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東京イベント開催記念! 大阪のディープサウスで人々を熱狂させる盆踊り「泉州音頭」とは何なのか!? 実際の音頭取りに聞いてみた【前編】

更新日:2024/3/7 小野 和哉
東京イベント開催記念! 大阪のディープサウスで人々を熱狂させる盆踊り「泉州音頭」とは何なのか!? 実際の音頭取りに聞いてみた【前編】

みなさん、大阪の南西部の「泉州」と呼ばれるエリアに伝わる「泉州音頭」をご存知でしょうか? 大阪の音頭といえば、毎年夏に開催され、もはや夏の風物詩ともなってきている「すみだ錦糸町河内音頭大会」の影響もあり、東京では「河内音頭」「江州音頭」も知られてきていますが、「泉州音頭」となるとまだまだ頭に「?」を浮かべる人も多いのではないでしょうか。

一方、本場の泉州では、昔ながらの風習を残したヤグラや、飾りのないソウル(魂)に訴える唄や演奏が、土着の匂いを色濃く放って、地元民たちにコテコテに愛されています。しかし、そんな「昔ながら」の泉州音頭の風景も、近年は消えつつあるようです。

「このままではアカン!」と立ち上がったのが、泉州のヤグラで今尚オールドスクールなスタイルを貫き続ける音頭集団「泉州音頭 宝龍会」。SNSも積極的に活用したプロモーション活動の結果、東京の盆踊り好きたちが「何だこの面白そうな人たちは?」と反応し、交流を深める中で、今回なんと両者の「共催」という形で、来たる3月16日(土)、泉州音頭のイベント、「泉州ナイト」が開催されることになりました! というわけで、泉州ナイト実行委員会の一人である私、小野和哉が、この場を借りて宝龍会のいわばスポークスマン、宝龍弘丸さんにインタビューを敢行し、「泉州音頭ってなんぞや?」という疑問をぶつけてみました!

泉州ナイト公式ホームページ

聞き手=小野和哉(2019泉州ナイト実行委員会)

ルーツは滋賀県発祥の「江州音頭」

小野
小野:
そもそも「泉州音頭」ってなんなのでしょうか。東京でも最近知られるようになった、河内音頭や江州音頭といった大阪の音頭とはどう違うのですか?

弘丸
弘丸:
いい質問やね。まずは、うちの会の演奏で泉州音頭を聴いてもらおうか。

小野
小野:
ほうほう。なんだか江州音頭にも似ていますね。

弘丸
弘丸:
(広義では)念仏系の音頭も含んだ、泉州(現在の大阪府南西部の地域)でやってる音頭を「泉州音頭」ってくくりで表す場合もあるし、そもそも「泉州音頭」という名称をつけたのは誰かといえば、白龍会の玉若師匠(故人)。レコードを出した時に「泉州音頭やヤンレー節」って書いたんよ。それ以前にもレコードを出した人は何名かおるんやけど、みんな「泉州江州音頭」という名前で出していた。初めて「泉州音頭」を名乗ってレコードを出したのが、白龍会玉若師匠。

小野
小野:
「泉州江州音頭」っていうのは、江州音頭の泉州版という意味合いですか?

弘丸
弘丸:
うん、だってな。俺らの音頭(現在の泉州音頭)のことをみんな地元では「江州音頭」って呼んでるからね。昔は情報がなんもなかったから、自分ら「江州音頭」だと思ってやってたんやろうな、おっちゃんらが。いまでもそない呼んでる人は大勢おる。でも実際に本場(江州音頭発祥地の滋賀県)の人や、研究している人らが聴いたら「ちょっと(地元と)節ちゃうで」ということになって、これは泉州独特のものやなって事が認識された。俺らの節は地元では『和泉音頭』『花沢節』『白龍節』などと呼ばれてる。もちろん宝龍会のは『宝龍節』やで。

小野
小野:
土地に根ざしていく中で、変化していったんですね。

弘丸
弘丸:
村井市郎先生(故人)という有名な教授がチャリンコでいろんなところを回って、泉州の白龍会の音頭を聴いた時に、これは祭文系の貴重な音頭が残っていると言うたんや!

