2021年6月4日~6月6日にかけて行われた「中野区伝統工芸展」。
今年で第30回目となる今回は、新型コロナウイルスの影響を受け、展覧会の様子を”YouTube”で配信することに。また同時開催の予定だった販売会もwebサービス”STORES”を用い、オンラインショップという形で行われました。
オンラインで行う展示会や伝統工芸のオンラインショップとは、いったいどのようなものなのでしょう?そして、開催の経緯や苦労、なにより、これまでと違った形での開催にはどのような想いが込められていたのでしょうか?
本記事では、2021年6月4日~6月6日にかけて行われていた「中野区伝統工芸展」の様子と、オンラインショップの様子をレポート。また中野区伝統工芸展の主催である「中野区伝統工芸保存会」の山田浩子さん、中村拓哉さん、成澤啓予さんにお話を伺い、開催や活動についての想いを聞きました。
“YouTube”と“STORES”2つのwebサービスを用いた「オンライン中野区伝統工芸展」
中野区伝統工芸保存会とは毎年6月初めに行われる、中野区の伝統工芸品の展覧会。例年、多くの人が伝統工芸の魅力を楽しみに訪れていました。しかし昨年・第29回は、新型コロナウイルスの影響でリアルでの開催を断念。3月にオンラインでの開催となり、“YouTube”にて、職人さんへのインタビューや作品の紹介をする約40分の動画が配信されていました。
第30回目の今回は、当初リアルでの開催を試みていたものの、新型コロナウイルスの感染拡大や緊急事態宣言の延長などにより、急遽、前回同様の “YouTube”を用いたオンライン配信と切り替えられました。また同時開催の予定だった販売会も、ECサービス“STORES”を用いたオンライン販売に切り替えられています。
YouTubeのオンライン展示会では、6月4日~6月6日の3日間にかけて、第1部~第5部、それぞれ約8分の、計40分にわたる内容が公開。現在でも視聴可能となっています。動画では20組の伝統工芸作家さんの持つ技法やストーリーの紹介に加え、それぞれの方々の作品の詳細が丁寧に映し出されていました。
第一部で紹介されていた、深い藍が玉虫色に輝く佐賀錦を用いたバッグは特に印象的。見ているだけなのに、まるで吸い込まれてしまいそうな風合いです。
第三部で映し出されている禅屏風は、なんとからくり仕様。表・裏どちらでも飾ることができたり、中央に施されている装飾も両面で使用可能だったりと遊び心のなかに高い技術が窺える作品でした。
永い時を受け継がれ、磨かれた技の結晶である作品は、映し出されるたびに見つめてしまうほどの精巧さ。作家さん方が技法を受け継ぐまでのストーリーも相まって、作品の技に込められた時間の重みまで伝わってきます。
STORESのページは黒を基調とし、洗練された雰囲気にまとめられていました。
当初、販売期間は当初6月11日まででしたが、しばらく延長するとのこと。具体的な日程は決まっていないそうです。
決定は2週間前!? 第30回伝統工芸展のウラガワ
YouTubeや STORESを用いて行われた、第30回中野区伝統工芸展。
最後に公開された動画によると、写真撮影から動画編集、オンラインストアの準備まですべての作業を、中野区伝統工芸保存会の方々で行っていたそう。中野区伝統工芸会とは一体どのような団体なのでしょう?
