若い頃、罰ゲームで日本酒イッキして悪酔いし、すっかり日本酒嫌いになった。そんな苦い経験は誰しもあるはず。しかし、そんな記憶(トラウマ)は、役に立たないマッチング・アプリとともに捨ててしまえ!(個人談)。というわけで、今回は日本酒をテイストの違いによるたった4タイプ(ただし初心者は3でOK。理由は後述)に分類して紹介します。
最近は居酒屋などでもこのチャートを見るようになりました。日本酒を味と香りで分解し、さらに「味が濃い/淡い」「香りが高い/低い」の指標で4つに分類するチャートです。今回はこれをわかりやすく(?)バスケ漫画の名作「スラムダンク」のキャラクターに例えて紹介していきますね。
目次
➀フルーティな薫酒(華やか俺様イケメン)
いわゆる芳醇甘口。スラムダンクで例えるなら、流川楓のような俺様系日本酒。フルーティな香りと甘味、さらに酸味もあってまるで白ワイン!という味わいのものも多く、一口に薫酒と言っても華やか(エレガント)型・フルーティ型・ジューシー型と多種多様で、現在の日本酒の海外人気などを牽引するスター的存在です。お酒単体で飲んでもそれだけでイケるタイプ。
「獺祭」が牽引した90年代の大吟醸ブームの流れを下敷きに、「十四代」が火付け役となって2000年代からフルーティな香りと甘口で飲みやすい芳醇甘口ブームが起き、2010年代から「仙禽」などの酸味系がこれに加わりました(肉などの西洋料理に合わせるには酸味が必要という考えから、フルーティで甘く、酸味もある白ワインのような日本酒が台頭してきました)。
現在では、秋田県の若手蔵元集団「NEXT5」を始め、新たな日本酒ファンを獲得すべく、多くの新世代がライトタイプのお酒に挑戦し、様々なタイプの薫酒(スター)が誕生してきています。
●おすすめの飲み方
序盤の乾杯酒(食前酒、先発)に。ワイングラスなど鼻が入る口の広いグラスで、甘味や酸味のジューシーさだけでなく、フルーティな香りも楽しみつつ、「くいっ」とエレガントに飲みましょう。冷やして飲むのがおすすめですが、冷やし過ぎるとかえって香りを封じてしまうので要注意です。
●相性の良い料理(ペアリング)
単騎で場の主役にもなれる乾杯酒向きのお酒ですから、香りや味の主張が強く、合わせる料理は比較的に選ぶほう。大まかには白ワインに料理を合わせるイメージで、冷酒ですから冷たい前菜と合わせるのがいいでしょう。個人的なおすすめは生ハムや天ぷら(塩味)。塩気だけは酒の五味(甘味・酸味・辛味・苦味・渋味)にないので、生ハムや天ぷらの塩気がいい仕事するのですよ。逆に風味のあるチーズなどは薫酒の香りとケンカしないよう、組み合わせに要注意。
新政 No.6 X-type【秋田】
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現存する最古の協会酵母「6号」発祥の蔵「新政酒造」がリリースする、蔵を代表する「No.6」シリーズの最高峰、純米大吟醸クラスのお酒。フルーティな吟醸香に加え、口の中に広がる米の甘味と旨味スッキリとがあり、すっきりと飲みやすいお酒です。日本酒専門店でも即完売という人気で、入手困難な人気銘柄です。
➁フレッシュな爽酒(爽やかキレ系イケメン)
いわゆる淡麗辛口。爽やかながらも危険(辛口)でドライ、それでいて後腐れのないキレキレなイケメン。スラムダンクで例えるなら、三井寿。辛口=かっこいい、大人の味というイメージもあり、「日本酒と言えば辛口」派に未だ根強い人気の強豪。
国鉄が主導した70年代の全国地酒ブームを下敷きに、アサヒスーパードライも生まれた80年代に大きな「淡麗辛口」ブームが起きました。「越乃寒梅」「久保田」「八海山」「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」など、「地酒王国」新潟がこの淡麗辛口ブームを牽引しました。
辛口のイメージに幅や個人差があるため「辛口」という言葉は飲食店などでは近年あまり使われなくなってきているようですが、飲み疲れしないスッキリ系日本酒としてまだまだ健在です。
●おすすめの飲み方
中盤の食中酒(中継ぎ)。甘いお酒に飽きてきたら、キリっとした辛口で口の中をリフレッシュ! キンキンに冷やした冷酒を「キュッツ」とやって喉ごしの爽快さを楽しもう。
●相性の良い料理(ペアリング)
爽酒は味が淡く、香りも低いタイプですから、食材とぶつからないオールラウンダーなタイプです。どちらかと言えば酒と同じくあっさり目の白っぽいおかず、刺身や鶏ササミ、塩味の焼き鳥などと合わせましょう。
三井(みい)の寿【福岡】
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福岡県にある井上合名会社が出す、酒度+14度の超辛口。実はスラムダンクの作者・井上雄彦がこのお酒の大ファンで、そのままスリーポイント・シューター、三井寿のキャラクター名になったのだとか。辛口ながらもお米の旨味もあるタイプのお酒です。
➂フルボディな醇酒(どっしりマッチョなイケオジ)
いわゆる濃醇旨口。色は透明よりも少し黄色がかった黄金色という酒も多いです。若い頃(乾杯時)は、華のあるイケメンにも憧れたけれど……、飲み進めてくると、やっぱり食(ワタシ)をどっしりと支えてくれる穏やかで優しい旨味とコクあるお酒(漢)に惹かれてしまうというもの。ザ・純米酒というタイプのお酒で、中でも旨味やコクがより濃厚な生酛造り(山廃・生酛)が最近のトレンド。スラムダンクのキャラクターで例えるなら、温厚なタプタプ体型で白髪仏(ホワイトヘアードブッダ)と呼ばれて皆から愛されつつ、部員のあらゆる個性に合わせた柔軟な指導ができる圧倒的な包容力を持つ名将・安西先生を置いて他ないでしょう。
濃醇御三家の異名を持つらしい「奥播磨」(兵庫)を始め、「夜の帝王」(広島)、「新橋の男達(おやじ)の酒」(広島)など西日本がこの手の酒を得意とする印象。
●おすすめの飲み方
終盤の食中酒(クローザー)。メインや〆の料理に合わせ、味のある焼き物の酒器に注いでチビチビ味わいたい。コクや旨味の濃い料理との相性バツグンで「ク~~~ッ!」とやると、五臓六腑に酒が染み渡るぜ! 熱くして燗酒にするとまたさらなる力を発揮します。タフでハードな仕事をこなした後は、哀愁と人生の円熟味を漂わせながら、ハードボイルドにチビチビやろう!
