手を大きく広げた巨大な藁人形「お人形様」は、福島県田村市にある。磐城街道沿いに病気が流行した際に、魔除けの意味で作られたそうだ。この出で立ちを写真で見たとき、実際に現地を訪れてその迫力を体感したいと思った。そして、現在新型コロナウイルスが流行する中で、厄払い信仰の原点にも立ち帰れるのではないかと感じた。
福島県田村市のお人形様とは
お人形様は身の丈が約4メートルで、目を見張るほどの大きさだ。なぎなたや刀を持ち、両手を広げ通せんぼのような格好をしている。顔は厄から村を守れるよう、睨むような表情である。福島県田村市内だと堀越、朴橋(ほおのきばし)、屋形(やかた)、JR船引(ふねひき)駅に現在置かれている。東北各地に人形道祖神はあるものの、非常に大きなサイズのものが見られるのが、田村市のお人形様の特徴だ。田村市の実際に現地を見た様子はどうだったのか、周辺の様子含めてお伝えしたい。お人形様の場所についてはこちらの地図(google map)をご確認いただきたい。
実際に4体のお人形様(堀越・朴橋・屋形・船引駅)を巡る
お人形様の表情はそれぞれ異なり、周辺に配置されているものも大きく異なる。また、各地域衣替えと祭礼の日が定められており、その歴史的な背景も異なる。それぞれのお人形様の違いを見ておきたい。
堀越のお人形様
まずは明石神社の境内にある堀越のお人形様。神社のように鈴と鈴紐がつけられ屋根もあって、神社のようにお参りする形態になっているのが特徴だ。目玉が大きく、しわや口の角度から睨みを利かせている様子がうかがえる。
元々は神社から150m西の場所にあったが、明治40年にお衣替えや祭礼が断絶してしまった。これは、おそらく明治38年の大飢饉に由来するものだろうと考えられている。その後、平成4年に明石神社の境内にて復元され現在に至る。毎年4月第2日曜日に衣替え、5月4日に祭礼を行うそうだ。明石神社には名称の由来になった坂上田村麻呂が座ったと伝わる「夜明石」のことや、小野小町の美貌伝説など様々な話が語り継がれている。
朴橋のお人形様
山の斜面に立つ朴橋のお人形様。神社などとは別に作られているがお賽銭の箱は設置されており、旧磐城街道を見守るように高い場所に作られている。歯などが金色に輝き神秘的で、口元は小さく髭がない。
このお人形様の起源は、古い面や幟(のぼり)にあった安政元(1854)年の銘から、少なくともそれ以前に存在していたことが分かっている。毎年4月第2日曜日に衣替えと祭礼を行うようだ。周辺には、是哉(ぜさい)寺の地蔵ザクラと呼ばれる昔から大事にされている大きな桜の木などもある。
屋形のお人形様
こちらも少し小高い場所に建てられている、屋形のお人形様。屋形公園内に西向きに立てられており、神社のような鳥居はなく、藁の紐をくぐり進むとお人形様とご対面できる。祠が手前に建てられている。お賽銭箱が置かれ、ろうそくが置いてある。睨みを利かせた表情が印象深い。
起源としては、幟に文化15(1818)年、古い面に文化5(1808)年旧3月15日と記されていることから少なくともそれ以前には存在していたと考えられる。毎年4月第2日曜日に衣替えと祭礼を行うようだ。朴橋のお人形様と距離が近いので、その2箇所は同時に訪れやすい。
船引駅のお人形様
最後は船引駅構内のお人形様のご紹介だ。船引駅のホーム脇に建てられており、髪型がモサモサしていて、鼻や顔が大きく目が鋭い一方で、胴体が小さいのが特徴だ。こちらには賽銭箱が置かれていない。
交通安全や観光振興のため、JR 船引駅、船引駅友の会、芦沢屋形お人形様保存会有志、船引町観光協会、船引町商工会が会員となって平成元年12月に設置された。今では屋形、朴橋、堀越の各お人形様保存会が合同で「船引町お人形様保存会連絡協議会」を組織し、夏に衣替えを行っているそうだ。
以上のように、お人形様にはそれぞれ少しずつ違いがあり、実際に現地に出向くと気づきも多い。4体のお人形様を全て見て回ろうとすれば、15kmほどの道のりがあるので車があると便利だ。一番手軽なのは、船引駅構内にあるお人形様でホームに降り立つとすぐにその姿を拝むことができる。
お土産の紹介(お人形様守り札・お人形様パン・塗り絵など)
船引駅の中には、コミュニティプラザという施設があり、そこの売店でお人形様グッズである「お人形様守札」を購入することができる。屋形、堀越、朴橋それぞれのお人形様が彫られた木製の守札で、大きさは約6センチ×2センチで、ストラップがついている。悪疫退散などの想いも込めて、持ち歩いてみるのも良いかもしれない。また、「焼きにんにく」や「えごま油」など、様々な地元の名産品もあるので、合わせて見るのも楽しいだろう。
お人形様グッズは、コミュニティプラザ以外でも様々な場所で販売されている。例えば、朴橋のお人形様の近くのマリリン食彩工房では、「お人形様パン」が販売されているとのこと。お人形様を模して抹茶や野菜、白あんなどを使用して作っているそうだ。注文は予約制となっている。その他にも様々なグッズがあるので、福島県田村市のホームページをご確認いただきたい。
こちらのホームページからはお人形様の塗り絵もダウンロードできる。2020年4月、新型コロナウイルスが拡散しないように、「病魔退散!」の願いを込めて、田村市が作成したそうだ。
私達を守ってくれる、ありがたいお人形様
お人形様は江戸時代から脈々と受け継がれた魔除けの神様だ。実際に田村市の4体のお人形様をまわって、睨みを利かせるその表情や大きく手を広げる迫力のある様子から、地域の守り神として信仰されていることを改めて実感することができた。2021年3月現在、まだ新型コロナウイルスは収束していない。病魔退散の祈りとともに、3密を防げる観光として、お人形様をまわり地域の人々の信仰に思いを馳せるというのも良いだろう。
アイキャッチ画像:船引駅構内のお人形様(福島県田村市)