽川剣ばやしである。各団体が自分たちの年間行事に組み込んでくれているとのこと。ねぶり流し館のスタッフの方は、「コロナ禍で2年続けて中止になってしまっているが、今年はぜひ開催できたら嬉しい」とお話しされていた。お互いの演舞を知り高め合い、それを子供達が観られるような素晴らしい取り組みと感じたので、ぜひ今年も開催していただけたらと感じた。
ねぶり流し館を訪れることで、記事に書ききれなかった民俗芸能の伝承に関する、より詳しい情報を知ることができる。ぜひ、以下の情報を参考に、ねぶり流し館を訪れていただきたい。
■秋田市民俗芸能伝承館(ねぶり流し館)
住所:秋田県秋田市大町一丁目3番30号
営業時間:9時30分から16時30分まで
休館日:年末年始(12月29日から1月3日まで)
入館料:観覧料100円(20人以上の団体80円)※詳細に関してはホームページ参照
アクセス:秋田駅から約15分, 駐車場あり
ねぶり流し館のホームページはこちら。