●相性の良い料理(ペアリング)
醇酒もまた食材を選ばないオールラウンダーなタイプ。4タイプ中最もコメ感が強く「白飯にのせて旨いおかず、大体何でも醇酒に合う説」が成立します。肉より魚のイメージがある日本酒ですが、意外と肉と相性がいいのもこの醇酒タイプ。ご飯に焼肉を乗せる感覚でいっちゃいましょう! また、コクと旨味がある醇酒は、タレや味噌、おでんやお鍋などダシの利いた和食との相性もバツグン。酒盗と合わせて最も真価を発揮するのもこのタイプです。
夜の帝王【広島】
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広島県の八反錦を使用。どんな料理にも合う白ご飯のような万能タイプのお酒。しっかりとした米の味わいを残した、口当たりまろやかな食中酒。
➃ファーメントな熟酒(老成したディープなシブオジ)
「熟酒の老成した独特の香りと複雑な味わいがたまらない」とか言い出したら、あなたはもうすでに初心者の域を出ています。最近密かなブームとの噂ですが、そんなに市場に多いタイプでもないので初心者としては➀~➂の攻略優先で良いでしょう。スラムダンクのキャラクターで例えるなら「深津をほめるおじさん」(つまりマニアック!)でしょうか。
●おすすめの飲み方
食後酒としてショットグラスで「グビッ」と飲み干しましょう。また、カラメル香を利用してバニラアイスにかけてアフォガード風にしてみる裏技もおすすめです。
●相性の良い料理(ペアリング)
独特の香りと濃くて個性的な味わいをもつ熟酒もまた料理を選びます。紹興酒に合わせるイメージで、味の濃い中華料理などがいいでしょう。
七本槍 山廃純米 琥刻【滋賀】
いかがでしたか? まずは薫酒のフルーティな甘さと酸味と香りにときめいたら、次は爽酒のフレッシュさとキレで、口の中をリセットしてのど越しを楽しみ、最後は穏やかな醇酒の包容力(フルボディ)に癒され、豊かな味わいの広がりを五臓六腑で隅々まで味わう。
それはまるで学生時代の華やかで甘酸っぱい青春の恋(薫酒)から、やがて社会人ならではのフレッシュな関係(爽酒)を経て、最後はまったりとした夜の世界、懐深い大人の濃厚な情事(醇酒)へと行き着く、大人の恋の変遷そのもの。これがオマツリジャパン流(?)、初心者の方におすすめの日本酒の飲み方です。
これでもう自粛期間中の一人飲みも怖くない。「どうしたの? ウフフ。今日も一人酒かしら?」 つまみにしている梅水晶が語りかけてくる声が聞こえて来たなら、あなたはもう立派な一人の独立した飲み手です。
今回のオマツリ紹介
おまけに今回紹介した新政(秋田)、三井の寿(福岡)、夜の帝王(広島)と同郷の奇祭をそれぞれ紹介します。祭と酒と風土の関係を考察する手がかりになるかも?
〇なまはげ柴灯(せど)祭り【秋田】
男鹿の冬を代表する冬祭りで、みちのく五大雪まつりのひとつ。湯立て神事の「湯の舞」を奉納(18時~)した後、なまはげ入魂、なまはげ行事再現、なまはげ踊り、なまはげ太鼓、なまはげ下山と各種の行事が続きます。終盤の20時~は神楽殿や広場に各地域の特色ある乱入する「なまはげ乱入」が行われます。
〇おしろい祭り【福岡】
おしろいの顔の付き具合で来年の作柄を占う祭りです。家に帰るまでおしろいは顔を洗ったり落としてはいけません。
〇ベッチャー祭り【広島】
尾道で毎年11月1~3日に開催。最終日の3日には「ベタ」、「ショーキー」、「ソバ」の面を付けた氏子たちと獅子が、神輿とともに市の中心街を練り歩き、子どもを見つけると追い回し、手にした「ささら」や「祝棒」で頭をたたいたり、体を突いたりします。「ささら」で叩かれると頭が良くなり、「祝棒」で突かれると子宝に恵まれ、また1年間の無病息災が約束されると言われています。