河内の音頭いまむかし村井市郎『河内の音頭いまむかし』(八尾市役所市長公室広報課)

小野
小野:
話を戻すと、泉州音頭のツールは「江州音頭」だったんですね。

弘丸
弘丸:
そう。いまの江州音頭系の起こりは、琵琶湖ってあるやん。地理的に想像してもろうたらわかるけど、琵琶湖の南の湖畔で、「祭文音頭」、「八日市音頭」が起こって、これが「江州音頭」って言われる音頭のルーツやねんけど、祭文系の音頭な。昔は川をずっと流れるようにものが伝わったみたいで、(音頭も)淀川をずーっと伝わりながら大阪の方に行ったのが、割とキレイな形の「江州音頭」として伝わっている。

小野
小野:
ふむふむ。

弘丸
弘丸:
これがこの途中で枚方交野っていう、大阪府の右肩あたりにあたるところですっと曲がって、石川っていう川沿いに今度は河内に流れる。こっちに行くのが「交野節」ちゅうのを交えながら、どんどん行って「河内音頭」になった派と、そのまま江州音頭系がずーっと行って、南河内に河内長野っていう土地があるんやけど、そこに伝わったいまでもやってる「改良節河内音頭」って呼ばれているジャンルがあって、これが泉州の江州音頭とほとんどおんなじ節やねん。

泉州音頭地図

小野
小野:
(YouTubeで「改良節河内音頭」を調べて)あ、本当だ。似てますね。河内音頭って名前だけど、江州音頭っぽいメロディ。

弘丸
弘丸:
「改良節河内音頭」が河内長野という土地から、大阪湾の方に向いて山を登ったところに、和泉市の横山という地域がある。この地域の、昔の豪商ていうて、お金持ちやな。「沢さん」という人がおって、そこの「沢さん」のところの宴会取り仕切り役みたいな「花沢」という集団があって、宴会を取り仕切る。そこがのちの「花沢会」になるんやけど、河内の「改良節」と同じような節でやってて、「花沢節」と呼ばれるようになった。どっちが先なんか後なんかなんて、もう調べられへんけど、地理的に考えたら後なんかなあ?

小野
小野:
いまで言う、イベント屋みたいなものですね。

弘丸
弘丸:
花沢会は凄かったみたいよ。初代若丸師匠(故人)ちゅうのが大阪の寄席に出るくらいの音頭取りやった。当時にSP盤で録音を残してるみたいなんやけど誰か持ってないかなあ? ちなみにいまは初代の息子さんが、三代目の若丸(初代の息子)を名乗ってるねん。
かつて、初代若丸師匠が一世風靡をしていた頃、戦後になるんやけど、戦争でうっとおしい時代が終わってそろそろ踊りやろうやと言うて、横山からずーっと浜に降りて来たところに、泉大津という土地があるんやけど。そこの松ノ浜という海水浴場で音頭大会をやったみたいで。

小野
小野:
海水浴場で盆踊り。なんかパリピ感がすごい。

俺らが受け継いで来た音頭はいま、瀕死状態

弘丸
弘丸:
どんだけ音頭が重要なエンターテイメントやったかわかるやろ?
その音頭大会にいろんな腕っこきが出てやったんやけど、花沢若丸師匠が優勝した。その音頭を聞いてこの人に習いたいなあと言うて来たのが小野田さんていう泉大津の人で、その人が後の白龍会玉若師匠。若丸の弟子になって、2代目若丸を一旦名乗るんやけど、その人は思うことがあって、横山を抜けて向こう(泉大津)でやります言うて白龍会を起こした。だから、白龍会の音頭のルーツは花沢節。

小野
小野:
玉若さんが花沢会から独立して、白龍会を立ち上げたんですね(話がややこしくなって来たぞ……)。

弘丸
弘丸:
そう。これが戦後すぐの話で、少なくとも若丸師匠のまだ2代上の師匠がおったって聞いてるから、江戸時代から花沢会はやってる。だから実際に言われている江州音頭の分布、流れとは全然違う。もっと古くから泉州には「改良節河内音頭」と同じように『江州音頭』が来てたみたい。それを玉若さんが(泉大津に)持って帰って白龍会の音頭にした。玉若師匠の音頭がよかったもんやから一世風靡をして、昔は泉州の沿岸沿いでは白龍会の櫓が40も50もあったちゅうから、すごい勢いやったと思う。

小野
小野:
白龍会、めっちゃフィーバーしてるじゃないすか。

弘丸
弘丸:
その時代にうちの弘若(宝龍会 現会長)が白龍会に弟子入りをしている。その時に、玉若が王将としたら、金将みたいな人で玉秀師匠(故人)というのが白龍会におって、これも人気があって。玉若、玉秀で、そこらの櫓に行って、グイグイグイグイ(引っぱってた)。やっぱ当時はみんな、玉若の音頭を学びたいがために白龍会にガーッと入ったらしい。

小野
小野:
なんかアイドルグループみたい。

弘丸
弘丸:
うちの師匠は数奇な運命を辿ってて、玉秀師匠が白龍会を脱退した時に玉秀師匠に誘っていただいたので、後ろ髪を引かれる思いで一緒に脱会してしまったみたい。これで白龍会と玉秀会という別個になってしまって。
その後、玉秀師匠とこも辞める事になってしまったみたいで。そこで、弘若は宝龍会を作った。俺が入ったのはその二年後。だから花沢会直系で、花沢節直系の泉州音頭(和泉音頭・花沢節・白龍節などの)をメインでやってるちゅうのは、もううちだけ。