今回は会期後にお時間をいただき、中野区伝統工芸会会長の山田浩子さん、動画や写真・WEBサイトの編集を行っている中村拓哉さん、広報を担当している成澤啓予さん、伝統工芸作家としても活動されている3名の方々にお話を伺いました。(以下・右側の男性から中村さん、山田さん、成澤さん)
中野区伝統工芸保存会は、中野区に拠点を置く伝統工芸作家さんの作品を広めようと、30年近く活動を行っている団体です。
オンラインツールを駆使して行われた第30回中野区伝統工芸展ですが、なんとオンラインでの開催が決まったのは、開催の2週間前だったといいます。
成澤さん「中野区の伝統工芸展は毎年6月に行われるのですが、ポスターの印刷や告知、スペースの調整などから逆算していくと、3月には開催するかどうかを決定しなければならないんです。
3月頃は『GWあたりには落ち着くだろう』という予測が大半だったので、開催を決定したのですが、状況は一向に良くならず……。5月中にはリアルでの中止を決断しました。」
中村さん「直前の中止の決断だったため、スペースのキャンセルや告知の訂正も間に合わず、急遽、3月に行ったWEB展示会と同様にオンラインで開催することにしたんです。」
中村さん「準備は職人さんたちの搬入スケジュールの調整に充ててしまっていたので、撮影から編集、配信まで、ほとんど当日、その場で行いました。結果的に、5つの動画に分けての配信となりましたが、短くまとめることになってよかったんじゃないか、と思っています。」
はじめてだったというWEBサービスを用いた伝統工芸品の販売。運用によって課題も見えてきた、と山田さんは話してくれました。
山田さん「これまでの伝統工芸展は、ご高齢の方が多く足を運んでくださっていました。けれど今回はご高齢の方にはあまりなじみのないオンラインを用いての展示や販売となり、認知すらされていなかったようなんです。
オンラインを用いるのは今回で2回目ですが、職人さんたちですら出来上がった動画を見られていない、というのが現状ですから仕方ないのかもしれません。」
山田さん「ただ一方で、商品のレビューをいただいたことや、動画の再生数、電話で『中野区に伝統工芸なんてあったんですね!』と声をいただいた点などから、新しい層の方々に声が届いている手ごたえも感じました。色々と大変でしたが、とにかく今ではやってよかったと思っています。」
東京に生きる“粋”を伝えたい オンラインを経験したからこそ感じたリアルの大切さ
手探りながらも確かな手ごたえを得られた、今回の伝統工芸展。皆さんにこれからの活動について伺いました。
中村さん「今回、YouTubeとSTORESを同時に運用してみて、認知を広げる手段としてオンラインは非常に有効だと感じました。伝統工芸というITから一番遠いような業界が、それを駆使してチャレンジできるという点にはすごくワクワクしています。
都心の東京にも、まだまだ人情や手作りを大切にしている人が居るということを伝えていきたいですね。」
今回の私たちも手作り感満載だったよね、成澤さん。中村さんの意見を踏まえつつ、同時にリアルの大切さを実感したイベントでもあったと話してくれました。
成澤さん「伝統工芸品は大量生産の品とは違う、独自の良さを伝えなければいけないと思うんですよね。良さというのは美術品としてではなく、同じ実用品としての良さのことです。それは職人さんと話したり実際に触れたりしてようやくわかるものなので、これまで以上にリアルでの体験を大切にしてきたいと感じました。
中野区はそういった場所が少ないのが悩みですが、活動を続けていくことで伝統工芸の価値が再認識され、後継者問題の解決などににつながっていくのではないか?と考えています。」
山田さん「昔と比べて、確かに伝統工芸品は売れにくくなっています。高額であるがゆえに、特に若い人が気軽に手を出せるものではないこと、美術品として扱われてしまう状況を招いているはわかっているつもりです。でもやっぱり、伝統工芸品をつくる私たちからすると、使ってこそ良さが発揮されるし、つくった側としても嬉しいんです。」
おわりに
わずか2週間足らずの準備で、撮影・編集に、動画配信、WEBページの制作をこなし、素晴らしいコンテンツをつくりあげていた中野区伝統工芸保存会の皆さん。美しい出来栄えの裏には、伝統工芸作家さんならではの情熱と想いが通っていました。
今後さらに伝統工芸を広めていくため、中野区ふるさと納税の返礼品としての伝統工芸品の活用や、来年の伝統工芸展の構想、実店舗を構えてみたい、などなどたくさんのアイデアがあるそう。
2021年8月14日~20日には、東京都美術館で行われる「21世紀アートボーダーレス展 拓海TOKYO2021」にも出店する予定とのこと。WEBストアもまだまだ開催中です。ご興味のある方は、ぜひ一度、ご覧になってみてはいかがでしょうか?