小野
小野:
いつの間にか、宝龍会ヒストリーになってた。

弘丸
弘丸:
宝龍会のような「改良節河内音頭」ルーツの泉州音頭がある一方で、和泉市で出来たと言われる節もあるねん。これがマイナー音階の「和泉江州音頭」っていう音頭。「和泉くずし」っていうたりしてるとこもあるけど。和泉市で秀若師匠(故人)というのがいて、この人が作ったとされてるから「秀若節」ともよばれる。この人の音頭が魅力的であったことで、和泉江州音頭の方に移ってしまった音頭とりが続出で、花沢節系の俺らの音頭はいま、瀕死状態。もうなくなりかけてる。ノリがいいんやけどなぁ。

未熟なものから上級者までが、全部入れて一夜の遊び

小野
小野:
そもそも宝龍会さんっていま何人くらいいるんですか?

弘丸


弘丸:
15人くらいおるな。

小野
小野:
けっこう多いですね! 若手とかは入ったりしますか?

弘丸
弘丸:
なかなか難しいなぁ……。俺も23〜4の頃に貝塚の(和泉江州音頭の)会に少しだけ教えてもらった事あるんやけど、続けへんよなあ。冬に池に行って「うわ〜」言わなあかんし。

小野
小野:
いや、冬に池で「うわ〜」ってなんすか。

弘丸
弘丸:
え? 毎年、大寒(1月20日前後)から2月末くらいまで「寒稽古」って言って、池や海で叫びながら声を鍛えているんやけど。昔ながらの稽古の方法やな。若い頃はこれが嫌で。いまの若い子なら尚更やな。

寒稽古の様子。寒稽古の様子。

小野
小野:
半端ないっす。これだけ厳しいとなると、何年くらい練習しないと、音頭取りになれないんですか?

弘丸
弘丸:
いや、すぐにヤグラは乗せてくれる。これが恐怖の世界でな(笑)、一年目から乗せてくれるねん。

小野
小野:
そうなんだ……。でもいきなり上がらせてくれるとなると、現場で鍛えられそうですね。

弘丸
弘丸:
そう。だから自分で見てわかる。下手くそやったら、誰も踊ってくれへんねや。泉州は積極的踊り子がおれへんから、下手くそな時は、だーれも踊れへん。踊り場ゼロになる。

泉州音頭のヤグラの風景。

小野
小野:
シビア……。

弘丸
弘丸:
シビア。それが、音頭をやっててもおもろいし、多分踊ってる人たちも楽しんでいるんやと思う。ノンストップで下手くそも上手いのも出てくるから。怖いヤグラやったら踊り子から「降りれ〜」って言われる(笑)。それも(音頭取りにとっては)修行やんなあ。だから(踊り子が)ゼロになってる時もそれなにに意味がある。で、最後の1時間くらいはわーって盛り上がって終わる。未熟なものから上級者までが、全部入れて一夜の遊びという、そういうショーなんよ。音頭名人ばっかり揃えても良いヤグラにはならんねん。

小野
小野:
何時間くらい(音頭は)やるんですか?

弘丸
弘丸:
最長で、ヤグラでは4時間くらいかな? うちは3時間半くらいかな。

小野
小野:
す、すごいですね! 今回の東京のイベントも、たっぷりと3時間の枠を確保しています。ノンストップで、音頭取りがどんどん変わっていく本場スタイルを再現してもらう予定ですので、とても楽しみですね。

弘丸
弘丸:
うん。今回の「東京ライブ」で宝龍会は沸き立ってるで! 泉州100%の音頭で、間違いのない3時間にするつもりなので、ぜひ期待してください。

後編はこちら!

2019年3月16日(土)泉州ナイトが開催!

[日 時] 3月16日(土)18時~21時(開場17時30分)
[場 所] 地域プラザBIG SHIP多目的ホール(東京都墨田区本所1−13−4)
[出演] 泉州音頭 宝龍会(from Kishiwada OSAKA)
[入 場 料] 500円(さらにカンパも大歓迎!)
[共 催] 泉州音頭 宝龍会、2019泉州ナイト実行委員会(TOKYO)

公式サイト:http://www.sensyu-night.com/
Twitter:@sensyu_night
Facebook:https://www.facebook.com/events/493780697811531/

 

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この記事を書いた人
オマツリジャパン オフィシャルライター
東京在住のライター/編集者。千葉県船橋市出身。2012年に佃島の盆踊りに参加して衝撃を受け、盆踊りにハマる。盆踊りをはじめ、祭り、郷土芸能、民謡、民俗学、地域などに興味があります。共著に『今日も盆踊り』(タバブックス)。
連絡先:[email protected]
Twitter:koi_dou
https://note.com/kazuono

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